それはそうと柚宇さんの実況がたまらん。
特別ってなんだろう。
最近ちょこちょこそんな事を考える。
意味はわかる。辞書みたいな説明はできないけれど、『他とは違う』『超大事』。そんな感じの使い方。
クラスメイトとか、オペレーターの子とかに最近よく言われる。「可愛くなったね」って。今まではどうだったんだろうって意地悪で返すけど、そうしたらみんな言う。「もっと可愛くなった」って。
学校だとみんなと同じ制服だし、ボーダーだとラフな格好かトリオン体のどっちか。メイクだって全然しない。だから見た目に変化はない。
性格が変わったわけでもない。わたしはいつも通りにゆる~く生活してる。こっちもやっぱり何も変わらない。
それなのに可愛くなったと言われる。身に覚えがないから曖昧に笑って流したり、本気で首を傾げたり。そうしてたらある日言われた。
──「特別な人ができたんだね」
どういう意味かわからない。わたしの周りに変化があったとしたら、それは1人しかいない。他の人とはたしかに違うし、特別といえば特別かもしれない。だけど、クラスメイトが期待するようなことじゃない。そのはず。
「テストが終わって魂も抜けた?」
「ん~? まだ元気だよ~。ちょっと考えごと~」
「ゲームでしょ」
「違うよ」
「でしょうね」
でしょうねって、さっきの言い切りはなんだったんだろ。
「ゲームの考え事をしてる時は、もっと楽しそうに考え込むもの」
「そうなの? ……えへへ、そうかも~」
「何で嬉しそうなのよ」
「結花ちゃんはわたしのこと好きだね~」
よくわかってくれてる。
「勉強をサボらせないためによく観察したからね」
そういう理由だったか。たしかに勉強中にゲームのこと考えてたら、すぐにバレるようになったもんね~。
「その考え事については後で考えましょうか」
「うん」
テストも終わって、HRも終わった。荷物も少ないから帰る準備はいつも以上に早く終わる。鞄を持って席を立つ。他のクラスメイトに「ばいばい」って言いながら教室を出た。
今日はこのまま帰りにお昼を食べて、それから服を買いに行く日。わたしも一応はそれなりの服を持ってるけど、一度意識しちゃってからは気になってくる。ボーダー内では相変わらずなのに。"一緒に出かける"というその1点が引っかかる。シアンさんはルックスいいし、本部長経由で貰う服が大人っぽさを引き上げる。
(一言で言えば"かっこいい")
だから、そんなシアンさんに並んで歩くわたしのファッションはどうなんだろう。そう考えてしまう。
そんなわけで今日は、いつも頼りになる今結花ちゃんに付き合ってもらう。
「出てきた出てきた」
「2人ともお疲れ~。どうしたの?」
「テストも終わったし、一緒にお昼でもどうかなって」
「ほうほう」
「いいわね。4人で行きましょ」
下駄箱まで行くと他のクラスの加賀美倫ちゃんと人見摩子ちゃんがいた。2人とも成績が悪いわけじゃないし、結花ちゃんと同じで実力把握とかで受けてたみたい。記念受験ならぬ記念テストって人もいるくらいだし。
「お昼どこにする?」
「安定なのはファミレスだけど」
「せっかくだし少しくらい奮発するのもありね」
「わたしはどこでも~」
「少しは考えなさいよ」
「え~、じゃあスイパラ~」
「太っても知らないわよ」
「わたし食べても太らないからだいじょ~ぶ」
「国近はお腹にはいかないもんね」
「加賀美それ自分で言ってて悲しくない?」
「ふっ、表に出なさい人見」
これはわたしノーコメントの方がいいよね~。
倫ちゃんと摩子ちゃんの追いかけっこが始まった。珍しい光景でそれを結花ちゃんと見ながら笑う。倫ちゃんは美大に行くから、同じ校内で過ごせるのもあと僅か。せっかくだし、今の2人を写真撮っとこっと。
「スイパラは後の予定的にはありね」
「うん?」
「そのまま服を見て回れるじゃない」
「お~たしかに!」
「そっちが本命でしょ……」
スイパラの場所がどこかは全然意識してなかった。なんとなく気分に任せて言っただけだし。
そんなこんなで学校からスイパラへ移動。モールの中にあるし、服屋さんもいろいろあるしで都合がいい。百貨店ってやつだね。
店の中はそんなに人が多くない。この時期のこの時間で店に来れる人って、わたしたちみたいな3年生か、大学生。あとは主婦層か高齢者ぐらい。お店がお店だから、若い人が多いし女性ばかり。
「食べ残しだけはしないようにね」
「自分が食べられる量は把握してるよ~」
「2人の会話聞いてると、たまに同い年なのか疑いたくなるのよね」
「結花ちゃん大人びてるもんね~」
「
「わかる。どっちもだよね」
「あれ?」
「柚宇が妹は……勘弁願いたいわね」
「え~」
話し方は軽いのに、声自体に重みがあって本音っぽい。もし姉妹だったらと想像してみても、今とあまり変わらなさそうな光景しか思い浮かばないや。
「そういえば国近、東さんがあの人とコンタクト取りたがってたよ」
「ほぇ? ふぁんふぇ?」
「飲み込んでから話しなさい」
あの人ってシアンさんのことだよね。東さんが何の用事なんだろ。
このショートケーキ美味しい。後でおかわりしよう。
「意見交換がしたいとかなんとか。何人かに指導してたりするんでしょ? その観点かも」
「教える側としての意見交換ってこと? う~ん、シアンさんは東さんほど体系的な指導じゃないからね~」
「それが逆に刺激になるんでしょ」
「とりあえず、後で会った時に聞いてみるね~」
「会うのは確定なんだ」
「うちの作戦室にいつもいるから」
「あ~。てっきり毎日会うのを決めてるのかと思った」
「そんな感じあるしね」
「そうかな~?」
3人ともに「うんうん」って頷かれた。周りから見たらわたしたちそう見えるんだ。同じ隊でもなければ、親戚でもない。年も違うし同業者でもない。そう考えると、そんな風に見られるのも仕方ないのかな。
「国近はどうなの?」
「どうって?」
「シアンさんのことどう見てるの?」
「わっ、まさか国近でコイバナする日が来るとは」
「
「
摩子ちゃんが意地悪だ~。他の2人も止めてくれないし。
一旦ブリュレで間を取ろう。どう答えたらいいのかも分かんない。正解不正解とかじゃなくて、自分でもぼやけてる意見を言葉にするのが難しいから。
「……放っておけない人、かな」
「というのは?」
「ええっと~。……ちょっと待ってね」
シアンさんのことって、どこまで話してもいいんだっけ。摩子ちゃんは東隊、倫ちゃんは荒船隊。どっちの隊も焼肉の時にいたけど、メインの目的は出水くんたちとの焼肉で、2人はいなかったんだよね。わたし以外でオペレーターだと諏訪隊の小佐野だけ。結花ちゃんもいなかった。
東さんも荒船くんも、言いふらすような人じゃないから、シアンさんの正体は広まってない。ここにいる3人なら話しても大丈夫そうだけど、こういう感覚で話すと広まっていくものだよね。
そうなると、シアンさんが
「シアンさんってね、時々消えそうな印象があるんだよ」
「消えそうな?」
「それって儚いイメージってやつ? 那須みたいな」
「ん~、ちょっと違うかな。体が弱くてってやつじゃなくて、ふらっとどこかにいなくなりそうな感じ~」
「そう? うちの支部に来た時はそんな印象なかったわよ」
「普段はそうなんだけどね~。一緒にいてくれるし」
「惚気か?」
釘を差すの早くない?
「そーいうのじゃなくて。話を戻すけど、シアンさんが戦う時がそうなんだよ」
特に、シアンさんが戦闘に100%集中してる時がそう。そこにいるはずなのに、どこか遠くに行っちゃいそうな感じ。
初めて会った時の、近界の方での印象も残ってる。戦わせちゃいけない人なんだなって。
「へ~。私たちは全然交流ないから、それについてどうこう言えないなー」
「でも一番一緒にいる国近がそう言うなら、そうなんだろうね。それで放っておけないって思ってるんだ?」
「うん」
「シアンさんについてはいろいろと気になるとこあるけど」
「気になるって何が?」
「取らないから!」
「すごい食いついたわね……」
なんでだろ。なんでか引っかかっちゃった。
「
「それには感謝だね~」
「国近は、異性としてはどう見てるの?」
「…………へ?」
「いいわね。私も聞きたかったし」
みんな乗り気だ……。
異性としてって言われてもなぁ。わたし今までそういうの気にしてなかったし。シアンさんが特別なのは、事情があるからだし。
「今考えてみたら? 異性として見れるか見れないかでもいいし」
逃げ道をちゃくちゃくと塞がれてく……。
「質問形式にしよっか。まずは外見から!」
「外見は柚宇の好みでしょ」
「
「でも有力情報ね!」
摩子ちゃんなんでそんなノリノリなの……。
そりゃあシアンさんは容姿は好みに合ってるけど。初めて見た時も、タイプな見た目だなぁとか思ったよ。
「シアンさんの悪いとこ言える?」
「え~、なにその質問」
「いいからいいから」
悪いとこって言われても。こういうのって、不満がないと出てこないよね。
「……パッとは出てこないかな~」
「なら次は反対に、良いところ。好きなとこは?」
「カッコイイとこ」
「それは知ってる」
「即答かー」
「開き直ったのかな」
それ以外だよね。
「一緒にゲームしてくれるとこ」
「そこ重要なのが国近らしい」
「毎朝おはようって言ってくれるし、夜もおやすみって言ってくれるとこ。ご飯も一緒だし、歩く時にペースを合わせてくれて~」
「エンジンかかってきたわね」
「人見まだツッコんじゃ駄目だからね」
「生殺しなんだけど?」
「子供っぽいところもあって~、お箸に慣れてないとこも可愛くて~。本気を出してるとアレだけど、真剣な顔もカッコよくて~」
「長くなりそうだからここらで止めましょう」
「え?」
「止めましょう」
「まだ良いところあるよ?」
「それはまた今度聞くわ。それで、柚宇にとって、シアンさんのどんなところに一番惹かれるのかしら?」
「一番?」
「質問の仕方がもう答えだしてない?」
「
どういうとこだろ。
服の内側にあるシアンさんの黒トリガーを取り出してみる。アクセサリーみたいなやつ。それを手のひらに乗せて見つめながら考える。
「シアンさんと太刀川さんたちとではまた違うんでしょ?」
「うん」
違うんだ。太刀川さんたちも、朝にあったらおはようって言ってくれるし、ゲームも一緒にしてくれる。けど、シアンさんとはやっぱり違う。それは当然の話なんだけど、ちょっと当然でもないことで。
それはなんでかって言うと──。
「シアンさんは
思い当たった答えがそのまま口に出ちゃってた。
贔屓目とかじゃなくて特別視でもなくて。シアンさんは"特別にしてくれる"んだ。
「……そっか」
シアンさんが目立ったことをするわけでもない。他の人たちとそう変わらないし、関係的にちょっと優先はしてくれるぐらい。一番一緒にいるようになっただけ。
──あぁ……
でも、それでもシアンさんはわたしを特別にしてくれる。それは、わたしにとって
──これが恋なんだ
いつからかなんて考えない。きっと
大事なのは、わたしがシアンさんのことを好きだってこと。
この気持ちは、誰にも譲れない大切なもの。
「国近が乙女顔してる」
「も~、どんな顔それ~」
「鏡でも見なさい」
「だらしない顔?」
「それはないわね」
「じゃあいいかな~」
ある程度は想像できるよ。にやけちゃってるもん。顔も赤くなってるかな。
でもいい。なんとなく、幸せな感じだもん。
「ちなみに聞くけど、シアンさんが他の女子と2人きりだったらどう思う?」
「うーん、内容によるかな~。桐絵ちゃんみたいに、手合わせ目的とかなら大丈夫」
「じゃあ2人で出掛けてるとかなら嫌なんだ?」
「かもね~。想像してみても……うん、ちょっといやかな~」
モヤってしたもん。
「国近って小南のこと名前呼びだったっけ?」
「前に玉狛に行った時にね~」
「なるほど」
桐絵ちゃんは……うん、大丈夫大丈夫。あの子はシアンさんをそういう目で見ない。
「…………あれ? わたしこれからシアンさんとどう接したらいいの?」
「今まで通りでいいでしょ」
「ほんとうに? それでいいの?」
「それじゃあ、加古さんにでも相談してみるのは? 彼氏がいるかはさておき、恋愛相談の経験は豊富そう」
「失礼なニュアンスだったよ加賀美」
加古さんに相談か。たしかに加古さんそういう話得意そう。
「ファッションとかも聞いてみるのありだよね。加古さんのSNS見るといつもおしゃれだし」
「ほうほう」
「ちなみに今日は買いに来てるみたいで…………ぁ」
「どったの~?」
「国近は見ない方が──遅かったか」
倫ちゃんの携帯の画面に映ってるのは、加古さんのSNSで。
なんか文章が書いてあるけどわたしの意識はそこに向いてない。
わたしが見えてるのは、加古さんと2人で映ってるシアンさんの写真だった。
──恋ってしんどいんだね
──違うって思ってるのに、胸がキュって痛くなる
シアンさんの、ばか。