日本一幼女に厳しいゲームから妹を救いたい 作::-)
書き終わったあとはいつも読み返していますが、自分の文章になるとどうしても見落としがちになっちゃいます…とりあえず誤字報告0を目指して頑張ります!
今回は少し短めです
ねぼう 〜 あくむ
──これは夢だ。
目の前に広がる光景を見て、私は直感的にそう思った。
湿った冷たい空気に何も映さない夜の暗闇。そこを微かに照らす心許ない小さな街灯。
嫌というほど見慣れた夜の町の中に、私は立っていた。なのにそこに立っているという感覚がない。まるで別の本から絵を切り取ってそこに貼り付けたかのように、私だけがこの空間から浮いているような、不思議な感覚。
そんな私を街灯の心許ない明かりに照らされた一社の神社が見下ろしていた。
立派な鳥居に古いものの手入れされた境内を見る限り、ここは商店街の近くにあるムカデの神様の神社みたいだ。普段から私を含め地域の方々からも定期的にお参りなどをされて愛されている神社の登場に、私は思わず首を傾げた。
先程から流れているこのベタつくような嫌な風で、これは悪夢だと思った。
でも私の場合、悪夢はお母さんが連れて行かれる夢がほとんどだ。なのに今回はあの忌々しい山の神社ではなく、むしろ私を護ってくれているムカデ神社の中にいる。
しかし確実に分かるのは、激しい胸騒ぎを覚えているということだけ。
そしてその予感はすぐに的中した。
突然私の目の前に何者かが現れた。青白い肌は衣服を纏わず、人体の限界を無視して折り曲げられた体が何重にも重なった異様な風貌。
いや、違う。これは
──ッ!?
人の体で構成された大きな顔に、甲に目玉のついた二つの巨大な手──山の神が突然このムカデ神社の中に出現した。
なぜここにいる? 山の神はあのトンネルから外には出れないはずなのにどうして?
様々な疑問が浮かんでは消える。
──とにかく逃げないと。
慌てて背中を向けて走り去ろうとするも、山の神が取った行動に思わず足を止めてしまう。
──え?
山の神はその巨大な手を振り上げると、綺麗に揃えられていた境内の石畳に向かって振り下ろした。石畳はバラバラに砕け散り、砂埃と破片が辺りに飛び散る。
次に狙いを定めたのは、小さいながらも堂々と建っているムカデの神様のおやしろ。拳を握り、何度もそれを叩きつけた。その度に木片が飛び、おやしろの柱があらぬ方向に歪む。
──ちょっと! 待って! やめて!
あまりにも残酷な破壊活動。
神様にとって神社は大切な神体であり依代だ。それを破壊する事がどういうことを意味するかは、かつては人々に信仰されていた山の神が一番理解しているはずだ。
──お願い、やめて!
しかし私の声が聞こえていないのか、そもそも私を認識できていないのか、山の神が止まる気配は無い。一際大きく拳を振り上げ、最後はグシャリとおやしろを叩き潰してしまった。
その光景に堪らず目から涙が溢れ出る。
私たち家族をずっと護ってくれていた場所が壊されていくのを、黙って見ているしかなかった。
その時、破壊されたおやしろの奥から一匹のムカデが這い出てきた。蛇ほどの大きさを持つそのムカデが姿を現した瞬間、場の空気が少しだけ澄んだものへと変わる。
間違いない、ムカデの神様だ。
かつてはその体で商店街そのものを覆うほど巨大だったムカデの神様も、山の神の暴虐でここまで小さくなってしまった。
山の神とムカデの神様はしばし見つめ合う。
やがて、先ほどと同じように山の神がその大きな拳を振り上げた。狙いは当然──目の前にいる宿敵。ムカデの神様はこの惨劇を受け入れるように微動だにしていない。
──ダメ! それだけはやめて!
山の神に対する恐怖よりも先に、ムカデの神様がいなくなってしまう恐怖が私の体を突き動かす。
ムカデの神様を庇うように二柱の間に躍り出るも、山の神は構わず拳を振り下ろす。固く目を閉じて、私は来るべき衝撃に身構えた。
そしてそのまま、意識が暗転する。
⭐︎
「──ッ!? ハァ……ハァ……」
気がつけば私はベッドの上で飛び起きていた。
背中は冷や汗で濡れていて、体は未だに恐怖で震えている。夢だったはずのあの光景が今でも私の脳裏に焼き付いて離れない。
「なんだったの……今の夢……」
あまりにも異様な光景。
山の神がムカデの神様の神社を破壊する夢なんて、とても健全なものとは思えない。お母さんが連れて行かれる悪夢とどっちが怖いかと聞かれたら答えに迷ってしまうほど、衝撃的だった。
「いけない、寝坊してる!」
机に置いていた時計を見ると、時刻はすでに朝の七時を半分も過ぎていた。もうとっくに起きて朝ごはんを用意しないといけない時間なのに。
ベッドから飛び降りると、慌てて寝巻きを脱ぎ捨てて制服に着替える。うぅ、右足の感覚が無いと着替えすら早くできない……こういうことにならないためにいつも早く起きてたのに。
「あ、おはようお姉ちゃん。今日は遅か──わぁ!? お姉ちゃん、目に隈ができてるよ。昨日はあまり寝れなかったの?」
おそらく私を起こしに来たであろう妹が部屋に入ると、もはや足とは関係ないリボンを結ぶのにも苦戦している私を見て驚きの声を上げる。
なんとかリボンを結び終えて鏡を見てみると、確かに目の下に少し陰ができていた。
まさか、これもあの夢のせい?
「お姉ちゃんが夜更かしなんて珍しいね。わたしも夜更かししてみたいなぁ……」
「そんなことするとよまわりさんに連れて行かれるよ。怖い工場でお化けに食べられちゃうんだから」
「あ、朝から怖いこと言わないでよー!」
最悪の気分で朝を迎えてしまい、思わず妹に少し意地悪してしまう。
ごめんね、ことも。でもお姉ちゃん、こともの顔を見たら少し元気になったよ。
だからこの頭痛もきっと気のせいだ。
⭐︎
「珍しいな、ともこが寝坊なんて」
食卓で新聞を読みながら、お父さんは一階に降りてきた私を見て呟いた。お父さんの前には食べかけのトーストが、その隣ではコーヒーが湯気を上げながら置いてある。どうやら私が寝坊したせいで自分で朝ごはんを用意したらしい。
「ごめんね、お父さん。お母さんがいない日は私が作らないといけないのに……」
「気にするな。いつもお母さんみたいに振る舞っててもともこはまだ子供なんだって分かって、むしろ嬉しいぐらいだよ」
「もう、お父さん!」
新聞片手に笑うお父さんに、私は自分の顔が赤くなるのを感じる。
私はもう中学生で、
「こともは何か食べた?」
「お父さんと一緒にパン食べたよ。えへへ、たまにはパンも良いなぁって思っちゃった」
どうやら食べていないのは私だけらしい。
こんなに派手に寝坊するなんて……しばらくは目覚まし時計二つ使おうかな?
もうお米を炊いている余裕なんて無いし、私もトーストを焼こう。
「それにしても、最近は物騒だなぁ……」
新聞を片手にお父さんが悲しそうに呟く。
「最近の連続怪死事件もまだ終わってないのに、今度は不良が神社を荒らすなんて……しかもよりによってうちの近所のらしいし」
「え!?」
しかし、お父さんの言葉は私にとっては聞き捨てならなかった。
慌てて台所からお父さんの方へと駆け寄ると、思わずその手に持っている新聞をひったくる。
「お、おい!」
不満げなお父さんの声も、今は無視だ。
地域新聞の片隅。その小さな記事の中に書かれていた。
「真夜中に神社荒らし……不良グループ所属の大学生五人を現行犯で逮捕……これって本当にあの商店街の神社?」
「え、そうだけど……今朝ゴミ出しした時近所の人に聞かされたよ。かなり派手に荒らされたらしくて、もう境内はめちゃくちゃ。ただでさえ古くなってた建物もボロボロに壊されてたらしい」
そう教えてくれたお父さんの言葉に、私は思わず絶句した。
だって、これはまるで……。
「私が見た夢と同じ……」
一方は山の神、もう一方は大学生たち。
内容は天地ぐらいの差があるけど結果は同じ。
さらに新聞を読み進めると、続け様にこう書かれていた。
犯行に関わったと見られる大学生五人は全員、犯行時のことを覚えていないと語り、「気がつけばあの場所にいた」と供述している
「大丈夫か、ともこ? 手が震えてるぞ?」
「……ううん。なんでもない」
新聞を押し付けるようにお父さんに返す。
きっと偶然だ。たまたま悪い人たちがお酒でも飲んで、たまたまあの神社をめちゃくちゃにしただけだ。
だから山の神なんて関係ない。
「お姉ちゃん」
「ッ!? ど、どうしたの、ことも?」
突然背後から妹に呼ばれる。
先程までテレビを見ていた妹はいつの間にか私の後ろに立っていて、にっこりと笑いながら台所を指さしている。
「もうパン焼けてるよ」
「え? あ、ああ……ありがと、ことも」
「いいよ。それより、早く食べないと学校に遅刻しちゃうよ?」
「そ、そうだね。早く食べるから、こともは先に行ってて。こともも遅刻しちゃダメよ?」
「わたしは大丈夫。それにお姉ちゃんの方こそ走れないんだから、遅刻しちゃうかもしれないでしょ」
でも、一応私は足が悪いことを学校に伝えているため、少しぐらいなら遅刻しても許される。ただ、それだとなんだかクラスメイトに悪い気がして、できる限りちゃんと遅刻せず登校するようにしている。その甲斐もあってか、今のところ私は皆勤賞だ。
それに心配性な妹が毎朝付き添って手伝ってくれているから、途中で転けたりもしない。私は大丈夫と言っているのに本人がなかなか譲らないから困ったものだ。
「こともはどう思う?」
「何が?」
「神社が壊されちゃったこと。よく二人でお参りに行ってるでしょ?」
「もしかしてあの赤いお守りの神社のこと? 壊されちゃったんだ……なんだか寂しいなー……」
妹は心底悲しそうに俯く。
この子もあのムカデ神社のお守りを大事にしていたから、私と同じぐらいあの場所を大事に思ってくれている。
私も自然と、いつもスカートのポケットに忍ばせているお守りを握る。
このお守りは家族全員に渡してある。
そのおかげもあってか、あの夜以降は家族の身には何も起きていない。妹だってもう私の記憶にある妹と同じぐらい大きくなっている。私たち一家にとってムカデの神様はまさに守り神だ。
でも、もしかしたら神社が壊されたせいでこのお守りの力も弱まってしまう可能性がある。
つまりあの山の神の魔の手がまた伸びてくるかもしれない。
それだけは絶対に許せない。せっかく掴んだこの幸せを、あの化け物にまためちゃくちゃにされるなんてこりごりだ。親の愛情を知らないこともも、毎晩お母さんの遺影の前で泣くお父さんも、もう見たくない。
だから私は今夜、確かめないといけない。神社まで行って、あのムカデの神様が無事だという事……家族が護られているということを。
「──ダメだよ、お姉ちゃん」
突然、妹がそう言う。
一瞬意味が分からず、私は思わず首を傾げる。
「ことも、どういう──」
「お姉ちゃん、あの神社に行くつもりでしょ」
心臓が跳ねる。
もしかして、妹に悟られた? でも、どうやって……。
「勿論、学校が終わったら行くつもりよ? ほら、いつもお世話になってる神社だし一体どうなっちゃったのか気になって──」
「嘘。夜に行くつもりでしょ」
今度こそ私は背筋が震え上がった。
「そんなのダメだよ、お姉ちゃん。夜はお化けが出るんだから、家にいないと。それとも自分から危険なところに行くのかな?」
妹の有無を言わせぬ物言いに、私は言葉を詰まらせた。
妹は先程からじっと私の目を見つめている。要するに、怒っている。
お化けが出るなんて幼い子供の言葉を真に受ける必要はないと普通なら思うけれど、私はそれが妄言でもなんでもない事実だと身をもって知っている。
あの夜以降、私は夜廻りをしていない。
それはもう夜に出歩く理由がないのもあるけど、不自由になってしまった自分の足でお化けから逃げ切れる自信が無いのが一番の理由だった。
つまり、妹が言っている事は正論だった。
「でもね、ことも。こともも知ってるでしょ? 私はあのムカデの神様にすっごくお世話になったの。だから、どうしてもあの神様が無事なのを確かめないといけないの」
もう妹に誤魔化すのは無理だと悟り、私は素直に白状する。
しかしそれを聞いた妹はニッコリと普段の可愛らしい笑顔に戻った。
「だったらわたしが見てくるよ! お姉ちゃんが無理でも、わたしなら元気だし!」
「お化けが苦手なこともが? 無理よ、外にはよまわりさんだっているのよ?」
今のこともは夜の町を知らないはずだ。
電柱の陰、木々の後ろ、道の片隅。至る所を跋扈する怪異に溢れた町を、妹はまだ見た事がない。
「大丈夫! わたし、実はお化けとかへっちゃらだから!」
なのに妹の言葉は強がりでもなんでもなく、本心からそう言っているように聞こえた。
その姿はまるで、私を山の神から助けた後の妹の姿に見えた。
「……それでも、お姉ちゃんはそんなこと許しません。私も行くのをやめるから、こともも行かないでね? お願いよ?」
それでも妹を危険に晒すことなんてできない。
とりあえず今は諦めて、放課後に一度行ってみよう。それで見つからなければ、妹が眠った後に夜に行けばいい。
「……わかった。ごめんね、お姉ちゃん」
妹も納得してくれたのか、これ以上は何も言わない。
もう朝ごはんを食べる時間は無くなっていた。
ハードモード開始。
手始めにムカデ神社を弱体化。深夜廻のクリア後に行った時の状態よりさらにボロボロと考えて下されば。
ちなみにこの小説を書く際に夜廻と深夜廻をもう一度プレイしましたが、何度やっても深夜廻のラストで泣いてしまいます…