バーチャル呪術師☆いわいちゃん!   作:猫島 合

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バーチャル呪術師☆いわいちゃん!

《はぁい☆ あなたの心に五寸釘!!

バーチャル呪術師 いわいちゃんだよ☆☆☆》

 

「なんだこれ……」

 

釘崎は、伏黒のスマホに現れたソレに思わず顔を顰めた。

 

ソレは、今流行りの3Dグラフィックで描かれた女の子だった。ツインテールにまろ眉、ギザ歯と特徴的なキャラデザインで、全体的な色合いは紅白と印象に強く残る。彼女は可愛らしく笑うと、ビシッと決めポーズをとった。

 

《よろしくね☆ メグミくん、ノバラちゃん、ユージくん☆☆☆》

「いや、マジでなんだこれ」

「バーチャル呪術師のいわいちゃん」

「伏黒、アンタこういう趣味あったわけ? 任務に2次元の女子連れ込むとかどうなの?」

「違う」

 

曰く、彼女はこれでもれっきとした呪術師らしい。電脳呪法という特殊な術式により、こうして電子機器に入り込むことが出来るのだそうだ。また、サポート向きな術式でもあるため、こうして実戦経験の浅い呪術師を手伝っている。

 

「帳も降ろしてくれるし、呪霊がいる場所をマップに表示もしてくれる」

《効率的に、呪霊をぶっ殺せるよ☆☆☆》

「その顔でぶっ殺すとか言わないで欲しいんだけど」

 

流石の虎杖でも苦笑いである。釘崎は、理解不能だとため息をついた。呪術師界隈は、イカれた奴しか居ないのが常であるが、さらにイカれポンチが出てきてしまった。

 

《安心して☆ ボクはめちゃくちゃ優秀だから☆☆☆

帳を降ろすよ☆ メグミくん、スマホを天高く掲げてね☆☆☆》

 

言われた通りに、スマホを掲げる。いわいちゃんが画面の中で祈るように指を組んだ。そして、溜めに溜めて勿体ぶって、ようやく口を開いた。その重々しい雰囲気に、普通の帳とは違うのかと釘崎と虎杖は身構える。

 

《……闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊たまえ》

 

ぶわり、と夜が空から落ちてくる。それは辺り一面をすっぽりと覆う。

 

「普通だな」

 

画面の奥でドヤ顔している いわいちゃん。釘崎は、伏黒のスマホを奪い取って地面に叩きつけようとした。普通にムカついたのである。突然の釘崎の暴挙に、虎杖が慌てて地面に落ちる前にキャッチした。画面は割れてない。いわいちゃんは、きゃらきゃらと笑っていた。

 

《呪霊の位置情報確認☆ マップに表示するよ☆☆☆ 全部で4体、張り切っていこー!!》

 

このテンションについて行くのキッつい。釘崎は、もう疲れていた。

 

各々のスマホに“いわいちゃんマップ”なるものが表示されている。とてもわかりやすい上に、最短距離や呪霊の情報まで事細かに載っていた。どうしてこんな所まで分かるのかと、虎杖が疑問を口にする。

 

《ボク、人工衛星とも同期してるから☆》

「でも、呪霊は機械じゃあ映らないんだろ?」

《ボクが入り込むことで、その電子機器は呪物になるから、普通に写るようになるんだよ☆☆☆》

「じゃあ、伏黒のスマホは呪物になってるのか?」

《そういうこと☆ ほらほら、呪霊が移動してるよ。この森は入り組んでるから、気を付けて進んでね☆☆☆》

 

ぴこん、と可愛らしいハート型が移動している。これが呪霊らしい。いまいち緊張感に欠けるが、背に腹はかえられない。3人は、手分けして呪霊を祓いに向かった。

 

 

 

結論から言うと、めちゃくちゃいわいちゃんは便利だった。方向感覚を惑わす系の呪霊だったらしく、あわや遭難となりかけたが、いわいちゃんマップのお陰で難なく祓うことができた。普通ならもう少し時間が掛かりそうな任務であったが、あっという間に終了する。

 

ちょうど時刻は夕飯時である。

 

《ボクが奢るよ☆ 何食べたい?》

「肉!」

「焼肉!」

《ルート検索……発見☆ この先に美味しい焼肉屋さんがあるから、そこに行こう☆☆☆》

 

完全個室の店内の焼肉屋(お高い)で、たらふくご馳走になった。もうこの時点で、1年生達のいわいちゃんへの好感度は爆上がりだった。いわいちゃんは、言動こそ若干ウザイが、それなりに面倒みの良さや、頭の良さが垣間見える。呪術師ではまともな部類であると推測された。

 

それから、何回かいわいちゃんとの任務を重ね仲良くなっていくうちに、正体が気になってしまうのは、当然の流れだった。

 

「いわいちゃんって、何歳なの?」

《永遠の18歳☆》

 

「いわいちゃんって、好きなタイプどんなの?」

《ないしょ☆ はずかしいもん☆☆☆》

 

「いわいちゃんの中の人ってどんな人?」

《ひみつ☆☆☆》

 

本人に聞いても、明確な答えは得られない。なので、周りの人間に聞くことにした。

 

「知らない方が良いよ」

 

と、五条。

 

「……知らない方が良い」

 

と、夜蛾。

 

「知らない方が幸せなこともある」

 

と、家入。

 

皆同じような回答だった。1年生達はいっそう不思議がって、色んな推測を述べた。今のところ有力なのは、汚ぇオッサンなのではという説である。まあ、例え汚いオッサンだったとしても、彼女(彼?)が良い人なのは変わらない。着ぐるみの頭を取るなんて無粋な真似はしまいということで、無理に暴こうとはしなかった。

 

「いわいちゃんって、本業は呪術師なんだよな? 補助監督じゃなくて」

《うん☆ ちゃんと呪霊も祓ってるよ☆☆☆》

「どうやって?」

《レスバとかで☆》

「レスバ?!」

 

いわいちゃんの本当の仕事は、急激なネットワーク化が進んだ現代に発生し始めた、仮想電脳呪霊の討伐である。ネット世界に突如として現れたそれは、ミーム的に人々を犯し、あっという間に世界中に被害を齎した。早急な対応が求められる中、高齢化が進んだ日本の呪術師界隈は、お手上げ状態だった。懐古主義の集まりなので、いんたーね? なにそれ? という感じだったのである。

 

そんな中、彗星の如く現れたのが、電脳呪法の遣い手である“バーチャル呪術師 いわいちゃん”だ。

 

電脳世界に、距離という概念は無い。自らをサイバー化することが出来るいわいちゃんは、世界中のネットワークを飛び回り。仮想電脳呪霊を祓いまくった。また、疲れという概念も無いため、昼夜も関係ない。次から次へと生まれる電脳呪霊共を祓いまくり、その功績から特級に上り詰めたスゲー奴が、いわいちゃんなのである。

 

「え!? いわいちゃん、特級だったの!?」

《そだよ☆ しかも、電脳呪霊を倒せる唯一☆☆☆》

 

虎杖が、驚きの声を上げる。いわいちゃんは、ダブルピースでドヤ顔を決めた。気さくに接していた友達のような人が、五条と同じ特級とは。

 

《ネット社会は今や人の思想が渦巻く巣窟だからね☆ そこから生まれる呪霊というのは、後を絶たないんだ☆

そこから現実世界に仮想怨霊として現れる奴もいる☆ その前に叩くのがボクってわけ☆☆☆》

「ほーん……よくわかんないけど、いわいちゃんって凄いんだな!」

《ありがと☆ 今日は何食べたい? また奢ってあげる☆☆☆》

「あのさ、今更なんだけど……いわいちゃんは食べないのに、俺達だけ奢ってもらっていいの?」

 

虎杖のその一言に、いわいちゃんはキョトンとする。そして、あはは☆と可愛らしく笑った。

 

《いつまで美味しいものを食べれるのか分からないのだから、遠慮なんてしなくていいんだよ》

 

優しい声色。いつものぶりっ子のような口調とは少し違った気がした。虎杖は、思わず目を見開く。普段の言動は、多分キャラ作りなんだろうなと思っていたが、こちらが素なのだろうか。

 

《まあ、ボクはソシャゲの課金ぐらいにしかお金の使い道ないからね☆ たまには大人ぶった使い方をしたいんだよね☆☆☆》

「……いわいちゃんってさ、歳いくつ?」

《永遠の18歳☆》

 

■■■

 

「ああ、岩永くんの事ですか」

「……?」

 

何となくで、七海にいわいちゃんの話を振った虎杖だったが、返って来たのは聞いたことの無い名前だった。

 

「イワナガ?」

「…………忘れてください。失言でした」

「え? なんで?」

「彼のことは、あまり語りたくないので」

「?」

 

彼、ということは、もしかしなくてもいわいちゃんは男なのだろうか。別にそれは良いのだが、気になるのは七海のその反応である。この話は終わりだという雰囲気で、それ以上はだんまりだ。

 

「ナナミン、いわいちゃんと仲悪いの?」

「……そういう訳じゃありません。ただ、あの人は“最もイカれた”呪術師ですので。あの五条さんも比じゃない位に」

「ますますわかんねえ……え、中の人に会ったことあんの?」

「……後輩です。二つ下の」

 

本当に嫌そうな顔をする。余程いわいちゃんが苦手らしい。

 

七海の2つ下。なら、歳は25歳とかだろうか。少なくともオッサンでは無いということだけはわかった。虎杖は新たな情報が得られたことに少しだけ喜んだ。仲がいい人のことを知りたいと思うのは、普通の感情である。

 

「……彼の事なら、もっと詳しい人がいます」

「え?」

 

そんな様子の虎杖に、七海は深く溜息をついて口を開いた。彼は、本当は言いたくないんだとでも言うふうに、重々しく呟く。

 

「伊地知くんは、彼と仲が良かったので」

「伊地知さん?」

「……彼のことを知るのは、オススメしませんとだけ言っておきます」

 

七海は、それだけ言うと、さっさと行ってしまった。残された虎杖は、ただ黙ってその背中を見ていた。

 

いわいちゃんは、良い人だ。だから、知りたい。でも、五条も夜蛾も家入も「知らない方が良い」と異口同音に言う。七海も「オススメしない」と言った。

 

でも、知ってはいけないとは言われていない。

 

虎杖は、子供だった。死地に赴くことはあれど、どうしようもなく子供だった。故に、1度湧き出た好奇心が、抑えきれなくなったのだ。

 

結果、任務帰りの車内で、伊地知にいわいちゃんの“中の人”について尋ねてしまったのである。

 

「ねえ、伊地知さん。いわいちゃんの中の人って、どんな人?」

「…………………」

 

伊地知は、目を見開いた。そして、「何故私に聞くんですか……?」と蚊の鳴くような声で言う。虎杖は、そんな様子に戸惑いを隠せない。後部座席で聞いていた伏黒と釘崎も、伊地知のその様子に驚いていた。

 

「あ、すみません……えっと、その……」

「ご、ごめん! 伊地知さん! なんか、悪いこと聞いちゃった……?」

「いえ、悪いことでは、無いんです……ただ驚いただけで……」

「……なにか、あったんですか? いわいちゃんと」

「…………いえ、何も」

「?」

 

伊地知は、真っ青な顔で無理やり笑った。それが痛々しくて、これ以上聞いては行けないことなのだと分かってしまう。虎杖は、自分の軽率さを恥じた。

 

沈黙。

 

エンジン音だけが、イヤに響いていた。

 

「……“いわいちゃん”の本当の名前は、岩永壱朗くんと言います」

 

その沈黙を裂くように、伊地知は口を開く。虎杖は気まずくて窓外に泳がせていた目を、伊地知に向けた。伊地知は、どこか決意したような顔つきだった。そして、ゆっくりと再度口を開く。

 

「岩永くんは、私の高専時代の後輩です」

「伊地知さん……?」

「……すみません。これは、私の心の整理です。どうか、聞いて貰えますか」

 

伊地知は、そう言って吐き出すように、いわいちゃん、否、“岩永壱朗”のことを語り出した。

 

■■■

 

岩永壱朗と伊地知潔高が出会ったのは、2008年の7月だった。

 

初夏の日差しの中、伊地知は自販機の前でジュースを選ぶふりをしながら、考え込んでいた。

 

伊地知には、術式が無い。戦う術もない。出来るのは帳を降ろす位である。同級生達は、みな前線に赴き戦っていると言うのに、自分は安全圏から見守っているだけである。それが、なんとも悩ましかった。小さい時から、呪霊が恐ろしくて堪らず、怯えながら暮らしてきた。たまたま出会った窓にこの学校にスカウトされ、入学したが、待っていたのは非情な日常。

 

サポート役が向いていると、補助監督の仕事を学び始めた。不満はない。だが、死地に同級生達が行っている間の、あのやるせない気持ち。戦いたくはないが、何も出来ないのが歯痒くて仕方ない。

 

溜息をつく。

 

「すみません。買わないんですか?」

 

そんな時、後ろから声がした。しまった、と我に返り、横へずれながら振り返る。そこにいたのが、岩永壱朗だった。

 

「お、お先にどうぞ」

「ありがとうございます」

 

岩永が、もたもたと財布を取り出した。片手が、首から吊り下げられている。どうやら骨折しているらしい。伊地知は、「手伝います」と声を掛けて、代わりに硬貨を投入した。

 

ガコン、と落ちてきたジュースを取り出す。それをもう一度繰り返した。

 

2本買ったジュースを、岩永が伊地知に渡す。伊地知は、投げ渡されたソレを咄嗟にキャッチした。

 

「先輩は優柔不断らしいので、選ばせて貰いましたよ」

「え、あ、じゃあお金……」

「じゃあ、次会った時に奢ってください」

 

岩永は、プルタブを片手で器用に開けた。伊地知もそれにならう。2人ですぐ近くに備え付けられたベンチに座る。そして、何気無い話をぽつりぽつりとし始めた。

 

それなりに、気が合うと思った。

 

同級生達よりも話しやすい。

 

気が付けば、ジュースを飲み終わっても話し続けていた。

 

それから、彼と自販機の前であった時は、交代でお互いに奢りあい、話すようになった。

 

本当に他愛のない会話である。呪術師も呪霊も話題には出てこない。昨日のテレビの内容とか、雑誌でみたコラムが面白かっただとか、美味しいラーメン屋を見つけたのだとか、そういう薬にも毒にもならないような会話。

だが、とても居心地が良かった。

 

彼と話している時は、気が楽だった。

 

 

ある日、伊地知は一人の同級生に、前線に出られないことを詰られた。もう一人の同級生が死んだのである。錯乱した同級生は、「どうしてアイツが死ななくちゃいけないんだ」「術式も持ってない役立たずのお前が死ねば良かった」と、理不尽に伊地知に怒鳴り散らした。精神が参っていたのだ。

 

夜蛾に叱られている同級生を残して、伊地知はとぼとぼと自販機に向かう。とにかく岩永に会いたかった。

 

自販機の前に行くと、岩永がちょうど来たところだった。伊地知の死にそうな顔を見て、岩永は何も言わずにジュースを二つ買って、片方を投げ渡した。

 

「え、今回は私の番のハズじゃあ……」

「そんな顔の先輩に奢られたくないので」

「……ごめん」

 

暫くは2人とも口を開かなかった。

 

「……岩永くんの術式って、どんなのですか」

 

伊地知は、手のひらで開けていない缶を弄びながら、そんなことを言っていた。

 

「見せてみましょうか」

「え、」

「携帯電話、出してください」

「……?」

 

そういうやいなや。岩永は、突如としてガクンと脱力した。伊地知は驚いて飛び上がる。揺さぶってみても、起きる気配がない。意識が無い。

 

《先輩》

 

不意に、驚いて落としてしまった携帯電話から声がした。恐る恐る拾ってみると、携帯電話にデフォルメされた後輩が映っている。まるで、Iコンシェルの羊のように。

 

《これが、ボクの“電脳呪法”です。身体が無防備になるかわりに、魂をサイバー化して電子機器に入り込める》

「す、すごい……」

《ネットが繋がっていれば、何処にだっていけます。内閣府のパソコンだって見放題》

 

ムクリ、と岩永の身体が起き上がる。戻ってきたらしい。

 

「情報収集ぐらいにしか使えない術式です」

「いや、凄いよ!……すごいなぁ……」

「でも、離れている途中で呪力が切れれば、戻って来れなくなります。そうなると本体は植物状態です。

……ボクは呪力量が少ないので、活動限界はかなり限られています。使えない術式です」

 

そう言って、岩永はジュースを一気に飲み干した。

 

「これでは、急激に進化していくネット社会に対応していくのも難しい。無用の長物的な術式ですよ」

「……それでも、私は術式を持っている君が羨ましい」

 

それ以上、会話は続かなかった。

 

次の日、岩永が任務で大怪我を負ったと知らされた。左脚を失ったらしい。辛うじて生きているが、失血量が余りにも多く、今は昏睡している。

 

伊地知は、青い顔で眠っている岩永を見て、怖くて堪らなくなった。このまま目覚めなったらどうしようと思うと、身体が冷えていった。

 

「岩永くん……」

《呼びました?》

「!?」

 

3日後。岩永がいない自販機の前で伊地知が溜息とともに呼んだ名前に、返事が返ってきた。驚いて、辺りを見回しても誰もいない。でも、確かに岩永の声だった。幻覚でも聞こえてきたのかと焦る。だが、声の発生源は、自分の携帯電話だと直ぐに気がついた。

 

「い、岩永くん……?」

《どうも。来ちゃいました》

「だ、大丈夫なの?!」

《ええ。この通り》

 

以前と同じように、デフォルメされた岩永が、伊地知の携帯電話の画面に表示されている。伊地知は、ソレに縋りついた。

 

「ここにいたら、身体は目が覚めないんじゃあ……」

《まあ、大丈夫です。どっちみち起き上がるのにもう少し時間がかかりそうなので。そんなことより、聞いてくださいよ! 大発見なんです!》

「……?」

《左脚が無くなったら、呪力量が格段に増えたんですよ!! これって、もしかして“身体を失えば失うほど、呪力が増える”ってことですかね?》

「い、岩永……くん?」

 

普段は、あまり大きな声を出すようなタイプでは無いのに、彼は至極興奮しているようだった。

 

《実は、気になったら試してみたくなる性分なんです! 伊地知先輩。ちょっと、ボクの右脚でも、手でも、何処でもいいので切り落としてくれませんか?》

 

伊地知は、その言葉に息を呑んだ。余りの恐ろしさに、呼吸が荒れる。

 

そして、五条悟という怖い先輩の言っていたことを思い出した。

 

『呪術師ってのは、イカれてなきゃ務まらない。伊地知はマトモだから、呪術師には向いていないよ』

 

嗚呼、彼はどうしようもなく呪術師であったのだ。

 

■■■

 

「それから、私は岩永くんが恐ろしくなり、徹底的に避けました。自販機も使わなくなりました。……私が、あの時、逃げ出さずに彼を諌めていれば…………」

「…………」

 

1年生達は、思わず黙り込んだ。

 

重い沈黙が、車内に凭れる。

それからは、誰も一言も発せずに高専に到着した。五条が出迎えてくれたが、1年生達はそのテンションに乗る気分じゃなかった。その空気を不思議に思った五条は、伊地知に問い質す。

 

「岩永くんのことを……話しました……」

「……何処まで」

「彼が、自身の天与呪縛に気が付いた所まで」

「……そう。伊地知、あとでまじビンタ。……と、言いたい所だけど、遅かれ早かれ皆には彼のことを伝えようと思ってたんだ。良い機会だから、彼の“本体”に会わせるよ」

「それは、あまりにも……」

「これは、知りたがった悠仁達へのケジメだよ」

 

五条は、1年生達を連れて、高専の地下にあるとある一室に行った。立ち入り禁止と力強い文字で扉に直接書かれている。

 

五条は、なんの躊躇いもなくその扉を開いて中に入った。

 

「さ、寒ッ!!!」

 

重たい扉を開くと、真冬のような冷たい空気が盛れだしてくる。五条に付いて中に入ると、その冷気は一層増した。

 

中は異様な量の機械で埋め尽くされている。それを冷却するためらしい。

 

その機械の最奥に、ソレはあった。

 

こぽり、コポリ。と水泡が弾ける音。

 

ぷかぷかと浮かぶ桃色の塊。

 

「…………え、」

 

誰かが、吐息のように声を漏らした。

 

「これが、“いわいちゃん”の本体だ」

 

五条の声が、イヤに響いた。

 

 

 

■■■

 

誰も話さなかった。何も言えなかった。

 

「身体を捨て去ることで、岩永壱朗は、莫大な呪力を得た」

 

そこに、五条だけが話し続ける。

 

「そして、残ったあの部分には常に反転術式が掛けられていて、老いることは無い。つまり、身体を捨てた18歳のままってこと。

 

彼は、この世界で唯一仮想電脳呪霊を討伐できる呪術師だ。それに加えて、24時間365日ネット世界を監視できる。

 

これからも人類の叡智として、インターネットは栄えていくだろう。それに伴い、負の感情も蓄積されていく。

 

彼は、人柱だ。呪術師の最先端を行く人柱。

 

在り方は違うけれど、天元様と似たような存在になったんだよ」

 

長い長い沈黙の中。五条は、最後に付け足すように言葉を続けた。

 

「こうならないでね。君達は」

 

 

 

 

 

 

《はぁい☆ あなたの心に五寸釘!!

バーチャル呪術師 いわいちゃんだよ☆☆☆》

 

いわいちゃんは、いつまでもそばに居る。

 

 




バーチャル呪術師 いわいちゃん
本名 岩永壱朗
一部を残して身体を全て捨て去ることで、莫大な呪力を手に入れた。失えば失うほど強くなるという天与呪縛。

電脳呪法
魂をサイバー化し、ネット世界に行くことが出来る。イメージはカゲ〇ロのあの子。もしくは攻殻〇動隊。時代の変化に伴ってバージョンアップされていく。

人間性はほとんど喪失しているため、親しみやすいキャラクターを演じている。
もとの人格は消失された。

バ美肉したのは、この時代の流行りに乗っかった結果(そうすることで親しみを持ってもらえると踏んだから)。

第二の天元様。

捨てた身体は、有効活用されている。



好奇心は虎を殺す。


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