――鉄血工造――
2031年に東欧に設立された軍需産業を中心とした大企業だ。
第三次世界大戦が勃発した際にはその期間中において既に民間に浸透していた自律人形を戦闘に適した存在――戦術人形――へと発展させた事によりシェアの殆どを独占し大成した企業だ。
彼らが手掛ける戦術人形は頑丈で生産性に優れ、更に性能も良かったお陰で正規軍を中心に警察機関や民間の警備会社やPMCにも広く普及していた。
正に我が世の春を謳歌してると言っても過言ではない経営をしていた。
だが、それも長くは続かなかった。
2051年に第三次世界が集結すると共に大手の納品先であった正規軍からの発注が減少する事にになる。
更に当時、急激に成長し名を轟かせていたI.O.P社が発展させた戦術人形――後に第二世代型と呼ばれ、現在の主軸となる戦術人形たち――を発表した事により業績に陰りを見せた。
その結果、9割を占めていた業界シェアは鉄血工造とI.O.P社の2社で6:4という比率で2分割する事になった。
更に鉄血工造の屋台骨をへし折る出来事が発生する。
当時、鉄血工造本社が正体不明の武装勢力――噂では人類人権権利団体の過激派の襲撃とも敵対していた企業の破壊工作とも言われてる――に襲撃されたのだ。
その結果、鉄血工造のCEOを始めとした上層部及び本社ビルは全滅し、事実上鉄血工造という企業はこの世から消滅したという事になった。
だが、悲劇はそれだけでは済まなかった。
当時、鉄血工造本部研究所にてシェアの奪還を図る為に社の威信を掛けた最新のAI――完成すればこれによって全ての鉄血製の戦術人形の統括・管理が可能だったと言われてる――『エルダーブレイン』が暴走を開始した。
暴走したエリザは全ての鉄血の戦術人形並びに製造ラインを掌握し、全人類の抹殺を目標とし活動を始める。
その結果、軍民の関係なく多くの機関・企業で使われていた鉄血の戦術人形が人類に牙を剥く結果となった。
後に胡蝶事件と呼ばれるこの大事件は当時の総人口の約1割が鉄血兵の殺戮の犠牲になったと言われている。
そして大戦終結から10年が経つ現在でも変わらず、人類対鉄血という形で戦争が続いている状況だ。
それは兎も角
そういう訳で鉄血工造とは人類と敵対する不俱戴天の敵とも呼べる存在である。
そして今現在、俺の家にさも当然の様に侵入し居座ってる彼女も鉄血工造が誇る戦術人形の一つだ。
型式番号SP-47、個体認識名称『
鉄血人形の上位種に辺り、その性能の高さからハイエンドモデルと呼ばれる個体だ。
代理人という名が付く通り、彼女は鉄血のボスと呼べるエルザの代理として鉄血兵全般の指揮を執っている存在でもある。
指揮能力だけではなく、戦術人形としての性能も折り紙付きでその辺の鉄血兵とは比較にならない程の破壊力を持っている。
彼女がその気になれば所詮は人間でしかない俺は片手間で殺す事が可能だろう。
「それで?頼みたいことってのは?」
そう聞くと彼女は頷いた。
お互い、相対する様にソファに腰かけた状態だ。
彼女と知り合ったのは今から20年ほど前の事だった。
その頃、まだ正規軍に所属していた俺は当時、鉄血工造が売り出した最新型の戦術人形とのデモンストレーションを兼ねたとあるテロ組織の合同討伐作戦に参加していた。
その最新型の戦術人形というのが彼女の事だった。
その作戦の際、どうも俺は彼女に気に入られたらしく度々作戦を共に熟したり任務以外でも頻繁に会う機会があった。
その付き合いは彼女ら鉄血が人類の敵と認定された現在も続いている――まぁ、彼女の方が一方的に接触を続けて来てるだけだが――
因みに彼女以外のハイエンドモデルとも何度か仕事を熟したことがある。
「とある基地に潜入して欲しいのです」
「とある基地?」
そう返せば頷くエージェント。
とある基地・・・施設とは言わず、基地と表現した所を見るにただの民間の施設ではない・・・
基地というからには彼女が言うのは正規軍又はそれに準ずる組織の基地と言って良い。
彼女は鉄血工造所属でその鉄血工造は現在、正規軍とG&K社を筆頭とするPMC達と戦争中である。
幾ら鉄血とは言え、第三次大戦を戦い抜き世界の覇権を握る一大組織である正規軍を正面から相手取るのは不味い・・・
そうなると正規軍は候補から外れる事になる、残りはPMC達だが中小規模程度のPMCだったら鉄血工造自らの手で潜入等と言う回りくどい手段を使わずに潰すだろう。
それで自分たちではなく『人間』である俺に態々、依頼し潜入を頼むPMCは一つしかない・・・
「グリフィンか・・・」
思案の末、そう呟くと彼女はニコリと笑った。
PMC界隈の大企業にして戦術人形を主力として扱う組織、現在の人類対鉄血工造という戦争において正規軍と共に最前線で戦う存在・・・グリフィン&クルーガー社。
俺にその組織・・・いや、基地に潜入して欲しいとのことだ。
「そうです、G&K社の基地に潜入して欲しいのです」
「・・・目的は?ただ潜入して帰ってこいって訳じゃないだろ?」
「はい、貴方にはあるデータの回収又は破壊して欲しいです」
「データ?」
聞き返すと彼女は頷き説明する。
そのデータとやらは鉄血内でもそれなりに重要性の高い代物でセキュリティの都合上、通信で転送する事が出来ず直接データを収めたディスクを鉄血兵の部隊を使って輸送するしかなかった。
輸送は順調であと一週間ほどすれば目的の基地への到着する、というところでアクシデントが起こった。
輸送部隊の中継地点でった基地がG&K社の襲撃を受けたのだ、更に運が悪くその襲撃は輸送部隊が到着した後に起こり拠点諸共輸送部隊は全滅。
輸送中だったデータディスクもG&K社が重要物として回収してしまったとの事だ。
それでそのデータを保管・解析をしているG&社の基地に潜入してデータの回収又は破壊して欲しいとのこと。
G&K社の警備は固い、鉄血と戦争中な上、反社会的勢力からの攻撃も想定されるから当たり前であるし更に現在は鉄血工造の重要なデータの保管と解析もやってるのだ通常の2倍・・・いや4倍ぐらいは警備を厳重にしているだろう。
そんな厳重警戒状況のG&K社への潜入と破壊工作・・・やる前に気が滅入って来た。
「・・・断ったり聞かなかった事にすると言ったら?」
「面白い冗談ですね?」
そう言ってニコリと笑うエージェント。
笑顔と言っても先ほどまで嬉しそうな笑みと違って目が笑っていなかったが・・・
更に彼女は先ほどと同じ様にスカートの両側を持ってスルリと持ち上げる。
スカートの下から顔を覗かせたのはハイソックスに包まれ、交互に組まれた、細く引き締まった魅惑的な両足と・・・
あのエネルギーキャノンの威力は十二分以上に知っている、彼女がその気になればこの一室どろこかこのアパートを灰燼に帰する事も造作もないだろう。
つまり、俺に拒否権はないという訳だ。
「俺が裏切ってG&K社に密告しないとは思わないか?」
そう聞くと小首を傾げ、考える素振りをしてから・・・フッと嗤った。
「愚問ですね」
「ほぅ?」
「
「・・・やれやれ、勝てそうにないな」
そう言って俺は両手を上げて降参のポーズを取った。
彼女の言う通りだ、俺たち、傭兵にとって依頼主との契約は絶対で不可侵たる存在だ。
依頼した内容との相違、依頼主の裏切りでもない限り傭兵は依頼主を裏切らないし裏切れない。
正当な理由のない裏切り―――例えば対象への密告等―――は依頼主からの信頼を損なう事に繋がる。
依頼主の信頼を裏切ると言うのはそのまま、その傭兵自身への信頼度へも直結する。
信頼度が高ければ高いほど、色々な人・組織・機関から依頼が舞い込みその分高額報酬を得ることが出来る。
逆に信頼度が低いと依頼が殆ど入ってこず、入っても殆どが定額報酬ばかりしか入らない。
それが続けば傭兵は生活する事に困窮し野垂れ死ぬか野盗かテロリストに身を落とす事になる。
例え、相手が
「勿論、報酬はお支払いします」
「・・・こんなにか?」
掲示された額を見て思わず聞き返すと彼女は頷いて見せた。
「契約が完了した時点で前払いとして2億5千万、依頼が完了しデータの回収・破壊が確認され次第に2億5千万お支払いします」
合計して報酬は5億。
相当、無茶な扱いをしなければ一生を遊んで暮らせる上にお釣りがくるだろう。
これほどの報酬を支払ってまで処理したい情報・・・気にならないと言えば嘘になる・・・が・・・
チラッとエージェントの顔を確認する、彼女は無表情だ、目にも感情の色が見えない完全の無表情・・・だがそれが雄弁に語っている。
余計な詮索はするな
その言葉が示す通り、余計な詮索は身の棄権に直結するだろう。
知りたがり屋は長生き出来ない、そういう奴は何人も見て来た。
彼女が依頼し、それを俺が受けて熟す、それで彼女から報酬を貰う。
お互いがwin-winな関係、言わばビジネスライクの関係、それで十分だろう。
「対象の基地は?」
「この街から2つほど離れた街に存在します」
「警備状況は?」
「厳重ですね、常に戦術人形が2個小隊警備に就いています。更に1個小隊が即応待機し基地周辺では常に1個分隊が哨戒してます」
「ガッチガチだな・・・本社じゃないんだぞ・・・」
思わずポロリと呟くとエージェントも苦笑しながら頷いた。
彼女もそう思う程、この基地の警備は厳重だ。
この基地は最前線でもましてや重要な補給基地でもない、後方の基地だ。
戦略的重要性は殆どないと言って良い、これほどまでの警備体制・・・よほど、回収した情報データを重要な物と判断してるらしい。
そんな基地へ単独潜入し、データの回収or破壊・・・更に言えばサーバー内の解析された情報の抹消もあるだろう。
そしてそこから基地からの離脱・・・データの消失とサーバー内の情報を抹消した時点でこちらの潜入に気づかれる、その状況での基地からの離脱・・・正気とは思えないな。
そう思いつつ、俺は脳内でどうやって潜入するか等をシミュレートする。
「・・・陽動が欲しいな」
シミュレートの結果、そう思い思わずつぶやいた。
昼間か夜間に潜入するにしろ、警備が厳重過ぎた、どうしても奴らの気を何か別に引く必要があった。
悩む俺に助け船を出したのはエージェントだった。
「陽動でしたご安心を、こちらで用意してあります」
「と言うと?」
「
「彼女たち・・・・・・あいつらか?」
そう聞くとエージェントはコクリと頷いた。
彼女が言う彼女たちというのは心当たりがあった。
何度も一緒に仕事をした奴らだ、気心も知れてたし実力も納得できる。
確かに
「良いのか?そこまで動かして」
「構いません、それほどまでに重要だと、我々は判断しています」
「そうか・・・」
何にしろ、基地の連中の目を惹きつけてくれる存在が出来たというのは心強い限りだ。
それでも基地への潜入は手ごわいというは違いない、そう考えながら計画を練り直す。
「それと・・・」
「?」
「今回、基地から離脱した貴方の回収も彼女たちが担当する事になります」
更に残りの報酬も彼女たちが貴方を回収したのを確認したと同時にお支払いする事にます、とエージェントは続けた。
・・・彼女たちと最後に会ったは20年ぐらい前だ、言わば戦友との再会と言ったところか・・・
別に彼女たちが嫌いな訳ではない、悪い奴らじゃないしどちらかと言えば好感を持ってると言って良いい。
だが少々、我が強いというか個性的な奴らなので割かし俺が振り回されるのでそれが疲れるのだ。
「・・・楽しみにしておく」
内心、苦笑しつつ俺はエージェントにそう答えた。
その後、俺はエージェントと共に今回の仕事の細部を詰めつつ夜を過ごす事になった。
ヴァレンスキー
元正規軍所属。
現在はフリーランスの傭兵だがかつて正規軍に所属しておりその時の縁でエージェントを始めとする多くの鉄血工造のハイエンドモデルとの繋がりを持っている。
エージェント
鉄血工造所属のハイエンドモデル。
軍人時代のヴァレンスキーと面識があり、その当時から彼の実力を知っていて好感を持っている。
彼が正規軍を抜けた後は一時期見失っていたが傭兵として有名になった事でまた再開することとなる。
あの3人組
エージェントが陽動として用意した3人組でエージェント同様、鉄血工造所属のハイエンドモデル。
ヴァレンスキーとも面識があり、かつて一緒に仕事をしたことがある。
エージェントと同じく彼と再会出来ることを心待ちにしている。