玄界放蕩記~ゲームこそ人生~   作:粗茶Returnees

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攻撃手②

 

 国近柚宇の最近のボーダーでの生活と言えば、そのほとんどの時間をシアンと共に過ごしている。だいたいセットなのだ。とはいえ、基本的に作戦室でゲームをするのが国近の生活なのだから、そこまで大きな変化とも言えない。今日みたいに太刀川がシアンを連れ出す日も、今後は増えることだろう。

 

「ボクはてっきり国近先輩も試合を見ると思ってたんですが、見ないんですね」

 

「うん。シアンさんが戦う姿ってあんま好きじゃないから」

 

「もしやボクの訓練のあれはカウントされていない?」

 

 頭の回転が悪くない唯我の呟きを、国近は聞こえなかったことにして指を動かす。ゲームしながら他のことに思考を割くのは本来難しいが、国近にとってこの程度のマルチタスクなど容易なのである。

 

「……シアンさんって、戦ってる時結構怖いんだよ」

 

「それは本気の時ってことですか?」

 

「うん。太刀川さんクラスが相手だと、たぶんそうなる。大規模侵攻の時がそうだったから」

 

 参戦すると決めた時の様子も、エネドラと戦っている時も。国近の前だから抑えていたのだろうが、普段の様子からは考えられない冷徹さがその奥にはあった。そしてそこに同時に混ざる感情。国近はそちらの感情の方を大切に思っている。

 

「だから戦ってほしくないんだけど……、手合わせくらいならシアンさん楽しむっぽいし。困った人なんだよね~」

 

「そこまで困ってるようには見えないんですけど……」

 

「柚宇さん柚宇さん。今手空いてる?」

 

「どした~?」

 

 手は空いてないが会話はできる。部屋に入ってきた出水に声だけ返した。出水もそれで取り込み中だと判断し、どうしようか一旦悩んだ。

 

「出水先輩今日は個人戦で暇潰しするって言ってなかったですか?」

 

「そのつもりだったんだけどな。ちょっと面白いことになっててさ」

 

「面白いこと?」

 

「シアンさんが注目されてるとか?」

 

「半分正解です。……今の展開的に、柚宇さんオコになるかもですけど」

 

「……ほうほう」

 

 キリがいいところまで進めようとしていた手を止める。その場でセーブして、国近はゲームの電源を落とす。グッと腕を伸ばして体を解すと、よしと呟いてにっこりと出水に微笑んだ。

 

(やべっ、ミスった)

 

 言葉を間違えたことを後悔するもそれは遅い。

 

「説明と案内してくれるよね? 出水くん」

 

「はい……」

 

 他人事のように見ていた唯我も、巻き添えで連行されたとか。

 

 

 

□□□

 

 

 

「設定も完了し、開始まで残り5分を切りました! 観戦者も多いことから、この戦いの注目度の高さが伺えます!」

 

「上位攻撃手たちの勝負ですからね。チーム戦ではなく個々人の試合。個人戦しかできないC級隊員たちにとっては、ある意味ランク戦より見所があるでしょう」

 

「なるほど! ところで迅さんは参加されないんですか?」

 

「それでもよかったけど、攻撃手の解説者が必要だと思ってね。ランク戦ならまだしも、こういうのだと風間さんは関わらないだろうし」

 

「実際断られました! ありがとうございます迅さん!」

 

「どういたしまして」

 

 ランク戦の観戦は客席があり、実況席と解説席も用意されている。今回はその部屋の1つを使用し、実況を海老名隊の武富(たけとみ)桜子が、解説を玉狛支部の迅悠一が務めている。

 実は武富、ランク戦に実況と解説をつけるべきだと上層部とエンジニアに訴え続け、この形を作り上げた人物である。実際にボーダーの隊員の成長を促進させており、陰の功労者の1人だったりする。

 

「人が増えてきたので、改めてこれまでの経緯を軽く説明させていただきます。謎の人物シアンさんとの勝負を希望する攻撃手が複数人おり、そこに小南先輩も乱入。何やらひと悶着あったところで、全員まとめて勝負しようという結論に」

 

「シアンさん1人対他ではなく、参加者全員が敵同士というルール。バトルロイヤルというわけですね」

 

「そうです! 参加者は件のシアンさん、太刀川隊長、生駒隊長、村上隊員、米屋隊員、小南隊員。そして巻き込まれた影浦隊長の計7人です!」

 

「スコーピオン使いを混ぜたいって話になったらしいですね。風間さんが断って、影浦隊長に白羽の矢が立った」

 

「元々村上隊員と勝負する予定だったようですし、完全に巻き込まれ事故ですね」

 

「参加してるあたり、影浦隊長もシアンさんと1戦交えたくなったのだと思われます」

 

「このメンバーでのバトルロイヤル……控えめに言っても贅沢ですね」

 

「今後あるかも怪しいですし、これは必見ですよ」

 

 攻撃手1位、3位、4位、6位がいて、孤月を改造して槍にした米屋と、元々1万ポイント以上持っていた猛者の影浦がいる。これ以上の顔ぶれを集めるのはなかなか難しいものだろう。

 

「7人での戦いとなると、試合の展開が予測できないですね。近い人同士で戦うのでしょうか?」

 

「さぁ~、それはどうでしょうね」

 

「……含みがありますね」

 

「そこは見てのお楽しみということで」

 

 迅には未来予知がある。戦いがどういう展開に転がるのか、それが何パターンも視えているのだ。しかし言ってしまうと観客に水を差してしまう。エンターテイメントを大切にする迅なのだった。

 

「ただ、1つだけ言うとすると」

 

「なんでしょう?」

 

「見応えのある試合になるはずですよ」

 

 

 迅が場を温めていることなど露知らず、シアンは個人ブースの中で正座していた。気持ちを作るためでもなく、精神統一のためでもない。目の前で頬を膨らませている国近に真摯に向き合うためだ。出水と唯我はそそくさと退散している。今頃の上の客席で羽を伸ばしていることだろう。

 

「シアンさん、ほんとうに大丈夫なの?」

 

「手合わせの範疇だから、ユウが気にかけるほどの事にはならないと思う」

 

「みんな上位攻撃手なんだよ? シアンさんが一番狙われることになるだろうし」

 

「その時はその時。それに、ここのシステムなら相手を倒しても本体がその場に残るわけじゃないだろ?」

 

「そうだけど……」

 

「相手が死なないと分かってるから、気楽にできるって」

 

 相手を死なせることがない戦い。ボーダーの正隊員たちはその感覚が体に染み付いている。だから個人戦でもランク戦でも躊躇なく戦うことができる。極一部の例外もいるが、上位陣ともなれば寸分の迷いもない。それをシアンも理解している。だから今も気楽に構えていた。

 けれど国近は懸念している。相手を死なせることがないと分かっているからこそ、躊躇いのない戦いだ。その感覚は殺し合いとそう変わらないだろう。シアンにとってそれはこれまでの戦い(殺し合い)と同じだ。脳内がそちら側にシフトしたら、お祭り感覚ではなくなる。

 

「ならさ、ユウがここにいてくれないか?」

 

 納得しきれていない国近に、シアンは柔らかく微笑んだ。

 

「ユウがここから見てるって分かってれば、ユウが心配するようなことにはならないと思う」

 

「なんでそう言えるの?」

 

「オレがユウに笑っていてほしいから」

 

「っ!! な、なんでっ、そういうこと言うかな~」

 

 下手に隠すと先日のようなすれ違いになるからだ。

 

「殺し合いは好きじゃないけど、競い合いは好きなんだ。だから今後も誰かと模擬戦することはあると思う。その度にユウを不安にさせるのは嫌だし。ならユウが安心していられるようにするしかないだろ? それを今日証明しよう」

 

「……はぁ~。シアンさんも男の子だね~」

 

 今後はやらないと言うのではなく、国近が懸念しなくていいように戦う。自分の我儘も、国近のこともどちらも通すやり方。本当にそうできるのであればその方がいい。

 それなら、シアンがそう言うのなら、信じて待つのが自分の役目だ。

 

「指切りしよ~」

 

「指切り? なにそれ怖いんだけど」

 

「いいからいいから。小指だして~」

 

 小指を立てて彼へと伸ばす。それを見て彼も戸惑いながら真似た。伸ばされた小指を自分の小指と絡める。男の子と女の子で違うんだなぁとぼんやり思いながら、指切りの時の言葉を紡いでいった。彼への気持ちも込めて、詠う。

 

「楽しんでね。シアンさん」

 

「ありがとう。楽しむ範囲でやってくるよ」

 

 

□□

 

 

 戦うマップは市街地A。いたって標準的なマップであり、地形の癖もない。今回の形式が形式であるため、最も戦いやすいマップが選択された。転送の方式はランク戦と同じ。全員が一定の距離を取ってランダムに転送される。

 あくまで個人戦の延長線上である戦いだ。オペレーターはつかない。特殊な試合でもあるため、ポイントの増減はなし。そもそもシアンがポイントを持っていないのだから当然だ。

 

(さてと、誰がどこにいることやら)

 

 シアンとしては誰かを狙って動く気はない。近くにいる人から戦闘を開始するつもりだ。

 しかしこの初動の時点で、シアンは他の攻撃手たちより出遅れることになる。

 

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 元々時偶個人戦に付き合う程度でしか考えていなかったし、有事の際も国近の側にいるつもりだった。だからレーダーのことなんて知らない。

 そして勘のいい隊員なら、この初動の遅れで絞り込んでくる。

 

「おっと」

 

 遠くから投げられてきた剣を避ける。地面に刺さった2本の剣が静かに姿を消していったことから、それがスコーピオンのものだと分かる。そして今回の参加者の中で、スコーピオンを2つ編成している攻撃手と言えば。

 

「ウザってぇ事に巻き込んでくれたんだ。楽しませてくれよ」

 

「スコーピオン使いか。いいね」

 

 家の上から跳ぼうとした足を影浦は止める。シアンが動いたからだ。降りようとしたのが読まれていたようで、そのタイミングを狙ってシアンが駆けている。足を止めた影浦にシアンはニヤリと笑い、射程に入ったところで旋空孤月を放つ。サイドエフェクトで感じ取っていた影浦もそれを避け、スコーピオンを伸ばして家の塀に引っ掛け、素早く道路に飛び出る。

 

「へー。そういう使い方もできるのか」

 

「悠長に感心たぁ余裕だな!」

 

 スコーピオンの特徴は変幻自在であること。体のどこからでもその刃を出せること。この2つが真っ先に上げられる。また、孤月やレイガストに比べて重さがほぼ無いという利点もあり、小柄な隊員や俊敏さを売りにする隊員がよく選ぶトリガーだ。

 影浦はその多様性を存分に引き出す攻撃手である。今行った移動技も、そして彼の代名詞と言われている技も。

 

「っ!」

 

「へっ。そうでなくちゃなァ!」

 

 スコーピオンを繋げることで射程を伸ばす荒業『マンティス』。言葉にすれば簡単だが、それを実用レベルで扱える攻撃手は数少ない。初見で使われると、何が起きたか理解できずに落とされる。

 それにシアンは反応し、影浦も口角を上げた。それで落ちる相手とは思っていなかったから。

 

 影浦が腕を振るい、シアンが孤月で迎え撃つ。影浦は風間や迅とは違い、スコーピオンを刀の形にして扱うことが少ない。基本的に腕や手から生やして戦う。その上、多用するのは伸びるスコーピオンことマンティスだ。鞭のようにしなるその刃は軌道が読みづらい。

 

「生憎と、その手のものは経験があるんでね!」

 

 普通の刃では信じられない動き。それを防ぎ、掻い潜りながらシアンは前へと踏み出す。マンティスの間合いでは孤月の刃が届かない。旋空孤月を使うには近すぎる。射手と銃手泣かせのその戦い方は、近距離戦を行う攻撃手にも優位に立てる。だから攻撃手は味方の援護待ちか距離を詰めるかの2択になる。

 そして今回の場合、援護などないのだから前進しかない。

 

 孤月の間合いに入りかち合う。太刀川と切り結ぶその剣速を、しかし影浦も負けじと反応している。

 

「ちょい、この手のやつは詰められたら日和るのが定番だろ!」

 

「知るか!」

 

 マンティスをよく使うからといって、近距離戦が劣るような影浦ではない。むしろ強者とのその戦いは好物である。

 ただ、1つ誤算があったとすれば、孤月1本で攻守を成り立たせているシアンの剣速だろう。

 

 重量がほとんどないスコーピオンによる二刀流。剣を持つのではなく、刃を生やして戦うスタイル。それは剣術というよりも喧嘩に近いものだ。迫る刃を1つ防げば、反対側からもう1つの刃が迫る。剣速改め拳速。剣を振るうよりも身軽に腕を動かしている。

 それをシアンは捌き切る。片側から迫る刃を迎撃し、そのまま攻撃に転じることで反対の刃を防御に回らせる。策もない試合なら、個人での駆け引きがあるのみ。そして、駆け引きを成立させ、攻守を作らせることで手数の差を補っている。それに一役買っているのが、孤月とスコーピオン。トリガーの性能の違いである。

 

(かち合ってもスコーピオンの耐久度に限界がきやがる)

 

 限界を迎えてもまた作ればいい。消費トリオンの少なさ、そのコスパの良さもスコーピオンの利点の1つである。

 問題はそのタイミングだ。シアンの剣速は速い。間に合わなければダメージを負うし、遅くても限界を迎えてそのまま斬られる。だから影浦は頃合いを見切ってスコーピオンの刃を新たに生成している。この駆け引きが成立することで、2人は拮抗していた。

 

「うはー。孤月でその速さってやばいでしょ」

 

 その終わりは突如やってきた。いや、今回の試合の起点を考えれば当然か。

 横から聞こえた声にシアンは反応し、影浦と弾かれ合うように距離を取る。その直後に、近くにあった壁や電柱が切断されている。影浦の次にシアンに近かった米屋が乱入し、旋空孤月を使ったようだ。

 

「太刀川さんに張り合うだけありますね」

 

「チッ。もう邪魔が入ったか」

 

 サイドエフェクトで察知していた影浦は悪態をついた。これでもかと露骨に攻撃的な視線を米屋が送ってきていたのだ。独り占めするなと言外に意味を込めて。

 

「太刀川とやって改めて実感してな」

 

「何をですか?」

 

「剣って片手よりも両手で振ったほうが強い」

 

 米屋と影浦は全く同じことを思った。

 

「バカだろお前」

 

 影浦は口にした。

 

 

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