お待たせいたしました。
色々と立て込んでしまったのですが、妄想は膨らむものですね。色々と考えてしまった結果。
次の話は福利厚生、就職を決める時に必ず目を通す人が多い、あの福利厚生です。
虚偽だと訴えられるって本当なんだろうか?
御蔭さまで、我が社の規模も増えたもので、大勢の社員を抱えるようになったのですが。
『貴方のためにある会社! 我が社の福利厚生は!』
「・・・・・・・」
無惨社長、じっとモニターを見たまま微動だにせず。
同じく黒死牟、モニターを見たまま六つの目を見開いており。
『働き易い会社を目指し! 我が社の福利厚生は以下の通りです!』
「・・・・・・社長、これって本気なの?」
童磨、引きつった笑みを浮かべてモニターを指差していたりする。
「・・・・・・・・・・童磨よ、これの作成の責任者は誰だ?」
ゆっくりと息を吐くように告げる無惨社長に、童磨は資料を確認した後に、小さくため息をついた。
「縁壱」
「・・・・無惨社長・・・・・不出来な弟が・・・・申し訳なく」
「いやいい。黒死牟の責任ではないだろう。私も今までは勤務時間しか確認しなかった。私としたことが、迂闊であった」
苦悶を浮かべて社長は立ち上がる。迂闊だった、こんな基本的なことを見落としているなど、社長失格ではないか。人の上に立つ人間として、現場の重責を把握していないとは。
「週休二日ではないとは誰が決めた?!」
その日、株式会社KIBUTUZIの本社を無惨社長の怒鳴り声が揺らしたのでした。
富岡義勇は、株式会社KIBUTUZIの総務課の係長を任されている男だ。
最近は口下手なのを同僚に悟られ、根気よく話を聞かれたり、内容を予想されたりするので、最初の頃のような険悪な雰囲気はなくなった。
『え、あいつマジ?』
『誰か無惨社長か黒死牟専務を呼んで来い』
『おまえ、労働基準法って知ってるか?』
新人の頃、真面目に出社しているのに、周りの鬼にそう心配されること多数だったことはいい思い出だ。
体を鍛えるために、本社のある県の三つ隣の県の実家から走ってきて、業務後に走って帰るなんてことをしていたことは、まったく関係ない話だ。
『え、あいつ、マジなのか?』
『おい、誰か義勇の奴に常識を教えて来い』
『あのな、義勇、それはちょっとどころじゃなくおかしいからな』
通勤事情を知られた鬼によって、送り迎えをされていたなんてこと、最近の新入社員は知らないことだ。
そんな彼は今日も書類を確認していた。最初の頃は、周りに鬼のチームが形成されており、彼の言葉の足りない部分を補っていた。
『凪だな』
『凪でいろ』
『凪していろ』
話すな、もっと落ち着け、あの凪のように静かに頼む、そんな願いを込めて『凪の男』なんて呼ばれていたのもいい思い出だ。
「今日も平和な」
「富岡義勇ぅぅぅ!!!」
何事もないと思っていた義勇の前に、唐突に襖が開いて社長参上だった。
「社長?!」
「貴様に任せたい仕事がある、大役だがおまえならできる」
「俺(みたいな口下手にできる仕事じゃないので)無理です」
「・・・・・・・・・・おまえの口下手は本当にどうにかならないか?」
「すまない」
真剣に心配する社長に、彼は丁寧に頭を下げるのだった。
「まあいい。実はな。わが社に足りないものができた。おまえには、その組織の代表を頼みたい」
きょとんと見つめる義勇に、無惨は小さくため息をついて嘆く。
「私としたことが、会社を大きくするだけを考えていた。まさに私利私欲の悪鬼羅刹だった。こんなことでは、我が社で働いている社員に申し訳がない。今更だと笑ってくれて構わない。私は、我武者羅だった。経営者として失格かもしれない。だが、気づいた以上は全力で行おう。社員が働き易い環境を整えるのは社長の義務だ。いいや使命といってもいい」
グッと拳を握って語る無惨は、背中に決意を背負っていた。
「社員のために、人間の社員のために、私はここに『労働組合』の設立を宣言しおまえにはその代表を任せたい」
「え?」
「頼んだぞ、義勇。まずはだな、週休二日、基本給二十五万で会社を説得しろ。いいな?」
「え?」
はっきりと宣言した無惨社長は、とてもいい笑顔で去っていく。
「あれ、社長、俺達は?」
「貴様ら社畜に休みなど必要ない! 鬼の分際で休みたいなどと馬鹿なことを言うな! 殺されないだけ感謝しろ!」
「御意!!」
「さあ働け! 働くのだ! 我が社の人間社員の福利厚生充実のために!」
「解りました無惨社長!!!」
颯爽と宣言して去っていく無惨社長に対して、義勇は思う。
それって、貴方が承認すれば終わる話では、と。しかし残念ながら義勇は口下手で言葉が足らないために、それを言う前に社長は社長室に戻っていくのでした。
同じ頃、黒死牟はというと。
「縁壱・・・・・何か言い訳があるなら・・・・・聞こう」
「待ってください兄上! 私は懸命に頑張ったつもりです!」
「ほう・・・・では・・・・・これは?」
『頑張って仕事を頑張れば、人間は特殊な呼吸を使えるようになる!』
「はい、私は編み出しました。人間の限界を超える呼吸を」
「・・・・・・言ってみろ」
「はい、『ヒノカミ神楽』です! これを使えば二十四時間、
「おまえは・・・・・・一度・・・・・労働基準法を・・・・学べ」
「何故ですか兄上!?」
自分の弟の、あまりに人間離れした非常識に、頭痛を感じたのでした。
その日、胡蝶カナエは珍しく、妹と会社内でばったりと会った。
「珍しいわね、しのぶ」
「姉さんこそ、随分と遅い時間じゃないの?」
「ちょっとドラマを見てしまってね。貴方こそどうしたの?」
カナエが腕時計を見ると、二十時三十分を過ぎたころ。晩御飯には遅い時間だが、飲むには早い時間でもある。
「研究が一段落したから、ご飯でも食べようと思って」
「そうなの」
二人して御膳を持ち、人がまばらな食堂を歩いていく。
「薬品課は忙しそうね。最近は寮の部屋に戻れているの?」
席に座り、目の前に座る妹に話を振ってみると、彼女は何処か遠い場所を見つめていた。
「それは、ねぇ。うちはほら、資材部に唐突にできた部署だから」
株式会社資材部薬品課は、世界中の病を根絶するために出来た部署だ。
言い出したのは珠世ではなく、意外にも無惨社長。
『病気は許さん、絶対に許さん。すべて根絶やしにしてくれる』とか、血の涙を流して語ったというのは、伝説になりつつある話だ。
「だから?」
「定時になったら、研究室のセキュリティが動いて全員締め出し」
「うわぁ~~~」
「血鬼術を持つ鬼しか入れないから、私達は帰るしかないのよ」
「うわぁ~~~」
「今日も課長たちは、自分にウィルスを撃って、自分でワクチンの臨床試験をしているのでしょうね」
遠くを見つめながら、しのぶはポツリと最後に付け足す。二十四時間、と。
「うちの会社は相変わらずねぇ~~」
「会社といえば、昔の同級生に驚かれたんだけど」
「何かしら?」
「他の会社って、食堂は二十四時間やってないらしいよ」
カナエ、しのぶの言葉に固まってしまう。そういえば、と彼女は自分の中の消えてしまった常識を思い出す。
何時からだろう、染まってしまったのか。
何時頃だろう、そうだと思い込んでしまったのは。
「・・・・・・バーあるわね」
「ええ、居酒屋も地下にあるわよ、姉さん」
「寮の食堂も二十四時間よ、しのぶ」
「解っているわよ、姉さん。和洋中色々な料理が選択可能って」
「待って待って! 仕立て屋もあったわよね?」
「姉さん、会社で使う備品にスーツも含まれているのって、KIBUTUZIだけよ」
「大型デパートが本社の敷地にあるって、どうして疑問に思わないのかしら?」
「もう今更じゃない、姉さん」
「・・・・・・・うちって儲かっているのね」
どうしてなのか、これだけ色々と備品として、あるいは経費として計上していたら、資金がいくらあっても足りないのではないか。
二人は同時に疑問に思い、何故と考え始めて、結論を見てしまう。
「おまえは明日、フランスで修行だ」
「はい!」
「おまえは明日から中国に飛べ」
「がんばります!」
「おまえはイタリアだ」
「お任せください」
「いいか貴様ら。わが社の社員食堂の味を落とすなど、あっていいはずがない!! 必ず三ツ星シェフの技量を手に入れて戻ってくるのだ!」
「はい! お任せください無惨社長!」
食堂の調理場で気合をいれる無惨社長と、決意を示す鬼のシェフたち。
「・・・・・・・鬼って給料が出てないって本当かしら?」
「姉さん、それは考えちゃダメ。考えたらダメなことよ」
胡蝶姉妹はお互いに見つめ合い、笑い合った後、静かに食事を再開したのでした。
無惨は今日も清々しい朝日を眺めていた。
鬼のシェフを各国に派遣し、料理の技量を上げる修行に出した。
労働組合を作ったことにより、社員への福利厚生が充実してくることだろう。多少、義勇で大丈夫かと思うこともあるが、彼ならばやってくれる。
『生殺与奪の権を他人に握らせるな』とか、言って社長室に突撃してくれるはずだ。きっと立派な決意を胸に、自分を説得してくれるに違いない。
刀とか持って突撃してくれたら、もう満足で頷いてしまいそうだが。
「ふむ、ならば今日は」
無惨はそっと棚のスイッチを押し、隠し扉を開く。
厳重に封印された室温や湿度を完璧に調整されたワインセラーには、見事な飲み頃のワイン達が、喉を通るために待機していた。
「フフフフ、今日はチーズとワインで自分の仕事を褒めようではないか」
ゆっくりとワインを手に取った無惨は、ハッとして背後を振り返る。
「そこに隠してありましたか」
朝日を背負った鬼が立っていた。
「ヒィ?!」
「フフフフフフフフフフフ」
「く、来るならばすべて割ってやるぞ珠世ぉぉぉ!!」
「そうですか、では私からは一言」
何が来る、と身構える無惨に対して彼女はにっこりとほほ笑み。
「社宅寮が老朽化しており、現在のライフスタイルに合ってないのでは?」
瞬間、無惨はハッとして膝から崩れ落ちた。
「出来てから二十年、老朽化も気になりますね?」
「グハ?!」
「設備も古くなってきましたね」
「グゥ!!!」
「今どき、カードキーではなく普通のカギなどと」
「ぐぁぁぁぁ!!」
「モニターのついてないインターフォンなど、女性社員にとって不安では?」
「止めろ止めろ珠世ぉぉぉ!!」
叫び振り払い、ハッと無惨は気づいた。
「では私はこれで」
ワインセラーは空になっていましたとさ。
翌日、緊急会議を開く無惨社長がいたとか、いなかったとか。
「社宅寮を最新のセキュリティとシステムで作り直す。二週間以内にだ」
マジギレしていた社長に、誰もが声を掛けられなかったらしいです。
久しぶりなんで、キレがいまいちですが、どうかご容赦を。
うん、なんだろう、何処を目指しているか解らない話になってきた。
もう少しスッとキレのある話を作りたいと願っております。