日本一幼女に厳しいゲームから妹を救いたい   作::-)

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今更かもしれませんが、この小説には多大な独自解釈がございます

今回は少し短めです


ひとのこ 〜 かみさま

 その神は人間を愛していた。

 

 八百万の神々のような強力な神通力がある訳でも、超常的力を操れる訳でもない。吹けば飛ぶような、あまりにも儚く弱々しい生き物。

 しかしそれほどまでに弱い人の子は、絶対的上位者として君臨する神々に恐怖を抱く事なく、自らの『希望』の象徴として信仰と祈りを捧げた。

 どれほどの不幸が続き、どれほどの悪運が訪れようと、神へ祈りを捧げれば奇跡は必ず起きると。

 いつしかそれは『信仰』と呼ばれ、神々の力の源と化していた。

 その神もまた、そんな人の子に信仰を捧げられている一柱だった。

 

『■■■■様、どうかお助け下さい!』

 

 来る日も来る日も人の子はお供物と祈りを捧げてから、自らの願いを告げた。

 その神が司る事象とは『縁切り』。

 人の子が願うあらゆる『縁』を断ち、絶望の淵に立たされていた人の子に救いを与えていた。

 その上、信者たちが告げる願いは決まって自分以外の者を救うための願いだった。それは我が子の病魔であったり、知人友人の悪運であったり、家族に取り憑いた悪霊であったり。

 他者を思いやり他人の不幸を悲しめる人の子が、その神にとってはあまりにも眩しい。八百万の神々には無いその特性を持ち合わせた人の子がたまらなく愛おしかった。だからその神も嬉々として願いを叶え続けて信仰を広め、人々の救いであり続けた。

 

 しかし、時の流れはあまりにも残酷だった。

 

 広まり続けた信仰でいつしか、新たな人の子がその神へと惹きつけられた。告げる願いは他者の救いではなく、己の欲望に駆られた他者への不幸。

 あいつが気に入らない。

 あいつが憎い。

 だからあいつとの縁を切りたい。

 病魔や災害とは程遠い人間の黒い感情に、その神も戸惑いを隠せなかった。しかし人の子を愛していた神はそれでも懸命に願いを聞き入れ続けた。それが過ちだとも気づかずに。

 あの神社に頼めば願いが叶う。

 気に入らない誰かがいればあの神様に消して貰おう。

 気がつけば人の子から告げられる願いは穢れた邪なものだけになっていた。しかし長い間ずっと願いを叶え続けた縁切りの神はそれに気づくことはなく。

 己は何者なのか。

 なぜ人の子の願いを叶えているのか。

 

 自らの肉体を醜く歪め自己すらも失った神は、既に荒神へと変貌していた。

 

 人の子への愛情も忘れた怪異として、そのハサミを振るうために。

 

 

⭐︎

 

 

 長い年月を経て人々からも忘れられた哀れな神──コトワリ様。

 愛故に振りかざしていたハサミは凶刃へと姿を変え、かつては信仰を集めた慈悲深き神も異形と化している。

 そんな己も忘れたほどの荒神は今、荒れ狂っていた。

 

『────!』

 

 あの絵馬を切り裂いた時、何かが自分の中に流れてくる。

 どこか懐かしいような、暖かいような、心地良い感覚。しかし怪異へと成り下がっていたコトワリ様には、その心地良さすら不快に思えた。

 混乱し、まるで癇癪を起こすかのように闇雲にハサミを振りかざす。

 

「コトワリ様ー!」

 

 そんな荒神へ近づくのは、一人の少女。

 赤色のリボンで結ばれた茶色の髪を揺らしながら、コトワリ様へ呼びかけた。

 それまで暴れ回っていたコトワリ様はその声を聞いた瞬間、それまでの狂乱が嘘だったかのようにピタリと停止した。

 

「ッ……!」

 

 電源が切れたかのごとく止まるコトワリ様に、その少女──ユイは思わず一歩後ずさる。

 額から一滴の冷や汗が流れ、体も震え始めた。

 今、おそらくあの神の意識は全て自分へと注がれている。

 数え切れないほどの『縁』を断ち切った赤い裁ち鋏が月明かりに照らされ妖しく光っていた。その凶刃が今、自分へと向けられようとしている。

 

「……こともちゃんが頑張ったんだから、わたしも頑張る!」

 

 臆するのも一瞬。

 決意を固めたユイはさらに一歩コトワリ様へ近づき、声を荒げた。

 

「神様こちらー手の鳴る方へー!」

『────!』

 

 言うが否や、ユイは駆け出した。

 それを合図と受け取るように、コトワリ様もハサミを震わせ突進した。

 

「わぁ!?」

 

 目の前を通り過ぎる自分の身長よりも大きなハサミにユイは思わず悲鳴を上げる。

 まさしく一撃必殺。

 あのハサミに捕らわれたら最後、ユイは捧げられた数多のお供物と同じ運命を辿るだろう。

 

「こんな攻撃をこともちゃんはずっと受けてたの……?」

 

 たった一度躱すだけでユイは全身が震え上がっていた。

 慈悲も容赦もない、まさしく神業と呼べる太刀筋。それを同い年であるはずのこともはあれほど長く耐えていたというのか。

 新しい友人の人間離れした精神力にユイは唖然とした。

 

「ッ!」

 

 しかし、休む暇など当然ない。

 畳みかけるようにコトワリ様は悲鳴をあげ、ハサミを何度も開閉する。あれはおそらく突進の合図。

 慌ててその場から離れた瞬間、ユイの真横を赤い影が通過する。

 安心したのも束の間、少し離れた位置で停止していたコトワリ様の姿が一瞬で消える。

 

「これは確か……」

 

 消えたとなれば、どこにでも現れる。

 どこへ行っても対処できるよう、ユイは一呼吸も逃さないように神経を光らせながら身構えた。

 だがコトワリ様の力は、ユイの予想を容易く打ち砕いた。

 

「え、ちょ、増えてるー!?」

 

 四方を囲むようにして現れる四柱の神。そのどれもがあの赤いハサミを握りしめ、少女を切り裂かんとしていた。

 こともすら惑わしたコトワリ様の力が、ユイへと牙を剥く。

 

「ひぃ!?」

 

 左右前後を囲まれているのなら、その死角となる場所は一つ。

 ユイは正面に佇むコトワリ様二人の間──斜め方向となる位置に飛び込んだ。

 迫り来るコトワリ様の刃はユイに当たることなく、間一髪の位置で通過する。

 

「うぅ……」

 

 体験した事もないような殺意は幼い少女の精神を容易く侵す。

 それでもユイはお気に入りの服を汚しながらもフラフラと立ち上がる。

 自分から申し出たからには、最後まで全うしなければならない。

 でなければこともやともこだけでなく、いつか親友のハルまで傷つけてしまう。

 何より、コトワリ様の願いを叶えると言ったのも自分だ。

 

「ハル……」

 

 この場にいない親友を思い描き、自分を奮い立たせる。

 ユイは拳を握りしめ、目の前の神を見つめた。

 

「わたしはあなたを助けたいの」

 

 目の前の人の子の言葉に、神は何も答えない。ただ奇声を発しながらハサミを鳴らすだけだった。

 しかしそれでもユイは逃げながらも懸命に呼び続けた。

 

「もうコトワリ様も悲しまなくていいんだよ! ここにはもう悪いお願いをする人はいないの!」

 

 走る彼女は境内を駆け抜け、おやしろの横を通り過ぎる。

 

「だからもうやめようよ! わたしはもうコトワリ様が悲しむのは見たくない!」

 

 神社の奥でひっそりと吊るされていた──長年神を蝕み続けた元凶に向かって。

 

「もういやだ!」

 

 

 

⭐︎

 

 

 

「ことも、そっちは大丈夫!?」

「うぅ……硬くて外せない……」

 

 ユイがコトワリ様との命懸けの鬼ごっこを行なっている時。

 残された姉妹──こともとともこは神社の傍で吊るされていた絵馬を懸命に外そうと四苦八苦していた。

 相当な怨念が込められて縄が縛られているのか、一つ外すのにも一苦労。まるで神社そのものにしがみついているようで、ともこは戦慄した。

 おびただしい量の絵馬、その一つ一つには持ち主の願いが描かれている。なるべく見ないように目を逸らしていても目につくそれらには全て、人間が他の人間に向けた恨みが刻まれていた。

 

「こんなに沢山の怨念をコトワリ様は背負ってたんだ……」

 

 それはコトワリ様が狂うのも頷けるほどの穢れだった。

 山の神とはまた違う理由で荒神に成り果てたコトワリ様に、ともこは素直に同情した。

 忘れられた神である山の神とは違い、人間の欲望や怨念によって狂わされたコトワリ様。この二柱の神は似ているようで似ていなかった。

 何より、この元凶を取り除けばコトワリ様も元の慈悲深い神としての神格を取り戻すかもしれない。

 

「くっ、どこまできつく縛ってるのよ……!」

「いっそのことハサミで全部切っちゃいたいよね」

 

 しかし、そんな人間たちの怨念が神を助けようとする少女たちの行く手を阻む。

 このままでは絵馬を全て取り除く前にユイがコトワリ様の魔の手に捕まってしまう。

 なんとかできないかと途方に暮れていた二人の姉妹に、聞き慣れた声が掛けられる。

 

「お姉さん、こともちゃん! 避けて!」

「え?」

 

 境内でコトワリ様を引きつけているはずのユイの声が響き、ともこは首を傾げた。

 

「お姉ちゃんッ!」

 

 しかし次の瞬間、ともこはこともに押し倒されていた。

 飛びかかるように姉の腰に突進したこともは勢いそのまま、絵馬掛けのすぐ隣へ姉共々倒れ込む。

 

「ごふっ!?」

 

 姉の口から女子にあるまじき声が漏れるも、今のこともには気にしている余裕はない。

 姉を安全圏まで離脱させたこともは慌てて背後でこちらに向かって走るユイに叫んだ。

 

「ユイも早くこっちに!」

「うん!」

 

 こともの意図を察してか、ユイもまた絵馬の目の前で横に飛んだ──その背後にコトワリ様を引き連れて。

 

「うぇっ!?」

 

 横へ飛んだユイはこともと同じようにともこを下敷きにした。

 しかし背後で突進中だったコトワリ様には、急激な方向転換などできない。

 ハサミを開いたまま突進したコトワリ様はそのまま三人のすぐ真横──あの絵馬掛けに向かってその神業たる太刀筋をぶつけた。

 

 一閃。

 

 神自身を()()()で蝕んでいた絵馬はそのまま、神自らの手によって両断された。

 

「コトワリ様……?」

 

 不安げに見つめるユイに、コトワリ様は何も答えない。

 まるで茫然自失になったように崩れ落ちた絵馬を見つめ、動かない。

 やがてゆっくりと、コトワリ様は隣で倒れている三人の少女へと体を向けた。

 その手にはまだ、あの赤い裁ち鋏が握られている。

 少女たちは一斉に息を呑んだ。

 この体勢では逃げられない。あの凶刃が向けられれば、自分たちなど一瞬にして肉塊へと変えられてしまう。

 しかしコトワリ様は動かない。それどころか、この夜では幾度となく開閉された赤い裁ち鋏は振われる気配すらない。

 しばし見つめ合う三人の人の子と一柱の神。

 

 否、コトワリ様が見つめていたのは三人ではなく、一人の少女。

 

「えへへ、良かったねコトワリ様」

 

 その少女──ユイは、柔らかな笑みを浮かべた。

 もうコトワリ様は自分たちを襲ってこない、そんな気がして。

 

『────!』

 

 その声に応えるようにコトワリ様は一度大きくハサミを鳴らす。

 今までの奇声と違いどこか澄んだ声を残して、コトワリ様は夜の闇へと消えていった。

 

「……行っちゃった……のかな?」

 

 恐る恐るといった様子で周囲を伺うともこに、ユイは笑みを浮かべながら答えた。

 

「もういないみたい!」

 

 ゆっくりとともこの上から退くと、ユイは境内へ指差した。

 コトワリ様の爪痕は色濃く残っているものの、確かにあの異様な威圧感と殺気、そして悲しみは消えていた。

 

「コトワリ様も元の良い神様に戻ったのかな?」

「分からない。でも、多分もう闇雲に人を襲ったりはしないんじゃないかな?」

 

 こともの問いにユイは首を振るも、どこか心の中では確信めいたものを感じていた。

 きっと次会える時は一緒にお話できる。

 今度はハルも一緒に。

 

「ケホッ、ケホッ……ことも、重くなった?」

 

 今の今まで二人に下敷きにされていたともこは、埃だらけになってしまった制服を払いながら呟く。

 そんな姉に不満げに頬を膨らませることもを他所に、ともこはゆっくりとユイへと歩み寄り、その小さな頭を優しく撫でた。

 

「ありがとう、ユイちゃん。コトワリ様を助けられたのもこともを助けられたのも、全部ユイちゃんのおかげだよ」

「お姉さん……うぅ……」

 

 その言葉が限界だった。

 それまでどこか無理やり笑みを浮かべていたユイは顔を歪ませると、大粒の涙を流しながら力なくともこへと顔を埋めた。

 

「怖かったよぉ……死んじゃうかと思ったよぉ……」

「よしよし、ユイは頑張ったね」

 

 姉へと抱きつきながら声をあげて泣くユイの頭を、こともも優しく撫でた。

 自分とは違い、ユイは今まで怪異とは接した事がなかったのだ。それがいきなり荒神と対峙した上で逃げ切ったのだ。大健闘という言葉すら足りない。

 

「こともちゃんが死んじゃうかと思って……せっかく友達になれたのに……」

 

 しかしこともの予想とは裏腹に、ユイは違う理由で泣いていた。

 ハル以外で初めてできた友達。そんなこともがコトワリ様と対峙していた時、ユイは心の底から恐怖した。

 自分のせいでこともが死んでしまうんじゃないか。

 自分の死よりも、彼女は友達がいなくなる事が何よりの恐怖だった。

 

「こともちゃん……!」

「わっ、ユイ?」

 

 ともこから離れこともへと抱きつくユイを、こともは困惑しながらも抱き返す。こともにしては珍しく頬を赤く染め、友達のスキンシップに照れている様子だった。

 

「心配されてたみたいね、ことも」

 

 そんな二人を、ともこは優しく微笑みながら見つめる。

 不器用ながらも大人びていて面倒見が良いこともと、友達想いで優しいユイ。

 良い友達に巡り会えたと、ともこは密かに喜びを感じながら二人をまとめて抱きしめた。

 

「帰ろっか、二人とも」

「……うん、ありがとうお姉さん」

 

 ようやく泣き止んだユイもくしゃりと泣き痕が残る顔で笑みを浮かべながら、こともから離れた。

 

 そのまま三人は崩れ落ちた絵馬を背に、神社を後にした。

 

 

 

⭐︎

 

 

「ここ、わたしの家の近くの山だ」

 

 まるで永遠に思えた長い夜をコトワリ様の神社で過ごしたユイは、神社を出た瞬間に飛び込んできた見慣れた景色に思わず首を傾げた。

 ハルと遊ぶ時に何度も訪れた事がある裏山。

 まさかあの神社と繋がっているなど思わず、ユイは疑問符を浮かべる。

 

「でもこの山にあんな神社ってあったっけ……?」

 

 見覚えのない神社の出現に疑問符を浮かべるものの、それ以上は考えないようにした。

 『夜』の世界には不思議が沢山ある。

 今日だけでもユイはそれを嫌というほど思い知った。

 

「ユイちゃん、ここからどうやって帰るか分かるの?」

「うん。この山を降りればすぐ」

 

 裏山となれば、ダムとは違いユイにとっては慣れ親しんだ場所だ。

 ともこから懐中電灯を受け取ると、ユイは迷わず先導した。

 

オイデ

 

「ッ!?」

 

 消えそうなほど細く小さな声。

 しかしそれは確実にユイの耳をくすぐり、ユイは慌てて周囲を懐中電灯で照らした。

 しかし木々が生い茂るだけで、周りには怪異すら見当たらない。

 

「どうしたの、ユイちゃん?」

「……ううん、なんでない」

 

 突然目を見開かせて周囲を確認するユイを、ともこは不思議そうに見つめている。どうやら彼女には聞こえなかったらしい。

 

「わたしの聞き間違いかな……」

 

 それ以降は声は聞こえなくなった。

 まるで自分を呼ぶようなあの声に首を傾げながらも、ユイは再び歩き始めた。「帰ったらお父さんとお母さんに怒られるなぁ」と苦笑しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オイデ オイデ オイデ

 

 

 

 




最後チラっと出てきたクソ蜘蛛

なお出番はまだまだ先です
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