日本一幼女に厳しいゲームから妹を救いたい   作::-)

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投稿が大変遅れてしまい、申し訳ございませんでした。
前回投稿した第14話がどうしても納得の行く形にできず、色々と加筆していたらここまで遅くなってしまいました。ですので、14話の後半部分の展開が最初に投稿した時と変わっていますので、ご注意ください。

今後遅れる場合は活動報告で報告できるように匿名は解除させて頂きました。よろしくお願いします。


ついせきしゃ 〜 にんげん

 異変は突然やってきた。

 以前脱出する時に使用したゲートが二体の巨大な怪異に阻まれ、別の出口を探す事を余儀なくされたともこは工場の奥へと足を運んでいた。足元の瓦礫に躓かないよう意識を集中させ、どこかフラフラとぎこちない足取りで注意深く周囲を見回している。

 懐中電灯も持っていない今、月明かりだけが唯一の道標。

 夜風の寒さに震えながら、脱出の糸口となり得る手掛かりを探り続けていた。

 よまわりさんと山の神の手のおかげで怪異が姿を消しているのがせめてもの救いか。

 

「……うん?」

 

 しかし、そんな少女の背後から忍び寄る、一つの影。

 異変に気づいたのは彼女が一旦足を止めた時だった。

 

「…………」

 

 物音一つと聞こえない完全な静寂に支配されているこの廃工場。怪異の溜まり場と化し自分以外の生者の気配など一切感じないこの空間では、彼女のコツコツという足音のみが夜空に向かって響いていた。

 しかし、彼女は聞いた。聞こえてしまった。

 足を止めた際、ほんの一瞬遅れて()()()()も止まった事に。

 

「……誰もいない」

 

 恐る恐る背後を確認するも、広がるのは寂れた工場の風景のみ。

 瓦礫とゴミで彩られた人工物の墓場は何も写していなかった。

 再び歩き始めるも、今度は意識は足元ではなく背後に集中させている。

 コツコツと鳴る自分の足音。

 そこにまるで隠れるようにして鳴り響く、ピタピタという足音。

 妙に耳に残るその音は一定の間隔で彼女の背後から発せられており、ともこが歩けば足音も歩き、ともこが止まれば足音も止まる。

 

「(何かいる……よね?)」

 

 それを「気のせい」で片付けられるほど、今のともこの危機管理能力は低くなかった。

 気配はしない。

 お化けの姿もなく、本当に『足音だけ』が彼女を追跡していた。

 しかも、足音が彼女を追跡するのは初めてではない。

 

「(あの時と同じ人?)」

 

 こともの後を追うように外へ出た夕暮れ。

 その時も彼女の背後から同じように足音が追跡していた。

 初め、ともこはそれがよまわりさんのものと思っていた。実際その直後に彼女はあの白い袋の中に詰め込まれ、今の状況に陥っている。

 しかしよく考えれば、よまわりさんに()()()()()()。ズルズルと体を引きずるようにして移動するため、()()を発せられるワケがなかった。

 つまりこの足音はよまわりさんとは違う怪異。あるいは──。

 

「『隠れる』っていう行為ができる『人間』か……」

 

 怪異とはただそこにいるだけの存在である。

 生者を見つければ襲いかかり、それ以外では決められた自分の領域(テリトリー)から動かない。要するに『隠れる』という思考を持ち合わせていない。

 そしてこの足音の主は確実に身を隠している。

 

「……ちょっとまずいかな?」

 

 知恵を絞って出し抜ける怪異ならまだしも、同じ人間相手となれば話は別だ。

 怪異相手ならどれほど追跡されようと身を隠せばそのうち消えてくれる。石を使って気を引く事も、以前ならお守りの力で追い払う事もできた。

 しかし、人間は違う。

 自分を探し出そうとどこまでも追いかけてくるし、超常的な守りを与えてくれるお守りなども通用しない。

 皮肉な事に、夜廻りを行う少女たちに一番脅威となるのが同じ人間だった。

 

──試してみるべきか。

 

 意を決して、ともこは最後にもう一度だけ背後を振り向く。

 当然視界には誰も入らない。足音も止まっている。

 

「……今!」

 

 再度正面を向いた瞬間、ともこは咄嗟に近くの倉庫らしき建物の中に飛び込んだ。

 

「ケホッケホッ……埃っぽいなぁもう!」

 

 そのまま開きっぱなしだった扉をそっと閉じ、息を殺して身構える。

 相手が人間なら、ともこから身を隠す時に視線は切れているため気づかれないはず。相手が怪異なら、ある程度時間が経てば自分の領域に戻っていくはず。

 「制服も埃まみれになっちゃったなぁ」と苦笑しながら、足音を立てないようゆっくりと扉から離れる。右足の感覚があれば飛び込む必要もなかっただろうに、と改めて不便に感じながら。

 再び訪れる静寂。

 廃工場の奥深くにあるこの倉庫からはあの二体の巨大な怪異が争う音も聞こえない、夜の静けさそのもの。

 唯一聞こえるのは自分の息遣いと速まる心臓の鼓動のみ。

 

「ッ……!」

 

 そんな静けさに響く、ピタピタという足音。

 今までともこの足音に紛れるのみだった相手が姿を現した瞬間だった。

 ピタ……ピタ……と、先程の一定の間隔で聞こえていた時とは違い、一歩一歩確かめるように進んでいる。

 果たして人間なのか、怪異なのか。

 

「ごめん、怖がらせちゃったみたいだね。別に悪意はないんだ。ただ、どうやって君に話しかければいいのかわからなくて」

 

 その答えは前者だった。

 突如として語りかけるように響く若い男性の声。

 苦笑混じりに告げられた言葉からは確かな理性が感じられ、聞く者を安心させる穏やかな口調だった。

 

「君もあの化け物を見ただろう? 俺もあいつにここに連れてこられたんだ。俺としては君と一緒にここから出たいと思ってる。だから、出てきてくれるかな?」

 

 久しく聞いていない自分以外の生者の声。

 しかし彼女にはその声に応える気などまるで無かった。

 

「(()()()だ!)」

 

 彼女の脳裏に浮かぶのはかつての世界での記憶。

 妹にポロがいなくなったと告げられ、代わりに探しに出かけたあの夜。

 ともこはその時は妹を守るためにあえてよまわりさんに捕まった。

 廃工場で目を覚ましたともこは、今と同じようにとある若い男性に声をかけられた。

 青年は恋人を探しに来た事、よまわりさんについて調べている事を告げ、足を怪我していたともこのために包帯まで渡し、一緒に出ようと言葉を掛け続けた。

 そんな青年の優しさにやがてともこも心を許し、立て篭っていたコンテナから出てしまった。

 その正体が山の神に精神を汚染され恋人を殺した、凶悪な殺人犯だと知らずに。

 そしてその殺人犯が今、薄い扉で隔てたすぐ外にいる。

 

「(今度はもう騙されない……! 絶対に言うことなんて聞くもんか!)」

 

 どれほど理性を感じさせる口調で話そうと、どれほど優しい言葉を掛けられようと、全ては山の神のでまかせだ。

 右足を奪われたあの夜、自分を殺そうと襲いかかってきた母親と同じで理性など一切ない。頭の中に浮かぶ言葉に従うただの人形でしかない。

 

「勿論、君が警戒するのも無理はない。君みたいな可愛らしい女の子にどこの誰かも分からない男と協力しろなんて言うのは酷かもしれない。でも、俺は君に危害を加える事は神に誓って無い。それだけは信じてくれ」

「どの口が言う……!」

 

 山の神に精神を乗っ取られた男が「神に誓う」などと話す様に、ともこは思わず悪態を吐く。

 その男が誓った神こそまさに元凶だというのに。

 

「頼む、もう俺には時間がないんだ。俺は行方不明になった恋人を探してこの町に来た。きっと俺の恋人もあの化け物に連れて行かれたに違いない。彼女を助けるためにはどうしてもここを出なくちゃいけないんだ。だからお願いだ、協力してくれないか?」

「恋人を殺した張本人のくせに……!」

 

 次々と出る男性の言葉一つ一つがともこの精神を逆撫でした。

 そもそもよまわりさんは子供しか誘拐しないし、恋人を殺した張本人がよまわりさんに罪をなすりつけているだけだ。

 歯を食いしばり、ともこは男の声を無視する。

 

「……君以外にもう一人女の子を見かけた。君とよく似た、君よりずっと幼い小学生ぐらいの女の子だったけど、その子も助けたいと思ってる」

 

 しかしその言葉を聞いた瞬間、ともこは思わず飛び上がりそうになった。

 自分とよく似た小学生程度の女の子など、一人しかいない。

 

「ことも……?」

「君はおそらく、妹さんを探していたんだろう? 俺も一緒に協力する。君は妹さんを探していて、俺は恋人を探している。利害は一致してるはずだ」

 

 何を言われようとともこは青年の言葉に耳を傾けるつもりはなかった。

 だが妹となれば話は別だった。

 

「だから頼む、姿を見せてくれるかい?」

 

 それっきり男は言葉を語らない。

 きっと罠だ、山の神の出鱈目だと自分に言い聞かせるも、ともこの心は大きく揺れていた。

 もしかしたら青年の言葉通り、こともは山の神に連れ去られたのではなく、ともこと同じようによまわりさんに誘拐されたのかもしれない。そして自分と同じように、ここから出ようと彷徨っている。

 怪我をしているかもしれない。恐怖で震えているかもしれない。

 妹の安否を考えれば考えるほど、ともこの中の不安は膨れ上がる。

 思えば、これまでの出来事は彼女が知る過去とは大きくかけ離れていた。母親ではなくこともが連れ去られ、よまわりさんの介入、家族全員が連れ去られる異常事態。過去の知識とはまるで違う。

 もしかしたらこの青年も彼女が知る殺人犯と違い、本当に恋人を探しにきたのかもしれない……。

 思わず口を開き掛けたその時──。

 

「チッ、やっぱりこれでもダメか」

 

 その僅かな希望を嘲笑うかのように男の本性が牙を剥いた。

 

「あーやっぱり無駄だったか。お前、やっぱり()()()()んだろ? 俺の事。はぁ、あの神社も潰して忌々しい犬畜生とも引き剥がしたのに、お前が()()()()せいで随分と回りくどい事をするハメになってる。()()()も怒ってたぞ? 俺だってそのせいであの女以外に何人も……ヒヒヒ……何人も殺す事になった。ん? 殺す? 俺が? 違う、俺はただあいつの言葉に従っただけだ……頭の中のあいつに……ヒヒ」

 

 やはり、男の本性は変わっていない。

 そして山の神に憑かれた者特有の、支離滅裂な言葉。

 

「あの手帳、この人のだったんだ……」

 

 狂気に染まったその言葉から微かに読み解ける事実に、ともこは思わず震え上がった。

 少し前に廃工場の片隅で拾ったあの恐ろしい記録が刻まれた手帳。その持ち主が語った()()()。その答えが今まさに目の前に出揃っていた。

 

「ウッ、アハハ……またあいつが言ってるよ、早くお前を連れてこいって。だから早く出てこいよ。家族と会いたいだろ? なぁ、おい」

 

 息を殺し、ただひたすら男が立ち去るのを待つ。

 彼女の顔面は蒼白で、体は小刻みに震えている。

 怪異とは違う、生きた人間の狂気。それは幼い少女にとってはあまりにも残酷すぎた。

 

「……勘弁してくれよ。探すか? また探さなきゃいけないのか? やっとの思いでお前を見つけたのに、また探さなきゃいけないのか? でも、絶対に見つける。一緒にあいつの所に行く。逃がさない。絶対逃がさない。ヒヒ……」

 

 譫言のように呟きながら、やがてピタピタという足音と共に男の声も聞こえなくなった。

 永遠にも思える静寂の後、思わずともこは力無くその場にへたり込む。

 息は乱れ、未だに動悸も止まらない。男の狂気に満ちた声が容赦なく少女を蝕んでいる。

 記憶の中にあった男の様子とはまるで違う、桁違いな歪み。

 しかしその狂気も、既に立ち去った様子だった。

 声も聞こえず、気配も無い。

 念を押してまたしばらくその場で待ってみるものの、やはり男がこの倉庫に近づいてくる様子はない。

 

「早くここから出ないと……」

 

 一度大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 このまま怯えていては廃工場から脱出する事はできない。たとえ男に見つかってしまう危険を犯してでも、彼女は外に出なければいけない。

 決意を固め、ともこはゆっくりと扉を開き、その小さな隙間から外の様子を伺った。

 

「……え?」

 

──目が合った。

 

 彼女が扉を開けたその僅か数メートル先。

 そこに男は立っていた。

 所々破れて肌が顔を覗かせているボロボロになったシャツに、泥まみれのズボン。そのどちらにも染み付いたどす黒いナニカの跡。あのピタピタという足音の正体である素足はきっちり揃えられ、まっすぐともこの方向へ向けられていた。

 そして何より、あの記憶と同じ狂気に満ちた男の顔が三日月のような笑みを浮かべ、ともこを見つめていた。

 その手にキラリと光る一本の包丁を握り締めながら。

 

「みつけた」

「ッ!?」

 

 慌てて扉を叩きつけるように締め、咄嗟に鍵を閉める。

 それと同時に凄まじい衝撃音と共に何かが扉に叩きつけられた。

 

「ごめん、怖がらせちゃったみたいだね。別に悪意はないんだ。ただ、どうやって君に話しかければいいのかわからなくて」

 

 先程と同じ言葉を呟きながら、何度も何度も衝撃音が狭い倉庫に鳴り響く。直前まで見せていたものとは明らかに違う理性的な口調が、男の狂気に拍車をかけていた。

 

「君と話がしたいんだ。開けてくれるかい?」

「ひっ……!」

 

 ガチャガチャと狂ったようにドアノブを回され、ドンドンと扉を何度も叩かれる。

 あの様子ではこの扉もそう長くは保ってはくれないだろう。

 死に物狂いでともこは倉庫内を見渡し、どこかに隠れられる場所を探す。

 山の神に憑かれた男と重なるようにして、かつて山の神に憑かれてしまった母親の姿を思い出してしまう。

 あの夜以来悪夢で見るようになった、母親に首を絞められる光景。

 

「あんな様子じゃ首絞められるだけじゃ済まなさそうだけどッ!」

 

 赤黒く染まった包丁が何を意味するかなど、考えるまでもなかった。

 震える体を押さえつけながら、ともこは物陰から扉の様子を伺う。

 何度も叩かれた扉は大きく歪み、隙間から月明かりが漏れている。そしてあまりにも呆気なく、ともこを守っていた扉は倒された。

 姿を現すのは、血走った目を限界まで見開いた男の笑顔。

 悲鳴を押し殺すのがやっとだった。

 

「またかくれんぼか? お前も好きだなぁ、そういうの」

 

 半ば呆れながら呟くと、男は周囲のロッカーなどを物色し始める。

 倉庫の奥にある物陰に隠れているともこの位置に来るまで、三分もかからないだろう。

 

「(どうにかして外に出ないと……)」

 

 このままでは袋のネズミ。

 隠れる場所に倉庫を選んだ過去の自分を呪いながらも、ともこはゆっくりと物陰から移動し始めた。

 幸いにも男はまだ周囲のロッカーやゴミ箱の中身などを調べているため、今の男は彼女に背中を向けている状態だ。

 ジリジリと距離を詰めながら、開け放たれたままになった扉を目指す。

 

「ッ……」

 

 かつてないほど高まる心臓の鼓動。

 それすら男に聞かれてしまいそうなほど、男は彼女の目と鼻の先にいる。

 

「(大丈夫……あと少し……)」

 

 出口もまた同じように、彼女の目と鼻の先。

 今、自分は男の背後を取っている。だから男に見られる心配も、気づかれる心配もない。そう自分に言い聞かせながら、一歩、また一歩と進む。

 

 しかし、その気持ちが彼女を焦らせてしまった。

 

「あっ……」

 

 思わず間の抜けた声を漏らしてしまうが、もう手遅れ。

 男に神経を集中するあまり、彼女の意識は足元にはまったく無かった。その結果、割れたガラスを踏むというあまりにも呆気ないミスを犯してしまった。

 そして今に状況では、その呆気なくミスが命取りになってしまう。

 

「そこかぁ」

 

 グルリと男が勢いよく身を翻す。

 ともこの姿を捉えた男は一瞬表情が抜け堕ちたように無表情になると、一気に満面の笑みを浮かべた。

 慌てて外へ飛び出そうとするも、走れない彼女が大人の男に敵うはずもなく、呆気なく腕を掴まれ倉庫の中に引き戻された。

 

「は、離してッ!」

 

 必死に抵抗するともこ。

 しかし、男の手は万力のように腕を掴んでいて、いくら叩こうと引っ掻こうと弱まる気配はなかった。

 

「なぁ、逃げるなよ。暴れるなって。一緒にあいつの所に行くだけだから。両親に会いたいんだろ?」

「いやッ! あなたなんかと一緒に行かない!」

「ウッ……痛いなぁ、なんてことしてくれるんだよ」

 

 なおも抵抗するともこに業を煮やしたのか、男は小さく顔を顰めると、ともこを倉庫の奥へと押し倒した。

 

「かはっ……」

 

 背中から地面に叩きつけられ、顔を歪める。

 そんな彼女の目前に掲げられた、月明かりできらりと光る物体。

 

「ッ!?」

 

 咄嗟に向けられたそれ──男が持っていた赤黒く染まった包丁に、思わず目を閉じる。

 次の瞬間、凄まじい熱さと痛みが走り、ともこは悲鳴を上げながら左腕を押さえた。

 

「お前が暴れるからだぞ……大人しく着いてこないから……頼むからこれで大人しくなってくれよ……」

 

 生暖かい液体が左腕を滴る。

 男が振り下ろした包丁は彼女の腕に辛うじて突き刺さらず、彼女の左腕を切り裂きながら地面に立てられていた。すでにかなり酷使されていた様子だった包丁は硬い地面に叩きつけられたせいか、刀身が大きく欠けていた。

 男は一瞬包丁に目をやると、やがて興味を失くしたようにそれを投げ捨てる。

 

「やっと終わる……今度はあの夜の王様気取りも助けてくれないぞ……ハハ……」

 

 笑いながら、男は近くに落ちていたであろうレンチを掲げた。

 その様子を半ば夢のような感覚でともこは眺めていた。

 男が馬乗りになっているせいで体を動かす事もできず、そもそも逃げ場もない。

 

「やっぱりダメだったなぁ……悔しいなぁ……」

 

 おそらくまだ殺されはしない。

 山の神の下へ連れて行かれ、贄になる役目があるからだ。

 しかし、結局は山の神の手の上でもがくだけの最後。

 

「せめてみんなにお別れ言いたかったなぁ……」

 

 一粒の涙を流し、ともこは振り下ろされたレンチをただただ見つめた。

 

「ガッ……!?」

 

 しかし、凶器は少女の頭を外し、すぐ隣の地面へ叩きつけられた。

 失敗する要素など何一つなかった。

 あまりにも唐突な出来事に目を丸くしていると、突然男の体が揺れ、男は白目を剥きながら地面へと倒れ込んだ。

 

「え……?」

 

 ともこは何が起きたのか理解できなかった。

 混乱する頭が思考停止している。

 

「大丈夫、お姉ちゃん?」

 

 その声を聞いた瞬間、ともこの中で何かが弾けた。

 勢いよく身を起こすと、目の前には一人の少女が立っていた。

 

 赤いリボン、ウサギのポシェット、愛らしい二つの瞳。

 

「ことも……?」

「えへへ、助けにきたよお姉ちゃん」

 

 最愛の妹──こともが変わらぬ朗らかな笑みを浮かべていた。

 

 その手に血が滴る無骨な鉄パイプを握りしめたまま。

 

 




助けられるぐらいなら助けに来る幼女先輩

持っている鉄パイプは原作で「重すぎて持てない」と言っていたアレです。今作では普通に使っていますが…
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