そんな不思議で運命的な出会いをした狐狸の思惑。
...何年の月日が流れたであろう。私が私である部分が封ぜられて。
何年の月日が流れたであろう。私がこの山の狐共の頭領となって。
何年の月日が流れたであろう。私の想いを叶えてくれそうな強者を探して。
何を考えるにも、「何年経ったか」と考える。しかしもはや何年経ったかなんてとうの昔にわからなくなってしまった。それくらいの果てしない年月が流れた。もちろん、私たちのような者たちの一生と比べると永くはない。人間ならばもう朽ち果てて跡形もなくなるような時を過ごした。
だが我々ならばむしろ一瞬と。そう言ってもいいだろう。
ー数多の星は闇夜を照らし、過ぎ去る年は柔らかい幻想を運ぶ。
山の上から眺める朝日は、白い息と細氷を優雅に晒す。ー
あの日、私が封ぜられる前、私が私にそう言った。頬を切り裂くような寒さの中、全てを包み込むような暖かな瞳で私を見据えて。
あの時もこんな様な、山の上だった。私が今寒々とした山に居を構えるのも、少しでも私といたいからである。
心のどこかでは、もう自ら四散する覚悟で動くべきであると思っていた。それはもうまもなく口に出してしまいそうなほど私の焦燥感は胸に張り付いていた。しかし、それももう終わりだ。狐狸は不思議な出会いだ。いや、不思議ではない、運命だ。この狸の頭領なら、この大妖怪なら、私を解放できる。これ程の力を蓄えた者を幾年も待った。今を逃せば向こう3.4000年は出会えないだろう。私の身体でさえ朽ち果てるころに出逢えるかすらわからない。
私は私であるために。恥を捨てた。
「あなたのような方をずっと探し、待ち続けていた。どうか、どうかこの哀れな狐の話に乗ってくれないか。」と、支度を済ませた様子の狸の頭領に尋ねる。
私は狸が嫌いだ。賢いわけでもなく、みすぼらしい。化かし化かされとは言っていたが、所詮は名のある頭領のいない有象無象、そう思っていたからだ。
だが、今私が目の当たりにしているのはそんな雑多な獣ではない。薄く微笑み、眼鏡を拭くその姿。それはまさに数え切れない時を過ごした頭領を頭領たらしめるものだった。
でなければそもそも勝負に負けないし、負けたとしても頼み事なんてしない。
狸の方は、最初は訝しげにこちらを見返し、話を聞いていた。するとゆっくりと煙管を咥えぷぅ、と煙を吐いた。
「お主....そのようなことを頼む立場にあるとおもっているのかえ?」
ごもっともな事を言われる。
「えぇ。敗北をした私にこのようなことを言う権利はないと思う。だが、それをわかっている上で尚、あなたの力が必要なのだ。」
私は毅然とそう言うしかない。断られたとしても、ギリギリまで粘る。たとえ私が死んでも。どこかで私を解放してくれるものがいると信じて。
「...ほぉ。面白いのぅ、お主。」
低く声を出し、何を考えているかわからない微笑みをしながら狸が答える。
「よかろう、ワシにできることならばできるだけ力をかそう。」
よかった。狸は単純なところがとても助かる。
「じゃが、わしらにも協力してもらうぞえ、こちらも労を提供するんじゃ。よかろう?」
ち、やはり狸は狸、見返りと来るか。まぁいい。たかが知れてるような事しか言ってこないだろう。たとえ無理難題だとしても単純なヤツらだ。大丈夫だろう。
「はい。それはもちろん。わたくしの力を全てお貸しします。」
「んっふっふ。それではそちらの話を聞こうじゃぁないか。こちらの返事で思わず笑みがこぼれるような話をな。」
「....?あっ。」
狸の言っていることに気づいた私は、緩んだ顔を引き締める。やはり狸は面倒な奴らだ。
佐渡狸の頭領ー雪振る山の狐は、互いの小さな笑みを見つめながら、未来への算段を始める。
八雲立つ山に、冷たい風が、柔らかに吹いた。霞みがかった空は、紫陽花のようだった。
そろそろちゃんと書きます