玄界放蕩記~ゲームこそ人生~   作:粗茶Returnees

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攻撃手①

 

 ボーダーの戦闘員は、実情を言ってしまえば軍隊のそれである。トリオン体という特殊な体。戦闘員であれば緊急脱出(ベイルアウト)という安全措置。普通の生活しか知らなかった世界に突如現れたSF的存在たち。それにより感覚が麻痺するものの、組織を一言で表してしまうと、やはり軍隊であり、若い兵士だらけである。

 ポジションも正確に分かれている。前衛を務める攻撃手(アタッカー)。中距離戦を担う射手(シューター)銃手(ガンナー)。遠距離担当の狙撃手(スナイパー)。それらを支援するトラッパーとオペレーター。

 連携を前提としながらも、柔軟性のある部隊運用。それを養える環境があってこそ、玄界(ミデン)は急激な成長ができた。

 

(実感は薄いんだろうな)

 

 シアンはその仕組みを二重の意味で脅威だと思っている。着々とステップアップできる環境、実戦の積み重ね。兵士を育てるのに最適。それと同時に、()()()()()()()()が起きやすい環境だと。

 遠征組なら体感して実感しているだろう。緊急脱出を開発している国を見ていないから。トリオン体が限界を迎えれば、その場で生身になる。そしてそれが命にチェックをかけられる瞬間。

 

「どうした? ぼーっとして」

 

「いや。この組織のどれだけの人間が、死を正しく認知できてるのかなって」

 

「お前さんほど認識できてる奴はそういねぇだろ。……それが気に食わねぇか?」

 

「そうは言わん。知らん奴まで気にかけるほど聖人でもないからな」

 

「どうだか」

 

 話題に出している時点で気にかけている。それが善か悪かも、シアンの性格から考えれば善の方で。その事を自覚しているのかはともかく、太刀川の脳裏に国近のシアンへの評価が過ぎった。

 

──あんまりシアンを戦いにつれ回さないでね。あの人、そういうのが好きな部類じゃないから。

 

 何を言っているんだと真っ先に思ったが、国近がそう言うなら可能性も捨てられないとも思った。その答え合わせのためにも、10本勝負をこれから行うのだ。

 

「ブースの説明は国近から受けてるな?」

 

「もちろん。わからなかったら聞くし」

 

「オッケー。通話もできるしな。お前ここに入れ。んで俺はそっちのブース入って通信を繋ぐ」

 

「了解」

 

 シアンがブースに入るのを見届け、その番号も確認する。それを覚えたら太刀川も空いているブースに入り、シアンの番号を選んで通信を繋げた。

 

「俺はいつでもオーケーだ」

 

『オレも準備自体は大丈夫。タチカワのを選べばいいんだっけ?』

 

「こっちから申請送るから、シアンは承認を押せばいい」

 

『承認ってどんな文字だ?』

 

「……」

 

 どう説明するか太刀川は無い頭を悩ませた。こっちの文字をゲームを通じて勉強しているシアンなのだが、どうやら承認はまだ覚えれていないらしい。昔のゲームは漢字が少ないから。

 

「やっぱ逆にしよう。俺がいる部屋の番号を言うからそれを選べ。触るのはそれだけでいい」

 

『わかった』

 

 シアンから申請が届き、本数の設定を終えた太刀川がそれを承認する。数秒後には転送が開始され、一定距離離れた状態で向かい合うように送り出された。部隊で行う試合とは違い、個人戦はいつもこの形式。そこも設定で変えることは可能だが、攻撃手同士なのだから弄る必要もない。

 

「さぁ、始めようか」

 

 カウントダウンはなく、音声による合図のみ。

 

「「──旋空孤月」」

 

 挨拶代わりの旋空孤月。太刀川は2本の孤月でクロス状に放ち、それをシアンが縦一閃に放って相殺する。

 

「いいね」

 

 ノーマルトリガーの扱いも様になっている。練習していたのも知っていたが、太刀川が思っていたよりも鋭い。玉狛支部で小南と模擬戦を重ねたことが、彼の完成度を高めたようだ。

 もっとも、それは太刀川の予想より上というだけで、()()()()()()()()。シアン自身が頃合いと判断したのも、それだけ自信があったからだ。

 

 距離を詰める。上段から振り下ろした孤月を孤月で防がれるも、流れるようにもう1本の孤月で突きを放つ。シアンが持つ孤月は1本だけ。残りのトリガー構成を炙り出すための攻撃だ。

 と言っても1つは見えている。スコーピオンと違い、孤月やレイガストはトリガー構成に入れていることが分かりやすい。孤月なら鞘があるし、レイガストもそれを納めるホルダーがある。シアンの戦闘服ではそれが見えにくいが、太刀川は既に見破っていた。

 

「相変わらず鋭いな……!」

 

「シアンもこんなもんじゃないだろ!」

 

 予想通りのレイガスト。剣モードにし、それで突きを逸らされる。そのまま孤月の刃に沿いながら迫るレイガストを、太刀川はバックステップで躱す。

 

「スラスターオン」

 

 一瞬の休みも許さず、追撃に飛ばされてくるレイガスト。

 人が避けにくい箇所。つまり人体の中央。そこに寸分狂わず射出されている。それをギリギリで避けながら持ち手の部分を掴み、豪速球で投げ返す。手放した孤月が地面につく前に回収。グラスホッパーで距離を調整。15mだ。

 

「旋空孤月」

 

 レイガストの左右かつ上下に斬撃の伸びの最高点がくるように放った。レイガストを避けるために左右どちらかに移動しようと捉え、上下のどちらかで避けようとも捉える。跳んで下がろうにも脚への溜めが必要であり、その時間を与えるような太刀川じゃない。

 

(これで終わらねぇんだろ?)

 

 そしてそれで終わるシアンでもない。一切の溜めなく旋空孤月の射程外に下がり、投げ返されたレイガストもバッチリ回収する。太刀川の視点からは仕掛けが見えなかったものの、当たりがつくと不敵に笑みが溢れた。

 

「他の誰もやらねぇぞ」

 

「お前らと同じにする理由もないだろ」

 

「くくっ、たしかに」

 

 ボーダー正隊員にとっての標準装備。それはシールドとバッグワームだ。どういう隊員であれ、この2つは構成に入れている。シールドは言わずもがな、バッグワームはレーダーから身を隠すため。ランク戦において必須であり、遠征でも使用頻度は少なくない。

 しかしシアンはボーダーの人間じゃない。レーダーを気にする必要がないし、遠征も国近次第だ。だから、シールドはともかくバッグワームはいらない。その分他のトリガーを入れられる。

 

(シールドはさすがに入れてるだろうが、2つ入れてるかは怪しいな)

 

 割れているのは孤月と旋空。レイガストとスラスター。そして今使ったもの。8分の5が判明。シールドの数を考慮して、残り1つか2つ。1戦目でここまで割れたのは大きい。

 

「出し惜しみすんなよ」

 

「悪いな。まだ手探りなとこあるんだわ」

 

 ノーマルトリガーを受け取った時、ある程度の説明は受けている。攻撃手用トリガーのそれぞれの特徴だったり、シールドの説明だったり。練習もした、小南相手に実戦形式でもやった。

 しかし、当然だが小南と太刀川は違う。身軽さを活かした戦い方をしつつ、高い火力に繋げるのが小南で。熟練された剣筋により正面から相手を斬り伏せるのが太刀川だ。だから小南相手にレイガストを最後以外使わなかったし、太刀川にどういうやり方が合うかも手合わせをしながら探している。

 

 小南と太刀川で共通していることがあるとすれば、どちらも二刀流ということだろう。武器1つでの戦いが染み付いているシアンは、どうしても手数で押されがちになる。孤月による1つ1つの剣が重たい太刀川相手だと特に。

 

「まずは1本。貰うぞ」

 

「オレが()()まで付き合えよ」

 

 シアンが戦いながら模索しているのは、太刀川相手に実力を発揮できる戦法。具体的にはサブトリガーの使い方。それを見つけた上で勝つためにも、序盤の勝負の重要性が高い。

 

「次のプランだ」

 

 

 

□□□

 

 

 

 ボーダーには大型モニターがある。部隊のランク戦を観戦するためのものであり、そこでは実況と解説がつく。それは訓練生たちに限らず、正隊員にも実のあるものだ。

 それと同じように、個人戦のブースが用意されている場所にも大型モニターがある。こちらは実況と解説がないが、正隊員の個人戦が見れることもある。そのため、空閑のような大型新人だったり、太刀川のように知名度の高い隊員が個人戦を行うと自ずと訓練生の目が集まる。そしてその様子に正隊員たちも視線が誘導され、時に大観戦が始まることも。

 

 現在それがまさにそれが起きており、太刀川の10本勝負の様子が訓練生たちをざわめかせている。

 

「なんやえらい盛り上がっとんな。なんかあるんか(カイ)

 

「お疲れ様ですイコさん! これはアレですよ!」

 

「アレか。太刀川さんやん」

 

「太刀川さんの相手も強いんですよ! 序盤は押されてたんですけど、3本目からは互角です!」

 

「マジで? やばいやん。海最初から見てたんか」

 

「さっきそこで聞きました」

 

 ツッコミはなく2人の会話が続いていく。やばいのオンパレードになりつつも、話は次第に「俺も戦いたい」という方向へ。

 

「太刀川さんのが終わったら頼んでみよかな」

 

「イコさんおれが先約入れてるんでその後にお願いしますよ」

 

「米屋やん。それならその後にするわ」

 

「これはもっと盛り上げなあかん予感!」

 

「何する気だ……」

 

 米屋に生返事をしながら海はきょろきょろと辺りを見渡し、見知った攻撃手を見つけるとそこに突撃。何やら話をしてその人物を連れて戻ってくる。

 

「って鋼やん」

 

「太刀川さんとこの勝負してる人ですからね! 上位陣との試合も見たいなって!」

 

「オレとしても経験を積みたいですからね。向こう次第ではありますが」

 

「てかぶっちゃけ、太刀川さんが本当に10本で終わるのか怪しいよなぁ」

 

「米屋予約入れとるって言うてなかった?」

 

「太刀川さんの相手、シアンさんには取り付けてあるんですけどね。太刀川さんの後ってだけなんで、これの後とは限らないんですよ。取り付けたのもこの前だし」

 

「そうなんか」

 

 数人が順番待ちしていると分かれば、太刀川もさすがに弁えるはずだ。少なくともシアンの方から太刀川に話が通される。

 そうなることを願いつつ試合を観戦し、試合が終わると連戦ではなくブースから出てきたのを見て一安心。飲み物でも買いに行くのか、自動販売機がある方に向かっている。

 

「最初の2本が痛かったなー」

 

「結果は6対4。負けは負けだぜ」

 

「分かってるって。おかげで掴めたしな」

 

「休憩の後にもう10本入れようぜ」

 

「ちょっと待ったー!」

 

「ん?」

 

 やはり10本だけで終わることはなかった。2人を追ってきてた米屋たちが静止を入れ、人が集まっていることに気づいた太刀川とシアンが若干引く。

 

「太刀川さんの後に試合するって予約入れてあるんすよ」

 

「そうなのか?」

 

「ヨネヤはそうだけど、もしかして他の人も希望者か何か?」

 

「全員5本でいいんじゃね? その後に俺が10本な」

 

「あのな……」

 

 さらっと自分だけ10本にしようとする太刀川にブーイングが入る。ノリノリでやっているのが海だが、彼は「自分は5本でいい」と思っているので完全にノリだ。

 そうして場が温まっていく中、さらにそこに乱入者が。

 

「いたわね!」

 

「小南ちゃんやん。珍しい」

 

「たしかに小南が来るのは珍しいですね」

 

「あんたね! あたし放ったらかして何してんのよ!」

 

「「ん??」」

 

 その場にいた全員がその発言に疑問を抱く。シアンは何の話だという疑問。それ以外の人が、どういう関係なんだという疑問だ。その声が耳に届いている訓練生の中には、邪推する者までいる。

 

「あんなお預け……初めてだったんだから! 責任取りなさいよ責任!」

 

「お前小南のどら焼きになんかした?」

 

「何もしてないが?」

 

 誰も間を取り持たない故に、場は混沌を極めていく。藪蛇はゴメンなのであった。

 

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