日本一幼女に厳しいゲームから妹を救いたい   作::-)

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遅刻しました

本当なら今回でコトワリ様パートは終わるはずだったのに気が付いたら1万文字を超えてしまっていたので、急遽次回まで持ち越しに

最近迷走しまくりでつらいです…


ことわりさま ~ おにごっこ

 奇声が上がる。

 続け様に響く耳障りな金属音。それを合図にこともはその場から大きく飛び退くと、彼女が先ほどまで立っていた位置を巨大なハサミが通過する。

 

「ひえー、危ないなぁ!」

 

 すぐさま立ち上がって視線を異形へ向けると、巨大なハサミを両腕で握った異形──コトワリ様がすでに自分にハサミを向けていた。その背後では切り裂かれた石垣が重力に従って崩れ落ちている。

 ふっとコトワリ様の姿が闇に消える。

 

「ッ!」

 

 間髪入れずこともは身を伏せると、その頭上を真っ赤に染まった二枚の刃が通り過ぎる。

 

「テレポートとかずるいよー!」

 

 しかし、一息つく暇もない。

 すぐにその場から離れるように走り去ることもを、コトワリ様は追跡する。あの小柄な少女の体を切り刻まんとハサミを開閉しながら異形の肉体を揺らしていた。

 軽口をたたきながらコトワリ様から逃げることもだが、その額には汗が滲んでいた。

 今まで遭遇してきた多くの怪異とは違う、明確に自分に殺意を抱いているモノ。それが絶え間なく猛攻を仕掛けているのだ。怪異への恐怖心が無いこともでも、内心では冷や汗を流していた。

 

「ねぇ、ちょっと休憩しようよ。コトワリ様も疲れたでしょ?」

『────!』

「うひゃあ! 疲れてないって事でいいかな?」

 

 また、疲労的限界もそう遠くはない。

 まだ幾分か余裕はあるものの、こともとて体力は無尽蔵ではない。このままではジリ貧だと、彼女も理解している。

 異形の殺意を躱しながら、こともは思考を張り巡らせた。

 

「そもそもハルに聞いた話と違うよ……」

 

 迫り来る凶刃から逃げながら、こともはずっと疑問に感じていた違和感を考える。

 そもそもハルの話では、コトワリ様は無差別に生者を襲う怪異ではない。

 ()()()()()を口にした者の前に現れ、その者が切りたい縁をハサミで断つ慈悲深き神。その上、求める代償は人間の形をした何かを差し出すことのみ。ハルが信頼を置くのも頷ける、ある意味ではムカデの神と同種の神。

 しかし実際問題、コトワリ様はあの言葉を口にしていないこともに襲いかかり、こともが道中で拾っておいた古びた人形を渡してもユイ諸共連れ去った。

 ハルの話に出てくる慈悲深い神とは到底思えない怪異と化していた。

 

「そもそも……何がそんなに()()()の?」

 

 背後のコトワリ様に問いかけるものの、返ってくるのは奇声のみ。

 コトワリ様から逃げ続けその殺意を向けられているうちに、こともはあの怪異から発せられる奇妙な感情に首を傾げていた。

 悲しみ。

 殺意の裏に隠れている、あまりにも悲痛な悲しみ。

 それが凶刃と共にこともにぶつけられていた。

 大抵の怪異はやり場のない怒りを生者にぶつけているのみ。こともの町にいる黒い影の怪異などまさにその筆頭。

 しかし悲しみなど、こともは滅多に向けられた事がなかった。

 

「あのネックレスの女の人みたい……」

 

 彼女の記憶に浮かぶのは、姉を助けた夜に遭遇した女の霊。

 何者かに殺害された女は自分にとって大切な物であるネックレスを求め、あの夜を彷徨っていた。そして、そのネックレスを拾ったこともを執拗に付け狙った。

 返せと悲痛な叫びを上げながら迫り来る女の怨霊の姿が、凶悪なハサミを振るうコトワリ様と異様に重なる。

 

「コトワリ様も何かして欲しい事があるの? だからわたしとユイをここに呼んだの?」

 

 コトワリ様は答えない。

 あの女の怨霊と同じように、こともは答えなど期待していなかった。

 しかし、それでも試してみる価値はある。

 

「ユイー! コトワリ様は多分わたしたちにお願いしたい事があるからここに呼んだんだと思う!」

 

 物陰に隠れながら解決策を考えているであろう少女へ向けて、こともは声を張り上げた。

 返答は無いが、聞こえているはずだ。

 

「ケホッ、ケホッ……少し疲れてきたかな……」

 

 息も絶えそうになりながらさらに大声まで上げ、こともは大きく咳き込んだ。

 しかし、これで少しはユイの助けになれるかもしれない。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 最早軽口をたたく余裕も無くなり、こともはコトワリ様と相対する。

 徐々に体力が減っている彼女と違い、コトワリ様はまるで疲れた様子はなかった。

 

「でも、わたしもまだまだ行けるよ」

 

 挑発するように笑みを浮かべる。

 すると、その挑発に乗ったのかは定かではないが、コトワリ様の姿が一瞬にして消えた。

 この場合はすぐ真後ろまでテレポートしてくるはず。

 咄嗟に身構えたこともだが、次の瞬間には目を見開いていた。

 

「ふ、増えるのもずるいよー!」

 

 なんと、コトワリ様は自身を四つに増やしていた。

 幻覚なのか実体があるのかはこともには分からなかったが、確かめる気にもならなかった。

 

『────!』

「この場合は突進だから……」

 

 コトワリ様が雄叫びを上げながらハサミを開閉する。

 それはコトワリ様が一直線に突進してくる合図だ。

 

「……ここ!」

 

 四つのコトワリ様がそれぞれ向いている方向。

 その全員の死角になる位置を瞬時に見極め、こともは駆けた。

 

「ッ……!」

 

 死角と分かっていながらも、息を呑む。

 四方をコトワリ様に囲まれ、目の前を凶刃が凄まじい速度で通り過ぎていく。

 攻撃を終えたそれぞれのコトワリ様は消え、一体のみがこともと再び対峙した。

 コトワリ様が攻撃の手を収める様子は一切無い。

 やはり、『願い事』を見つけるしかない。

 

「ユイ……頼んだよ……ハルのためにも」

 

 まだ今日出会ったばかりの少女。

 最初はただの偶然と思っていたが、ユイの口からハルの名前が出た瞬間に気づいた。

 この少女こそが、ハルの話に出てきた死んでしまった親友なのだと。

 

「なら、友達(ハル)のためにもわたしが頑張らないとね」

 

 元はと言えばこともたちの用事に巻き込まれてしまった少女。

 ここで彼女に何かあれば、ハルに合わせる顔が無い。

 

「もうちょっと頑張らないと……ねっ!」

 

 言うが否や、こともは駆け出した。

 

 新しい友達(ユイ)を守るために。

 

 

⭐︎

 

 

 

 走る。

 動かない右足を引きずるのも構わず、ただひたすらに走る。

 道中に現れた小さな虫のようなお化けも懐中電灯を当てて追払い、廃村の奥へ進み続ける。

 

「ことも……!」

 

 私の頭の中はこともの事でいっぱいになっていた。

 どこか飄々とした性格の妹でも、実際はただの小学生の女の子だ。何か特別な力がある訳でもなく、お化けに襲われれば傷つく事もある。ユイちゃんに至っては、今日初めて怪異と遭遇した正真正銘の『初心者』だ。かつての自分──お母さんを山の神に攫われた時の自分を思い返せば、今のユイちゃんがどんな気持ちになっているかは想像できる。

 こうして走っている今まさに、二人はこの廃村の奥底で待ち構えておるナニカに酷い事をされているかもしれない。

 なら、進む以外の選択肢は無い。

 

「ハァ……ハァ……なんでもっと速く走れないのッ……!」

 

 しかし、どれだけ気持ちが前へ前へと進もうとしても、動かない右足が枷のように足を遅くする。

 これほどまでに自分の足を呪った事は今までない。

 妹の窮地なんだ、少しは根性を見せろ!

 心の中で叫んでも、あの夜以来感覚が無くなっている右足はうんともすんとも言わない。

 仕方なくよろよろと、一歩ずつ倒れるかのように踏み出しながら進む。

 枯れたダムの奥底で眠っていた廃村はまるで迷路のようだった。

 所々枝分かれした道に、倒れた家屋によって挟まれたかつて道路だったもの。まるで私からこともを遠ざけようとしているような入り組んだ道程に、思わず舌打ちしてしまう。

 それでも、冷静に道程を見通せばどこへ行くべきかは分かる。

 廃村から出ず、どんどん奥へと進み続ける。

 

「あれは……鳥居……」

 

 廃村の端を抜け、曲がりくねった一本道を通った先。

 そこには、私を待ち構えていたように大きな鳥居が立っていた。何も塗装をされていない木材が剥き出しになったそれは、長年水の中に沈んでいたせいかボロボロで今にも崩れ落ちそうだった。

 そしてその鳥居をくぐった先に見える、石造りの階段。

 

「ここを上がれば神社が……」

 

 ユイちゃんが言っていた事はどうやら本当だったらしい。

 階段を一段ずつ上がりながら、視線は上へと向けられている。

 きっとこの奥底にこともとユイちゃん──そして二人を連れ去った元凶がいる。しかし階段を上がるにつれ、心の中で浮かび上がった不安がゆっくりと大きくなっていくのが分かる。

 もし、この先の神社にいたのが山の神のような祟り神だったら?

 山の神だけでこれほど苦しめられているのに、さらに別の神まで加われば……。

 

「──ダメ! 悪い事は考えない! とにかく今はこともとユイちゃんを助ける!」

 

 自分の頬を叩き、マイナスの感情を追い出す。

 それに呼応するように、一旦階段を登り切った私の前にお地蔵様が姿を現した。

 町中で見るような石造りのそれは後から置かれたのか傷んでいる様子はなく、変わらず小さな蝋燭に火を灯して寂しい夜に暖かさを醸し出している。

 仄かな灯火で冷静さを失っていた頭も段々と落ち着きを取り戻し、私は大きく息を吐いた。

 

「ッ……! でも、こういうのはやっぱり慣れないなぁ……」

 

 冷静になって改めて気づいた事実に、私は思わず苦笑する。

 視線を自分の両手に向けると案の定、小刻みに震えていた。

 

 人々から遠ざけるように建てられた神社。

 

 鳥居をくぐり、階段を上がった先にある境内。

 

 目的がわからないまま私の家族を連れて行く神。

 

 山の神とのあまりの類似点が、私の奥底に眠っている恐怖心を呼び起こしている。

 お化けがもう平気になっている妹と違い、どうも私は『夜』というものを克服できないらしい。

 

『────!』

「……怖がってる場合じゃないよねッ!」

 

 この世のものとは思えないような奇声と共に夜空に響き渡る金属音。

 その音を聞いただけで、恐怖で鈍くなっていた私の体を突き動かした。階段を登り、境内へと飛び込む。

 

 こともとユイちゃんを一緒に連れて帰れるまで、もう逃げるつもりはない。

 

 

 

⭐︎

 

 

「うぅ……ヒクッ……怖いよこともちゃん……」

 

 大きな石碑のような物の後ろに身を潜めながら、ユイは一人頭を抱えていた。

 こともが囮役を引き受けてからしばらく。今もなお終わる気配はないコトワリ様の雄叫びと金属音から、こともは未だ健在なのは分かっている。しかし、ユイは頭を出してそれを確認する勇気がなかった。

 見つかったら、今度は自分が追いかけられてしまうかもしれない。

 あの大きなハサミで狙われる光景をイメージしただけで、彼女の体は震えが止まらない。

 初めて体験する死の恐怖。年端も行かぬ少女にとってそれは、あまりにも残酷だった。

 

「でも、このままじゃこともちゃんが死んじゃう……!」

 

 必死に逃げ続けることも。

 彼女はユイに全てを任せて囮役を引き受けた。自分の身を犠牲にしてまでユイを助けようとしている。

 なのに──

 

「分かんないよぉ……! あのお化けのお願いなんてわかる訳ないよ……!」

 

 こともが告げた、「コトワリ様は何か願い事があって二人を呼んだ」という言葉。

 その真意を必死になって考えたユイだが、一向に答えは見つからない。

 そもそもあんなおぞましい怪異が望むことなど、自分たちを食べる事ではないのか。

 

「音が……止まった……?」

 

 突然、それまで絶え間なく響いていたコトワリ様の奇声と金属音がピタリと止まった。

 先程までの緊張感が嘘のようにこの場が静寂に包まれる。

 もしやコトワリ様が消えたのか?

 そんな淡い望みの下、ユイは恐る恐る石碑の影から境内を覗き込んだ。

 

「ひっ!」

 

 いた。

 真っ赤なハサミを持った怪異はまだ境内の中心に佇んでいた。

 しかし、こともの姿はどこにも見当たらなかった。もしかして捕まったのでは、と一瞬震え上がるもそれらしい痕跡も見当たらない。

 ならどこかに隠れているのか、と辺りを見回す。

 

「しーっ」

 

 こともの位置はすぐにわかった。

 ユイが隠れている石碑の真正面、数多の怨念が込められた絵馬が吊るされている絵馬掛けの裏に身を潜めていた。ユイと目が合うと、こともは口に人差し指を当てながら息を殺した。言われるまでもなく声を出すつもりが無かったユイは、首を大きく縦に振る。

 しかし、こともの体力は見るからに限界を迎えていた。

 呼吸は乱れ、どこか顔色も悪くぐったりとしている。こともが逃げる事をやめたのは、どうやら時間稼ぎのためだけではないらしい。

 こともが危ない。

 今のうちに何か解決策はないかと、ユイは必死に考える。

 

「うっ……ケホッケホッ……」

 

 その時、こともがついに胸を押さえて咳き込んでしまった。

 そのまま夜の闇に消えてなくなりそうな小さな物音。

 

『────!』

 

 しかし、コトワリ様に位置を知らせるには十分過ぎた。

 

「ことちゃんッ!」

 

 自分の居場所がバレる事も構わず、ユイは悲鳴のような叫び声をあげた。

 迫り来る凶刃はこともの隠れる絵馬掛けの一部を切り裂き、真っ直ぐこともへと突きつけられた。

 

「ハァ……ハァ……大丈夫! 当たってないよ!」

 

 巻き上がった砂埃から見慣れた赤いリボンの少女がよろよろと這い出てくる。

 間一髪で体を伏せた結果、ハサミはこともの真上をギリギリのところで通過していた。

 まさに九死に一生を得たこともだが、しかし逃げる足取りは決して速いものではない。やはりすでに体力は限界を迎えている。

 

「こともちゃん!」

 

 ユイの体は無意識のうちに動いていた。

 これまで一歩も出ようとしなかった石碑の裏から駆け出すと、今にも倒れそうなこともの体を横から支えた。

 しかし、そんな少女たちの背後からは魔の手が忍び寄っている。

 必死に逃げようとするユイの背後から発せられる、あの恐ろしい奇声。

 

 逃げきれない。

 

 真後ろから聞こえる、耳障りな金属音。

 せめてもの抵抗として目を硬く瞑り、来るべき痛みに備えた。

 

「……あれ?」

 

 だが、痛みはいつまで経っても来なかった。

 背後を振り返ると、なんとあの異形の姿が跡形もなく消えている。先程まで迫っていたハサミも、今は影も形もない。

 もしや諦めたのか?

 そう思った矢先──

 

『────!』

「きゃっ!?」

 

 後ろではなく前から響き渡る奇声に、思わずユイは悲鳴を上げた。

 人の形を模した石畳の中心へと戻ったコトワリ様は、ハサミを振り上げた状態で佇んでいた。

 今度こそもうダメだ。

 思わずこともと共にへたり込んだユイだったが、次の瞬間には目を見開かせていた。

 

『────!』

 

 コトワリ様がハサミを向けたのはへたり込んでいる自分たち──ではなく、自身の真横にある何もない空間に向かってハサミを閉じていた。

 

「……え?」

 

 困惑するユイを他所に、コトワリ様はさらにハサミを振り回す。

 まるでユイとこともが見えていないかのように闇雲に自身の得物を振るうコトワリ様の姿は、まさしく狂気に取り憑かれた神そのもに。

 己の理解を超えたコトワリ様の行動を、ユイはただ呆然と見つめることしかできない。

 

「ユイちゃん!」

 

 そんな混沌とした境内に響き渡る、優しげな声。

 

「お姉さん……」

 

 ユイの腕の中でぐったりとしていることもの姉──ともこが、鬼気迫る様子で神社へと飛び込んだ。

 境内の中心で暴れ回るコトワリ様を見て一瞬ギョッとしながらも、コトワリ様を迂回するようにしてユイたちの下へ駆け寄った。

 

「大丈夫だった!? 怪我はない!? こともはどうしたの!?」

「わぷっ、わたしは大丈夫だよお姉さん。こともちゃんはわたしのためにずっとコトワリ様から逃げ回ってて……」

 

 全身を隈なく探しながら悲鳴のような声を上げるともこを、ユイは慌てて引き剥がす。

 実際のところユイに怪我はなく、こともも疲労困憊ながらも同じく怪我は見当たらない。無事に二人と再会できたともこは、「良かった……」と呟きながらその場でへたり込んだ。

 だが、まだ彼女たちの夜は終わっていない。

 

「……アレがコトワリ様ってわけね」

 

 境内で暴れ回る異形を見つめながら問うともこに、ユイは頷いた。

 

「さっきまでずっとこともちゃんを追いかけてたのに、急におかしくなって」

 

 言いながら、ユイは一人違和感を感じた。

 本当にコトワリ様は唐突に狂ったのだろうか?

 ずっと隠れていたユイでもコトワリ様の発する()()()は肌で感じていた。

 だが、今のコトワリ様が発している感情には悲しみ以外のものも混ざっていた。

 

「なんだか……喜んでるみたい……だね……」

 

 ユイの違和感に答えるように、それまで虚な表情を浮かべていたこともが小さく呟いた。

 

「こ、ことも!? 大丈夫なの?」

「わたしの事はいいよお姉ちゃん。それより、コトワリ様の方だけど……」

「こともちゃんが言う通り、少し嬉しそうだね……」

 

 違和感にようやく気づいたユイも、思わず呟いた。

 『喜び』。

 殺意と悲しみを撒き散らしていたはずのコトワリ様の唐突な変貌。

 なぜコトワリ様は()()()()()のか。

 現在の狂乱に走る直前の出来事を思い返し、ユイは息を呑んだ。

 

「もしかして……」

 

 彼女の視線の先にあるのは、こともが隠れていた絵馬掛け。

 

――これだとどっちがお化けなのか分からないね。

 

 そこには、コトワリ様によって切り裂かれた()()()()()()()が地面に落ちていた。

 

――わたしたちをここに連れてきたのが多分、ここの神様だと思うけどね。

 

 なだれ込むようにユイの頭の中に浮かび上がる、こともの言葉。

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「……分かった!」

 

 まるでパズルのピースが一つの形を作り上げるように、ユイの中で全てが繋がった。

 

「え? ユイちゃん、分かったって何が?」

「あの神様がわたしたちにお願いしたかった事が分かったの!」

 

 しかし、神社に来たばかりのともこは状況が理解できていない。

 そもそもコトワリ様がこの神社の主であることすら、ユイに言われて気づいたばかりである。

 

「要するにあの神様はわたしたちにお願いがあって、わたしたち二人をこの神社に連れてきたの。わたしも逃げながらずっとお願い事を考えてたけど全然分からなくて……」

 

 混乱する姉を見かねてか、こともが説明する。

 あの異形がこの神社の神様でコトワリ様であること。そのコトワリ様は何か願い事があってこともとユイを自身の神社に連れて行ったこと。

 そして、ユイがついにその願い事の内容が分かったということ。

 

「それが分かれば、コトワリ様ももう私たちを襲わなくなるの?」

「そういうこと! そのお願い事なんだけど――」

 

 ユイは例の絵馬が無数に吊るされた絵馬掛けを指さしながら告げた。

 

「あれをどうにかして欲しいんだと思うの!」

「……あー、そういうことだったんだぁ」

 

 頭に疑問符を浮かべるともこを他所に、ユイの言葉を聞いたこともは一人頷いた。

 

「あの絵馬には色んな人の恨みつらみが書いてあって、それを全部断ち切って欲しいって神様にお願いしてたの」

 

 自分の悪い縁を()()()の神様であるコトワリ様に断ってもらう願い。

 それがあの絵馬の正体だった。

 元々は病気や悪運などといった縁起の悪いものとの縁を断ち切るために人の子はこの神社へ祈願し、慈悲深い神であるコトワリ様はそれらの悪い縁を自身の縁切りのハサミで悉く断っていた。

 しかし、いつしか人の子の断つ縁は欲望や怨恨が絡むようになり、ついには純粋な縁切りの願いは姿を消してしまった。

 結果残ったのが、気に入らない()()との縁を断つことを望む穢れた願い事だけ。

 

「――その結果穢れてあんな姿になったのがコトワリ様っていう事?」

「うん。多分コトワリ様は悲しかったんだと思う。ずっと人と寄り添って生きてきたのに黒いお願いしかされないようになって……そしてその穢れの元が、あの絵馬たちなんだと思う」

 

 ユイの言葉に、ともこは悲痛な表情を浮かべながら暴れ狂うコトワリ様を見つめた。

 つまり、コトワリ様は助けを求めるためにユイとこともをこの場に呼んだということになる。

 ならば、彼女たちが取るべき行動は決まっていた。

 

「わたしはコトワリ様を助けたい!」

 

 迷いのない瞳でユイは宣言する。

 

「でも、コトワリ様がいつまであんな風に暴れてるか分からないわよ? もしかしたら絵馬を壊してる途中でまた襲ってくるかもしれないし」

「大丈夫! わたしが囮になる!」

 

 そんな幼い少女とは対照的に不安気に呟いたともこに、ユイは真っ先に手を上げた。

 こともはすでに限界を迎えていて、足が悪いともこでは分が悪すぎる。つまり、今囮になれるのは自分しかいない。そう思い至った瞬間、ユイは自らを立候補していた。

 もうこともに頼りっぱなしではいけない。

 コトワリ様を助けるには自分で行動するしかない。

 それに何より――新しくできた友達を危険に晒すのは、もうユイには耐えられなかった。

 

「……いいの、ユイ? 捕まったら死んじゃうかもしれないんだよ?」

 

 珍しく姉のように不安気に問いかけることもに、ユイは精一杯の笑みを浮かべる。

 

 

「わたし、実は鬼ごっことか得意なんだよ? ハルと遊ぶ時と一緒なら、わたし捕まらないもん!」

 

 

 恐怖心がないといえば嘘になる。

 

 だがそれよりも友達を守りたい一心で、彼女は立ち上がった。

 

 

 

 




ユイちゃん覚醒

そして今回お姉ちゃんはあまり活躍できず。キャラが増えるとやはり執筆の難易度も上がります…三人程度でヒィヒィ言っている状態ですが
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