玄界放蕩記~ゲームこそ人生~   作:粗茶Returnees

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新生活②

 

 太刀川隊のお荷物こと唯我尊は、ボーダーのスポンサーの息子である。彼の中には「尊敬されたい」という欲求があり、崩して言えば「チヤホヤされたい」と思っているお坊ちゃまだ。それもあって彼はA級の部隊に所属させろと言い、それを呑んだボーダー上層部は戦闘員が2人でも結果を残す太刀川隊に投入。

 これが「A級最弱」「お荷物」と称され、「なんでこれがA級なんだろ」と言われる唯我尊の経緯である。隊長が現戦闘員最強、隊員が合成弾のパイオニアという天才。オペレーターも支援力が高いというトップ部隊且つ、全員唯我より年上ということもあり、唯我が思い描いていたようなボーダー生活にはなっていない。

 

 しかしそこで腐らずにボーダーを続けているのが唯我尊という男。最近なんだかよく分からない男に居場所奪われてねと危機感を抱いている男だ。

 

「はい、2人の飲み物」

 

「なっ、飲み物くらい言ってもらえば淹れましたよ……」

 

「気にしないでいいよ~」

 

「何この黒いやつ」

 

「コーヒーだよ。飲んだことなかったっけ?」

 

「ないな」

 

 見たこともなければ飲んだこともない。未知の飲み物に戸惑うも、国近が淹れたものを飲まないわけにもいかない。シアンは一口だけ軽く味見をした。

 

「どう?」

 

「……不思議な味だな。結構苦いし」

 

「ブラックだもん。砂糖と牛乳で調整できるよ~」

 

「へ~。今日はこれでいいや」

 

「いいの?」

 

「ユウが淹れてくれたやつだし」

 

「そっか~。それじゃわたしはそっちで出水くんとゲームするから」

 

 ニヤけそうな口元をお盆で隠した国近は、それを給湯室に戻しに行ってから自分の仮眠室経由で移動する。話を始める2人の邪魔にならないようにという配慮だ。隣の部屋でゲームするけど、それはそれ。これはこれというわけだ。

 

「さてと、言いたいことは正直に言ってくれていいぞ。……こう言うと圧かけてる気もしてくるな」

 

「えーっと、では……国近先輩とはお付き合いされてるんですか?」

 

 隣の部屋で国近が操作ミスをして出水に敗北。涙目になった彼女を出水が急いで宥める。

 

「なんかそれスワさんのとこにも言われたな。距離感で言えばお前らとユウの距離感と大して変わらんだろ。打ち解けてるとかって話でも、むしろそっちの方が近くね?」

 

「ボクらは同じ隊ですし、他の隊でも隊員同士は似たようなものですよ。あとは師弟関係だったり、意外と親戚関係もあるようで、そこは距離感近いとか。でもあなたはどれでもない」

 

「……そう言われてもなー。アフトの感覚で言ったらこれくらい普通だからさ」

 

「アフ……え?」

 

「あ、ユイガは知らないんだったか。オレ近界民だから。この前の大規模侵攻やった国出身」

 

「…………えええぇぇぇぇ!? ちょっ! 出水先輩たちは知ってたんですか!?」

 

「2人で話すんじゃなかったのかよ。……出身は最近知ったけど、遠征で連れて帰ってきてんだから近界民ってことは知ってるに決まってるだろ」

 

(なんか妙なタイミングで変な人が入り浸るようになったなと思ってたけど……!)

 

 パクパクと口を開閉する唯我に出水は呆れ、余所見してる間に体力が消し飛んでいることに驚く。

 

「話してた気でいたけど、まともな説明してなかったか。てかタチカワもしてなかったのか」

 

「あの人からは強い奴としか言われてませんよ……!」

 

「あいつさー。ま、それはいいとして。それを知ってお前はどうする?」

 

「どうするって、何をですか」

 

「オレを排除するかどうかだ。近界民を憎んでる奴って少なからずいるらしいしな」

 

「……いえそういうことは別に。ボク個人があなたに恨みがあるわけでもないですから」

 

 恨みもないし、先輩たちの対応からも察してるところはある。派閥で言えば城戸派だが、ボーダー上層部が手を打たないと決めているのならそれに従うのみだ。

 

「恨みがないのは結構だけど、不満があるならそれも今言ってくれ。これから長い付き合いになるかもしれないんだからな」

 

「長い付き合い?」

 

「いろいろあってな」

 

 そこは話さないらしい。唯我もそこまで聞くつもりはなく、不満はないかという質問の答えに迷っていた。焼肉の時に太刀川が言っていたように、あるのは嫉妬。自分の居場所が無くなるのではという焦燥感。そういったものだ。

 そしてそれを口にすることが憚れる。なけなしのプライドがストッパーになっている。

 

「ちょいと訓練室借りるか」

 

「はい?」

 

「言葉以外で、伝えれるものってのもあるんだよ」

 

「……はっ! 騙されませんよ! ボクは個人戦じゃなくてチーム戦のほうが向いてるんです! 1対1でボクを完膚無きにまで叩き落としてプライドをへし折るつもりですね!」

 

「そういうつもりはないけど、どうなるかはユイガ次第だ」

 

「いやだーー! 出水先輩助けてください!!」

 

「今それどころじゃない」

 

「後輩よりゲーム!?」

 

 

 そんなこんなで、出水の手によって訓練室へと引きずり込まれた唯我は、シアンとの模擬戦を行うことに。いくらボーダーのトリガーに慣れていないと言っても、唯我相手に負けることはなく、10本勝負のストレート勝ちを収めていた。

 

「こんなのイジメだ……! 弁護士を呼んでくれ!」

 

「ふむ、だいたい分かったな」

 

()()()()()()()?」

 

()()()()

 

 シアンの狙いが分かっていた出水は楽しげに聞き、彼の答えに国近も頬を緩ませた。

 

「タチカワとやるにはもう少し時間いるけど、それは置いといて」

 

 項垂れている唯我の前に座り込み、視線の高さを合わせる。

 

「お前は伸び代あるよ」

 

「……情けなんて無用ですよ」

 

「情けで言うわけないだろ。ユイガは基本がちゃんと身についてる。自分の武器の長所と短所を理解してるし、有利な場所を取る立ち回りもできてた」

 

「建物ごと旋空孤月で両断されましたけど!?」

 

「それはそれ。今回は1対1だから仕方ないけど、相手を見誤らないことだな。不利な場面では引くっていう姿勢も見えたし、お前がどれだけ努力してるかは見えたよ」

 

「……!」

 

「隊に入った経緯は聞いた。想像と現実の違いに衝撃も受けただろう。でもお前はそこで止まらなかった。地道に努力を続けてきた。自己分析も欠かしてないようだしな」

 

 個人戦は向いてない。それは人によっては逃げ道を作っているだけと捉えるだろう。言い訳にしか聞こえないだろう。しかし実際はそうじゃない。A級という精鋭たちの中で、素人が戦い続けたら誰だってそう思う。

 唯我の良い点は、味方を援護できるポジションに落ち着いたこと。そのための技術を伸ばしていること。欠点があったとして、それを補うのも正解。他を伸ばすのも正解だ。それは人によって異なるだけ。木崎のように万能手足り得る者がいれば、太刀川や出水のように1つに特化した者もいる。

 

「ユイガが向いてるのは援護だろうな。それしかできないじゃない。()()()()()()()()()()お前は」

 

「!!」

 

「それが分かってるから、そういう伸び方なんだろ? 今日やった10戦全部、タチカワかイズミと共闘してる想定で動いてたようだしな」

 

「シアンさんそこまで分かるんすか」

 

「対集団戦は経験積んだからな」

 

 唯我の移動の仕方も、()()()()()()()()()()()()()()()()が含まれていた。本能的に動けるタイプではないのだから、それは全て頭で考えながら動いたということ。迷いの無さから、体に染み付いてるとも言えるがそれはそれ。敵を釣れるだけでも働きとしては十分なのだから。

 

「自分で相手を落とせるならそれもいいが、味方と共闘して獲らせるならそっちの方がいい。ローリスクハイリターンってやつだ。もう一度言うぞ、ユイガは強くなれる。お前は伸び代がある」

 

「本当ですか……?」

 

「てか、そうじゃなかったらタチカワが追い出してるだろ」

 

「面倒だから放置って可能性もありますけどね」

 

「出水先輩は鬼ですか!」

 

「それで~? シアンさんはどうしたいのかな?」

 

 わざわざここまで手間をかけた理由は何か。予想はできているけど、ちゃんと言葉にして聞きたい。

 

「オレはユイガともわだかまりなく接したい、ってのが一番大きいな」

 

 そこは唯我が自分の中で折り合いをつけるしかない。皆が分かっていることだから言葉は続けず、唯我も自分の心を見つめた。

 

「一番大きいのがそれとして~、他には~?」

 

「見抜いてくるの怖いんだけど」

 

「今のは当てずっぽうだよ?」

 

「ほんとかよ……。もう1つは、よかったらオレがユイガに戦いを教えようかなと」

 

「ほうほう。師匠になると」

 

「へ?」

 

 自分の心見つめ直している間に話が進んでいる。どういうことだと唯我はきょろきょろと周りを見つめ、出水が助け舟を出して教える。唯我が望むのなら、シアンが師匠になるという話を。

 

「な……! いや、でもボクは……!」

 

「自分の力で強くなりたいのならそれもいい。人それぞれだ」

 

「ちなみに、太刀川さんは忍田本部長が師匠だし、戦術面は月見先輩から教わったって言ってたよ~。出水くんは独学だよね」

 

「他のシューターを参考にすることはありますけどね。射手はトリオン量が威力とか弾幕にモロ直結するんで。真似る相手はなかなかいないもんなんすよ」

 

「言われてみればたしかに~」

 

 所属する隊の中でも道が違う。だが、現在最強の座についている太刀川に師匠が2人いるというのは、唯我の中で人に頼るというハードルを下げた。

 

「あ、ちなみに交換条件あるから」

 

「交換条件……ですか?」

 

 嫌な予想をする唯我に気づくことなく、シアンは頷いて口を開いた。

 

「教える代わりに金くれ」

 

「うわ……」

 

「シアンさんかっこわるーい」

 

「かっこわる……!? いや、否定できないけどさ!」

 

「あー、でもそっか。おれらと違ってシアンさんはボーダー所属じゃないから、固定給もないし防衛任務を手伝ったとしても出来高払いが発生しない。収入ゼロで、完全にヒモなのか」

 

「そうだよ! みなまで言わなくてもいいだろ!」

 

 出水がバッサリと切り捨て、シアンが膝から崩れ落ちる。アフトの金を少し持っているとしても、それはこちらでは替えられないし使えない。文字通りの無駄金なのだ。

 そんな彼の様子を見て、さらに唯我の中でハードルが下がった。さっきまでは上下関係。師と教え子の関係だった。だが、そこに金が発生するなら少し変わる。関係はそのままだろうと、唯我の中には「シアンに生活費を与える」という役割が出来上がる。

 言い方を曲げれば「シアンに生活費を与えるために、教え子の立場を甘んじている」にもなる。

 

(国近先輩が言った通りか。……この人不器用だ)

 

「ふふっ、はははは! そういうことなら受け入れようじゃないか!」

 

「なんで偉そうにしてんだ唯我」

 

「ははは、別にオレは構わんぞ。やるからにはちゃんと指導するし、やる気があるならこっちもやり甲斐もある」

 

「そりゃそうっすけど、コイツが調子乗ったら蹴り入れていいっすよ」

 

「暴力支配は断固反対する!」

 

「どう落ち着くかは、唯我くん次第だね~」

 

 かくして、唯我は師が付くことで成長を加速させ、シアンは弟子ができることで収入を確保するのだった。

 これぞまさにWin-Winの関係である。

 

「ちなみにどれぐらいお金は用意すればいいんですか?」

 

「こっちの基準分からんし任せる。最低限生活できればいいし、基本基地内にいるから金使うこと滅多に無いからな」

 

「じゃあ、月30万くらいですかね」

 

「そういうもんなのか? ならそれで」

 

「やっぱコイツぼんぼんだな」

 

「金銭感覚ズレるよね~」

 

 出水と国近の献策により、お金はもう少し抑えられたのだった。

 

 

 

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