玄界放蕩記~ゲームこそ人生~   作:粗茶Returnees

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 A級の情報もっと欲しいなと思いながら試合内容をぼんやり考えてます。まだまだかかりそうです。


A級部隊②

 

 解散という流れになったのだが、国近はある人物に声をかけられてその場に留まった。太刀川や出水は先に作戦室へと戻っていき、他の隊もその多くが退室していく。

 

「ご飯も食事もちゃんと取らないと駄目よ?」

 

「加古さん……。そこまで気にしていられなかったというか」

 

「ま、そうよね。よければこの後美容について教えてもいいけど」

 

「う~ん、嬉しいですけど今日はやめときます」

 

「そう。ちゃんと、彼と話ができそう?」

 

「っ! ……加古さんはなんでもお見通しなんですね」

 

「柚宇ちゃんが分かりやすいだけよ。それに、話した方がいいとも思って声をかけたんだから」

 

 国近がその気なら背中を押すだけ。足踏みしていたら踏み出させた。加古からすれば、どっちであろうと大した違いもない。

 幸いにも国近は自分からその気になれていたようで、シアンへの対応の流れが変わったことにより、その目も前をしっかりと捉えている。加古はそれに安堵して微笑む。

 

「ありがとうございます加古さん」

 

「うん?」

 

「さっきの会議で、加古さんが流れを変えてくれたことです」

 

「あーあれ? たまたま私だったってだけよ。私が言わなくても桐絵ちゃんかレイジさんが言っていたでしょうし。それに、太刀川くんもその可能性を捨ててたわけじゃなかったみたいだし」

 

「実はわたしもびっくりしちゃいました」

 

 「あはは」と恥ずかしそうに笑う国近に、加古はそうだろうなと思った。太刀川慶はあのタイミングまで、加古と小南が反対を表明するまでは意見を90%以上固めていた。今回の話し合いの場がなければ、確実に1人でやっていただろう。

 それを崩すための場であり、太刀川が背負い込まなくていいようにする処置。場を設けた忍田と影の功労者たる迅の狙いはそこだった。

 そしてそれにより、太刀川は完全に吹っ切れた。「シアンの思い通りにはしてやんねー」とのりのりで次の場をすぐに用意する。

 

「太刀川くんも、柚宇ちゃんと同じ気持ちだったのよ。完全に受け入れてたわけじゃない。初めは1対1を想定していたのでしょうね。そうすれば背負うのは自分だけで、出水くんも唯我くんも、何より国近ちゃんをその重みから遠ざけさせられる」

 

「太刀川さんがそこまでのことを?」

 

「ふふっ。具体的に考えられてたかは分からないけどね。でも隊長という立場でもあって、シアンくんを引き込んだ張本人でもある。そういうのも要因としてあるんじゃないかしら」

 

 「私の勝手な憶測だけどね」と付け足されたが、その可能性がないとは言い切れない。先程の話し合いの中でも、国近を気遣う言動があったのも事実だ。

 伊達に"隊長"という立場にいるわけではない、ということなのだろう。

 

「欲を言えば、もう少し話を持って行きたかったのよね~。でもあれ以上は見込めなさそうだったし、欲をかいて裏目に出たら元も子もない」

 

「はい。あとはシアンさんを説得するだけです」

 

「試合を介さないと伝えきれないなんて、どうして男の子はそうなのかしらね」

 

「でも、伝えられないより断然いいですよ~」

 

「それもそうね。それなら、うちからは双葉を出そうかしら」

 

「各隊からの代表でしたっけ?」

 

「まだ決まってはいないわね。でも双葉は出たいでしょう?」

 

 ちらりと斜め後ろに振り返りながら聞いてきた隊長に、問われた黒江はふたつ返事で頷く。

 

「勝手に師匠にいなくなられては困ります」

 

「……いいな~。今だけは、わたしも戦えたらなーって思っちゃうや」

 

「……先輩の分もあたしがぶつけます」

 

「ありがと」

 

「そうは言うけど柚宇ちゃん。あなたにしかできないこともあるのだから、そのことを忘れちゃだめよ」

 

「わたしにしかできないこと、ですか?」

 

「そう。柚宇ちゃんだからできること」

 

 

 

 

 

 

 太刀川たちが話し合いをしている間、シアンがどこで時間を費やしていたかというと、作戦室ではなく自室だった。作戦室にてゲームをやっていても良かったのだが、今はそういう気分にはなれなかったらしい。

 それでは自室で何をしていたのかと言えば、特に何もしていない。そもそも単独での行動が難しい立場でもある。状況も状況であるため無闇に行動するわけにもいかないのだ。

 

「これからはどうすればいいわけ? ()()()

 

 しかし、ずっと寝ているというわけでもないのだが。

 ベッドに腰掛けて座るシアン以外、この部屋には誰もいない。この空間には正真正銘シアンしかいない。ならばその言葉は空気に溶け込んで消えていく。返事はない。

 

 そのはずだった。

 

〈私に聞いても仕方のないことよ。これは貴方のゲームなんだから〉

 

「ゲームね。こうやって出てきてる時点で、姉さんも絡んでるでしょ」

 

〈先に言っておくけれど、私はシアンの記憶にあるリア・ハーヴェイとは別よ? リア・ハーヴェイに近い思考ができる機構。それも使われる予定は無かったもの〉

 

「現に出てきてるけど?」

 

〈シアンが生まれたからよ。シアン・ハーヴェイでもなく、トリオン兵でもない中間の存在。限りなく低い確率の中から誕生するシアン用に、リア・ハーヴェイが気まぐれで用意してただけ。驚かせてそれを楽しんで消える。それ用でしかないのよ〉

 

「気まぐれでそれができるとか、姉さん頭良すぎでしょ」

 

 気まぐれと言えば気まぐれだが、「どうせなら完璧に」という欲を持ち合わせていたのも事実だ。その優秀過ぎた頭脳からその可能性に気づき、一応やっちゃうかと思い至って作られた。

 作られたリアはそう言っているが、出現条件から考えればそれが本当の事ではないことは明白だった。

 第一条件としてまず"シアン"の発現。可能性が低いというのに、リア・ハーヴェイはその可能性を前提に研究と開発を進めていた。

 第二条件はシアンが"今の状態になること"。シアンが発現した上で、その自我が薄れていく状態になる。安定していた場合、このリアは永久に出てこなかった。

 そして最後の第三条件は、"シアンがリアに気づくこと"。これが満たされることで初めて、リアはその機能を動かしてシアンとの会話が可能になる。「姉らしいこともしてみるか。でもお節介は別だしな」という葛藤から、この3つ目の条件が組み込まれた。

 

〈リア・ハーヴェイはもういない。シアンは自分の好きに動けばいいのよ〉

 

「日々オレが薄れるのを感じながら?」

 

〈怖くなったからあんな頼みをしたのね。仲良くなった相手を傷つけたくないから、対抗できる実力を持つ太刀川慶に頼んだ。上層部にも話したのは、規格外の強さの彼がいるから。はぁ、シアンあなた逃げたわね〉

 

「にげ……?」

 

〈それ以外の言いようはないでしょ。自分を諦めて周りに対応を投げつけた。自分があの子を傷つけてしまうかもしれない。その言い訳すら用意した。そうでしょ?〉

 

「…………」

 

 否定の言葉は出てこなかった。否定したい気持ちはあったが、その指摘は紛れもない核心を突いている。

 沈黙するシアンをリアはただ観測した。落胆などない。怒りもない。呆れることもなく、平常なまま。

 

〈シアン・ハーヴェイの記憶があるからそれに引っ張られるのでしょうね〉

 

「?」

 

〈シアン・ハーヴェイはリア・ハーヴェイのような天才じゃなかった。幼心からそれは理解していた。でも慕う気持ちはあったから、リア・ハーヴェイに質問ばかりしていた。どうなっているのか。どうしたらいいのか。リア・ハーヴェイの答えに、示した道に突き進んだ〉

 

 その道の先にあった戦いで命を落としているのだが、それを憎むこともなかった。そんなのは筋違いもいいところだ。示されようとも、進むかどうかは自身で選んでいたのだから。

 

〈でもシアンは違うでしょ。シアン・ハーヴェイの記憶があるだけで、違う存在よ。そしてそれは私も同じ。だから私はシアンに道を示すなんてことはしないし、シアンは自分で見つけていくしかない〉

 

「……あー、そういうことか。うん、やっぱりリア・ハーヴェイは優しかったんだな」

 

〈どこが? 死ぬとわかってた弟を止めなかった姉よ?〉

 

「それを避ける手段も、可能性もあった。それを選ばなかったのは、手繰り寄せられなかったのは、シアン・ハーヴェイ自身だ」

 

〈……そう。決意は変わらないのね〉

 

「うん。オレはオレだと理解したからこそ、オレみたいな存在はいちゃいけない。この技術は完成させられるべきではなかった。リア・ハーヴェイに用意されたゲームは、脱線すら想定されてたけどこれ以上続かせるわけにはいかない」

 

〈うーん、その決断をどう受け止めるべきかしら。まあでも、私には止める力もないわね〉

 

 説得すら元からするつもりはなかった。リアの役割は、シアンが迷った時の話し相手でしかない。存在が薄れれば必ず迷う。自分の在り方に戸惑う。どうするか決めた後でも、むしろ後だからこそ「正しかったのか」という迷いが生じる。

 その決断の揺らぎに対する話し相手。リアができることはそれだけであり、そしてただ反応を示すだけだ。先を示さず、その腕を引かず、その背中を押すこともない。シアンがどんな選択をしようと、肯定も否定もしない。決めたなら進めと言うだけだ。

 

〈シアンが決めたようだから、私はもう消えるわね。ほんと、らしくないことをしたものだから、何の為に用意されたのか分からないわね〉

 

「そうでもないよ。姉さんと話せてよかった。ありがとう」

 

(リア・ハーヴェイは自分で道を作れた。1本の直線の道を。けれどそれは本来あり得ないこと。一直線だけの道なんてないし、分岐しない道もない。それが当たり前なのよ。それだけは覚えておきなさいシアン)

 

 

 

 

 

 

「まったく……この忙しい時期にこれとは……」

 

「おや根付さん。何を考えているんだーとかは言わないんですね」

 

「それはそうでしょう。彼の問題はデリケートです。隊員たちは1人の人間として認め、その上で軽く扱うべきではないと、はいそうですかと斬り捨てていいものではないと考えたのですから。我々が任せた後での決定ですよ。ケチをつけるのはナンセンスです」

 

「それはごもっとも。しかし本人は終わりたがっている。この試合での勝敗だけで解決するとも思えませんね」

 

開発部(うち)に顔を出しに来ましたよ。事後にはご自由になどと。まるで死後の臓器提供じゃったわい」

 

「すでにそちらまで動いてましたか。太刀川くんたちはどうするのか。まさか試合しか考えてないなんてあり得ないでしょうしね」

 

「まずは勝つこと、ですねぇ。このメンバー表……なかなか難しい試合が想像されますよ」

 

「ふん」

 

 根付、鬼怒田、唐沢の3人は、試合のメンバー表へと目を落とした。A級が2チームに別れての試合だが、全員参加というわけではない。各チームから代表で10人ずつ選出される。

 つまりそれは、A級によるオールスター戦なのである。

 

 





 
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