バーチャル呪術師☆いわいちゃん!   作:猫島 合

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おまけスピンオフ


バーチャル呪術師の生みの親☆

仁木史明(にぎ ふみあき)が残した功績は大きい。代表作は、呪術式電脳管理システム“いわいちゃん”。それにより、仮想電脳呪霊の対処と、ネット世界から生まれる仮想呪霊を産まれる前に監視することが可能となった。また、ありとあらゆる情報を瞬時に収集、処理することも可能であり、それは呪術界に大きな進歩を齎した。

 

彼は一般家系の出でありながら、その革新的なアイデアと天才的な頭脳で、呪技術部門の統括を担っている。

 

五条悟は、そんな彼のことが大嫌いだった。

 

彼は、 “第二の加茂憲倫”を自称しているのだ。

そこからわかる通り、人道などクソ喰らえな手腕。アレは、人の命を軽く見ている。捕縛した呪詛師や、死刑が確定している罪人を使ったり、時には子供を唆して実験の片棒を担がせる。

 

口癖は「本当に素晴らしいものは、地獄からでしか生まれない」。

 

その結果、何人がその地獄とやらを作り出す為の犠牲になったことか。

 

彼は、無邪気で健やかな害悪だ。

 

だからこそ。だからこそ、必ず除かねばならぬ。

 

■■■

 

「やぁ☆ 久しぶり〜。五条くん、元気そうだね。実に元気そうだ」

「……仁木」

「ふふ、怖い顔しないでおくれよ」

 

そう言って男、仁木は笑った。

 

ボサボサの前髪で目を隠した、猫背の男。真新しい血が着いた白衣と、安っぽいゴム長靴。その出で立ちを見て、五条は更に顔を顰めた。

 

「その血、なに?」

「急患が入ってさぁ、ぼかァ忙しいってのに、家入くんの手が空いてないからって駆り出されちったのさ。全くぼくから研究時間を奪うだなんて、酷いと思わない?」

「全く思わないね」

「もう! つれないなぁ。あ、そうそう。君のとこの虎杖くん、だっけ? あの子貸してよ。実に興味をそそられる存在だよね。ちょっと分割してみたいんだけど」

「断る」

 

けらけら。仁木は、あっけらかんとしている。本当に癇に障る男だ。アイマスクの下で、ひたすらに睨み付けるが、仁木は何処吹く風である。徐にポケットの中をまさぐって、棒が着いた飴を2本取り出すと、そのうち1本を五条に差し出す。

 

「ほら。君、甘いの好きだっただろ。ぼくの手作りだよ。お食べ」

「いらない」

「そ」

 

断ると、仁木は2本とも包みを外して口に咥えた。直ぐに噛み砕いて、棒を地面に捨てる。ポイ捨てするな。

 

「そういえば、いわいちゃんから聞いたんだけど、1年生達に彼の本体を見せたんだって? どうだった? 何か言ってた?」

「…………」

「あんなに素晴らしいものを見られるだなんて、実に幸運なことだよね。僕の最高傑作を“2つ”も見られるだなんて。高専生の特権だよ。実に実に幸運だね」

「…………」

「さぞ、感心していたんじゃないかな。感動していたんじゃないかな。どうだった? 五条くん」

「言葉を失っていたよ」

「そうかそうか! 言葉が出ないほど!! 研究者冥利に尽きるねえ」

「…………」

 

五条は、無言で仁木の横を通り抜けた。話にならない。だが、仁木はその後ろをついて行く。そして、ひたすらに自身が開発した装置が素晴らしいものであるのかを説明し始めた。早口のせいで、ほとんど聞き取れない。それを無視しつつ、伊地知の車へ向かう。

 

「あ、伊地知くんがいる! おーい!久しぶりだねぇ!元気かい!」

「ひっ、」

 

伊地知は、仁木の姿を視認した途端、身を縮こませた。一気に顔から血の気が引く。仁木は仁木気にすることなく彼に近寄り、強引に肩を組んだ。

 

「やぁやぁ!元気そうだねぇ! あ、今日のいわいちゃんの写真みる? 今日も元気なピンク色だったよ。とても可愛らしいね!見て、この健康的なツヤ。ぼくが作った装置が滞りなく働いている証拠だよ! うんうん。やはり彼は芸術的だね! 君の親友は、今日もひたすらに頑張っているよ!」

「……………………………」

 

伊地知は、可哀想なぐらい萎縮した身体を震わせていた。さすがの五条でもこれは看過できない。助け舟を出す。

 

「仁木。僕ら急いでるから。さっさと研究室に戻ったらどう? お前も忙しいでしょ」

「ああそうだった! いや、久しぶりにお友達と会ったから、嬉しくなってしまって!! ごめんよ、早く行きたまえ。ぼくもやることがあるんだった。実に名残惜しいが、またね」

「……………………」

 

五条は、アイマスクを上げて、目でさっさと車に乗るように促す。伊地知はがたがたと震えながら、仁木に一礼して車に乗り込んだ。五条もすっと乗り込んで、車を発進させる。

 

仁木が朗らかに手を振っているのが見えた。

 

「……出てきたんですね、あの人」

「いつもは地下の研究室から出てこないもんね。チッ、嫌な奴の顔見ちゃった」

 

仁木史明は、許されざる害悪である。だが、彼が呪術界に齎した恩恵は計り知れない。加えて上層部のお気に入りでもある。御三家の一つである五条がいくらごねたとしても、彼を排すことは出来ない。汚点である“加茂憲倫”の二代目を自称しているため、加茂家にも嫌われている。だが、禪院家だけは、彼の研究を好意的に受け止めていた。

 

1番恩恵を受けているのが、禪院家だからだ。

 

『術式を抽出し、カートリッジにして他者でも扱えるようにする装置』なんて物を開発した仁木は、その技術を禪院家に惜しみなく提供した。後継者に恵まれなかった禪院家は、それがどんな手法で作られていようと、喜んで使用したのだ。その結果、彼は力強いパトロンを得た。

 

禪院家で生まれた不義の子達がどうなったのかは、想像に難くない。

 

下手をしたら、伏黒恵もその毒牙に掛かっていたかと思うと、ゾッとする。実際に、禪院家に来ないのなら、その術式を明け渡せと言われた。その時は五条家の権限で断ったが、まだ諦めていないようだ。

 

術式の抽出だなんて、無事で済むわけが無い。

 

「本当に胸糞悪いよ」

「…………」

 

伊地知は、未だに顔が真っ青だ。時折、苦しげに呻いていることから、吐き気があるのかもしれない。

 

「本当に……アイツは……」

 

ぎり、と奥歯を噛み締める。絶対にいつか殺す。

 

■■■

 

高専地下深くの研究室。その魔窟が、仁木史明の国である。ここは治外法権だ。何をやろうとも、咎める人間はいない。

 

怪しげな水槽には、小さな呪胎が浮かんでいる。それを一つ一つ眺めては、笑いかける。

 

「みんな元気そうだねぇ。実に元気そうだ」

 

返事をするように、コポリ、と水泡が浮かぶ。それに更に満足気に微笑んで、水槽を撫でた。

 

「人工呪霊の作成。上手く行きそうだ。みんな、そのまま元気に産まれてくるんだよ!」

 

今行ってるのは、見た通り、“人工的に呪霊を作る”実験である。調伏の手間もかからない、都合のいい能力を持った呪霊が欲しいなぁと思ったことが発端で着手した。今のところ順調である。

 

『……シテ、コロ、シテ、』

「おっと、お喋りができるようになったのかい! ぼかァ嬉しいよ!」

『タノ、ム……コロシテ……』

「お喋りだねぇ〜。可愛いね。実に可愛いね」

 

よしよし。と水槽を撫でる。

 

「術式の方は順調に馴染んでるかな?」

 

前髪をかきあげる。そこには、紫の色の眼球があった。深い紫の虹彩が、水槽に反射した光を更に反射して怪しく輝いている。彼は楽しげに目を細めて、呪胎を観察した。

 

これは、仁木が作り出した“贋作の六眼”である。本物には遠く及ばないが、それでも術式を識別するぐらいは出来る。

 

「うーん……やっぱり、複雑な術式は定着しないか。シンプルイズベストってことかなァ……」

『イタイ、イタイ……タスケ、』

「うんうん。そっかそっか〜。それは生きてるってことだよ! 良かったねぇ」

 

ごぽり。ごぽり。

 

『イタイ、』『コロシテ、』『ママ』『タスケテ』

 

数体の呪胎達が、一斉に話し始める。仁木は、ただニコニコとそれを眺めていた。

 

「みんな賑やかで可愛いね」

 

前髪を元に戻しながら、椅子に腰掛ける。そして、スマホを取り出して、愛すべき代表作であり、親友の名前を呼んだ。

 

「いわいちゃん」

《はぁい☆ あなたの心に五寸釘!! バーチャル呪術師 いわいちゃんだよ☆☆☆

仁木さん☆ 頼まれてたデータ、まとめ終わりました!確認お願いしますね☆☆☆》

「ありがとう! やっぱり君は凄いなぁ!

……うん、完璧。さすが僕の親友」

《えへへ☆》

「親友といえば、今日は伊地知くんに会ったよ。実に元気そうだった。君と伊地知くんは親友だったね。親友の親友ということは、つまりぼくも彼の親友ってことになるのかな?」

《なるんですかね☆》

 

伊地知が聞いたら、泣き出しそうな会話である。親友をこんな姿にした張本人に“親友認定”されているだなんて。いわいちゃんもあっけらかんと笑う。

 

この2人は、仲がいい。一般家系出身同士のイカレ同士。周りが引くほどに気があった。

 

■■■

 

これは、“いわいちゃん”が“岩永壱朗”だった頃の話である。

 

「君が、岩永くん?」

「はい。そうですが……」

 

任務で左脚を失った為、松葉杖を付きながら歩いていた岩永に、仁木は声を掛けた。

 

「ぼくァ仁木史明。呪技術部門に所属している」

「岩永壱朗です。初めまして」

「初めまして! いやぁ、礼儀正しい良い子だね!噂を聞いたよ! “失えば失うほど、強くなる”んだって? 実に興味深いなぁ! ねぇ、話を聞かせて欲しんだけど」

 

そう言って、仁木は朗らかに笑った。

 

 

「へえ! 左脚を失った瞬間にねぇ! なるほどなるほど」

「だから、色々試したくて」

「それで、左手の指を?」

「はい。自分でやるには、どうも限界があって……でも、切り落としたら確かに呪力が増しました。ボクの仮説は間違っていないと思います」

 

岩永は、包帯が巻かれた左手を軽く振りながら、そう言う。確信を持った目だ。仁木は飴を噛み砕きながら、その話を聞く。

 

「じゃあさ、色々と試してみない?」

「?」

「ぼかァ、他人に反転術式を使えるからさ。例えば、失血死ギリギリまで血を抜いてみたり、身体をもっと削いでみたり、骨を抜いてみたり……死ぬ1歩手前まで色々と試せるよ。どこまで失えばいいのか。1度失った部分を繋ぎ直したら得た呪力はどうなるのか」

 

岩永は、きょとんとして仁木の顔を見つめる。と言っても、目元は分厚い前髪で覆われているため、口元しか表情が分からない。

 

仁木は、飴がついていた棒を地面に捨てて、岩永の肩に手を添えた。

 

「ぼくなら、君が望むようにしてあげられるよ」

「良いんですか! じゃあ、早速やりましょう!!」

「良いね!! じゃあ、行こうか。ぼくの研究室に」

 

 

それから2人は、飽きるまで研究をした。聞くだけでも痛ましい実験を繰り返した。仁木の計らいで岩永に任務を振らないようにすることで、研究に没頭できる。

 

2人は、何日も地下深くの研究室に篭っていた。

 

「肉体って、必要?」

「と、言いますと?」

「だってさ、電脳空間には、疲労ってないでしょ? 戻ってくる必要なくない?」

「一理ありますね……でも、どうすれば」

「うーん例えば、一部分だけ残して体の全てを切除するとかどう?」

「全てを……」

「そうすれば、得られる呪力も最大限だし。やってみる? 大丈夫大丈夫! 失敗しても、ぼくが何とかしてあげるからさ!」

 

仁木は、前髪の隙間から紫色の目を少しだけ覗かせて、そう言った。その瞳から、目が離せない。怪しく煌めく瞳に誘われるように、岩永は悪魔の手を取った。

 

そこからは、ご存知の通りである。

 

アップデートを繰り返して、今の“いわいちゃん”が完成した。これからもどんどんと進化していくことだろう。

 

「君は最高の親友だよ。いわいちゃん」

《ありがとうございます☆☆☆》

 

そう言って、仁木史明という無邪気で健やかな害悪は、満足気に笑った。

 

まるで、この世の穢れなど知らないような、無垢な笑顔だった。

 

彼は、これからも純粋な好奇心と好意で、世界に呪いとその恩恵を振りまいていく。




仁木史明(原作時空で42歳)
無邪気で健やかな害悪。
明るいボンドルド。
二代目 加茂憲倫。

人命? 大事だよね! 勿論無駄にはしないよ!!

害悪。
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