日本一幼女に厳しいゲームから妹を救いたい   作::-)

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ストックが尽きてしまったので、ちゅーとりある編のような毎日投稿は難しくなりそうです


しょうてんがい 〜 むかでじんじゃ

 この町の夜は変わらない。

 夜が来て、朝が来て、また夜が来る。

 自分にどんな事が起きても、誰かがどんな事をしても、夜は必ず訪れる。

 夜の世界はお化けの独擅場。

 学校の校舎で、古びた家で、毎日通る道端で。私たちが見えないだけでお化けはずっとそこにいるかもしれない。恨めしそうに生者(こちら)を見つめながら、いつか自分たちの仲間にしようと機を伺って。

 そして、夜になれば怪異たちは一斉に動き出す。

 

「………」

 

 息を殺しながら看板の裏で影の怪異が立ち去るのを待つ。

 私のすぐ目の前には黒焦げになった焼死体のような人影が、真っ白に塗りつぶされた両目と口を剥き出しにしながら辺りを見回している。しばらくは看板の前をウロウロと探すと、やがて興味を失ったように通り過ぎていく。

 

「ふぅ……」

 

 それを合図に気が付けば止めていた呼吸も再開させ、私は深く息を吐いた。よろよろと看板の裏から這い出る。

 手の震えはまだ止まらず、心臓の鼓動も速くなっている。

 どれだけ私が大人になっても、どうやら私は未だに怪異たちが怖いらしい。

 

「こんなことならポロも連れて行けば良かったかな……」

 

 我が家の犬小屋で寝ているであろう白いもふもふを思い返し、私は肩を落とす。でも流石に愛犬まで一緒に連れ出すと家族にバレてしまいそうだったから、残念ながらポロには留守番を頼んだ。悲しそうに「くぅん……」と鳴いているポロに私が折れそうになったのはここだけの話。

 閑話休題。

 今の私は独りぼっち。持っているのはムカデ神社のお守りと家から持ってきた懐中電灯だけ。なんとも心細い味方たちに苦笑しながらも、私は住宅街を進む。

 

──結局放課後には神社に行かず、家を抜け出して夜に向かった。

 

 夜にしか姿を現さないムカデの神様に会うためには、やはり夜に神社に行かないといけない気がした。

 夜、つまりお化けが支配する世界に飛び込むということ。

 足が悪い私では見つかればどこかに隠れないと逃げ切れない。それでも家族の安全を確かめるためにはどうしてもあの神様と会わなければいけない。妹には申し訳ないけど……。

 ごめんねことも。でもお姉ちゃんにも譲れないものがあるの。

 

「ッ……!」

 

 交差点を抜け広々とした一本道を通り過ぎると、私の中に緊張が走る。

 目の前に姿を現したのは一本の古びた線路。

 赤茶色に錆び付いていて長い間使われた形跡が無い路線に、ガラスが割れていて電気も消えている信号機。

 こともを助けたあの夜に私に恐怖を叩きつけた、あの幽霊電車の線路だ。

 

「ふぅ……行くしかないわね」

 

 慎重に歩み寄る。一歩、また一歩と踏み出しながら、全神経はあの信号機へと注いでいる。

 

カーン カーン カーン

 

 当然と言うべきか、遮断機が私の目の前で降りる。壊れて動かないはずの信号機も息を吹き返したように赤く点滅し、この暗い夜の町を微かに照らす。

 そしてその信号機に赤く照らされている──線路を這い蹲う下半身の無い女。

 あの時と同じように体中から血を垂れ流しながら、私を見て笑みを浮かべている。

 

『イタイ……イタイ……タスケテ……』

 

 そんな痛々しい声とは裏腹に、女はさらに笑みを深めながら私を手招きしている。「一緒に苦しもう」と告げるように、線路の外側に立つ私へ向かって手を伸ばしていた。

 

『イッショ……ミンナデイッショニ……』

「ごめんなさい」

 

 そんな彼女に、私は頭を下げる。

 

「貴女のところへはいけません。でも、いつか貴女がそこから出られることを祈っています」

『コッチニキテ……ココニイテ……』

 

 女はそれでも手招きを止めようとしない。

 しかし無情にも、彼女には避けられない未来が待っている。

 線路の奥からこちらへ向かって走る、一台の電車。車体は線路同様に錆び付いていて、夜なのにライトも付けず線路を進んでいる。暗闇の中なのによく見える車体の中にはいるべき運転手がいない。

 そして車体の下部で一際目立つ赤黒いシミ。

 

 その電車を合図に、私も静かに手を合わせる。

 

『アァ……』

 

 女はそんな言葉を最後に、電車に飲み込まれた。

 ガタンゴトンと聴き慣れた音と共に走る電車をしばらく見つめる。やがて電車の姿が夜の奥へと走り去ると、遮断機は何事も無かったように上がる。女の姿は……もう無い。

 電車に飲み込まれる寸前、女の人の目がとても悲しそうにしていたのは私の見間違いではない気がした。

 この町の夜は変わらない。

 独りぼっちの寂しさはとても苦しい。それは私でも、お化けでも同じ。

 

「あの女の人もいつか成仏できるのかな……」

 

 そんな日が来るといいなぁって、自分でも身勝手だと分かることを思いながら、私は静かになった線路を渡った。

 再び始まる一本道。ここを抜けて西へ進めば神社まですぐそこだ。

 

「どうか無事でいて下さい、神様……」

 

 もう自分の頭の中にはあの神社の事しか無かった。

 神社がすぐ近くにあるし、最大の難所であるあの線路も越える事ができた。そのせいか、私は完全に気を抜いてしまった。

 

──夜の町ではそれが自殺行為だと知っていながら。

 

「オイ」

「きゃっ!?」

 

 突然誰かに声を掛けられる。

 思わず悲鳴を上げて後ろを振り向くも、何事も無かったように夜道が続くだけ。

 

「気のせいかな……」

 

 不安になりながらも、再び歩き始める。

 神社が壊れされたと聞いてからずっと不安だったから、きっと疲れてるだけ。そもそもお化けなら私に声を掛ける前に襲いかかってくるはずだし、ほとんどのお化けはそもそも言葉を話すことも──

 

「オイ」

「ひゃっ!?」

 

 まただ。

 低いおじさんみたいな声が私を呼ぶ。慌てて辺りを見回すも、やはり人影どころかお化けすら見当たらない。でも今のは絶対に私の聞き間違いではないはずだ。

 心臓の鼓動が再び速くなる。

 

「誰かいるの!?」

 

 ダメ元で呼びかけてみるものの、当然のように返ってくるのは静寂のみ。

 多分お化けなのに、他のお化けとはどこか違う雰囲気がする。さっき見た女の人のお化けとも、町中を彷徨う黒い影とも違う、ドロドロとした邪な視線。まるで私を見定めているような……。

 

「オイ」

 

 また声がする。

 しかしそれまで背後から聞こえてた声が今度は私の頭上から発せられた。

 まさか……。

 体から一気に冷や汗が噴き出すと、私は恐る恐る顔を上に向けた。

 

──目が合った。

 

 私の頭上を巨大な()()()が浮遊していた。

 紫色の毛糸のようなものが何本も絡み合って一つの塊を形成していて、その隙間から無数の目玉がひしめき合っている。それらのギョロギョロと動く目玉の一つがジッと私の事を見つめていた。

 

「うぁ……」

 

 声にもならない悲鳴が口から漏れると、思わず一歩後ずさる。

 なにこれ……これもお化けなの……?

 とにかく逃げないと。

 ()()に捕まったら、きっと死ぬだけじゃ済まない。もしかしたらあの塊の中に取り込まれて、私の目玉もああやってお化けの一部になってしまうのかもしれまい。

 頭上であのお化けが塊の中から手を伸ばすのと同時に、私は感覚がない右足を引きずりながらがむしゃらに走り始めた。

 お世辞にも速いとは言えない。でも今はアレに捕まらないために、ただひたすら走るしかない。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 気が付けば私は商店街の中に入っていた。

 どうやら逃げている時に道を間違えてしまったらしい。街灯もついていない真っ暗な商店街を懐中電灯片手に必死に走る。

 背後からはあの黒い塊が腕を伸ばしながら追ってくる。幸いにも腕を伸ばしてくる速度はそこまで速くなく今の私でも避けられるけど、こちらの体力が無くなるのも時間の問題だ。

 

「ゲホっ……こんな事になるなら陸上部にでも入ってれば良かったかな……」

 

 息が乱れ、額には汗が滲む。

 しかしどれだけ商店街の奥に進んでもあのお化けは追ってくる。無数に浮かぶ目玉は全て私に向けられ、骨のように細い腕を伸ばしながら私を捕まえようとしている。

 それに、移動が遅い私に合わせるかのように背後のお化けもゆっくりと進んでいた。それがまるで私を弄んでいるみたいで、さらに恐怖心を増幅させる。

 そもそも最初に私に声を掛けたり、すぐ現れず上から姿を見せたりと、私があえて怖がるような行動を選択しているお化けがどこか人間らしさが感じられて、余計に不気味だった。

 とにかく、これ以上このお化けとは関わっちゃいけない。

 

「どこかに隠れないと……」

 

 走りながら必死に隠れられそうな場所を探すも、今は姿を見られている。

 勝負は一度。この商店街を抜けて角を曲がったところ──お化けの視界から私が外れた時に、どこかに隠れないといけない。

 次の角まであと三歩。

 二歩。背後から腕が伸びてくる。

 一歩。あの細長い腕が私の背中を掠める。

 

──今!

 

 強引に足を踏み出し一気に角を曲がると、私はとにかく目についた茂みの中に飛び込んだ。枝が腕を擦るのも構わず、頭を抱えて息を殺す。

 一呼吸も置かないうちにあの禍々しい気配が商店街から近づいてきた。

 今まで一度も止まることもなく私を追っていたお化けは、消えた私を探すようにその場から動こうとしない。夜の静寂が戻るものの、あの気配は未だに消えていない。

 

──お願い、ここを覗かないで。

 

 もう体力も限界。

 ここで見つかったら、私はもう逃げられない。だから私にできることはもう、あの無数の目に姿を捉えられないことを祈るだけ。ポケットからお守りを取り出し、強く握る。

 

ギョロ ギョロ

 

 頭の中で、あのお化けが茂みの外からこちらを覗き込む光景が浮かぶ。あの無数の目玉が全て私に注がれ、そのままあの腕に掴まれて……。

 だめだ。悪い方向へ思考を向けてはいけない。

 しかし、気配は一向にこの場から去ろうとせず、ジッとこの場所に屯している。

 

──どうしてどこかに行ってくれないの?

 

 そんな私の焦りを感じ取ったのか、気配が段々と移動し始めている。

 

 私が隠れる茂みの方へと。

 

「ひぃっ……」

 

 声にもならない悲鳴が零れ、私は慌てて口を塞いだ。

 もうダメだ、気付かれてしまった。私の心が絶望に沈もうとした時、

 

コロンコロン

 

 何かが転がる音が商店街の方向から聞こえた。

 私も、私に近づいていた気配も停止する。

 今の音は……石ころ?

 

コロンコロン

 

 再び、石ころが転がる音が静寂を切り裂く。

 禍々しい気配はその音に釣られたのか、私が隠れる茂みから離れ、再び商店街へと入っていった。恐る恐る茂みの隙間から顔を覗かせると、あの毛糸のお化けは消えていた。

 絶望の淵から一転、九死に一生を得た私は思わずその場にへたり込んだ。

 

「た、助かった……?」

 

 それにしても、あの音は一体誰が……。

 

「危なかったね、お姉ちゃん」

「ッ!?」

 

 その時、私が隠れていた茂みのすぐ真後ろから声がした。

 慌てて茂みの中に潜ろうとするよりも速く、誰かが私の肩を掴み、茂みから引っ張り出される。バランスを崩していた私の体は成す術もなくアスファルトの地面へと倒れ込んだ。

 

「こ、ことも……」

 

 無様に倒れた私を見下ろすように馬乗りになっているのは、自宅で眠っているはずの少女。茶色の髪と赤色のリボンが街灯に照らされ、能面のように恐ろしい無表情で私を見つめている。手に持っているのは、先程投げたものと同じであろう小さな石ころ。

 今一番見つかってはいけない相手──こともが、静かに怒りを露わにしていた。

 

「お姉ちゃん言ったよね? 夜の神社には行かないって。危ないから夜廻はしないって」

「こ、ことも……私……」

「お姉ちゃんの嘘つき」

 

 有無を言わさぬ妹の言葉を、私は黙って聞いているしかない。

 ことものこんな怒り方、初めて見た。

 

「お姉ちゃんはわたしに嘘吐いた。わたしはお姉ちゃんを守りたかっただけなのに、それでもお姉ちゃんは夜廻りした。だからわたしにも考えがあるよ」

 

 妹の無表情がグッと目の前に近づけられ、視界全体が妹の顔で埋め尽くされる。黒々とした瞳は見ているだけで飲み込まれそうで、なのにそのクリっとした目から視界を外せない。

 見慣れた妹のはずなのに、心臓がどくどくとお化けに遭遇した時のように鳴り響く。

 

「でもいいよ」

「え?」

 

 突然ケロッとしたようにこともはいつもの笑顔に戻ると、私の上から降りた。唐突な変貌に疑問符を浮かべながらも、私もよろよろと立ち上がった。

 あの時の説明のしようがない威圧感も感じられない、いつもの可愛らしい妹。

 じゃあさっきの妹の姿はなんだったんだろう……。

 

「きっとお姉ちゃんにも事情があったんだよね? だからわざわざこんな場所まで来たんでしょ?」

「う、うん……」

「じゃあ行こっか。大丈夫、もうあのお化けはいないみたいだし。いざとなればわたしがついてるから!」

 

 妹は「えっへん」と胸を叩くも、私の頭の中は疑問符で埋め尽くされていた。こともと喧嘩するとしばらく口を利いてくれなかったり犬小屋に入り浸ったりするのに、ここまで切り替えが早かったのは今までなかった。

 こともも大人になったってことなのかな……。

 困惑する私を他所に、こともは立ち尽くす私の手を取って歩き始める。柔らかくて暖かい、いつものこともの手だ。

 

「あの……ごめんね、ことも」

「うん。いいよ、お姉ちゃん」

 

 私の謝罪にも、彼女は素直に頷いてくれた。

 これだとむしろ私の方で凄まじい罪悪感を感じてしまう。

 こんなに良い子に嘘を吐くなんて……。

 力強く私の手を握ってくれていることもの手を握り返す。

 人目がある時は恥ずかしいけれど、妹と手を繋ぐだけで先程のお化けに対する恐怖も薄れていくのを感じる。これはしばらくは妹離れできそうにない。

 

「あ、ただね、お姉ちゃん。次こういうことする時は」

 

 こともは思い出したように立ち止まると、手を握ったままこちらへ振り向く。

 

 

「今度は最初からわたしも連れて行ってね?」

「……うん」

 

 

 肯定以外は求めていない。

 そんな雰囲気を醸し出していた妹に、私はただ頷くしかなかった。

 

 

 

⭐︎

 

 

「やっと着いたね、お姉ちゃん」

「お化けに追いかけられなかったらとっくに着いてたんだけどね……」

 

 念のために商店街は避けて歩道を歩くこと数分、わたしとお姉ちゃんはようやく神社までたどり着くことができた。

 よくテレビで見る黄色いテープが鳥居の入り口を塞いで物々しい雰囲気を出していて、わたしの手を握るお姉ちゃんの手が強くなる。

 一歩ずつ鳥居に近づくと、徐々に神社の全貌が見えてきた。テープの中には入れないから、お姉ちゃんは外から懐中電灯で境内を照らしてくれた。

 

 ひっくり返された石畳。倒されたお賽銭箱。柱を折られて今にも倒れそうなおやしろ。

 

「酷い……」

 

 今までずっと綺麗に手入れされていた神社のボロボロな姿に、わたしもお姉ちゃんも絶句する。

 ムカデの神様はずっとわたしたちを護ってくれたのに。()()()()()()()()()()()ムカデの神様はお化けに捕まりそうになっていたわたしを赤い世界に連れて行ってくれて、お供えの塩を直してあげたらお守りもくれた。

 夜の怖さから救ってくれた神様は、わたしにとってヒーローみたいだった。

 それが悪い大人のせいでめちゃくちゃにされるなんて。

 

「ムカデの神様だって生きてるのに……」

 

 お家を壊されたらわたしだって悲しくなる。

 でもお姉ちゃんは、神様にとって神社はお家以上に、生きるために必要な大切な場所だって言っていた。

 だとしたら、ムカデの神様も凄く苦しんでるのかもしれない。

 

「どうにかできないかな、お姉ちゃん……お姉ちゃん?」

 

 先程から一言も話していないお姉ちゃんが気になって隣を見てみると、お姉ちゃんはいつの間にかわたしの手を離して頭を抱えながら蹲っていた。

 目から大粒の涙を流して、体も震えている。

 

「そんな……神様が……これじゃあこともたちがまた山の神に……」

 

 お姉ちゃんは本当に怯えた様子で荒れた神社を見つめていた。

 

「嫌だ……もう家族がいなくなるのは嫌だ……もう独りぼっちは嫌だ……」

「お姉ちゃん」

 

 そんなお姉ちゃんを、わたしはぎゅって抱きしめた。

 お姉ちゃんやお母さんはよくわたしをぎゅーってしてくれて、とても暖かくて安心するから、お姉ちゃんもこれで安心してくれるといいなって思いながら。

 お母さんにぎゅーってされるのはまだ()()()()から、やっぱりわたしはお姉ちゃんにされるのが一番好き。

 だから今度はわたしがお姉ちゃんをぎゅーってしてあげる番だ。

 

「お姉ちゃんは頑張ったんだね」

 

 この世界はわたしが知ってる世界とは違う。

 それは朝起きて見えるようになっていた左目と朝ごはんを作ってくれたお母さんを見て確信した。

 たいむすりっぷ、って呼ぶのかな。

 わたしもお姉ちゃんも小さくなってて、なのにわたしが知らないはずのお母さんが時々家にいるし、お父さんも毎日帰ってくる。

 

 そして何より、お姉ちゃんは右足が動かなくなってた。

 

 それだけで全部分かった。

 過去に来たのはわたしだけじゃないって。

 

「お姉ちゃんは凄く頑張ったもんね。ありがとう、お母さんを助けてくれて。わたしたちをずっと守ってくれて」

 

 わたしたち一家にお守りを渡してくれたのもお姉ちゃんで、絶対夜になる前に帰ってきてって言ってくれたのもお姉ちゃん。

 お姉ちゃんはずっと頑張ってくれてたんだ、わたしたち家族がもうバラバラにならないように。

 

「こともぉ……」

 

 お姉ちゃんは弱々しくもわたしを抱き返してくれた。

 いつも力強くぎゅーってされるけど、今日はわたしの方が強くぎゅーってしてあげる方。

 家の中ではお姉ちゃんは凄く頼りになって、わたしもいつも頼ってしまう。でも夜の町ではお姉ちゃんはこんなにも小さくて、弱々しい。

 だからわたしがお姉ちゃんを夜から守ってあげないといけない。

 

「大丈夫だよお姉ちゃん。お母さんもどこにも行かないし、ポロもどこにも行かないし、お父さんもどこにも行かないし──わたしもどこにも行かない」

 

 お姉ちゃんは何も言わず、黙って頷く。

 

 寂しい夜にお姉ちゃんの嗚咽だけが木霊した。

 

 

 

 

⭐︎

 

 

 

「大丈夫お姉ちゃん? 狭くない?」

「大丈夫だって、こともは小さいんだから。それにこうしてれば狭くないでしょ?」

 

 お姉ちゃんがぎゅっとわたしを抱きしめてくれる。

 やっぱりお姉ちゃんにぎゅってされるのがわたしは一番好きだ。心の中がとてもポカポカして安心するし、とても暖かい。

 あの後家に帰ったわたし達はそのまま同じお布団で寝ることになった。私のベッドは上段にあるから下段のお姉ちゃんのベッドになったけど、そのおかげでお布団からはお姉ちゃんの匂いがして、まるでお姉ちゃんに包まれてるみたいだった。

 今まさにお姉ちゃんに抱きしめられてるから間違ってはいないけど。

 

「こともと一緒に寝るのも久しぶりだね。一人で寝るのは寂しかった?」

「最初は寂しかったけど……下にお姉ちゃんがいてくれるからわたしも安心して寝れたよ!」

 

 それでもやっぱりお姉ちゃんの腕の中で寝るのが一番安心できる。

 

「ちょっと前までお化けが怖いって言ってたのに、今じゃ私の方がお化けが苦手だなんてね……お姉ちゃん失格だなぁ……」

「ううん、お姉ちゃんがずっといてくれたからわたしもお化けが平気になったんだよ?」

 

 これは本当でもあるし嘘でもある。

 山の神様と対峙したあの夜があったから、今のわたしがいる。お化けが朝も夜も関係なしに見えるようになったし、夜廻り中にお化けを見つけても慣れちゃったせいで怖くなくなった。

 でも、そんなわたしがそもそもそこまで来れたのも、お姉ちゃんがいてくれたから。お姉ちゃんがずっと側にいてくれたから、いなくなった時にわたしに一歩踏み出す勇気をくれた。

 だからお姉ちゃんはわたしにとって、最高にカッコいいお姉ちゃんだ。

 

「こともは大きくなったわね……でも私の前じゃまだまだお子様よ! ほら、ぎゅー!」

「えへへ、苦しいよお姉ちゃん」

「……ありがとうね、ことも」

 

 お布団の中でお姉ちゃんと向き合う。

 もう夜も遅くて、わたしもお姉ちゃんも段々と眠気で朦朧としている。

 瞼も重くなり、徐々に意識が遠のき始めた。

 壊された神社も山の神様も、今は関係ない。

 わたしとお姉ちゃん、二人っきりの時間。

 

「みんな……私を置いていかないで……」

 

 最後にお姉ちゃんのそんな呟きが聞こえる。

 でも大丈夫。

 お母さんも、ポロも、お父さんも。みんなどこにも行かないし、連れていかせない。

 それに仮に山の神様がわたしたちから全てを持っていっても。

 

 

──わたしだけはずっとお姉ちゃんと一緒だよ。

 

 




別名「最強の守り神であるムカデの神様がいなくなって絶望するお姉ちゃんを幼女先輩が慰める」回

幼女に抱きしめられながら慰められると誰でもロリコンになってしまいそう…
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