日本一幼女に厳しいゲームから妹を救いたい   作::-)

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主人公姉妹の二人の名前がひらがなのせいで接続詞が使いにくいと思い始めた今日この頃


はいそん 〜 はさみのおばけ

「ねぇ、本当にこんなところに神社があるの……?」

「ちゃ、ちゃんとあるもん! 多分……」

 

 不安で顔を曇らせる目の前の少女に連れられることしばらく。三人がたどり着いたのはかつてこの町にあったダムの跡地だった。

 へし折られた木、破壊された車、無数に積み重なる瓦礫の山。

 枯れてから随分と経つのに未だに残っている水溜りが、長い間ずっと水底に沈んでいたこの場の不気味さを引き立たせる。

 首筋を撫でる湿った空気がまるでナニカの吐息のようで、ともこは身震いした。

 

「えっと、ユイちゃんはどうしてここに神社があるって知ってるの?」

「学校のお話の中にあったの。ここには理様っていう怖いお化けがいて、そのお化けのお家が神社なんだって」

「理様? 私たちの町ではそんな話聞いたことないけど……こともは知ってる?」

「……ううん、知らない」

 

 ダムの跡地に神社がありそこにお化けが住んでいるという怪談など、一度聞けば忘れるはずがない。しかしともこにはそんな話などまったく心当たりがなく、隣を歩くこともも首を振っていた。

 

「…………」

「ことも? どうかしたの?」

「……なんでもないよ、お姉ちゃん」

 

 首を傾げる姉とは違い、どこか浮かない表情を浮かべていることも。気のせいか少し顔色も悪いようだった。

 

──もしかして、怖がってる?

 

 普段は大人びた性格で自分を支えてくれることもの年相応な様子に、ともこは人知れず笑みを浮かべた。そのまま衝動に任せて妹を強く抱きしめたくなるものの、ユイの前でするには酷だろうと踏みとどまる。

 代わりに彼女は自分の手を差し出した。

 

「しょうがないなぁこともは。はい、手を握ってあげるから出して」

「え? 違うよお姉ちゃん! 別に怖い訳じゃなくて──」

「はいはい、いいからいいから」

「もう……」

 

 無駄な抵抗をする妹の手を取る。

 口では不満を漏らしながらも、ことも自身は抵抗する素振りは見せなかった。やはり彼女にとって、姉の手は心が安心する。

 

「いいなぁ……わたしもお姉ちゃんが欲しかったなぁ……」

 

 そんな姉妹の仲睦まじいやりとりを、ユイは羨ましそうに見つめていた。

 一人っ子の彼女にとっては縁が無い光景だった。

 

「家ではいつも一人なの?」

「ううん。お父さんが大学に行く日は一人だけど、普段は家でお仕事してる。でも大丈夫! 寂しくなったらハルと遊びに出かけるから!」

「ハル?」

「わたしの友達! 少し怖がりだけど、とっても優しい子なの!」

 

 先程までの寂しげな表情から一転、満面の笑みでハルについて語るユイ。

 ユイにとってはかけがえのない親友であり、家族と同等かそれ以上に信頼している存在。どこか小動物を思わせるような可愛らしい少女。いつも自分に着いてきてくれるハルは、ユイにとってはまるで妹のような──。

 

「そっか、ハルをわたしの妹にすればいいんだ!」

「あはは……それはハルちゃんも困ると思うなぁ」

 

 思わず名案だと手を合わせるユイに、ともこは苦笑した。

 顔も知らないハルという少女も同じように苦笑する光景が頭に浮かぶ。

 

──ハル……?

 

 しかし『ハル』という名前を聞いた瞬間、ともこは思わず疑問符を浮かべてしまった。

 当然ながら顔は知らない。こともの学友ならまだしも、隣町の少女の事など把握しているはずがない。

 なのに彼女はその名前が引っかかってしまった。

 どこかで聞いた事がある。

 しかし、その『どこか』が思い出せない。

 思考の海に囚われるともこだが、唐突にバランスを崩し、強制的に現実に引き戻された。

 

「きゃっ!?」

「わっ、大丈夫お姉ちゃん? 足元危ないね……」

 

 無数に転がる瓦礫に足を取られ、危うく転びそうになる。

 転倒するほどの障害物があるわけでもないものの、右足が悪いともこにとってはどれほど小さな落とし物であっても障害物になり得る。

 今もこともが支えていなければ、制服を泥だらけにしていたはずだ。

 妹に支えられながら歩くなんてまるでおばあさんのようだと、ともこは自分自身に呆れながら動かない右足を恨めしそうに睨む。

 

「もう暗くなってきたし、帰った方がいいと思うけどなぁ」

「そうね……夜になればここも危なくなると思う」

「あ……」

 

 空を見上げなら呟くこともに、姉のともこも同意する。

 今までずっと先頭で二人を案内していたユイも釣られて空を見上げると、すでに大半が隠れてしまっている太陽を見て思わず声を漏らしてしまった。

 二人を神社へ連れていく事に夢中だったユイは、ようやく夜が近づいている事に気づいた。

 

「ご、ごめんなさい……わたしがこんなところに行こうって言ったから……」

 

 こともに支えられているともこを見上げながら、ユイは謝罪の言葉を口にした。

 元よりともこの足が悪い事はユイも気付いていた。しかし田んぼの神社へと赴いた際は特に問題も無かったせいか、ダムの神社へ行く時はその事が完全に頭から抜け落ちていた。

 しかし、悲しげに俯くユイの頭をともこは優しく撫でた。

 

「いいんだよ、ユイちゃん。ユイちゃんはわたしたちのためにここまで案内してくれたんでしょ? また今度……次はハルちゃんも一緒に探検しよっか」

「……うん」

 

 彼女に悪気が無かったのは理解している。子供ゆえの行き当たりばったりな行動が、今回はたまたまこんな結果になっただけ。

 だから次はハルも一緒に、と約束を交わす。

 

「帰ろっか」

 

 もう片方の手でユイの手も取ると、ともこは逆方向へと歩き始めた。

 

 しかし、(タイムリミット)はもう過ぎていた。

 

 

 

⭐︎

 

 

「あ、あれ? おかしいな……さっきもここ通らなかった?」

「だから言ったでしょ、お姉ちゃんさっきから同じところをぐるぐる回ってるって」

「お姉さん、ここどこ……?」

「待って! 別に迷った訳じゃないから! だから泣かないでユイちゃん!」

「お姉ちゃん、たまに方向音痴なところあるよね」

 

 涙目になりながら私を見上げるユイちゃんを慌てて落ち着かせる。

 もうすでに空は夜に染まっていて、唯一の明かりはなぜかこともが持ってきていた一本の懐中電灯だけ。

 周囲を瓦礫に囲まれたダムの跡地という場所に、普段のユイちゃんの快活さは鳴りを潜めていた。夜廻りの経験がある私やなぜかお化けを怖がらないこともならまだしも、幼いユイちゃんには厳しすぎる環境だ。

 今は私が懐中電灯で先導し、その後ろでこともがユイちゃんを抱き寄せながら歩いている状態。このままじゃお化けなんて関係無しに遭難してしまう。

 何はともあれ、今は進み続けるしかない。

 

「ここは……廃村?」

「さっきまでと違って建物とか瓦礫が多いね。お姉ちゃん、足元に気をつけてね」

 

 しばらく歩き続けた私たちの前に現れたのは、幾つもの倒壊した家屋。ゴミで溢れかえっていた今までの跡地とは違い、町並みの面影を色濃く残している。

 荒れ果てた廃村からはどこか哀愁を感じ、耳をすませば今でも団欒の声が聞こえそうな気がした。

 

「……とりあえず進んでみよっか。ここを抜ければもしかしたら出口かもしれないし」

 

 明らかに異様な雰囲気を放つこの場所に、私だけでなく後ろでこともとユイちゃんも息を呑んだのが分かる。

 でもここが昔は村だったのなら、必ず村の出口も存在するはず。

 なら歩き続ければきっとどこかに出られる。

 

「ユイ、怖くない? もし怖くなったらこのお守りを頼ってね。きっとムカデの神様が助けてくれるから」

「ムカデの神様?」

「わたしたちの町にいる神様のこと。昔はお姉ちゃんを助けてくれたりして、とってもいい神様だったんだよ?」

「凄い……えへへ、でもわたしは大丈夫。もう平気だから、ありがとうこともちゃん」

 

 後ろでユイちゃんを励ますこともの声が聞こえる。どうやらあの赤いお守りを見せてあげているらしい。

 思わず私もポケットに忍ばせてある同じお守りを握る。

 このお守りを握っているだけで、なんだか勇気が湧いてくる気がした。今までずっと私たち家族を護って下さったムカデの神様が見守ってくれている気がして。

 たとえ神社がめちゃくちゃにされていても。

 

「……お姉ちゃん、ちょっと待って」

 

 突然、こともに呼び止められる。

 咄嗟に足を止めて一瞬ふらつきかけたものの、なんとか踏ん張って後ろを振り返る。

 

「……どうしたの、ことも?」

 

 神妙な面持ちで前方を見つめることもに、私の表情も強張る。

 ()()()がいる。

 

「今すぐ隠れて。ユイもわたしと一緒に来てね」

「え……ど、どうしたのこともちゃん!?」

 

 言うが否や、こともは混乱するユイちゃんの手を取って近くにあった立て看板の裏へ身を潜めた。

 やっぱり、()()()がこちらへ向かってきている。

 

「ッ……!」

 

 私も続くように懐中電灯を消し、壊れた車の後ろに身を隠した。

 静かなダムの跡地には段々と荒くなる私の息遣いと、ドクドクと速くなる私の心臓の鼓動が鳴り響いていた。

 

ズサッ

 

 一瞬こともかユイちゃんの足音かと思ったけれど、違う。

 この音は前方──廃村の奥から聞こえる。

 

ズサッ ズサッ ズサッ

 

 ナニカの足音。

 まるで巨大な生き物が足を引きずるような音。

 思わず息を殺す。

 恐る恐る車の影から外の様子を伺うと、私は息を呑んだ。

 

『────!』

 

 黒色の巨体を揺らしながら四本足で歩くソレは、今まで見てきたお化けと比べても圧倒的に大きかった。

 この世のモノではない鳥肌が立つようなうめき声を上げ、取ってつけたような白い顔を醜く歪ませながらこちらへ向かってきている。

 

──まさか……あれがユイちゃんが言っていた理様(ことわりさま)

 

 ユイちゃんがこのダムにあると言われている神社の存在を知った元凶が、彼女の小学校で流行っているという怪談。

 まさかこの異形こそが、その神社に住み着いている理様というお化けなのだろうか。

 その巨体に似つかわしくない細長い四本足をくねらせ、異形はなおも進み続けている。

 

 私たちが隠れている場所へ向かって。

 

「ッ!?」

 

 咄嗟に車の影に身を隠し、頭を抱える。

 

『────!』

 

 異形の呻き声がさらに近くなる。

 おそらくあの巨体が──私のすぐ目の前まで来ている。

 お願い、気づかないで。

 お守りを握りしめて、ただひたすら祈る。

 

「……え?」

 

 その時、微かにあの化け物とは違う音が聞こえた。

 うめき声ではない。

 それはまるで錆び付いた二枚の鉄を擦り合わせたような……()()()を開閉したような、学校でも聞いた事のある音。

 そんな音が背後から徐々に、しかし確実にこちらへ近づいてきている。

 

『────!』

 

 あの巨大な異形もこの音に気づいたのか、これまでゆっくりと聞こえていた足音が慌ただしく乱れる。

 再び車の影から外を覗き込むと、あの黒い巨体が踵を返して廃村の奥へと消えていくのが見えた。

 

「逃げてる……?」

 

 慌てた様子でこの場から背を向けて去る姿はまるで何かから逃げているようで、どこか薄気味悪さを感じる。

 私がお化けから逃げる時と同じような、恐怖心に駆られて走る様。

 とてもお化けが取る行動とは思えなかった。

 

「なんだったの……一体……」

 

 異形が消えていった方向を呆然としながら見つめる。

 既にあの巨体の姿は消えていて、反対方向にも何かが来る気配はない。あの金属音も聞こえない。

 本当に音だけであのお化けは消えたのだろうか。

 

「はぁ……考えても仕方ないよね。ことも! ユイちゃん! もう出てきても大丈夫だよ!」

 

 二人が隠れているであろう目の前の看板に声をかける。

 お化けが考えることなんていちいち気にしていたらこっちまで頭がおかしくなりそうだ。

 とにかく今はここから出ないといけない。

 

「……ことも? ユイちゃん?」

 

 返事がない。

 もしかして聴こえてないのかな?

 

「ほら、もう隠れなくても大丈夫──あ、あれ?」

 

 看板に駆け寄って後ろを確認するも、もぬけのからだった。

 地面にはしっかりと二組の足跡があるからここに隠れていたのは確かだ。なのに、まるで二人揃ってこの場から消えてしまったかのように、足跡もここで途絶えている。

 一筋の冷や汗が流れる。

 

「ことも! ユイちゃん! 返事して!」

 

 しかし、帰ってくるのは夜の静寂のみ。

 

「そ、そんな……嘘でしょ?」

 

 もしかしてさっきのお化けが二人のことを……いや、あのお化けは私が隠れていた車の位置までしか来ていないし、奥に隠れていた二人に何かできるはずがない。

 じゃあどうして……先に逃げた?

 でもそれなら足跡がないのはおかしい。

 

「あぁ……そんな……そんなはずが……」

 

 足が自然と廃村の奥へと進む。

 そうだ、二人はきっとあのお化けが怖くなったから、先に奥へと逃げたんだ。

 だから私も奥へと進まないと。

 

──わたしだけはずっとお姉ちゃんと一緒だよ。

 

 いや、違う。

 こともが私を一人にするはずがない。

 落ち着け、足を止めろ。

 きっと何か手がかりが残っているはずだと、私は昂る抑え込んで再び立て看板の裏を確認した。

 

「これは……」

 

 何かが落ちている。

 懐中電灯で照らし注意深く見てみると、それは古びた人形だった。

 両手足、そして頭までがバラバラに切断され見るも無残な姿に変えられた人形が散らばっていた。

 断面は鋭利な刃物で一気に切られたように綺麗で、ダムによる影響とは思えない。誰かが確実にこの人形をバラバラにしている。

 

「まさかこともとユイちゃんはコレをやった奴に……」

 

 人なのかお化けなのかは分からないけれど、まともな存在ではないのは確かだ。

 そして、そんなまともじゃない奴がこともとユイちゃんを連れていった。

 

「ッ!」

 

 考えに思い至った瞬間、私の体は動いていた。

 もうお化けの事もあの金属音の音も頭にない。こともとユイちゃんの無事をただひたすら祈りながら、私は廃村の奥へ向かって駆け出した。

 脳裏に浮かぶのは、あの山の神。

 隣町にまであの大きな手を伸ばしているだなんて、考えたくもない。

 

 今日は一段と月が輝いているのが、せめてもの救いか。

 

 

 

⭐︎

 

 

「う……うん……? ここは……?」

 

 月明かりに照らされ、一人の少女がその身を起こした。

 リボンを揺らしながら辺りを見回すその少女は、少し離れた場所で同じように気を失っている別の少女を見つけ、慌てて駆け寄る。

 

「起きて、ユイ。こんなところで寝たら風邪引いちゃうよ」

「う……ハル……?」

「ハルじゃなくてこともでした、残念だったね。ほら、早く起きて」

 

 目を擦りながらもう一人の少女──ユイも立ち上がった。

 

「ほら、こうすれば目も覚めるでしょ?」

「ひゃっ、いひゃいよ! ひょんなことしゅるなら!」

「い、いひゃい!」

 

 なおも寝ぼけた様子で自分を見つめるユイの頬を、こともはその小さな手で摘んだ。寝ぼけた頭に冴え渡る仄かな痛みにユイの意識も覚醒するも、お返しと言わんばかりにこともの頬も摘んだ。

 二人の少女の気の抜けた声が辺りに木霊するも、誰に聞かれる事もなく夜空へと消えていった。

 

「いたた……ここ、どこだろうね」

 

 伸ばされた頬をさすりながら、こともは周囲を見回す。

 石畳に囲まれたこの場所は、先程まで湿った空気と泥に塗れたダムの跡地とは大きく変わっていた。

 空気もどこか澄んでいて物々しく、まるで──

 

「ムカデ神社みたい……」

 

 かつて姉と共に何度も参拝し、『あの夜』では姉を取り返す手助けとなった赤いお守りを託してくれたムカデ神社そのものだった。

 しかし、どこか安心感を与えてくれるムカデ神社とは違い、おやしろから感じるのは圧倒的な威圧感。

 ()()()が彼女たちを見つめている。

 

「こ、こともちゃん!」

「大丈夫だよ、ユイ。きっとすぐお姉ちゃんが助けにきてくれるから」

 

 出来ればお姉ちゃんには先に帰っていて欲しいけどね、と続け様に呟くも、ユイに聞こえた様子はない。

 

「それにしてもこの神社、なんだかボロボロだね。ムカデ神社とも山の神社とも全然違う」

「も、もしかしてここが学校でみんなが言ってた……」

 

 ダムの跡地、廃村の奥に存在する忘れられた神社。

 まさか怪談の神社が本当に存在するとは彼女自身さえ思っていなかったのか、その顔面は蒼白になっていた。

 

「でも、普通じゃないみたいだね。ほら」

「え? ひっ……!」

 

 こともが指差したものへ視線を向けると、ユイは思わず悲鳴を上げた。

 

もうあの女とは関わりたくない

どうしてあいつらが親なんだ

絶対に許さない。顔も見たくない

全部あの男のせいだ

 

 おびただしい量の絵馬。

 それら一つ一つには、無関係なユイですら背筋が震え上がるような呪詛の言葉が所狭しと刻まれていた。

 ユイの知る神社の絵馬には自分の幸福、あるいは他人の幸福や世間への願いなど、善意を含んだ願い事が書かれているのがほとんど。

 しかしこの絵馬が象っているのは、数多の人間の悪意。

 拒絶、恨み、憎しみ。

 ドロドロとした人間の黒い感情で埋め尽くされていた。

 

「これだとどっちがお化けなのか分からないね。こんなに書いてあったらここの神様も困るんじゃないのかな?」

 

 へたりこんで震えているユイとは対照的に、こともはなんともないと言わんばかりに絵馬の一つを手に取ると、そこに書かれた願いを眺めている。

 本当に同い年の女の子なのかと疑問に思うような図太さに、ユイはさらにドン引きした。

 

「まぁ、そもそもわたしたちをここに連れてきたのが多分、ここの神様だと思うけどね」

「え?」

 

 『神様』という言葉に、ユイは一瞬恐怖心も忘れて首を傾げた。

 

「ユイは覚えてないの? 看板の後ろに隠れてた時、()()が出てきたでしょ? 多分()()がここの神様だよ」

 

 看板といえば、こともに言われるがままに隠れた時の事。つまり、ユイが気を失う直前の出来事。

 

「あぁ……」

 

──思いだした。

 

 声を押し殺して隠れた時に聞いた、二つの金属音が擦り合うような不快な音。

 その音が二人の真後ろから聞こえた事。

 そして振り返ったその先にいた──

 

「ひぃ……!」

「帰ってきたね」

 

 人の形をした特徴的な石畳がある境内の中心。

 ちょうど人体で言えば頭の部分、つまり二人の目と鼻の先に、その異形は現れた。

 

 まず目につくのは、その大きなハサミ。真っ赤に染まったそれは人体など容易く切断できそうなほど鋭く、無骨だった。

 

 そのハサミを掴んでいるのは二本の太い腕。異形な姿とは似つかわしくない、人間と同じような青白い腕がハサミの取っ手を掴み、取っ手から伸びる一本の赤い縄のようなものがそれぞれの腕を固定している。

 

 さらには細長い複数の腕が異形の背後からも伸びており、我先にとハサミへ向かって手を伸ばしている。

 

 極め付けは、異形の中心で開かれている大きな口。もはや体そのものが口と呼べるほど巨大なそれは、少女たちを捕食すると言わんばかりに開かれている。

 

 ユイが想像していた『お化け』などとは一線を画す、あまりにも異形でグロテスクな存在。

 

ジャキン

 

『────!』

 

 異形が奇声と共にそのハサミを開閉させる。

 

「久しぶり……いや、初めましてかな? ハルから話は聞いてたけどこうして()()のは初めてだっけ。()()()()()()、コトワリ様」

 

 ハル? なぜここでハルの名前が出てくる。

 それにこの異形が学校で噂になっていた理様(ことわりさま)なら、ハルはこの異形を知っていたというのか?

 恐怖と混乱で頭を抱えたユイは、目の前で異形と相対することもをただ見守ることしかできなかった。

 

「だからお姉ちゃんに引き返そうって言ったのになぁ。コトワリ様、できればわたしたちを帰して欲しいかなぁって──」

『────!』

「わぁ、ビックリしたー!」

 

 なんでこともはそんなに冷静なんだとユイは叫びたくなった。

 こともが後ろへ飛び退いたと同時に、コトワリ様はその真っ赤なハサミを閉じていた。

 もし反応が遅れていたらこともがどうなっていたかなど、想像に難しくない。

 

「とりあえずユイ」

「な、なに、こともちゃん……?」

 

 フラフラと立ち上がったこともがようやくユイの方へと向き直る。

 こんな異常な状況に置かれているユイにとっては唯一の心強い(?)味方であることもの言葉に、ユイは懸命に耳を傾けた。

 

 

「わたし、死ぬ気で逃げ回るから後はよろしくね」

 

 

 にこりと、まるでこれから遊びに行くかのような表情で、こともはユイに告げた。

 

「え?」

 

 一瞬こともの言葉が理解できなかったユイは、思わず聞き返す。

 しかし答える間も無く、こともは境内の奥へと駆け出した。その背後を追う、赤いハサミを持った異形。

 要するに、「自分が囮になるからお前が解決策を見つけろ」という事。

 

「……えー!?」

 

 寂れた神社に困惑する少女の叫び声が木霊した。

 

 




ハルが一緒にいる時は覚醒状態の立派な日本一幼女になるユイも、ハルがいないと年相応の女の子に。

ちなみにコトワリ様は作者の夜廻プレイ時の死因ランキング、堂々の2位です。1位は勿論よまわりさん
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