2つの戦場。そのどちらからも1番離れていた小南桐絵は、どちらに行くかという選択肢があった。それと同時に賭けでもある。小南もまた狙う相手がシアンで、それ以外に興味がない。玉狛支部で行った勝負の決着が残っているから、それも相まって他の攻撃手が眼中になかった。
味方もいなければオペレーターもいない。その戦場にそれぞれ誰がいるのかも分からない。分かるのはレーダーによる位置情報のみ。どちらも3人ずついてなおさらに迷った。
戦ったからシアンの実力は分かっている。そう簡単に落とされないという信用もある。だが、上位の攻撃手2人を同時に相手取ったら、もしもがあるかもしれない。
時間が惜しかった。迷う時間など無駄でしかない。小南は直感に従い移動を開始。
戦いにおいて高所が有利とされるのも理由がある。まず射線が通ること。できる仕事を増やすためにも、銃手や狙撃手はそこを抑えるのが鉄則とされる。射手も編成によっては当てはまるが、出水や那須のようにリアルタイムで毎回弾道を引く人は例外だ。
次に、視界が捉える情報を増やすこと。索敵という点でも高所は有利だ。障害物が少なく、陰に隠れている人以外は視界が捉える限り見えるのだから。
だから小南もそうする。屋根から屋根へと移動しながら、極力高い位置を取って戦場へと近づく。今向かってる場所にシアンがいないと分かれば、すぐにもう1つの場所に迎えるように。タイムロスを減らすためにも、高所を取りながら最速で移動した。
「いた」
遠目にシアンの姿を確認できた。他には米屋と影浦がいる。
極力気配を消しながら迅速に接近。家を1つ挟んで向こう側に3人いる距離まで近づくと、今いる場所から道路へと飛び降りながらメテオラをセット。間にある家を吹き飛ばす用と、残りは適当に牽制用。
着地に合わせてメテオラを半分発射させる。誰にも気づかれていないから、メインとサブの両方を使ったメテオラフルアタック。半分だろうと威力と数は十分。
一瞬でレーダーを確認。運の悪いことに丁度1人が爆破される家へと近づいていた。
メテオラが家に着弾。爆発し、倒壊していく家とそれでバランスを崩した米屋を走りながら視界に捉え、コネクターを起動させる。双月を1つの斧へと変えるトリガー。自分専用のもの。それに合わせて時間差で残りのメテオラも2人に放っておく。
瓦礫に紛れようと最初に視界に捉えていたから問題ない。向こうもこっちに気がついたけれど、もう遅い。跳躍し、高さを合わせ、すでに振りかぶってる。
「ちぇっ、もう少し遊びたかったなー」
そんなことは知ったことではない。小南はどこか冷めたような顔で、その瞳には僅かな怒りも灯しながら双月を振り抜いた。
米屋を
「あ・ん・た・は!」
顔を見たら勝手に口が開いていた。込み上げて来る妙な感情にさらに苛つく。それをぶつけるように、彼へと双月を振り下ろす。
「あたしだけにしとけばいいのよ!」
「誤解しか招かないことを叫ぶな!!」
そんなの知らない。それもこれも目の前の彼が悪いんだ。
□□□
「あーっとここで小南隊員が奇襲! 米屋隊員を落としてそのままシアンさんへと襲いかかる!」
「米屋隊員は運が悪かったとしか言えませんね。ただ、小南隊員も今回の特別仕様をよく理解して奇襲してます」
「と、言いますと?」
「オペレーターの存在です。C級隊員にはまだ実感の沸かない話だと思いますが、正隊員は任務やランク戦で必ずオペレーターの援護を受けます。常にマップ全体が見えていて、バッグワームを使われない限りその動きを把握できる。なので敵が寄ってきてることも、戦闘員は視界に捉えなくても把握できるわけです」
「そうですね。わたし達オペレーターにとっては基本中の基本として教わります」
「そう。その恩恵が今回はない。バッグワームを使う必要もないし、戦っている当人たちは戦闘に意識を割くのでレーダーを見る余裕もない。その結果、A級の米屋隊員でも奇襲に完全に飲まれたわけです。タイミングはあれ狙ってないでしょうから、事故みたいなものですけど」
「ということは、米屋隊員以外でも同じ結果になったと考えていいのでしょうか?」
「基本的にはそうでしょうね。影浦隊長はサイドエフェクトがあるので例外として、太刀川隊長みたいに足場を自在に作れるグラスホッパー持ちだと、話は違ったかもしれません」
「なるほど」
「付け加えて言えば、シアンさんが戦闘に集中しているので、余計に米屋隊員も周囲への意識を削がれたわけですね」
レーダーの存在が頭にないシアンは、自分の認知する範囲がそのまま情報の入手源だ。他の乱入も頭にはあるが、先に倒せるのならその方が後々楽になる。だから集中していた。そして小南には、それを利用して確実に奇襲を決めるだけの実力がある。そのサイドエフェクトで察知できる影浦でも、あのタイミングなら手痛いダメージを貰ったことだろう。
「さて、ここからの展開にも注目したいですね」
□□□
太刀川たちの戦闘箇所と、シアンたちの戦闘箇所。どちらも3人ずつではあるが、その内容は違っていた。村上と生駒が手を組んだことで、太刀川は完全なる1対2の状況。シアンの方だと、影浦と小南が手を組まないので1対1対1。だが、小南はシアンにのみ攻撃するため、少し特殊な戦況だ。
双月を振るう。コネクターを使用すれば高い火力を出せる戦斧になるのだが、その分使い道が限られる。確実に相手を仕留められるタイミングでなければ、その使用は控えたい。
支部で行った戦いで嫌というほど理解させられた。シアン相手に斧モードにすると、それは隙を自ら作るだけの行為になるのだと。
単純な話だ。破壊力が増す代わりに、二刀の時よりも速度が落ちる。それは誤差程度のものだが、その差が大きい。さらには、斧の方が動きを読まれやすい。だから小南は、双月を繋げずに戦うことを選んでいる。
(もやもやするけど、ここは我慢!)
小南の性格から言えば、斧モードで豪快に倒したいというのが本音だ。もしくはメテオラを織り交ぜて戦う。しかしメテオラを使うなら、それはそれでメテオラに繋げるための戦闘運びが求められる。主導権を握らなければ決まらない。
そこがまさに綱引き状態だった。
双月のリーチは孤月より短い。それを活かすためにシアンへと張り付く。その距離では孤月を使う方が窮屈だ。
そこに遠慮も容赦もない影浦の攻撃が伸びる。2人諸共貫こうとするその狙いは、シアンが寸前で躱した。背後からの攻撃であっても、まだそちらに意識を割けていて反応できた。
それを喰らったのは小南だ。シアンの体で見えていなかった小南は、彼の動きで理解するも反応が僅かに遅れた。シアンの胸の高さは小南にとっての顔の高さ。眼前に飛び出してきた刃を、小南は驚異的な反応速度で致命傷を避けた。頬を斬られるも、比較的浅い傷だろう。
(気は乗らねぇが、余裕残してんのもウザってえ)
邪魔をするなと目で訴えてくる小南を無視し、影浦はため息をつきながら髪を荒く掻いた。本当なら明確な終わりが来るまで1対1で遊んでいたい。だがシアンはまだ余力を残した状態だ。
互いの全力でぶつかりたい。どうせなら1対1で。
けれど小南が邪魔だ。そしてランク戦と同様に時間制限もある。小南が負けるのを待っていては、残りの時間が足りなくなるかもしれない。
──仕方がない。本当に仕方がない。
影浦に目で訴えた瞬間を狙った一閃。小南に迫る孤月。それをマンティスで牽制することで中断させる。
影浦が小南を守った。それに意外そうにしながらシアンは2人から距離を取る。
「助けなんて求めてないんですけど」
「うるせェ。共闘だ。勝つならこいつの全力を引き出してからの方が気持ちいいだろ」
「……それもそうね」
玉狛支部での勝負は、互いに制限がかかっていた。小南ならメテオラを使わず、シアンなら孤月一本。最後だけレイガストを使われたがあれはノーカウント。
双方が縛りのある状態。その勝負も悪くはないが、全力を出し合った上で勝ったほうが気持ちいいというのも頷ける。
そして今も、シアンが余力を残しているのは小南にも分かっていた。もう1つの場所で戦っている太刀川。彼との勝負を想定しているのだろう。それは気に食わない。
「言っとくけど、あたしに連携なんて求めないでよね」
「勝手にしろ。勝手に合わせてやる」
連携が苦手なわけじゃない。下手に合わせては足を引っ張り合うだけだと分かっているから、小南は好きに動くと宣言した。それに影浦は同意する。自分のサイドエフェクトは乱戦向きだが、マンティス自体は援護にも向いている。ならば今回はそちらに回る。状況次第では変えるが。
「上等。行くわよ!」
小南が双月を構えて突っ込む。
「メテオラ!」
駆け出しと同時にメテオラも発射した。ちゃっかり旋空の間合いを取っていたシアンの出だしを崩すために。本人へ向けるだけでなく、その足元も狙う。集中させるのではなく広げて放ち、面攻撃にした。
メテオラは爆弾だ。その爆破範囲にこそ真価がある。直撃しなくても、爆破範囲内であればノーガードの場所を削られるのだから。
「旋空孤月」
適正距離ではないが、旋空孤月をシアンは使った。最上段のメテオラを両断し起爆させる。ついでに小南も狙ったが、そちらは姿勢を下げることで避けられた。
残っているメテオラは角度をつけられている。タイミングを合わせて後方へ大きく跳べば回避可能だ。
「そうするだろうな」
跳ぶタイミングを狙って影浦が物質化した剣のスコーピオンを投げ飛ばす。
それを孤月で防ぐも、今度は着地際を小南が狙った。タイマンの時では使用を控えていた斧モードで。
「スラスターオン」
急いでレイガストをホルダーから取り出し、緊急脱出代わりにスラスターを使う。避けるためではなく、カウンターとして。剣モードではなく盾モード。剣モードだと
「ぶにゃっ!」
盾を顔に押し付けられ小南は、可愛くも変な声を出した。しかしただでカウンターをさせる小南ではない。斧モードの双月から片手を放し、レイガストの盾をずらした。
「っ!」
「逃がすかよ!」
シアンもレイガストから手を放し、地面を強く蹴る。小南によってずらされたレイガストの方へと飛び込むために。ずらされた盾を再度盾として有効活用するために。
だが影浦の反応速度も速かった。そしてスコーピオンを巧みに操るその実力を見せつけた。
レイガストの盾を活用し、その次の隙もなくすために飛び込み前転をしたシアンだったが、その左肩からトリオンが漏れていた。その量は多くないが、傷は完全に肩を貫通している。
「
「ようやく傷を負ったな。ここからだぜ」
モールクロー。マンティスと同じ要領で、その距離を伸ばしたバージョンだ。小南を避けた上で盾も避けて攻撃を当てるのは難しい。だから下から狙った。
案の定シアンにとっては想定外。胸を刺せればそれで終わりだったのだが、そこは間一髪といったところか。
「いいね。楽しくなってきた」
獰猛に笑う影浦と、不敵に笑うシアン。
その勝負の決着は、着々と近づいているのだった。
「あたしを無視してんじゃないわよ!」
柚宇さんを出せないことに過去の自分を呪ってます。