玄界放蕩記~ゲームこそ人生~   作:粗茶Returnees

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玄界生活①

 

 ボーダーという組織は、近界民(ネイバー)の侵攻から市民を護る組織である。一般人の認識としてはこんなところだ。もちろんその仕事が大前提なのだが、そのための敵の情報の分析、戦うために必要なトリオンの研究、遠征部隊による近界の調査など、一般人が認識していない仕事はいくつもある。

 三門市に本部があり、そこには各部隊の作戦室だけでなく、多種多様な設備が用意されている。

 ここはその中の1つ。現ボーダートップ。A級1位の太刀川隊の作戦室。

 

「あぁァァ負けたぁぁ!」

 

「ふぅぅ。いや~今のは危なかった~。シアンさんこのゲームの腕はすぐ伸びるね」

 

 そこで1組の男女がゲームで白熱の試合をしていた。勝者は女子であり、男子の方はソファの背もたれに身を投げた。

 

「得意なのかもしれない。ユウには負けるけど」

 

「そう簡単に負けるわけにはいかないからね~」

 

 今の試合は相当集中していた。集中力が最高点に到達して試合を終えた以上、今日の試合はここまで。ユウと呼ばれた少女、国近柚宇はゲームとモニターの電源を落とした。

 

「シアンさんレースゲームは絶望的に下手だよね~。ここまで違いがあるのも珍しい気がする」

 

「得手不得手は誰にでもあるでしょ」

 

「車の運転はしないでね。事故になりそう」

 

 そもそも免許なんて持っていないのだから、運転することはないのだが。

 

「タチカワは運転できるのか?」

 

「できないよ。学科で受からないから」

 

「ならよし」

 

「何がよしなんだろ」

 

 男の子ってすぐに対抗心燃やすなぁ笑いながらと、部屋にある冷蔵庫から飲み物を取り出す。2人分のコップも用意し、飲み物を入れたらソファで項垂れているシアンと呼ばれた男の前に置いた。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして~。それにしても、シアンさんもここに馴染んできたね~」 

 

「おかげさまでな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……あの時はびっくりしたよ。わたしそういう抗争とかあんまり関わりたくないのに」

 

「それはごめん」

 

 シアンのトリガーは現在アクセサリー程度の大きさになっており、チェーンを使って国近がそれを首から下げている。交渉の末、話の流れでそうなったのだが、その場にいなかった国近からすれば寝耳に水。ぽかんと口を開けたものだ。正直面倒くさいとも思った。それでも引き受けたのは、単純に好みの顔だったから。面食い女子である。

 交渉は難航するかと思いきや、遠征組が話した経緯とシアン本人の様子を踏まえ、()()()()()()()()()()()()()。ボーダーの司令を知る人間からすれば自分の目と耳を疑うものだ。

 

「ま、こういう感じの着地点なら気が楽かな~。シアンさんとゲームするのも楽しいし」 

 

「それはよかった。オレもいい師匠を持ったと思ってるよ」

 

「またまた~。調子のいいこと言っちゃって」

 

 シアンが求めたものは、「捕虜として扱われないこと」「一定の自由があること」。その対価は「シアンが持つ近界(ネイバーフッド)の情報」「敵対しないこと」。

 「敵対しないこと」が対価として認められたのは、シアンの持つトリガーが黒トリガーだから。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 そもそもそんな相手を連れて帰ってくるなという話になりそうだが、彼の持つ情報は捨てるに惜しいと判断されたわけだ。

 

「お昼ご飯は何がいい? 持ってくるよ」

 

「悪いな。ユウと同じやつでいいよ。こっちの食べ物よくわからんから」

 

「あはは、それはたしかに。それじゃ、ちょっと待っててね」

 

 ボーダーには食堂もある。基本的には食堂内での食事となるのだが、エンジニアのように多忙を極める職員がいたりする。そのため、仕事場でご飯を食べられるようにとテイクアウトが可能となっているのだ。国近は自分の分とシアンの分とを買いに行くために作戦室を出た。

 シアンが直接食堂に行かない理由は1つ。まだ彼の身分の偽装ができていないから。それさえできれば、日中から出回ることも可能となる。A級1位の隊のオペレーターを務める国近と行動していれば、目立つことにはなるが。

 

(遠征部隊が迅さんと嵐山隊と戦った時に協力してたら、もっとスムーズに話が進んだと思うんだよね)

 

 思い返すのは遠征から帰ってきた直後のこと。山を抱えて帰ってきたら別の山が待ち構えていた時のことだ。シアンの他にも近界民(ネイバー)がいて、しかも同じく黒トリガー持ち。それが玉狛所属となれば派閥のパワーバランスが崩れるという話。

 そこにシアンも協力して戦えという話になったのだが、本人が拒否をした。そのせいで話がややこしくなり、なんやかんやと話がもつれてから今に至る。

 

(本人がトリガーを持たず、玉狛を除いたボーダー最強の部隊が所持した上で監視すればいいって。理屈はそれっぽいけど巻き込まれてるよね~)

 

 上層部持ちにならなかったのは、それだと捕虜に近い扱いとなるから。引っかかるものもあるがそれで納得したとしても、シアンの黒トリガーを管理する人間が非戦闘員では問題しかなさそうなものだ。というか問題だ。隊長の太刀川慶か、戦闘員の出水公平がいなければ奪い取られかねないという危険性があるのだから。

 

(シアンさんが敵対する気なくて、今も協力的で平和的だからギリギリセーフって感じかな)

 

「よう国近。お前も昼飯か」

 

「あ、太刀川さん。個人戦(ソロ)楽しめました?」

 

「おう。迅が戻ってきたからな~。それアイツの分も買ってるのか」

 

「そうですよ~。あの人はまだ自由には動けませんから。時間かかり過ぎな気がしますけどね」

 

「やっぱあれか。アイツにもボーダーのトリガー持たせたいって言ったのが不味かったか」

 

「何その話」

 

 初耳の上にとんでもないことを言ってくる隊長に目を見開く。未だ信用もない人物だというのに、それを頼むのはどうなのかという話だ。けれど彼がそれを頼む理由はなんとなく察しがつく。

 

「玉狛に入った奴で有りなら、こっちも有りじゃねーかなって思ったんだが」

 

 筋が通らないわけじゃない。しかし太刀川も国近も知らない。玉狛に入った少年がどういう人物なのか。彼の父親とボーダーの上層部の関係性を。いわば例外中例外なのだ。

 

「太刀川さんって時々無茶苦茶なことやろうとするよね」

 

「迅ほどじゃねぇって。ま、あっちは予知ありきだから勝算あっての行動だけどよ」

 

「あの人がトリガー持ったとして、どうするの? リベンジ?」

 

「リベンジならアイツに自分のトリガー使わせたいけどな」

 

 シアンのことを知っている人間は少ない。遠征組と上層部。そして遠征組と共に迅たちと戦った三輪隊だけだ。玉狛支部の人間すらシアンのことは知らない。唯一未来予知を持つ迅だけは、何かあると察している程度だ。それも情報規制をしているからである。黒トリガー持ちとはいえ、遠征組に1人で勝ったシアンに上層部は慎重に動いている。

 そんな事情もあって、太刀川も黒トリガーという単語は出さない。国近と共に名前をぼかして話す。周囲に人はおらず、話が聞こえているのは食堂にいる職員のみ。彼らも深く知ろうとする気はないし、噂話をする気もない。必要とあらば記憶封印措置が行われることを知っているから。

 作ってもらった料理を受け取り、2人並んで作戦室へと歩いていく。シアンの分は太刀川が持っている。

 

「戦ってみて分かったが、アイツは素の実力が高い。じゃなきゃ負けてない」

 

 遠征組は黒トリガー相手でも勝てると想定された実力者たちである。しかも今回の部隊構成は隊のランクがトップ3の部隊。単純に考えれば最強編成と言える。いくら黒トリガー持ちとはいえ、その能力に頼っての戦い方では遠征組に勝てないと言えるだろう。

 だがシアンは勝った。強力な黒トリガーだというのもあるが、戦い方が上手かったのも事実。太刀川はそれをよく実感しているのだ。

 そして思った。

 

──個人戦で斬りあうの楽しそうだな、と

 

「リベンジはこの際置いとくさ。さすがにアレ相手の戦いは許可降りないからな」

 

 シアンに限ったことじゃない。ボーダーに所属している黒トリガー持ちの隊員も、それを使用した戦闘は訓練で認められていない。防衛戦だったとしても、基本的には許可が降りない。その必要性が認められた時のみだ。

 迅は黒トリガーを本部に手渡したことで、普通の隊員と同じようにランキングが反映されるようになった。太刀川はそこにも目をつけている。シアンの黒トリガーは太刀川隊が管理している。つまり「シアンもボーダーのトリガーを持てば混ざれるんじゃね?」である。

 

「せっかくあの実力があるんだ。腐らせるのは勿体無い」

 

「あはは、太刀川さんらしいね~」

 

 肯定も否定もせず、適当な相槌を打った。完全に個人の都合。明らかな私情である。けれどそれが彼の性格だ。強者との戦いを好む太刀川慶という人間だ。果たして上層部が太刀川の申請を受理するのか。それは現状厳しい話だが。もし、それが通ることがあれば、たしかに見物だろう。

 けれど国近は違うことを思っていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という点を。

 

(シアンさん……)

 

 思い返すのは遠征での出来事。オペレーターも同行し、遠征艇から戦闘員の支援をする。戦闘員が戦っていい範囲は遠征艇から3キロ以内と決して広くない。そして戦闘は遠征艇からそう遠くない場所で行われた。

 国近はその時に僅かに見えた彼の表情を覚えている。戦闘時はいたって真面目に。太刀川と武器を交えた時は、釣られたのか少し楽しそうではあった。けれど、終わった時に少しだけ見せた表情は『憂い』だった。

 

「ようシアン。飯持ってきてやったぜ」

 

(っ……)

 

 少し考え事に集中し過ぎたようだ。作戦室に着いたことに気づくのが遅れた。太刀川の声で気づいた。もしかしたら、太刀川もそのために少し声を張ったのかもしれない。

 

「タチカワか。荷物持ちご苦労」

 

「飯いらなかったか。俺が2つ食おう」

 

「悪かったって。持ってきてくれて助かるよ」

 

「初めからそう言えっての。それ何見てたんだ?」

 

 シアンに弁当を手渡した太刀川が、彼が見ていた画面を覗き込む。操作の仕方は国近から習ったのだろう。

 

「なんかのゲームか」

 

「えふぴーえすってやつらしい。なかなかに面白そうでな」

 

「こいつ完全にゲームに目覚めてやがる」

 

「ただ、これやるための物がここにはないようだからさ。当面はここにあるゲームでユウに勝つことを目標にする」

 

「向こう1年はFPSやることなさそうだな」

 

 2人の会話は雑談というよりも歓談に近い。同い年ということ、太刀川がシアンに好意的なことが距離感を一気に縮めたのだ。その点、ゲームでこつこつと打ち解けた国近の行動が涙ぐましい。ちなみに唯我は距離を測りあぐねて難航中。出水は国近のゲームに便乗して打ち解けている。

 

「やっぱユウに勝つには時間かかるか」

 

「1つでも勝ち越してみろ。たぶん次は違うカセットでやることになる。そしてここにあるやつ全て制覇することになるぞ。国近はゲームだと負けず嫌いだからな」

 

「なるほど。ちなみにタチカワは制覇したのか?」

 

「いや? 勝ち越せないからな」

 

「ふっ、ザコめ」

 

「1勝もしてないやつには言われたくねぇな!」

 

「ならば勝負するか? 今のオレならタチカワに勝つぜ?」

 

「ほう? 国近にしごかれてるのはお前だけじゃないってことを教えてやろう」

 

「あ、2人ともその前にお昼食べましょうね。冷めちゃうから」

 

 ゲーム機に向かっていく2人を国近が呼び止め、そそくさと戻ってきて弁当の蓋を取る。太刀川は気分からカツ丼を選び、シアンの弁当は国近と同じもの。箸の扱いに大苦戦する彼のことを考え、スプーンで食べるものを選んだ。

 選ばれたのはオムライスでした。

 

「ユウ。これってなんて食べ物だ?」

 

「オムライスですよ~。口に合いましたか?」

 

「うん。ユウが用意するやつはどれも美味しい」

 

「えへへ、それはどうも~」

 

 自分で作ったわけじゃないのに嬉しそうだなと思ったが、それは口に出さずにカツを口に入れる。隊の紅一点に水を刺さない紳士隊長なのだ。

 国近も会話に加わり、3人で歓談を続ける。ボーダーという組織は若い。隊員の多くが中高生だ。太刀川も同年代の相手が多いとは言えない。その意味で対等な人間が増えるのは嬉しいものだ。それが強い相手ともなれば尚更に。

 

「よっし、ごちそうさま。やるぞシアン」

 

「ああ。これでもオレが勝つけどな」

 

 食事が終われば、食前に話していたことを実行するのみ。カセットを本体に差し込む。コントローラーを手渡し、いざ勝負(ゲーム)開始。

 

「あ、レースゲームだ」

 

 起動されたゲームを見て思わず国近は呟き確信した。

 これは太刀川がそれなりに上手い腕を見せるゲームであり、シアンが苦手とするゲームである。

 

 つまり──

 

「タチカワぁぁぁ!!」

 

 ──シアンがボロ負けする。

 

 




Qなんで国近だけ名前呼びなんですか?
A「くにちかって言いにくい」
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