玄界放蕩記~ゲームこそ人生~   作:粗茶Returnees

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攻撃手⑤

 

 個人戦のブースは、個室でありながらも少し広い。同じ部屋に5人までなら、窮屈な思いもしないことだろう。そのため、仲のいい人と同じブースに入る人もいる。

 ボーダーはどこにでもモニターがあると言えるくらいその数が多い。個人戦のブースにもそれぞれある。だから国近は、シアンの戦いをその部屋の中から見守っていた。

 

 驚き、感心し、刃を交える。

 戦いを純粋に楽しむその姿は、太刀川たちのように好戦的な攻撃手と重なっている。

 それ自体は悪くない。「楽しそうだな」「男の子だな」と思いながら見ていた。小南の相手をしている時は胸の中に靄がかかるが、それも今はいい。今は懸念が勝っているのだ。

 

「シアンさん……」

 

 無意識のうちに彼の名前を呟いた。当然、その声は届かない。

 画面に映る彼。誰よりも側にいると自認しているのに、遠く感じてしまう人。それは知らない一面があるから。初めて見た時に抱いた思い。それに関することは何も知らない。

 けれど予感はある。

 今のままでは不味いのだと。

 

 国近はゲームを通して彼の性格を知っている。自分と同じ負けず嫌いだ。彼の場合、それはゲームに限った話じゃない。太刀川とよく張り合う。

 戦闘も例外ではない。

 全力を出して負けるならまだ受け入れられよう。余力を残して負けては、自分を叱ることだろう。

 今よりさらに集中力を増せば、押され始めている状況を立て直せるかもしれない。彼はきっとそうする。そうしてしまう。

 

 予感が正しければ、それは国近にとって見たくない姿だ。

 けれど同時に信じたい気持ちも抱いている。そうならないようにすると言ってくれたのだから。

 

「シアンさん」

 

 今度は意図して言葉を紡いだ。

 祈るように。胸の前で手を重ねて。

 

 

 

□□□

 

 

 

 勢力が入り乱れた戦いと、整った戦いとでは全く違う。全員が自分以外を警戒して戦うのであれば、目の前の敵にのみ集中することはできない。漁夫の利を取られるのが関の山だ。シアンにのみ攻撃していた小南でも、影浦の動き自体は警戒していた。

 全員が全員、完全に前のめりにはならない。だからこそ余裕が生まれてくる。

 

 それが今はない。

 影浦と小南が完全に手を組んだ。攻撃手3位と元1万ポイント以上の攻撃手。即席であろうと、お互いの手の内を知っているから連携も可能だ。この2人ほどの実力者なら。

 何よりも、役割を割り切っている点がその力を存分に引き出させているのだろう。小南が突っ込み、影浦が援護する。

 

 性格で言えば影浦も最前線で戦うタイプだ。強者との戦いを楽しむ。だが、彼の代名詞たるマンティスが援護も可能なトリガーである。しかも小南のトリガー構成は援護に向いてない。この形になるのは必然だ。

 

「ははっ、これはまいったな」

 

「まだ笑う余裕があるのね」

 

 空元気だ。この2人を本当の意味で同時に相手にするようになって、余裕を残せる相手の方が珍しい。シアンの知り合いの中でも、それができる人物は片手で収まる人数しかいない。代表格はヴィザ。

 

 シアンは迷った。この2人の狙いは、シアンに100%の集中をさせて、その上で勝つこと。全力を引き出させないと満足できないから。

 しかしシアンはそれをしたくない。その状態こそ、国近が見たくない姿なのだから。シアンもそれをしないと約束している。

 

「エンジョイ勢ってのは許されないか」

 

「負けた時の言い訳にでもする気? カッコ悪いだけよ」

 

「たしかにな」

 

 どうせなら勝ちたい。やるからには勝ちたい。

 どちらを選ぶか。

 たとえカッコ悪いことになっても、国近との約束を守り通すか。それとも2人に勝つために最大限集中して挑むか。

 

()()()()()()

 

「……?」

 

 国近との約束を守った上で、小南と影浦に勝つ。どちらかしか選べないと考えるのではなく、どちらも選ぶために考える。決められた選択肢の中で戦うのは、ゲームの世界だけだ。

 だから、90%代までにする。そのギリギリを保つことにした。

 

 一旦太刀川のことを忘れる。この場にいない攻撃手のことも忘れる。意識を割いていて勝てる相手ではない。

 

 旋空を使うには短過ぎる距離。ならば、最速で詰めるだけ。

 

「っ!」

 

 距離を詰めたときに最速で放てる攻撃は何か。それは突きだ。当人の速さと武器のリーチ。それらによってばらつきは出るが、武器を伸ばすだけで攻撃が成立するのだからそれより速いものはない。到着がイコールで攻撃を意味している。

 それを小南は双月を胸の前で交差させて防ぐ。突きの厄介さは速度だけじゃない。()()()()()()()()だ。剣を振るうのなら、その刀身のどこであろうと防御を成立させられる。しかし突きは点だ。武器が細いほどに防ぎづらい。そして、防いだとしても攻撃した人間次第でその破壊力はその一点に凝縮される。

 

「チッ!」

 

 シアンの突きを防いだ小南が後方に飛ばされる。入れ替わるように影浦が仕掛けた。体のどこからでも出せるというスコーピオンの特性を使った変則二刀流。

 突き出した孤月を体ごと引く。後方に少しずつ下がりながら影浦の攻撃を流していく。右から、左から。交互に迫る攻撃を捌いていく。下がる速度、方向。それを調整することで、影浦の刃が自分に届く時間を乱れさせた。手数が劣るのなら、1本で捌けるように動くのは当然だ。

 それだけでなく、飛ばした小南から距離を取るのも狙いだ。連携されては押される。ならば、一時的にでも片方を射程外に飛ばす。1対1の状況を作り出す。

 

 大きく後ろに下がらないのは、影浦がそうさせないから。マンティスの間合いで戦ってしまうと、そこから大きく下がられた時に対応できない。逆に距離を詰めてしまえば、大きく下がろうともマンティスで追撃ができる。

 

「やってくれたわね!」

 

 飛ばされた小南が素早く復帰する。一直線にシアンの下へ戻るのではなく、射線を通すために屋根の上へ。

 

「メテオラ!」

 

 狙いは直撃ではなく、彼の後方。後退させないための妨害行為。それによりシアンは足を止めるしかなく、その場から逃さないために影浦が猛攻を仕掛ける。そして小南はそれに任せない。自分の手で取りに行く。

 メテオラは妨害だけでなく、煙を作らせて自分の身を隠すため。

 コネクターで双月を繋げる。ボーダーが所有するノーマルトリガーの中で最大火力を誇る斧形態に変える。

 煙越しであろうと、トリガーの光でその位置は特定できた。影浦にはサイドエフェクトがあるから問題ない。

 

(たとえ気づけなくても、シアンを敗北させられるのなら諸共でもいいでしょ)

 

 小南に遠慮なんてものはなかった。

 

「避けろ!」

 

「え?」

 

 駆け出した直後に煙の向こうから聞こえた声。それの意味を理解せぬまま、されど経験則から反射的に体が回避行動を取った。直感に従った回避。どう避けるのが正解かもわからない状況で、しかし小南は正解を引き当てる。

 煙の向こうから伸びてきた光。光線のように真っ直ぐ伸びたそれが、小南の脇腹を掠めた。

 

(今のは……)

 

 トリオン漏れが起きる脇腹を抑えながら煙の向こうを警戒した。晴れる前にシアンが煙を突き抜けて屋根の上に。小南を狙った代償か、その左手は影浦に斬られていた。

 

「まさか教えるとは。何も言わないものだと思って仕掛けたのに」

 

「ハッ。共闘だっつったろ」

 

「良い奴かよ。え、めっちゃ良い奴かよ!」

 

「うっせぇぞ!」

 

「照れるなよ」

 

「どこをどう見たらオレが照れてんだコラ!」

 

 サイドエフェクトが無くとも、温かい目で見られると鬱陶しい。そしてサイドエフェクトがあるから、余計にシアンの視線が鬱陶しい。

 ケラケラと笑うシアンを見て舌打ちする。片腕を無くしたのに笑っている。余裕はないはずなのに、それでも笑っているのだ。彼もまた、純粋に戦いを楽しむタイプだと影浦は断定した。

 

 家の上にいる相手。影浦と小南のどちらも道路にいる。中遠距離戦において、基本的に高所が有利だ。相手の位置を把握しやすいのと、射線を通しやすいから。

 近距離戦をする人間だけなら大した意味もない。だが、シアンは旋空を使う。片腕が消えようと、孤月を振れるのなら射程を伸ばせる。()()()()()()()()()

 

「メテオラ!」

 

 距離があるのなら、射程が長い方が有利だ。高低差があるのなら、高所の有利を活かせる人間が優位に立つ。それを潰すために距離を詰めようとすると、詰めるまでの間が被弾しやすくなる。

 ならば前提条件を崩せばいい。

 メテオラは簡単に言えば爆弾。家を破壊するぐらいならどうとでもできる。

 

「旋空孤月」

 

 そのために放たれたメテオラをいくつか切断して起爆しながら、連続して旋空を使うことで小南にもその刃を伸ばす。

 そうするとフリーになるのは影浦だ。そして彼は混戦の方がその真価を発揮できる。メテオラが飛んでいようと関係ない。

 

(左手は斬った。レイガストはない。が──)

 

 右手に握っている孤月ではなく、切断面から生やしたスコーピオンで影浦の攻撃を弾く。

 

「そうするよなァ」

 

「ほんと、良い奴だよお前」

 

 小南のメテオラによってバランスを崩した家が倒壊していく。その中でも影浦は攻勢に回った。スコーピオンは使い手次第でどうとでもなるトリガーだ。その特性を存分に使い、シアンの離脱を阻害した。

 仕掛けた理由の1つは、シアンがスコーピオンを使うことを小南にも教えるため。もう1つは、攻勢に回り続けるため。

 

 肩の損傷と左手の切断。スコーピオンを使うのならそこまでの不利ではないが、トリオンは確実に削られている。加えて今の状況、瓦礫と共に自由落下する中で影浦と交戦。攻撃が止んだことで小南も着地を狙おうと動き出している。

 

 絶体絶命。一撃死を免れたとて、貰う一撃は勝敗を決めるだろう。

 

 観戦している者たちはそう思った。

 対峙している2人はそう思わなかった。

 だから油断なんてしない。気を抜くことなんてあり得ない。どれだけ追い詰めようと、確実に相手を戦闘不能にしない限りその手を緩めない。上位攻撃手である彼らは当然、それを心得ている。

 

 着地する前に、人ひとり分の高さでシアンが身をよじる。瓦礫を足場に回転し、防がれはしたが影浦を蹴ることで僅かに跳んだ。

 孤月を小南の脚に目掛けて投げる。それくらいやるだろうと読んでいた小南は、最小限の動きでそれを軽傷に済ませた。回避しなかったのは、攻撃の手を止めないため。

 斧形態の双月はすでに構えている。この距離ならあとは振り抜くだけ。

 

「ーー!?」

 

 振り抜こうとしたタイミングで引っかかりを感じた。突然のことで視線が一瞬そちらに向かってしまう。それを戻しながら体を後ろに倒してシアンとのすれ違いをやり過ごした。

 

 着地しながらシアンが孤月を取る。体勢を戻したのは小南より先だった。

 小南に畳み掛けようとするシアンを止めるべく影浦がカバーに入る。2人の距離、自分との距離。2人の動きの予想。誤射の確率を下げることも考慮して使ったのはマンティスだ。好んで使う技である以上、その使用に確固たる自信がある。

 

 それを待っていたかのように、シアンは横に跳んだ。つまり影浦の方へ。マンティスを孤月で逸らし、体を斬られるのも必要経費として流す。そして仕掛けた。これまでのことをブラフにして。

 

「……ごめん、ユウ」

 

「っ! ……テメェ」

 

 影浦のトリオン体に罅が入る。()()()()()()()()()()()()。だが、影浦の胸にはたしかにシアンの伸ばしたブレードが刺さっていた。

 後ろから横薙ぎに迫る斧。回避は間に合わず、防御の術もない。影浦に続くようにシアンも活動限界を迎える。だが、置き土産に投げたブレードが、小南の胸にも突き刺さっていた。

 

 3人勝負は、全員脱落という形で決着するのだった。

 

 




 終わったけど終わってない……。次回で今のサブタイは終わりです。
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