幻想落葉口授   作:桐ケ崎 要

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つまらないし、面白くないかと思いますが、ご容赦ください。

初投稿です。


ある日の阿礼乙女

ある日の阿礼乙女

 

幻想郷。日ノ本の国の山深くにあると言われている辺境の地。そこには人だけでなく、人ならざる生き物も共に生きている。

人間の住む人里から西に少し離れれば、闇を生み出す人食い妖怪が。北へ進めばなんでも凍らせる頭の悪い妖精が。南へ進めば不死鳥の少女が暮らしている。

 

そんな幻想郷の人里の奥に、荘厳な門を構える家が一軒。稗田邸と呼称されているその家には、たった一人の少女が住み、毎日毎日、休む暇すら忘れて本を書いている。

彼女の名は稗田阿求。九代目の阿礼乙女であり、稗田阿礼の転生体だ。彼女が書く本は人間だけでなく人ならざるものからも人気を博しており、彼女も書くことを楽しんでいる。

しかし、彼女の本来の役目は本を描き、幻想郷の生ける者らを楽しませることではない。彼女の能力は「一度見たものを忘れない程度の能力」である。彼女、いや、代々の阿礼乙女はこの能力利用し、幻想郷で起こった数々の出来事を記録し、後世に伝えるのを役目としている。転生体になれば、前世の記憶は大半が失われる。それ故に彼女ー阿礼乙女は代々自らの代で起こった出来事を事細かに著し、それを後代に伝えていくのだ。

失われる過去ほど、儚いものはないと信じて。

 

そんな九代目阿礼乙女である稗田阿求は、ここのところもある大きな悩みの種を抱えており、幻想郷唯一の古本屋である鈴奈庵へとせわしく足を運んでは目に付いた書物を借り、その全ての中身を暗記しては返却してを繰り返している。

明くる日、阿求はまた新たな本を求め、鈴奈庵へと向かった。阿求はここの常連であり、自らの執筆した本もこの店で出してもらっている。また、店主兼看板娘の本居小鈴と仲の良い友人であり、彼女の顔を見に行くのを楽しみにしてもいるのである。

鈴奈庵は古本屋とは言うものの、並べられている本は元々は大半が読むことの出来ないものであった。だがそんな本たちを読めるようにしたのがこの本居小鈴なのである。小鈴の能力は「あらゆる文字を読める程度の能力」である。小鈴の一族に受け継がれている訳でもない。彼女特有の能力で、彼女はこの能力を使って、入荷された本を翻訳し、その翻訳した本を貸し出しているのである。唯一の古本屋であると同時に、阿求の書籍もあるため、新しく入荷された本があれば鈴奈庵はそれなりに賑わう場所となっている。

阿求は喧騒を避けるため、敢えて時期や時間をずらして赴く。小鈴もそれを察してか、翻訳が終わった本を最初に阿求に貸し出すまで表に出さず、秘密にしている時もある。

 

「最近は忙しそうね。どうしたの?」

 

棚に立ち並ぶ本に指をかけながら、気に入ったものを一冊一冊手に取る阿求に小鈴が尋ねる。

 

「えぇ、最近ちょっと書き物が忙しくてね。休む暇さえ惜しいわ。」

 

事実として、阿求はココ最近は食事も去ることながら、眠りにつく時間すらわすれてまで借りた本を読み、家の書物を漁り、筆を執ることを繰り返している。

 

「新刊の話でも練っているの?」

 

「いいえ。新刊はもうほとんど完成しているわ。むしろ逆。古いことについて探しているの」

 

本棚に目を離すことなく阿求は答える。

 

「古いこと?歴史書ならそこじゃなくて右の棚よ?」

 

「外の世界の故事じゃないのよ。幻想郷のこと。」

 

「幻想郷?幻想郷がいつからあるかってこと?」

 

小鈴も阿求と長い付き合いだ。直ぐに阿求の考えていることが悟れた。

 

「そう。幻想郷の始まりよ。先代のわたしの書物にも、私自身の記憶にも、幻想郷の始まりについてのことが記されてなかったから。私の代で記しとかないとって思って。」

 

そう。彼女の悩みの種はそれだった。彼女は転生する度に先代の記した書物を読み、それを暗記する。しかし九代目となった自分の記憶には、幻想郷がいつ、いかにしてできたのかと言うのがない。鈴奈庵の本を読んでも、屋敷の倉庫を探し、見つけた本を読んでもその記述は一切なかった。

故に彼女は自らの代でその全てを記し、後代に遺そうと考えたのだが、如何せん資料となるものが全く見つからず、そのヤキモキとした気持ちを晴らしながら、新たな本を求めているのだ。

 

「確かに、私も知らないわ。幻想郷の一番最初、できた頃の話。」

 

小鈴も話に興味を持ち始めたのだろうか、読みかけの本に栞を挟み、メガネをはずし、考え始めた。

 

「でしょう?でもどれだけ探しても文献がどこにもなくて...ちょっと不思議に思っているのよね。」

 

「そもそも幻想郷に触れている本があるのかしら。私は見た覚えがないわよ?」

 

「ええ。私の先代の巻物には、2代目の時から異変のことは書かれてたけど、それ以前のことはなかったわ。」

 

阿求の見た2代目阿礼乙女の巻物には、おそらく最初に起こった異変であろうことについて事細かに書かれていた。しかし2代目のそれ以前の巻物や初代阿礼乙女の巻物には、幻想郷についての事柄には触れられておらず、外の世界の流れのみが書かれていた。

 

「うーん。そしたらどうしたらいいのかしら...紅魔館は...」

 

「紅魔館は最近の異変だもの。しかも西洋からきたとなればら幻想郷について書かれてるとは考えにくいわ。」

 

「そうよねぇ。うーん、」

 

と、それから小鈴は命蓮寺や白玉楼。永遠亭など様々な場所を思いつき、阿求に提案するも、やはり鍵となりそうなものにはたどり着けないということだった。

2人が椅子に腰かけ、頭を悩ませ、半刻が過ぎた。店の外も少しずつ活気を増し、彼女たちの耳を刺激する。すると、開け放たれた戸にかけてある暖簾がめくられ、ヒョコリとだれかが顔をのぞかせる。

 

「やぁやぁ。小鈴はおるかえ?」

 

外の世界から切り離され、ある意味では時代の止まっている幻想郷でさえ使われないような、古めかしい言葉遣いをするのは、茶色く長い髪に葉をあしらった髪飾りをつけ、大きなメガネをかけ、さらに白と黒の着物に萌葱色の羽織りをひっかけた細身の怪しい女性だ。

その人を認識した小鈴は、声色を明るくし

 

「マミゾウさん!」

 

と声を上げた。

この怪しい女の名前は二ッ岩マミゾウ。一見すればただの人里の女である。しかし彼女の本当の姿は、人を化かし、騙す化け狸たちの棟梁であり、幻想郷きっての大妖怪である。

幻想郷の人ならざるものの中でもきっての実力者である彼女だが、特に人を喰らったり、異変を起こすことはなく、たまに人に化けて人里に現れては酒を飲み、たまにその辺の葉を小銭に化かして支払いを誤魔化すということをしている程度で、人に化けた彼女と人間は食う食われる関係というより、良い飲み仲間として良好な関係を続けている。

小鈴も阿求も彼女が化け狸であることは知っており、良き友人として口伝え鈴奈庵や阿求の邸宅で杯を交わす仲だ。

 

「おぉ小鈴や。相変わらずよのぉ。」

 

「マミゾウさんこそ。今日も来ないと思ってましたよ。最近いらっしゃらないんだもの」

 

「わしはあまり本など読まんからの。こうやってたまに小鈴の顔を見に来るのがいいんじゃ。お、阿求。久方ぶりよの。」

 

阿求に気づいたマミゾウが阿求にも声をかける。それを受け阿求も

 

「お久しぶりです。マミゾウさん。お元気そうで何よりです」

 

と返す。

 

「酒を飲まなきゃやってられんがの。ん、阿求や、何やら忙しそうじゃの。」

 

とマミゾウは阿求の顔色を見ただけで、彼女の疲れを見てとった。化け狸は人や妖怪の僅かな雰囲気の違いも見逃さない。

 

「あ...わかっちゃいますか?最近少し資料を探すのが忙しくて...」

 

「ん?資料とな?」

 

「はい。鈴奈庵や自宅の倉庫を探しても、なかなか見つからなくて...」

 

「ふむ。何を書こうとしとるのかえ?わしの知るところでなら協力するぞえ。それなりの時を生き長らえとるからの。」

 

「あ!そうだ!ねぇ阿求。マミゾウさんなら何か知っているんじゃない?大妖怪なんだし!」

 

「小鈴や。あまり大きい声で言うことじゃないぞえ。わしも今は人の姿じゃ。して、わしが知っとることか?なんじゃろうなぁ。酒は飲むが別段詳しいとは言い難いしのう...」

 

「お酒の事じゃなくて!」

 

「じゃあなんじゃろうか?言ってくれんかえ?」

 

小鈴にキラキラと期待の眼差しを向けられているマミゾウが阿求の方を見る。阿求も小鈴の話を聞いているうちに「たしかにマミゾウさんなら知っているかもしれない。大妖怪だし。」と思い、少しばかりの期待をもちながらたずねる。

 

「はい。あの、マミゾウさん。───」

 

 

「幻想郷の始まりについて、知りませんか?」

 

 

阿求が尋ねたその刹那。わずかに、ほんのわずかにマミゾウの眉尻がピクっと動いた。

しばしの沈黙の後、マミゾウが口を開く。

 

「...お主。どうしてそれを聞こうと思ったんじゃ?」

 

「先代の記したものを全て覚えている私たちが、いつ、そしてなぜ幻想郷という結界で守られた世界が出来たのか知らないのです。後世に伝えるために、記しておかねばと思いまして。」

 

「なぜ、先代のお主が記さなかったか、考えたことはあるかえ?」

 

マミゾウがいつもの調子とはほんの少し異なる、落ち着いた口調でたずねる。実際阿求はそこについても考えてはいたのである。

 

「はい。恐らくは転生する前の私たちは幻想郷という世界を当たり前に思っていたんだと思います。当たり前すら記していくという私たちでさえ、記すことを忘れてしまうくらいに。」

 

人間というのは当たり前すぎるものには疑問を持たなくなる。仮に疑問が生じたとしても、「そういうものだ」というたった一言で片付けてしまう。

阿礼乙女は本来そういった事物でさえも一字一句違えず、そして詳細に語り、記すことをしているが、阿求は先代たちがそれを忘れてしまうほどに幻想郷が彼女らにとって「当たり前」となってしまったが故に記されてないものであると考えた。

それを目を細めながら聞いたマミゾウはふぅ、と短く息を吐いてゆっくりと口を開いた。

 

「...結論を先に言おう。わしは確かにこの隠り世。幻想郷が幻想郷となるその始まりを知っておる。」

 

「おぉ!じゃあ!」

 

「じゃが」

 

とマミゾウは煙管に手をかけようとして、その手を止め答える。

 

「そこまで語れることは多くないぞえ?それでも構わんか?」

 

阿求にとってこれは正直意外だった。知っていると前置きされた後に「じゃが」と言われてしまったのだ。普通に文脈から察するならば断られる場面だろう。しかしマミゾウはあっさりと「自分の語れる範囲なら」と承諾してくれたのだ。

 

「ぜひよろしくお願いします。」

 

ならばぜひ聞きたい。阿求はマミゾウに頭を下げた。

「うむ。ならば語ろうではないか。幻想郷という世界のその始まりをな。」

 

「やったぁ!」

 

「じゃが、その前に、一つだけよいかの?」

 

と、またマミゾウが話を止める。

 

「「?」」

 

阿求と小鈴が首を傾げる。

 

「減るような話ではないが、一応、この話は他に漏らすことは控えて欲しいのじゃ。殊に博麗の巫女にはな。」

 

「どうして?マミゾウさん。」

 

「...まぁいろいろと訳がありなんだ。それだけは約束してくれるかえ?」

 

不思議な話ではある。出版物にして里の人間の目に晒すつもりもないが、かと言って聞かれて答えてはいけないような話でもないはず。それを秘密に。特に霊夢、幻想郷の守人でもある彼女に秘密にとするのは阿求にはよくわからなかった。

しかし、そこを掘り下げたところでマミゾウは答えないだろうし、下手をすれば彼女の口を閉ざしてしまいかねない。ならば、

 

「わかりました。内密に。」

 

「わかったわ。マミゾウさん」

 

阿求と小鈴が口々に承諾し、小鈴が店の暖簾をしまう。それを見たマミゾウはいつもの微笑にもどり

 

「よしよし。良い返事じゃの。では、語り始めるとするか。幻想郷の─」

 

 

「─隠り世の始まりをの」

 

 

一枚の碧い葉がゆらり、ゆらりと音もなく舞落ちた。マミゾウの瞳は、相も変わらず妖しく鈍く光っていた。

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