「
大歓声が起きている観覧室に、武富の高らかな言葉が響き渡る。それは熱の入った言葉で、彼女も楽しんでいた証であると共に、周囲を静まらせる目的もあった。それの狙い通りに、観客たちは次第に話し声を無くしていく。
「シアンさん、小南隊員、影浦隊長の3人は立て続けに
「シアンさんも太刀川さんも、上位
「それでは最後の部分を振り返ってみましょう! まずは影浦隊長たちの方から! こちらはシアンさんが家の上を取ったところから、一気に決着まで進みましたね」
「メテオラで高所の有利を無くさせて、影浦隊長が距離を詰める。サイドエフェクトとスコーピオンの特性を考えれば、自然な流れですね。現状、影浦隊長ほど変幻自在に扱えている隊員はいませんし、混戦に強いことも考えれば有利です」
「しかしシアンさんもスコーピオンをセットしていた。軽いスコーピオンで対応しながら、落下中に影浦隊長を蹴ってます。これは次の動きのためですよね?」
「そうですね。踏ん張りを効かせられますから、次の動きも俊敏に行える」
「下で狙っていた小南隊員への孤月での牽制。その後、小南隊員の武器の
「これで小南隊員の攻撃が一時的に阻害されてます。刃の部分ではそのまま割られていたでしょうね」
「それを読んで柄にシールドを発生させたと」
「はい。本命はそちらだったのでしょう。孤月を投げたのは、シールドを警戒させないため。攻撃手対決なので当然と言えますが、これまで一度もシールドを使っていないのも効いてますね」
攻撃手のトリガーではシールドを簡単に割られる。しかもシールドを発生させるぐらいなら、自分の武器で防いだほうが早い。攻撃手同士での戦いで、シールドを使うことは滅多に無いことなのだ。
しかもシアンはこれまですべて武器トリガーで対応してきた。先日に何度も模擬戦をしたからこそ、余計に小南の中でシアンがシールドを使うというイメージが薄まったわけだ。
「この後小南隊員が体を倒したのは、攻撃を警戒したからですか?」
「合ってますよ。スコーピオンを使うことが分かっていたから、孤月を手放していてもそちらを警戒しないといけない。シールドを張られていたことを認識する暇もなかったでしょうね」
「張られていると認識できたら変わっていたと?」
「張られていると分かっていれば、孤月とシールドでメインとサブを使っていることが分かりますからね。孤月をオフモードにしていたら別ですが、脚を掠めているのでオフモードにしてないことは把握済みです」
「なるほど……。その後は小南隊員を狙うと見せかけて影浦隊長への奇襲ですね。マンティスをいなして距離を詰めるかと思いきや、離れた場所から影浦隊長を貫いてます。これは、孤月からスコーピオンを伸ばしたということでしょうか?」
「
「え!?」
「孤月からスコーピオンを伸ばすというのは、開発初期に試してみたことがあります。孤月+スコーピオンより、スコーピオン+スコーピオンの方が伸びますし変化も加えられる。シアンさんと影浦隊長の距離だと、ギリギリ孤月+スコーピオンでは届かないんですよね」
「えーっと、ですが使っていたのは孤月のはずでは?」
「孤月の切れ味を無くしたんですよ。そうすれば抜いていても他のトリガーを使える。おそらく横跳びの時点でスコーピオンです。よく見ると孤月の刃が少し太くなってますから、スコーピオンで薄く覆ったのでしょう」
迅の予想では、孤月を握っている部分からスコーピオンが伸びて覆っているとのこと。カメラの位置の都合上、それは現在確認できないが。
「このギミックがあって、影浦隊長も対応が間に合わなかったんだと思います」
「って迅さんが言ってるけど、そうなの? カゲ」
「なんでここにいんだよゾエ」
「いや~、カゲがお祭りに参加してるって聞いて嬉しくてね~。側で見守ってあげようかと」
「キショいんだよ!!」
「えぇー! ってそれはともかく、どうだったの?」
見ていた限り、影浦と一緒にランク戦をこなす北添には信じられない光景だった。影浦が完全に不意をつかれたような落とされ方は、東春秋以外で見たことがないからだ。
そんな北添の質問に影浦は舌打ちする。あの一瞬。
それが何を意味するのか。正しくは分からなくとも、なんとなく察する部分もある。
「あいつに全力を出させない方がいい。分かったのはそれだけだ」
「ん? どういうこと?」
「そのまんまの意味だよ」
「質問の答えになってないけど、カゲがそう感じたならそれがいいんだろうね。ところであの人、太刀川さんと同い年って聞いたよ」
「……」
今さら過ぎる情報だ。影浦は聞かなかったことにして個人戦ブースから出ていった。
影浦が去ったことに関係はなく、観覧室では迅の解説が続いていた。
「当てて逸した直後、気づかれないようにブレードで突く動作をしていますが、これは小南隊員への布石ですね。孤月+スコーピオンだと思わせておいて、孤月の持ち手の下の部分、
「それって可能なのでしょうか? 孤月の内側からってことですよね?」
「見た限り、持ち手の部分に刃を被せたってイメージでいいと思いますよ。あの一瞬ですから、ちゃんと生成するのは間に合わないと判断したのでしょう。実際両断されてますし」
「小南隊員への対処は間に合わないから、相打ち狙いにしたと」
「ですね。影浦隊長に近づいたのは、小南隊員と少しでも距離を作るため。家の敷地内で戦闘を続けたのは、小南隊員の移動ルートを狭めるためですね。ジリ貧で押し切られると判断して、自分が落ちることを前提にした動きに変えてます。負けず嫌いですね」
言い方を変えれば勝利への執念。これがランク戦なら、十分な戦果だ。1人で2ポイント取っていて、隊のエース2人を落としているのだから。
だが迅は忠告を忘れない。この箇所はあまり真似てほしくないから。
「捨て身の攻撃は戦果こそ上げれば賞賛もされますが、失敗すればデメリットしか生みません。生きてさえいればできることも増えますから、皆さんは生存を優先的に考えましょう」
「そうですね。では、今度は太刀川隊長たちの試合ですね。太刀川隊長対生駒隊長&村上隊員。こちらは全員が孤月を使用する戦いとなりました」
「攻撃手同士の連携は難しいですからね。影浦隊長はマンティスがあり、小南隊員もメテオラがあるので、場面に合わせて担当を分けられましたが、生駒隊長と村上隊員はそうもいかない」
生駒旋空があろうと、太刀川が立ち回りで射線上に村上がいるように動いた。生駒がどう動こうとも、太刀川にはグラスホッパーもある。機動力が敵わない。
「そこからの切り替えも早かったですね。いつも前後での連携をしていたので、2人はそこに意識が向いていたのを、左右での連携に切り替えた。東隊の奥寺隊員と小荒井隊員を参考にしたのでしょう」
「両隊員と違って、グラスホッパーは持っていないわけですが、そこを割り切った2人の猛攻はさすがの太刀川隊長も厳しかった模様」
「左右から挟めば問題ないですし、それを嫌って距離を取ろうと2人とも旋空がある。生駒隊長は40mまでが射程ですし、グラスホッパーがあっても一息では射程外まではいけない」
そんな分かりやすく不利な状況だったのにも拘わらず、粘り勝ちによる優勝を掻っ攫っているのだから現役隊員の頂点というのもバカにできない。バカなのに。
その解説を耳にしていない人物が、影浦とは別にもう1人いた。今回のお祭り騒ぎの中心人物ことシアンだ。
彼はまだ個人ブースの中にいる。解説も流れている。流れているのだが、彼にとって今はそれどころじゃなかった。困ったように眉を顰めている国近に、深々と土下座を決めているから。土下座の文化は唯我から聞いた。
「約束を破ってごめんなさい」
「うーん、カメラのアングルの問題で、シアンさんが
「ユウに見えてなくても、やっちゃったのは事実なんだ」
「それ、たぶん一番最後のとこだよね? 引き分けに持ち込むための一連のやつ」
「うん」
「カゲくん刺してから桐絵ちゃん刺すまでが速すぎたもんね~」
「あれは、マンティスで最大限伸ばすってやりながら、影浦に刺さる前から引き戻しを始めてる。供給器官を刺してる時にはすでに縮み出してる状態で、だから孤月の後ろのとこからスコーピオン出すのが間に合った」
「解説を聞きたかったわけじゃないよ?」
「あれ?」
戦いの最中での閃き。咄嗟にやってみたらぶっつけ本番でできたこと。それをちょっと元気に話すシアンに、国近は再度苦笑した。やっぱり彼は戦い自体は楽しめる。上位陣のように、戦うことを楽しめる人種だ。
退屈はしてほしくないから、それ自体はいい。けれど、彼が100%を引き出すと「楽しむ」ということができてない気がする。国近はそれが嫌なのだ。楽しんでほしい。笑顔でいてほしい。生き生きとしてるほうが、見ていて胸が暖かくなるから。
「シアンさん自身どうだったの? あの時の感覚は」
「……あれの最中は、何も感じないよ。それまで感じてたことも全部遮断されて、その時最適と思った動きをしてるだけ。楽しさはないかな」
「……難しいね~」
「本当にな」
上位陣たちは軒並み、全力でのぶつかり合いを楽しむ人たちだ。そうでなければ得るものもない、という至極真っ当な意見でもある。
けれど、それに合わせてしまったらシアンは楽しめない。後から「うまく動けたな」とはなっても、それはどこか他人事のように感じてすらいる。
「今後のことはひとまず置いといて、本当にごめんなさい」
「別にわたし責めれる立場でもないんだけどね~」
「けど何かしらケジメはつけないと」
「ケジメか~。シアンさんも男の子だね~」
下げている頭をぽんぽんと叩かれる。上げていいよと言われて上げると、そのまま優しく力を込めて引き寄せられた。
「ユ、ユウ……!?」
「シアンさんでも慌てることあるんだね~」
「そりゃああるよ!」
柔らかな胸へと引き寄せられ、シアンの顔が熱くなる。国近からは耳が赤くなっていることしか分からず、自分でもちゃんとそういう反応してくれるんだなと思うと、キュッと胸を締め付けられる感覚を覚えた。
それはどこか暖かく、同時に怖さも感じる。
それをシアンに悟られないように細く息を吐く。なんとなく、悟られたくなかった。そして、赤くなっているであろう自分の顔も見られたくなかった。考えなしにやってみた行動で、自滅してるなど知られたら恥ずかしいことこの上ないのだ。
「ケジメなら~、わたしに1個何でも言うこと聞くっていうのは?」
「何でもって怖いんだけど……」
「怖くないよ~。いつ使うかも決めてないし。あ、期限は無期限ね~」
「それは全然いいよ。……ユウのためになることなら、腹を括ろうかな」
「えへへ、嬉しいな~。そうだ、今度2人で出かけようよ」
「お願いとは別だよな?」
「もちろん」
「いいよ。どこ行きたい?」
「それも2人で今度決めよう」
一緒に決めるのも、楽しそうだ。
「それとシアンさん。その状態で喋られるとくすぐったい」
「…………」
「……えっち」
「なんでだよ!」
城戸からのお呼びがかかるまで、シアンと国近は睦まじく言い合いをするのだった。