玄界放蕩記~ゲームこそ人生~   作:粗茶Returnees

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玄界生活③

 

 4人でわいわいゲームをしているところで来客。時間は午後1時前。正午を過ぎていることに誰も気づかないほど、ゲームに集中していたようだ。

 迅が来客したことによりゲームも一旦中断。昼休憩を挟み、再戦される予定だ。現状のトップスコアは言うまでもなく国近であり、差が開いて太刀川とシアンが並ぶ。出水が最下位なのは、一番とばっちりを受けているからだ。

 

「タチカワ。昼飯を持ってきてくれたこいつは誰だ?」

 

「迅だよ。この前まではお前と同じ黒トリガー持ちだった」

 

「シアンさんが協力を拒んだ時の対戦相手っすよ」

 

「あ~。お前らが負けた相手か」

 

「うっせ。次は勝つさ」

 

 城戸から聞いていた通り、すっかり太刀川隊と馴染んでいるなと思った。あと1人隊員がいるのだが、彼とはまだ距離があるようだが、それもいずれ馴染むのも"視える"。

 

「実力派エリートこと迅悠一です。城戸さんに頼まれてこれを渡しに来ました」

 

「シアンだ。キド司令に頼まれたってことは、お前もその派閥か?」

 

「いや、おれは玉狛所属ですよ。近界民(ネイバー)とも仲良くしようぜってスタンスなんで」

 

「真逆じゃん」

 

「そっ。だから関係としては城戸さんたちと対立してますね。と言っても、露骨にドンパチするわけでもないです。例外はありましたけど」

 

「なるほど。この前の戦闘がそれか」

 

「そうです。その件はもう解決しましたけどね」

 

 迅から身分証を受け取り、そこに書かれている自分の名前を見る。どういう形で話がついたのかは不明だが、揉めていたという名字もそこに書かれていた。それは記憶に留める程度になるが。シアンはそれを名乗る気もそこまでないらしい。必要に応じて、という形を取るようだ。

 

「迅がわざわざ来たってことは、探りか。ここまで露骨にするのも珍しいな」

 

「暗躍は趣味だけど、そうはっきり言われるとなー。おれだってこの人に興味あったよ?」

 

「城戸さんたちが警戒してたのは、玉狛の人間と会うことでそっちに引き込まれないか、だと思ってたからよ」

 

「実際そうだと思うよ。勧誘はするなって釘刺されてるし」

 

「オレは今の状態でも不満はないけどな」

 

 わざわざ居場所を変える理由もない。交渉した相手が城戸なのだから、対立派閥である玉狛側に移るのも角が立つというもの。信用を得ていない今、わざわざ下手な刺激を与える必要もないのだ。

 身分の偽装、その内容も迅から説明を受ける。行動可能な範囲、時間、注意事項等々。それを頭に入れ、シアンは小さく笑った。思っていたよりもいい相手だと。

 

「外に出ても問題ないなら、ここに弁当を運んでくる必要もなくなったな」

 

「そこが個人的に一番でかいよ。誰かしらの時間を奪ってたわけだし」

 

「わたしは全然オッケーでしたけどね~。むしろわたし達が学校に行ってる日が不安でしたし、そこが解決して安心ですよ」

 

「昼を抜くってことはなかったからな?」

 

 その時は忍田と食事を取っていた。ノーマルトリガー最強の男との食事だ。何かがあっても対処できる。これ以上ない適任者と言えただろう。

 

「結構馴染んでるんすね」

 

「おかげでな。それと口調は戻してくれていいぞ」

 

「りょーかい。おれもこっちの方が気楽でいいや」

 

「迅は昼飯どうすんだ?」

 

「おれはもう食ってるよ。面白いもの見たら帰るかな」

 

「面白いもの? お前何見えてんの?」

 

「すぐわかるよ」

 

 太刀川と迅が話しているのを横に、用が済んだのなら食べようと残りの3人がソファに座る。出水の弁当は男子高生らしくボリューム重視で、対象的に国近の弁当はそう多くない。野菜類で色鮮やかなのが特徴だ。

 そしてシアンの弁当が海苔弁なのだが、

 

「……出たな()()()

 

「それ箸っすよ」

 

 箸という天敵と睨み合っていた。日本人だろうと幼い頃に誰もが苦労しただろう。2本の棒で食事を取るということに。幼い頃に誰もが思ったのではないだろうか。「スプーンとフォークじゃ駄目なのか」と。

 そう、シアンはまだ箸での食事ができない。扱いに慣れていないのだ。それに出水が気を利かせて、「スプーンあったよな」と言いながら立ち上がる。A級部隊の作戦室には給湯室がある。その上太刀川隊は国近が徹ゲーすることもあり、簡素な生活ぐらいはできるように物があったりする。

 しかし出水は足を止めた。()()()()()が始まったから。

 

「はいシアンさん口開けて~」

 

「なんのつもりだユウ……!」

 

「え? だってこのままじゃシアンさんご飯食べられないから」

 

「お前よくこんな精神がゴリゴリ削られるようなことできるな!」

 

「わたしは楽しいですよ」

 

「オレは楽しくない!」

 

 抵抗の声を上げるシアンを、出水が後ろから羽交い締めにする。こんな面白いものを逃す手はないと。

 

「お前が言ってたのこれか」

 

「そっ。見てて面白いでしょ?」

 

「見てる分にはな」

 

 この場にシアンの味方などいないようだ。全員ニヤニヤと愉しんでいる。

 

「そんなに嫌がらなくてもいいのに~。前にもしたじゃないですか」

 

「一番最初の食事の時か! もう二度とゴメンだって言ったよな!?」

 

「じゃあ太刀川さんにやってもらえばいいかな」

 

「「死んでもゴメンだ!!」」

 

「お、ハモった」

 

「2人とも仲いいですね~」

 

 国近の悪魔のような提案に鳥肌が立った太刀川は、急いでシアンの拘束に手を貸した。出水が言われなかったのは、拘束の役目をしているという免罪符があるからだと見抜いたのだ。

 同じ隊員という連携力を見せ、手早く役割分担をする。出水が右を抑え、太刀川が左を抑えるという分担だ。迅はここまで見て退散した。この流れで残ってたら巻き込まれると識っているから。

 

「諦めろシアン! 俺たちのためにも国近に食わされてろ!」

 

「必死だな!? スプーンくれたら解決なのに!」

 

「バカ! それだと面白くねぇだろ!」

 

「お前後でしばく! 絶対しばく! イズミもな!」

 

「いやおれの場合動機あるんで!」

 

 大乱闘大会前半の部。出水が最下位の理由はバカ2人のせいである。互いに「こいつには負けねぇ!」と開始早々にタイマンを始め、このゲームの醍醐味である大乱闘のために出水が乱入すると「邪魔すんじゃねぇ!」と共闘して殺しにかかってくるのだ。ちゃんと連携するのだから質が悪い。じゃあそこに手を出さなかったらどうなるかと言うと、最強ゲーマーたる国近にタイマンを挑む羽目になる。

 そんなわけで出水が最下位。そしてそこで溜まった鬱憤を、今ここで晴らしてやろうと企んでいるのである。

 

「シアンさんそんなに嫌?」

 

「精神的にキツイんだよ。やられたことないなら分からんだろうな」

 

「そっか……」

 

 明らかに国近の声のトーンが下がる。何かやばいと男衆の頭に警報が鳴る。

 

「わたし……シアンさんにそんなに嫌われてるって思ってなかったな……。ぜんぜん、気づけなかった……。ごめんなさい」

 

 その声は湿っていた。無理に笑うその顔は見る者に罪悪感を抱かせる。

 シアンの腕を抑えていた2人の力が強くなった。「なに泣かせてるんだこのバカ」と言外に伝えられる。

 

「い、いや待てユウ。別にユウのことが嫌いなわけじゃないぞ」

 

「もう……やさしい嘘なんて言わなくていいんですよ」

 

「嘘じゃないって。信用ないだろうけど信じてくれ」

 

「……」

 

「人に食べさせられるのはほんと精神が削られるけど。でもまぁ……ユウなら耐えれるかなーなんて」

 

「ほんと……?」

 

「誓って本当」

 

「なら食べてね~」

 

 ケロっと国近の声色が元に戻る。涙ぐんでいたはずの瞳もぱっちりしていて、その笑顔もいつもと同じ緩やかなものだ。

 

「……おっと?」

 

「これは柚宇さんに1本取られましたね」

 

 どうやら付き合いの長い隊員も騙されていたらしい。恐ろしい演技力である。

 

「ユウまじかお前」

 

「結構嫌がってたから、実は嫌われてるのかなーって思ったのは本当ですよ?」

 

「あ、そこは本当に嫌ってないから。むしろ好感持ってるから」

 

「うん。ありがと~」

 

 これ以上抵抗するのはやめておこう。そう思ったシアンは力を抜き、察した太刀川たちも拘束を解いて自分たちの食事を始める。

 

「はいあ~ん」

 

「食べさせてくれるのはいいけど、自分のもちゃんと食べろよ? そっち優先してくれよ?」

 

「わたしのはそんなに多くないから、ゆっくりで大丈夫なんです」

 

「そういう事ではなく」

 

 スプーンさえあればなと思いながら、口の中に運ばれたものを咀嚼する。いつもより飲み込むまでの時間を増やし、その間に国近も食べるように促す。互いに食べている時と、そうじゃない時を作るようにしたのだ。

 

「出水」

 

「なんですか太刀川さん」

 

「俺たちは何を見させられてるんだろうな」

 

「まじそれっすね」

 

「おい加害者共」

 

 何を被害者ぶってるんだこの2人はと睨みつけるも、わりと本気で嫌そうな顔を返される。これは理不尽極まりないと思いつつ、それならさっさと食べて横の部屋に行けよとシアンは手でジェスチャーした。それに同意した太刀川と出水が、掻き込むように速攻で食べていく。

 

「太刀川さんたちいきなりどうしたんですか~?」

 

「気にするな。後半を始める前に少し練習するだけだ」

 

「やるなら今の記録メモしといてくださいね。CPUに変えたら記録が消えるので~」

 

「了解」

 

 太刀川よりも先に食べ始めていた出水が最初に食べ終わり、弁当を鞄にしまったらメモ用紙とペンを用意して隣の部屋へ。次に食べ終わった太刀川もそれに続き、モードを変えてゲームを始める。エンドレス組手である。

 

「シアンさんも早く食べますか?」

 

「いや。ユウのペースでいいよ」

 

「ならこのままで~」

 

 暖かな陽光のような笑みに、シアンも頬を緩ませた。

 

「スプーンを隠してまでしたかったのか?」

 

「ん~、シアンさんを揶揄ってみたくなっちゃったんですよね~」

 

「あのな……」

 

「わたしは楽しいので、シアンさんはお箸を使えないままでいてくださいね~」

 

「そのうち習得するから」

 

 隠す気もなく正直に話す国近に呆れつつ、明日から特訓しようと決意する。それに気づくことなく、国近は思い出したように気になっていたことを切り出した。これからどこで生活するのかを。

 

「そういやそこ決めてなかったな。言われてもないし」

 

 これまでは太刀川隊の作戦室で寝泊まりしていた。本当に生活の8割ほどがここで完結していた。しかしこれからはその必要がない。自分の生活場所を用いられる。とはいえ、玄界(ミデン)のことを全く知らないシアンが、自力でそれを確保するのも難しい。

 

「基地の中に宿舎区画があるので、そこの空いてる部屋とかどうですか?」

 

「そういうのがあるのか。それならそこにするかな」

 

「じゃあ後でわたしの方から連絡しときますね~」

 

「ありがとうユウ。助けられてばっかだな」

 

「いえいえ。好きでしてることですから~」

 

 ボーダーにスカウトされて入隊した国近も、宿舎区画に部屋がある。まだ空き部屋があることも知っているため、極力近い部屋にしちゃおうと企む。

 

「そうだユウ。この身分証のやつなんだけどさ」

 

「何か変なこと書かれてました?」

 

「いや、読めん」

 

「……あ~。これはですね──」

 

 

 

□□

 

 

 

 実力派エリートは多忙である。今は頼まれていた仕事を済ませ、その報告のために城戸のいる部屋へと足を運んでいた。太刀川たちも気づいていたが、届け物はただの口実。本命はシアンという人間を把握するため。未来を視るという強力なサイドエフェクトを用いれば、簡単にそれが達成できるのだ。

 

「心配ないでしょう。こちらから仕掛けなければあの人は敵になりませんよ」

 

「あの者が言っていたように、友好な関係でいればいいと? それによるメリットはあるのか?」

 

「あります」

 

「ほう?」

 

 黒トリガー争奪戦。信用を得る好機を自ら蹴った男を、好きに過ごさせてどういうメリットがあるのか。近界民を嫌う城戸を納得させられる程のものが。それはよっぽどのものでなければならない。

 だが迅はその予知で確信できる。シアンをボーダーに置く意味があると。

 

「まず戦力になる。利害の一致があれば、遠征組を1人で退ける人を味方にできる。しかもこちらから手を出さなければ敵に回ることもない。これは分かりやすくて大きいでしょ」

 

「……続けたまえ」

 

「彼の持つ情報は、この先々でボーダーを助けてくれる。レプリカ先生の情報は広い範囲だけど、シアンさんは狭い代わりに最新情報だ」

 

 近界のトリガーの話もしている。開発部としては万々歳の情報源だ。もちろん湯水のように次々と話せるわけじゃない。知ってる範囲だけ。けれどトリガー技術が最も遅れているのが玄界(ミデン)というのも事実。遠征というリスクがなく情報が手に入るのなら、この上なく貴重な存在だ。

 実際、シアンの身分偽装が完了したことで、開発部は堂々とシアンを呼び出して更なる情報と技術を聞こうと考えている。それが後に愉快な事案へと繋がるのだが、先の話だ。

 

「何よりも城戸さん。()()()()()()()()()()()()

 

「……」

 

「味方寄りでいてくれる戦力なんだ。排除する必要もないでしょ」

 

「……仮に排除する場合、こちらの被害は?」

 

「基地が吹っ飛ぶ」

 

 即答された内容に城戸の顔が険しくなる。それはボーダーの消滅に等しいことだから。

 

「あの黒トリガーが強力過ぎるんだよ。こちらも黒トリガーで対抗することになるし、天羽をぶつけたら結果的に周辺一帯が更地になるよ」

 

「唐沢くんの進言通り、懐柔策が有効か」

 

「そっちならリスクもコストもないからね。何も手を出さずに太刀川さんたちに任せてたらいいよ。それが一番互いにメリットが大きい。それに、上手く行けば味方になってくれるし」

 

「……そうか。ご苦労だった。下がりたまえ」

 

 迅を下がらせ、迅があえて言葉にしなかったことも頭に置いておく。味方になるというのが、()()()()()()()()()()()()という点。もう1つが最悪の未来の話。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を。

 

「厄介な存在だ」

 

 夕刻、来訪したシアンから「カー○ィで2位取れたよ」と報告を受ける城戸なのだった。

 

 




 結論。ゲームさせとけばよし!
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