日本一幼女に厳しいゲームから妹を救いたい   作::-)

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はたしてこの小説は深夜廻編までたどり着けるのか…


ぎゃっこう 〜 かぞく

「うぅ……うん……? やだ……私、寝ちゃった……?」

 

 ボンヤリとした意識が徐々に覚醒するのを感じながら、私はゆっくりと身を起こした。

 窓からは暖かな日の光が部屋に差し込み、外からは小鳥の囀りが夜の終わりを知らせてくれている。何より、夜中はずっと感じられる数多のお化けたちの禍々しい雰囲気が一切感じられない。

 夜の不安を一瞬で掻き消してくれる、気持ちの良い朝だった。

 

「こともの帰りを待たないといけなかったのに……」

 

 しかし、それを私は素直に楽しむことができない。

 こともの夜廻を姉である私が迎え入れなくちゃいけないのに、肝心の私が先に眠ってしまうなんて言語道断だ。

 でも、私はいつの間にかベッドに寝かされていて、しっかりと布団まで被っている。帰ってきた妹が私を寝かしつけてくれたのかな? でもそんな記憶は一切ない。

 未だ混乱する頭を他所にとりあえずベッドを降りる。

 そして同時に私は激しい違和感を覚えた。

 

「え……あれ……?」

 

 部屋を見回す。

 勉強机。本棚。タンス。見慣れた私と妹の部屋だ。どこも変わった様子は──あった。

 ()()()んだ。

 机も本棚もタンスも。全てがなぜか一回り程度大きくなっている。小柄な妹に合わせて家具は全て小さめなものを使っているのに、それでも私よりも大きい物がほとんど。机に至ってはおそらく椅子に座っても足が床に着きそうにないぐらいだ。

 そして背後に佇むベッドに視線を向けると、いよいよ私は言葉を失った。

 

「なんでことものベッドが無いの……?」

 

 二段ベッドの上段にあるはずの妹のベッドが跡形もなく消えていた。

 それだけじゃない。

 妹がこの二年間の夜廻で拾ってきた数多の珍品たちまでもが綺麗さっぱり無くなっている。正直に言うと一部妹の感性を疑うような不気味な物まで飾られていたからこれは喜ぶべきなのに、この状況では素直に喜べるはずがない。

 まるで妹の痕跡だけを取り除いたような部屋。

 

「な、なんで!? どうして!?」

 

 呼吸が乱れる。心臓がかつて無いほど早く鼓動する。

 もしかして妹の身に何か起きたのでは?

 最悪の事態を考え始める私の脳と呼応するように、一気に冷や汗が流れる。

 

「こ、ことも! どこにいるの!?」

 

 お願い。返事をして。

 でも、帰ってくるのは私の心臓の鼓動する音のみ。

 脳裏を過ぎるのは、無数の手に連れていかれるお母さんの姿。大切な家族を初めて失ったあの忌々しい夜。

 もしかして妹も……。

 

「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だッ……!」

 

 気がつけば私は部屋を飛び出し、階段を駆け降りていた。

 異様な降りにくさに途中何度も転びそうになりながらも、なんとか一階へ辿り着き居間へと続く扉を叩き壊さんばかりの勢いで開けた。

 お願い、ここにいて……!

 藁にもすがる思いで私は目尻に涙を溜めながら居間に飛び込む。

 

 目の前に飛び込んできた光景に、私は自分の正気を疑った。

 

 テーブルには昨日帰ってこれなかったはずのお父さんが座っていた。今朝の新聞を手に何やらぶつぶつと呟いている。その隣ではハイチェアに座りながらボーッとこちらを見つめる、小さな可愛らしい赤ん坊。ドタバタと居間に入ってきた私を見て不思議そうに首を傾げている。

 そして何より。

 

 台所の奥から漂う香ばしい匂い。

 

 写真の中でしか見れなくなった、私とよく似た顔。

 

 そして記憶の中で幾度となく私に優しく語りかけてくれて──最後は恐怖に染まった声。

 

「あら、ともこ。おはよう」

『助けてッ! お母さんを見捨てないでッ!』

 

 その声の持ち主は私を見つけると、優しく微笑みながら私の名前を呼んでくれた。

 

「お母……さん……?」

 

 忘れられるはずもない。紛れもない、私が大好きだった──私が見捨てた──お母さんが目の前に立っていた。

 

 

 

⭐︎

 

 

 気がつけば、私はお母さんの腕の中で泣いていた。

 これは夢だ。お母さんがいるはずがない。だからこれは狂った私が見ているタチの悪い夢なんだ。

 でもお母さんの腕の中はあまりにも暖かくて、あまりにも心地よくて──あまりにも記憶通りだった。台所に溢れている朝ごはんの香りも、困ったように私をあやすお母さんの声も、全てが()()()のまま。何より頬を流れる涙の感触が、これは現実だと教えてくれた。

 結局私はしばらく泣き止まず、ようやく落ち着いた頃に「怖い夢を見た」とお母さんに伝えることができた。

 お母さんは私のあまりの剣幕に戸惑いながらも、「それはしょうがないねー」と苦笑しながら許してくれた。

 とりあえず誤魔化すことはできたようで、私は安堵のため息を吐く。まさか「子供の頃死別した母親と再会したせいで感極まって号泣してしまった」なんて言えるはずもない。むしろそんなことを言おうものならすぐに頭のお医者さんに連れていかれてしまう。

 

「ごちそうさまでした」

 

 お父さんとお母さんと私と──赤ん坊のことも。家族四人で食卓を囲んだ朝ご飯を食べ終えると、私はとりあえず自分の部屋に戻った。未だにおぼつかない足取りで階段を登ると、開けっ放しにしていた自分の部屋に入り扉を閉める。

 

「あぁ……お母さんだ……」

 

 そんな私の呟きは誰に聞こえることなく静寂に溶けていく。

 冷静になってみると、この部屋の家具の配置や雰囲気の全てから懐かしさを感じられた。遠い過去に置いてきたはずの、幸せだった時の記憶。

 

「それなら多分……」

 

 自分の中で膨れ上がっている一つの仮説。その確信を得るために、私はタンスからある物を探す。そしてタンスの中からは当然のように、()()()()の物が出てくる。

 私が探していたのは手鏡だ。

 その手鏡で自分の顔を確認すると、私の仮説はついに確信へと変わった。

 

 そこに映っていたのはこともだった。

 

 でも髪の色はこともと比べると少し暗い茶色で、頭にはあの子のトレードマークとも呼べる赤色のリボンが無い。何より、あの痛々しい眼帯が顔の半分を覆っているわけでもなく、クリッとした両目がこちらを見つめている。

 

「あの時の私だ……」

 

 鏡に映ったのはまさしく、お母さんを失った時の私そのままだった。

 お父さんは妹が幼い頃の私にそっくりだとよく言っていたけれど、まさにその通りだ。

 

「確か……6歳の時だったっけ?」

 

 自分の記憶を頼りに、今の状況を整理する。

 要するに私は……タイムスリップしたのかな?

 そんな漫画みたいなことが起こるとは思えないけれど、カレンダーが見せつけてくる日付が否が応でもその現実を突きつける。何よりお父さんもお母さんも家にいて、妹のこともが赤ん坊になっているのが動かぬ証拠だった。

 家族が全員揃っている、まさに私の十五年の人生の中で一番幸せだった時。

 でもその幸せも、この年で山の神に奪われてしまう。

 

『助けて! お母さんを見捨てないでッ!』

 

 倒れ伏した私の目の前で連れていかれるお母さんの姿がそれを裏付けるように脳裏を過ぎる。

 恐怖で歪んだお母さんの顔。それを嘲笑うように囲む無数の手。そしてどうすることもできず逃げる──あの時の私。

 

「そんなこと……絶対にさせないッ……!」

 

 その時私の心の中に浮かんだのは絶望ではなかった。

 怒り。

 思えば、こんなにも昔からあの化け物は私の家族に付き纏っていたのか。それだけでも沸々と殺意が胸の奥から湧き上がる。

 百歩譲って私を連れて行こうとするならまだ受け入れる。今の自分なら喜んで我が身を差し出す覚悟がある。でも、お母さんを連れて行ったその上でこともまで連れて行こうとしたあの神のことを、私は死んでも許せない。

 まだ赤ちゃんだったこともの幸せを奪って左目も潰した、あまりにも強欲な神様。

 何が山の神だ。何が生贄だ。

 こともの幸せを奪うなら、たとえ神様でもお化けでも許さない。

 

「もう私の家族は渡さない! 渡すもんかッ!」

 

 窓から見える大きな山──その頂上に今でもあるはずの神社に向けて、私は叫んだ。

 あの時の私はただの子供で、何も知らずに怯えるだけだった。

 でも、今の私は違う。

 あの山の神の正体も、あいつの手口も全部知ってる。

 だから私は胸に決めた。

 

 私は今度こそ家族を守ると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⭐︎

 

 暗闇が支配する夜の中。

 少女は人知れず町中を歩いていた。

 手に持った懐中電灯で周囲を確認しながら、頭につけた赤色のリボンを揺らしている。そしてそのリボンと同じように、ウサギを象ったポシェットもまるで本物のウサギのように揺れていた。

 途中でお地蔵様を見つけると、ポシェットの中から白色の犬の形をした財布を取り出し十円玉をお供えする。

 お地蔵様は子供のためにいるんだと学校で習ってからは、こうして少女は毎晩お地蔵様にお供えを置くようにしている。それに毎晩()()をしていると、町に無数に置かれたお地蔵様に護られている気がした。

 

「こんばんは。今夜もよろしくおねがいします」

 

 少女はお地蔵様に向かって一礼すると、再び夜の町を歩き始める。

 途中で何度か()()()に追いかけられることもあったが、特に動揺することなく物陰に隠れたり走って逃げたりしてやり過ごす。

 そして辿り着いたのは、一社の寂れた神社。

 辛うじて鳥居は残っているものの本殿はすでにボロボロに壊されており、まるで廃墟と化している。かつて綺麗に手入れされていた神社の姿を思い返し、少女は一人悲しみに暮れる。

 しかし、今夜は悲しむためにここへ来たわけではない。

 

「あ、こともちゃん!」

 

 自分を呼ぶ声に少女は振り返る。

 先ほど自分もくぐった神社の鳥居の前で、その少女は立っていた。

 淡色の髪に青いリボンを結んだ、自分と同じ年頃の三つ編みの少女。気弱そうな雰囲気を感じるその表情はどこか陰が見え隠れし、何度も夜廻りをしている待ち人と違い未だに夜に恐怖を感じている様子だった。

 何より目を引くのは、大きく袖を余らせた左腕。

 そこにあるべき(もの)が無かった。

 

「ごめんね、急いできたんだけど途中で()()()()()()に見つかっちゃって」

「ううん。わたしも今来たところだから気にしないでいいよ、ハル」

 

 隻眼の少女──ことも。

 隻腕の少女──ハル。

 

 共に山に潜むナニカに人生を狂わされた少女たちだった。

 

 首からぶら下げた懐中電灯を揺らしながら、ハルはこともと一緒にお賽銭箱の前で座り込んだ。

 そのまま二人の少女は他愛もない会話を始める。

 それはお互いの学校のことであったり、飼っている(こともの場合は飼っていた)犬の話であったり、夜廻り中に遭遇したものだったり。笑える話から怖い話まで、とにかく色々なお話に二人で興じた。

 別になんてことはない、友達二人による楽しげな会話。

 もう今日で最後になるであろう二人の遊びを止める者なんていない。そんな二人の姿を、一匹の小さなムカデが見守るように本殿の屋根から見下ろしている。

 

「そういえばハル。実は連れて行きたい場所があるの」

「え、どこ?」

 

 しばらく話していた時、こともが唐突にそう切り出した。

 

「とりあえず着いてきて欲しいな。ここからちょっと遠いけど」

「ううん、大丈夫。わたしはこともちゃんみたいに慣れてないけど、頑張って着いていくからね」

 

 フンスと気合を入れるハルにこともは笑みをこぼすと、二人は並んで鳥居を潜り境内を後にした。途中、神社へと振り返って一礼することも忘れずに。

 商店街を抜け、住宅街を進み、公園や空き地の前を通る。

 やがて二人は長い一本道へと辿り着いていた。

 山肌に沿って作られた道路を二人でひたすら進む。夜の化け物が跋扈することを抜きにしても、ハルはこの道を進むにつれて緊張感が増していくのを肌で感じていた。

 ()()()()()()

 この道路の先に、この禍々しい空気を流すナニカが待っている。

 そんなハルの目の前に飛び込んできたのは、一つの大きなトンネルだった。使われた痕跡もなく所々土が露出しており、中は暗闇で何も見えない。

 懐中電灯の光どころかこの夜の闇すら飲み込まれそうな、完全な漆黒。

 それが今ハルの目の前に姿を現している。

 一筋の冷や汗がハルの頬を滴る。

 

「こ、こともちゃん……ここは……?」

「トンネルだよ」

「いや、見れば分かるけど……」

 

 人知れず戦慄しているハルを他所にこともは何も気にする様子もなく道端に落ちていた石ころを拾うと、それをトンネルの中へと投げ入れた。

 コツンコツンと石が弾む音が響くも、何も起こる気配はない。

 

「ちょっと前に土砂崩れがあって、もう中は通れないようになってるの。まぁ、その前からここはもう誰も使ってなかったけどね。あ、お姉ちゃんにはここに来たこと内緒だよ? わたしがお姉ちゃんに怒られちゃうから」

 

 一体この少女はこんなところに自分を連れてきて、何が言いたいのだろうか。

 

「こともちゃん……?」

 

 塞がれたトンネルを前に、ハルは友人の言葉を待つ。

 

「……このトンネルの奥にある神社に、わたしのお姉ちゃんは連れて行かれたの。山の神様の生贄になるために」

 

 その言葉で、ハルは理解した。

 ハルにとってのユイのお墓のように、この場所はこともにとっても大切なところなのだと。

 

「多分、わたしはこの場所を一生忘れないと思う。ポロがここで死んじゃったこともお姉ちゃんが連れていかれちゃったことも、全部。楽しい思い出じゃないけど、わたしを強くしてくれた夜のことをわたしは忘れることができないと思う」

 

 今までずっとトンネルの入り口を見つめていたこともが、くるりと身を翻してハルの方へと向く。

 ハルは思わず息を呑んだ。

 

「だから、ハルも大丈夫。ハルに何があったかは聞かないけど、きっとハルもわたしみたいに()()を忘れたりはしないと思う」

 

 山から吹く風が少女たちの髪を靡かせる。

 同い年であるはずなのに、こともの姿はどこまでも大人びていた。

 そして、こともは微笑んだ。まるで自分の心情を見透かすような笑みに、ハルは思わずたじろぐ。

 

「わ、わたし……怖かったの」

 

 ポツリと、気がつけばハルも話し始めた。

 自分にはユイというかけがえのない親友がいたこと。その親友がこことは別の山の神の手によって命を落としたこと。しかしそのユイの魂が山の神に囚われてしまい、それを救うためにハルは自らの左腕を犠牲にしたこと。

 これまで互いの素性を話さないまま過ごしていた二人の少女はこうして、自分たちの物語を語った。

 

「──明日引っ越しするって言われた時、わたしは怖くなったの……もしこの町を離れたらユイとの思い出を忘れちゃうんじゃないかって……ユイの生きた証が、もう消えて無くなっちゃうんじゃないかって……」

 

 大好きだった──否、今でも大好きな親友との縁を断ち切ったハルにとって、彼女との思い出こそが唯一残された繋がりだった。

 その場所を離れたらユイの思い出とも別れを告げないといけなくなる、その恐怖がハルを支配していた。

 震えるハルの体をこともは優しく抱きしめた。

 かつて自分の姉がしてくれたように。

 

「大丈夫。そのユイって子がハルにとってそれだけ大切なら、ハルは絶対その子のことを忘れないと思う。それに忘れそうになったらわたしがお手紙送るよ! ハルが忘れないようにハルの町でいっぱい写真撮って、毎日送るから!」

「あはは……毎日はちょっといいかな」

 

 こともの言葉にハルは苦笑を浮かべる。

 だが、彼女のおかげでハルは決心が着いた。

 

──わたしもこともちゃんみたいに、一生この夏のことは忘れない。

 

 ユイという少女と過ごした今までの人生がこれから続く人生と比べて花火のように一瞬でも、あの日見た花火大会のように一生彼女の記憶の中で一番色鮮やかに残るだろうと、ハルは確信した。

 

「──ただ、ね」

 

 しかし、反対にこともの表情は急に曇ってしまった。

 唐突な表情の変化にハルも首を傾げる。

 

「一生忘れなくても、たまには違うことも考えないといけないよ?」

「え?」

 

 一体どういうことだろうか。

 意味深に告げることもを問いただそうとハルが口を開く前に、こともは続け様に告げた。

 そしてその言葉を聞いたハルは、思わず「ひっ」と悲鳴を漏らしそうになる。なぜなら──

 

 

「じゃないと、わたしのお姉ちゃんみたいになっちゃうよ」

 

 

──今まで見たことないほど冷たい表情でこともはそう告げた。

 




こともが目でハルが腕なら、もし夜廻シリーズ3作目が出たら次の幼女は足でも奪われるんですかね……

ちなみにお姉ちゃんの名前が「ともこ」なのは一応公式設定です。
実はこの小説を書く時に初めて知っただなんて言えない。
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