玄界放蕩記~ゲームこそ人生~   作:粗茶Returnees

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新生活④

 

 ボーダーの戦闘員は訓練生を含め、その九割以上が中高生である。彼らの進級の仕方には学力の他に、ボーダー推薦というものがある。ボーダーと提携している高校や大学への進学を決められるもので、バカ代表の太刀川慶が大学に進学できると言えばその確実性は保証されていると言えるだろう。太刀川の場合、それでも「なんとかねじ込めた」と忍田が心労を費やしたものだが。ちなみに親は泣いて喜んだらしい。

 そんな提携校のうちの1つが、三門市立第一高等学校。ボーダー関係者が最も在籍している高校であり、太刀川隊でも国近と出水が在籍している。

 その出水は三輪隊の米屋と同じクラスであり、現在は掃除当番で教室の清掃を行っていた。

 

「早く終わらせろよ弾バカー」

 

「そう言うなら手伝えよ槍バカ」

 

「嫌だね。当番じゃねぇし」

 

 掃除が終わればボーダーに向かう。放課後にそこに行くのはいつものことで、彼らにとってそれは部活感覚でもあるだろう。部活と違って、開始時間が存在しないため時間は気楽なものだろうが。

 

「米屋くんそこにいるなら窓開けて~」

 

「へいへーい」

 

 窓際にいた米屋はクラスメイトに頼まれた通りに窓を開ける。冬の寒い空気が教室内に入り込み、寒いなと嘆きながら外から聞こえてくる声に耳を傾けた。在校生たちの話し声。いつも聞こえる賑やかな雑音の中に、何か面白そうな話題が混ざっているのを聞き取った。

 

「どれどれ?」

 

「そんな身を乗り出してると落ちるぞ米屋」

 

「支柱掴んでるから大丈夫だって。あっちの方か」

 

「何見てんだよ」

 

「んー、なんかあれだな。正門のほうがざわついてんな」

 

「有名人でも来てんのか?」

 

「出水くんは掃除して!」

 

「米屋くん、その人イケメンなら」

「殺せ」

 

 女子の言葉に被せるように男子が本音を挟む。漫画で見るような展開が現実であってたまるかという思いと、リアルでそれがあるなら許せないという高校男子らしいノリが混ざっている。

 

「この教室から正門ってちと遠いからな。中心人物は見えん」

 

「米屋。その子が美少女なら」

「私に抱かせて」

 

「だから見えないって」

 

「安心しろ! こういう時のための双眼鏡!」

 

「いいね! 助かる!」

 

「落とすなよ。お前が落ちても双眼鏡は落とすなよ」

 

「任せろって!」

 

 教室に残っていた男子生徒から双眼鏡を受け取り、窓から身を乗り出した米屋が偵察を開始する。3階から見ているため上下の角度に問題はない。部外者が来ているなら、制服じゃない人が当該者となる。

 

「あー、ひとまず男だ」

 

「イケメンか? イケメンなら整形させないといけないぞ」

 

「断髪式でもいいな」

 

「あれはイケメンの部類だな。行ってこいお前ら!」

 

「「了解(ラジャー)!」」

「そうはさせないわよ! こちらビショップ2! 手の空いている女子は至急バカ共の阻止のために正門へ!」

 

「ちょっ、委員長!?」

 

 米屋のゴーサインに従った男子生徒が飛び出し、それだけで察したノリのいい他クラスの男子たちも走り出す。それを阻止するべくクラスの委員長が掃除を放り投げて追いかけ、スマホを利用して連携させた校内放送で応援を要請した。これが第3回一校動乱である。

 盛り上がってんなぁと軽快に笑う出水は、未だに双眼鏡で正門を見ている米屋に気づいた。その様子は傍からどう見てもバカのそれである。

 

「お前まだ見てんのかよ。そっち系だったか?」

 

「ちげーわバカ。なんか見たことある気がするんだよなあの人」

 

「やっぱそっち系じゃねぇか」

 

「だから違うっての。……あ! 思い出した! あの人お前んとこの隊に入り浸ってる人だわ!」

 

「マジか……! 何しに来たんだあの人!」

 

「あ、出水くんまで……!」

 

 来るだけでとんでもない騒動を起こしているシアンに顔を引きつらせた出水は、急いで教室から飛び出していく。

 

「みんな掃除してよ……」 

 

「……手伝うから元気だそうぜ!」

 

「米屋くんのせいなんだけどね」

 

「ははははは、ごめんなさい」

 

 

 

 廊下を走り、階段はスロープを滑って下りる。急いで靴を履き替えた出水は、正門まで駆け抜けて今の原因である人物との接触を試みた。

 しかしそれは女子たちによるバリケードで阻まれる。先に飛び出していた男子たちも、そのバリケードを前にその足を止めていた。奥からは黄色い声が飛び交っており、それが男子たちの心の炎に油を注いでいく。

 

「悪い委員長、その人知り合いなんだ。通してくれね?」

 

「…………出水くんなら良し」

 

「よし行け出水! 仕留めてこい!」

 

「だから知り合いだっての」

 

 通してもらえた出水は、その人物を囲う女子たちにも退いてもらい、ようやく接触を成功する。見知った顔に出会えたことで、シアンもほっとしているようだ。

 

「何してんすかシアンさん」

 

「どうしてこうなったのかはよく分からん」

 

「部外者が来るだけで目立つもんですからね。何しに来たんですか?」

 

「お前らが行ってる学校ってのがどんなものかと思ってな。見に来た」

 

「それなら事前に言ってくださいよ……」

 

「今日思いついたからさ」

 

「自由度高過ぎでしょ」

 

 ボーダーの外をある程度自由に出回れるようになったとはいえ、思いつきで学校まで来るとは誰も予想しない。自由度もさることながら、その行動力も高いと言わざるをえない。

 出水の知り合いと分かると、元の予定通り帰宅する者、課外活動に戻る者、紹介してよと出水に頼む者等々。大幅に人が減っていく。それを受けて男子たちも解散するのだが、ボーダー関係者は逆に目が止まる。

 

「放課後だし、適当に校内を案内するくらいならいけると思いますよ」

 

「イズミの予定は?」

 

「特にないっす」

 

「なら頼む。悪いな」

 

「いいですよ別に。ひとまず、うちのクラスに向かいながらってやり方で」

 

「了解」

 

 方針も決まり、女子たちも解散させて下駄箱へ。出水は上靴に履き替え、シアンはスリッパを借りた。学校によっては土足のまま校内に入るのだが、この高校は履き替えるようだ。そこから出水のクラスへと向かいつつ、シアンが学校というものをどこまで知っているか確認した。

 

「同じ部屋ばかり続いてるのも、そのクラスってやつなのか」

 

「そうっすね。学年ごとで階が分かれてます」

 

「なるほど。そういやさっき思ったんだが、みんな同じ服なんだな」

 

「制服ですからね。学校によっては私服登校があります。大学生だとみんな私服らしいです」

 

「変な決まりだな」

 

「そういうもんですよ」

 

 学校を生徒に一定の学力をつけさせる施設。そこに時間や費用、人員を割けることは、国力に余裕があるから。近界ではそうもいかない。探せば学者だらけの国もあるかもしれないが、他国との接近に備えて軍事力を伸ばす方に注力されやすい。

 

「ここがおれの在籍するクラス。ちょうど真下が柚宇さんのクラスですよ」

 

「やっぱ他と代わり映えしないな。掲示物がちょっと違うくらいか?」

 

「そこは担任の先生の好みですから」

 

「おっ、やっぱ連れてきたか~。掃除は終わらしといたぞ」

 

「まじか。サンキュー。飲み物奢るわ」

 

「それもいいが、今は違う気分だな」

 

「お?」

 

 ニヤリと笑った米屋の視線がシアンに向く。それで察した出水がやれやれと肩を竦めた。

 

「その人とバトってみてぇ」

 

「いいですかね? シアンさん」

 

「タチカワの先約があるから、その後でいいなら」

 

「やりぃ! オレ米屋陽介」

 

 握手を交わし、校内案内の続きが始まる。成り行きに合わせて米屋も同行だ。暇らしい。

 

「柚宇さんに会います?」

 

「ユウならすぐにここを出てそうだけどな」

 

「でもあの時に見かけてないならまだいるんじゃないっすか? シアンさん見逃さないだろうし、それなら柚宇さんも声かけてそうだし」

 

「ん? 2人どういう関係なんですか?」

 

「話すと少し長くなるしややこしいぞ」

 

「そういう方面か」

 

 ややこしい話なら聞かなくていいやと米屋は追求を避ける。分かりやすい話なら首を突っ込むが、そこまで知りたいわけでもないのだ。ふと思ったら聞いてみた、それだけのこと。

 

「シアンさんっておれらが学校行ってる間何してるんすか?」

 

「ゲーム」

 

「即答だ。ま、国近先輩がいたらゲームに困らないでしょうしね」

 

「今ドラクエシリーズに手を出してる。5作目突入した」

 

「おっ、いいですよねあのゲーム」

 

 ゲームの話で盛り上がりながら1つ下の階へ。さり気なく国近のクラスに向かっているのは、彼女がきっと良い反応をしてくれると思っているから。面白いものを見たい出水なのだ。

 

「誰もいない」

 

「誰かいたら聞けたのになー」

 

「なんだ。結局ユウ探ししてたのか」

 

「どんな反応するか見てみたいなと思って」

 

「なるほどね。……ユウなら、上の方だな」

 

「え、なんで分かんの」

 

「ユウの居場所は分からんけど、黒トリガーの場所なら分かる。あれオレの体混ざってるし」

 

「はい?」

 

 訳のわからない情報に出水と米屋は顔を引きつらせた。

 

「黒トリガーってのは人の成れの果て。オレのやつは姉さんが成った形なんだけど、オレのここ剥いでそれを持ったまま成ったんだよなあの人」

 

「サイコパスにしか聞こえないんですけど!?」

 

 シアンが服の裾を持ち上げると、たしかに一部だけ痛々しい見た目になっている。シアンの経緯を考えれば、まともな治療ができたとは思えない。分かりやすくグロい話だった。

 黒トリガーは未だ未知のもの。誰もが同じことをしたとして、シアンのようになるとは限らない。算段があっての出来事だろうが、確証もないものだ。

 

「それ絶対柚宇さんに話しちゃ駄目ですよ」

 

「了解。とりあえず上行くか」

 

 校内探索から国近捜索へと方針チェンジ。行き当たりばったり旅である。思いつきで学校に来ただけのことはある。

 

「そういや、おれらがこの学校って話してないですよね?」

 

「タチカワから聞いた。放課後なら行けんじゃねって言うから来てみたんだが……」

 

「そんな気楽に出入りできるの大学くらいでしょ。最初に会ったのがうちの隊長じゃなくてよかったっすね」

 

「ヨネヤの隊長って誰?」

 

「三輪秀次ですよ」

 

「あー、ミワの隊なのか」

 

 近界民嫌いの三輪と真っ先に接触していたら、騒ぎは少し違う形になっていたかもしれない。さすがの三輪も学校で騒ぎを起こしたくはないだろうが、ミーハー女子の絡みが混ざるとなると予測不可能である。どさくさに紛れて三輪に告白する女子がいたかもしれない。

 

「この学校はボーダー関係者一番多いっぽいですよ」

 

「へ~。上の方に来ると人気ないな」

 

「文化部はいろいろ部屋を使うっぽいけど、この辺はそうでもないな」

 

「吹部が休みだからじゃね?」

 

「休みとか珍しい」

 

 推測しながら米屋と出水はふと思った。わざわざ人気が少ない場所に国近が行く理由などない。これはつまり彼女個人の都合ではないはずで、これは所謂ベタな展開なのではと。

 

「シアンさんここからは小声で、気配も消して行きましょ」

 

「ん? 了解」

 

「ノリいいな」

 

 話が見えてなくても面白そうなことだから乗っかる。思ってたよりも面白い人だと米屋の中でシアンの評価が上がった。

 

「2個先の部屋だな」

 

「それなら向こうの階段側のドアに近づきたいですね」

 

 窓に映らないように低姿勢で3人素早く移動する。部屋の中が2人ということもしれっと確認し、ドアをほんの少しだけ開けて中の声が漏れるように。強制赤裸々スタイルである。

 

「やっぱこれ告白だよな」

 

「柚宇さんわりとモテるからなー」

 

「ユウが告白する側かもしれないだろ」

 

「「いやいやいや」」

 

 お金の使い道の大半がゲームのゲーマー女子国近である。恋愛に興味があるのか怪しい。尚且つ、あったとしても学校の誰かじゃないだろと2人は否定した。

 3人が盗み聞きしているとは露知らず、男子生徒の告白が始まった。やっぱそっちかと少し残念に思いつつ、どういう返事かを待つ。結果を出水と米屋は予想できているが。

 

「告白は嬉しいけど、ごめんなさい」

 

 ストレートな拒絶。すぐにそうした理由も単純なもの。告白してくる人の大半が、体ばかり見てくる人だから。

 国近が教室を出るのを察知した3人は、急いで移動を開始。誰にも悟られることなく退散する。シアンは昇降口で国近を待つことになり、出水と米屋は陰から国近の反応を見ることにした。

 

「へ!? シアンさん!?」

 

「よっ、ユウ」

 

「え、え!? なんで!?」

 

「学校見に来た。さっきまでイズミとヨネヤに案内してもらってた」

 

「そうなんだ。びっくりした~。言ってくれたらわたしも案内したのに~」

 

「今日タチカワと話してて思いついたことだからさ」

 

 自由度高いなと出水と同じツッコミをし、靴を履き替える。案内が終わったのなら、ボーダーに戻るだけだから。

 

「制服見られるのって初めてだよね。どう~?」

 

「どうって聞かれてもな。アフトにそういうの無かったから比較対象ないし」

 

「所感でいいよ~」

 

「そっか。うん、かわいいよユウ」

 

「えへへ~、ありがと~」

 

 国近の様子が少しおかしい事に気づきつつ、告白の場面を知っていることは秘密にしないといけないため、シアンからは何も言わない。2人で並んで帰っていると、国近の言葉数が次第に減っていった。ボーダー方面のバスにも乗らず、時間をかけて歩いている。

 

「……今日ね。告白されたんだ」

 

「ほう。イズミから聞いたけど、モテるみたいだしなユウ」

 

「……いつもはね、その……やらしい目の人が多くて」

 

「……うん」

 

「今日の人はね、そういう人じゃなかったの。1回断っても呼び止められて、わたしのどういうとこが好きかいっぱい言われてね」

 

「良いやつだな」

 

「でも断っちゃった」

 

「なんで?」

 

「あんまり、その人のこと知らないし」

 

「交際始めてから知っていくこともできるだろ?」

 

「でもそれなら~。……っ」

 

「? それなら?」

 

 その後に続く言葉が出ない。それを口にしようとした途端、胸が締め付けられる感じがしたから。嫌なことを想像して、それが怖くて言葉にできない。

 

「……シアンさんはどう思うの? わたしが誰かと付き合ったら、いや?」

 

「そうでもないかな」

 

「…………ぇ?」

 

 棘が痛い。

 胸にチクチクと刺さるそれが痛い。

 

シアンさんの、ばか

 

 その棘が、抜こうとしても抜けない。

 

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