どろろとのクロスオーバーです。
タイトルは【せんてんいっすい】と読みます。
呪術廻戦ちゃんと読んでないのでしっかり読むまで更新しないのですが、一先ずプロローグ的なあれをば。
ある片田舎で、こんな話があった。
今ではもう行われていないはずの、稲の『ニ期作』をしている村があったという。
ニ期作と言えば三月~七月と七月~十一月あたりの時期に行われるものであり、しかもそれなりに温かい地域でなければ行うことはできない。
だというのにそこでは、通常の稲刈りの時期の九月である秋を手前にして最初の収穫を行うのだ。
その後に二度目の田植えが始まるというではないか。
聞けばその収穫された種籾は育苗日数が短いらしく、本来二十日はかかるはずが僅か数日で田植えができるまでの状態になるんだとか。
そうして土作りもしないままに、すぐさま植えられた茎はすくすく伸びるのだ。紅葉が見える季節に、だ。
雪が深くは積もらない地域ということと、冬でも水が凍らないように畑の管理を怠らないことを加味したとしても、明らかに異常である。
だがここでは、それこそが古くからの習慣であり、誇りであった。
厳しい冬の中でも伸び続け、桜咲く季節の手前、収穫が始まるのだ。
そうしてまたすぐ田植えが始まる。
本当か嘘か、それが五百年もの間続けられていたらしい。
だから村の中でその稲は『万年稲』と呼ばれていたとか。
ニ期作というのには奇妙な、一年で二度収穫される逞しい稲の育つ、そんな村の話だ。
だが人知れず21世紀に入ったばかりのその年に、秋に芽が出ることはなくなったという。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その夜、再び
能面の様な顔から、人形にはめ込まれたビー玉ような無機質な目が開かれる。
そこは並べられれた敷布団によって静かな寝息を子供たちがたてる大広間。
百穂を囲むように、遠慮もなく投げ出された手や足が彼の上へと幾つも乗せられていた。
それに気づいた百穂は
自身の長い髪の毛を掴んで離さない子供が3人もいたせいで少し手間取ってしまった。
少し街から外れた山の辺りにあるせいか街頭の光も届かないため、本当に真っ暗闇で足元すら見えないような暗闇が部屋に満ちている。
だが彼はまるで見えてるかのようにすいすいと子供たちの間を縫って板張りの床を歩き、この大広間の出口へと向かった。
たまに古いためか、足元から小さくきぃと木板が彼の体重によって歪み軋む音が聞こえており、加えて歩くたびに小さく何かの無機物がぶつかり合う音も。
だがそれで起きるような繊細な子供はいないようだ。
そうしてやっとこさ部屋を出るため障子に手を掛けることができ、静かに押し開けていく。
建て付けが悪いためか音を出さずに開けるのが難しいようで、百穂はさらに慎重になるも僅かな木のぶつかり合う音は避けられなかった。
それでも幼い子供たちは起きる気配はなかった。
だが一番出口に近いところで一人、目を薄く開く人物がいた。
「
その声を聞けば思わず百穂は息を吞む。
驚いた、ということもあるが、如何せん"彼女"の声は
この暗闇だ、彼女には見えていないだろう。そもそも意識もはっきりしていないだろうに。
それでも彼女はすぐさま自身の存在を看破した。
いつだって彼女は自分を見つけてしまう。
百穂は彼女のその寝言かもわからない小さな声に、僅かに不安や恐怖の感情が乗せられているのを感じ取った。
だから衣擦れの音も立てないようにしゃがみ込み、右手の長い手袋を外してその
安心させるように、ゆったりと、愛おしそうに。
間もなく彼女は周りの子供たちと同じように夢の中へと落ちる。
それを見届けた百穂は部屋を出て、また起こさぬようにさらに慎重に障子を閉めることになったのは仕方のないことだ。
部屋を出れば灯り一つない廊下を真っ直ぐ歩き、管理人のいる玄関前の寝室を通り過ぎる。
膝上まですっぽり覆う、長手袋と同じ藍色のソックスを履いたままに、頑丈そうな革製のブーツを素早く履いてガラス戸を引いて"孤児院"の外へ出た。
途中長く垂れ流した髪の毛を後ろで乱雑にまとめ、取り合えずそれで良しとした。
幸いにもここで飼っている子犬にも気づかれることもなかったようで、張り詰めていた緊張を小さく息と共に吐き出すことで解いた。
振り向き、今出てきたばかりの"寺"を見上げる。
今時珍しい寺を孤児院とした施設だ。勿論近代化はされているので冬がちょっと寒いと言うこと以外は不便はない。
今は夏の終わりの時期であり、百穂も寝巻きである変わった
百穂は数歩歩き、灯りの消えた寺の方をもう一度だけ振り返った。
灯りすらなくとも、彼はここに生きる小さな生命たちの鼓動を確かに感じ取ることができた。
特に"彼女"の鼓動は一際強く。
百穂は先ほどの忍び足の時とは違う、あたりの空気をひりつかせるような緊張感を纏わせて視線を前へと戻す。
そして自身が感じている禍々しい気配を頼りに、孤児院と隣接する山の暗がりへと駆け出したのだ。
未だに朝日の片鱗すら届かない山奥の中、まるで見えているのように枝や葉を、果ては蜘蛛の巣すら躱して百穂は駆ける。
身に着けている着物の濡羽色が、夜の帳の中へと溶けていくようだ。
さらにはその足は恐ろしく速く、人が見れば豹と見間違えてもおかしくない程の速度だった。この真っ暗な森の中であろうと、彼には
そうして間もなく、真っ直ぐと自身に向かい接近してきている"何か"を感じ取る。
彼に
まだ大分先だが、その音が徐々に大きくなってきた。
百穂は一旦足を止め、その無機質な瞳を遥か先に向けると木々の合間に
(まるで液体状…体は細長く、木々の合間を文字取り縫うように走っているのか)
すぐさま今まで走っていた方向とは真横に逸れ、惹きつけるように速度を落として走り出す。
そうすればまだ姿も見えない"それ"が自身を追うように進路を変更したのを感じ取った。
(
改めて百穂は確信する。"それ"らは何故か自分が目当てなのだと。
この
それに、"それ"らは確かに口のような器官を備えていることはあったが、何かを言っているのはわかっても
(
言葉に乗せられた感情を読み取ることはできる。だが、どちらにせよ会話が出来るような理性など"それ"らにないのは彼にでも理解できた。
(だが追ってきてくれるならば好都合。子供達や"
彼我の距離を一定に保ちつつ、さらに山の奥深くへと誘導し、十分寺と距離を離したところで彼は立ち止まる。
だんだんと破壊音が近づいてくる。
最中、百穂は完璧な無表情を貼り付けたままに、右腕の手首あたりを首の下で挟み込む仕草をした。
その時着物の袖が捲れ、その手袋を外したままだった右腕が姿を現す。
それはまるで球体関節人形のように…いや、まさにその言葉通りと言える作り物の義手だ。
皮膚の色を模すように塗装されており、その内部は硬質だが表面はやや弾力性のあるゴム質の"肌"が貼られている。
ただし、手首から先は可動性を優先したのか無機質な構造を隠すことをしていない。
指先から辿っていけば肘から先、所謂
パッと見は僅かに湾曲した、長めのペンケースのようだ。
そうして百穂が首で腕を挟んだまま右腕を払うように
その
そこから伸びる刃は明らかに先ほど引き抜いた腕の長さより長く不自然だが、これは肘先に取り付けられていた"箱"の中身が答えになる。
その"箱"は切先とは反対側の、刀身の根元と"
腕を引き抜くと同時に"箱"も内側へスライドして腕の中に収まることで、"箱"の中の刀身が押されて飛び出し、長さを確保していたのだ。
彼は力を失うように手首のぶら下がった右腕を丁寧に木の足元に置き、左腕も同様に半ばまで引き抜き、切先の峰に引っ掛けたまま右腕の隣へと運び置く。
準備を終えた百穂は、両腕の肘を相手に見せるように額の前まで持ち上げクロスさせ、腰を落として体を前傾姿勢に保ち、その時を待った。銅をがら空きにする、攻撃的な構え。
交差した腕の間から無機質な目玉が暗がりを射抜く。
そして百穂の前に、"それ"は姿を現した。
"それ"は言うなれば泥だった。
形は巨大なムカデのようにも、蛇のようにも見えるシルエットを形作っており、木々を縫う―――というよりは接触した樹木の表面を削りながら一心に百穂に向かってきている。
木々にぶつかると同時にべちゃりと、自身の泥のような一部を叩きつけるように飛散させていたのが水音の正体だ。その身体の内側に詰め込まれた数多の動物の骨の様なものが、木をまるでチェーンソーのような削り取り、耳障りな破壊音と傷跡を残していたのだ。
鈍い黄色の目玉と思われる器官を二つ頭頂部に揃えた"それ"は百穂の姿を認めると、泥状の頭頂部が、まるでヤツメウナギのような凶悪な底の見えない口となり開いた。この様子ではやはり会話などは望めないだろう。
それに人一人飲み込むのも容易いその大きさは、どう考えても吸血程度で済むはずもない。
そんな姿を前に百穂は全く怯むこともなく、だが静かに額の前で交差させていた両腕の内、左腕を腹の前程の高さまで降ろして構えを変える。
次の瞬間、ただ一直線に駆け出した。
交差は一瞬だった。
"それ"がまるで槍のように細く突きさすように伸ばしてきた
泥は百穂から見て斜め上に派手に飛び散り、その飛沫を追うように"それ"の頭上へと跳躍した。
鋭さを与えずに雑に斬り払ったために、壁に水が打ち付けられたかのごとく泥が拡がるように"それ"の視界を
しかし元々どう言う訳か、百穂を遠くから捉えてここまで来たのだ。
"目潰し"をして頭上へと逃れた所で、数瞬の後に再度彼の位置を特定してしまうだろう。
当然のように"それ"は後ろへと百穂が逃れたことを認識し、再び手を伸ばして襲い掛かろうと振り向き――――――そのまま頭部から赤黒い血液か泥かもわからない何かを噴き出させて倒れ伏した。
大質量の泥の身体が飛び散り、内に隠れた骨の塊が力なく飛び出しガラガラと崩れ落ちる。
辺りは静寂を取り戻した。間もなく、"それ"は細かく空気に溶けるように
何てことはない、一瞬で事足りたのだ。"それ"を仕留める時間など。
頭上に飛び上がり通り過ぎる時に右手の刃を上段から振り下ろし、そのままの勢いで宙返りしながら"それ"の頭頂部から額までを深く斬ったのだ。
ただただ、百穂の方が早かった。
(………)
息を乱すこともなく無感動を顔に貼り付けたまま、彼は木の根元に置いた両腕のある場所まで戻ってくると、右手の刀の切っ先を置かれた腕の断面部分へと近づける。
すると"右腕"は磁石に引かれたかのように断面部分が浮遊して引き寄せられた後、"右腕"の中へ切先が入り込む。そのまま刀身がするすると昇り上げ、最後には静かに元の位置へと収まった。
と、同時に今まで力なく垂れていた右手の指が、手首動き出し、一度感触を確かめるように閉じて開いた。
左腕も同様に触れもせず近づけただけで独りでにあるべきところに収まった。
それが済めば手袋もしないままに百穂は走り出す。
自身の感知能力が他の"それ"が既に近くにはいないことを告げてはいるが、どうにも落ち着かないのだ。
戻って、彼女の無事な姿を確信するまではどうしても…
(ほんの僅かな時間だった、大丈夫のはずだろう…?)
行きとは違う心情で急いで戻ったためか、心なしか息が荒い。
寺は出た時と変わらず安らかな命の鼓動を内包しているのがわかり、やや
(無用な心配だとわかっては、いたんだが)
思わず小さく、はぁっと気の抜けた溜息を吐く。表情は変わらないが。
自身の臆病さに呆れつつも、再度音を立てないようにゆっくりと玄関を抜けて子供たちが雑魚寝する大部屋へと戻った。
途中汚れがないか確認するのも忘れず、手袋もきちんと身に着ける。
部屋の前まで戻ると、伶奏が廊下に背を預けて眠っていた。
―――いないことに気が付いて、待っていてくれたのだろうか?
(…相変わらず、伶奏は俺を見つけてくれる)
それが嬉しく、先ほどの焦りも綺麗に洗い流されたような心地になる。
彼女を起こさないように横に座り込み、その頭を細心の注意を払って自身の肩に預けさせ、そこでようやく本当に肩の力を抜けた気がした。
そうして壁を背に瞼を閉じて、寄り掛かる彼女の方を
彼の"目"には綺麗な
先程の"泥ヤツメ"などとは違う、混じりけのない"赤"。
しっかりとその赤い輪郭を心に焼き付けた後、彼女の投げ出された手に自身の義手をそっと重ね、百穂は安心して意識を手放したのだった。
全然漫画読んでないのに人物設定作ったせいで、多分読んだ後に修正箇所出てひーひー言うのでやっぱり更新遅くなると思われます。そもそも他の小説終わらせないといけないのでいつになるのか…
10話以内予定。
■戸隠 百穂【とがくし ひゃくすい】
身体の多くが作り物の少年。仕込んだ刀で自身を狙う異形と戦っていた。
四肢もなければ五感もない。
過酷な人生を歩んできているも、稚拙さなど見られず大人びている。
■沙雨 伶奏【ささめ れいか】
孤児院の子供たちの世話をする少女。百穂とは何か"縁"があるようだ。
そのためなのか、百穂の感情もある程度わかるらしい。
歌が得意らしい。