玄界放蕩記~ゲームこそ人生~   作:粗茶Returnees

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大規模侵攻①

 

 アフトクラトルとキオン。この2つの国が玄界(ミデン)から離れるまでが10日。迅の予知がある以上大規模侵攻は起きる。それを前提とし、ボーダー内での緊張は高まっていた。戦いに慣れている者たちは程よい緊張。固くなることがない。訓練生たちのように未熟な者であれば、その実感が薄くかえって緊張が薄い。

 訓練生と正隊員での差をシアンは感じ取りながら、作戦室で国近とゲームに興じる。平日であるのだから国近も本来学校に行くところを、大規模侵攻への備えとして本部に残っている。名目上だが。

 何日の何時に敵が来るか分からないのだ。部隊を支援するオペレーターが、予め本部にいたほうがいいという考えである。名目上だが。

 

「おっ、クイーンきのこゲット~」

 

「シアンさん今それ逆走だよ~」

 

「なに!?」

 

 変な雲が出現してるなと思っていたが、これはそういう事だったのかと合点がいく。進行方向を180度変え、アイテムを使って一気に加速する。ショートカットも利用して順調に遅れを取り戻していく。そういった戦術的な部分は覚えが早いなと感心しながら、国近は悠々と一着でゴール。シアンの画面を見る余裕もある程の独走だった。

 

「ユウもう着いたのか」

 

「うん」

 

「オレもこれ以上順位上がらなさそうだな」

 

「始めた頃に比べたら成長じゃない? 最下位常連だったのに、今はミスしても真ん中くらいの順位だし」

 

「アイテムのおかげでな」

 

「有効活用もその人の腕だよ~」

 

 持っているものを最大限に活かす。戦いにおいて基本にして真髄。それはゲームだろうと変わらないということ。娯楽として作られているはずなのに、奥深いものである。プロゲーマーという存在ができあがるわけだ。

 

「このカップのコースも終わったし、少し休憩にする?」

 

「そうだな。夜にはイズミも入れてモモ鉄だし。ユウには少し手伝ってもらいたいこともあるし」

 

「何したらいいの?」

 

「データを作ってほしい。オレが持つ情報をそこに入れたいんだ」

 

「いいよ~」

 

 ゲームの休憩が仕事というのはどうなのだろうか。社会人からすれば逆だろとツッコミが入ることだろう。だがこの場にツッコミを入れる者はいない。ゲーマーの国近(バカ)、ゲームに目覚めたシアン(バカ)。そして餅を焼く準備をする太刀川(バカ)だけだ。

 ゲーム機をどけた国近が端末を操作し、データを作るための準備を整える。それが完了すると視線で合図し、頷いたシアンが情報を喋っていく。聞きながら打ち込んでいくというのは、言葉にすれば簡単だが実際には難しい。それを恙無くこなしていくあたり、国近の能力の高さが表れていた。

 

「お前ら仕事熱心だな」

 

「気まぐれだよ」

 

「だろうな。じゃなかったら、忍田さんたちにその情報をもう渡してるだろうからな」

 

「ユウマと違って、オレはここの隊員じゃないからな。身の安全も明確に保証されてるわけじゃない。有用性を残しとかないと危うくなる」

 

「信用してないのはお互い様ってな」

 

「タチカワたちのことは信用してるよ」

 

「そりゃどうも」

 

「シアンさん続き~」

 

「っと、ごめんごめん」

 

 裾を引っ張られ、シアンは太刀川との会話を切り上げる。太刀川は情報を纏めていく2人を見てなんとなく思った。なんかさらに仲良くなってる気がすると。それが悪いとも思わず、太刀川は七輪に火を付けた。部屋の中で何してるんだという話だが、ボーダーの基地に火事という概念はないのだ。

 

「黒トリガー多いね」

 

「あっち側で最大級の軍事国家だからな。オレも全部を把握できてるわけじゃないし」

 

「ここの国が来るの?」

 

「オレはそう思ってる。……ちょっと願望込みかな」

 

「シアンさん……」

 

 薄っすらと笑う彼の表情から何が読み取れるのか。すべてを読み取ることなんてできない。少ししか知らないんだから。シアンという人間がどういう人間か、それを説明できる人は、ボーダー内にいない。

 どう言葉をかけたらいいだろう。そう悩んでいる国近の肩をぽんと叩いた。

 

「さ、もう少しだけ付き合ってくれ」

 

「……うん」

 

 アフトクラトルはトリガーがワンオフだ。ボーダーのように汎用性を上げるのではなく、強力な駒を着実に増やすやり方。トリガー技術においては、やはり玄界(ミデン)は遅れていると言わざるを得ない。無論、こちら側独自の技術もある。貪欲な研究が、急激な成長の糧となっているから。その分開発部の面々は目の下にクマができている。

 国近の処理速度が速いおかげで、その作業に時間がかかることはなかった。太刀川が3個目の餅を焼いているあたりで終わっている。その匂いにやられたのか、データをUSBに保存した国近がかわいくお腹を鳴らして頬を赤くした。

 

「タチカワ。ユウがお腹すいたってよ」

 

「し、シアンさん!」

 

「はっはっは。皿と箸を持ってこい。そろそろ終わるだろうと思って2個焼いてたから、1個食べていいぞ。ただしシアンお前は駄目だ」

 

「自分で焼くからいいよ」

 

「お前に餅が焼けるのか? なめるなよ」

 

「太刀川さんこれそろそろじゃないの?」

 

「っと危ねー。ナイスだ国近」

 

「どうもどうも~」

 

 餅が好物の太刀川は餅の焼き加減も気にする。どれぐらい熱したら美味い餅になるのか。これまでの経験でそれを見出している。同じ隊のオペレーターである国近も、焼いているのをよく見ていたから、なんとなくでどれぐらいか分かったりする。

 そもそも餅という食べ物がなかったシアンからすれば、焼くだけだろとしか思えないのだが。さらに言えば、訳のわからん食べ物をよく食べれるなとか思ってたりする。

 

「お餅はこの国の文化だからね~。お米からできるんだよ」

 

「米? あれからこれになるのか?」

 

「餅にも種類あるからな。今度持ってきてやる」

 

「種類? わけがわからんな」

 

 そうやって餅を食べながら会話をしている時だった。  

 

『──(ゲート)発生!』

 

 緊迫した声色でアナウンスが流れていく。発生した門の数から、これが大規模侵攻だと断定。餅に海苔を巻いた太刀川も、それを飲み込んだら立ち上がった。

 

「来たな。国近」

 

「はーい」

 

 皿に乗せた餅と箸を持ちながら、国近はオペレーター用のデスクに移動する。上層部の方から情報を流してもらい、敵の数と展開の仕方を画面に映した。

 

「半包囲だな」

 

「5方向か。……街の方に進んでる?」

 

「そうみたいだね。シアンさんこれで何か分かる?」

 

「お前らが分かってることしか分からんな」

 

「……何かあれば忍田さんに言えよ。俺は上に行く」

 

 今の段階で分かることは戦力の分散。こちら側に発生させられる門は、可能な限りボーダーに近い位置になるように、ボーダー側が仕掛けを施している。そこからトリオン兵が離れていくとなると、敵がボーダーの戦力を基地から離れさせたがっていると考えられるわけだ。

 これは戦況を把握できている者で気付けること。その先はまだ分からず、シアンも今のピースではその先を特定できない。

 なんにせよ、部屋にいては動きが遅くなる。太刀川は必要な時にすぐに動けるように作戦室を後にした。

 

「シアンさん、上層部が通信を繋げたいって」

 

「繋げてくれ。その方が互いにやりやすいし」

 

「了解」

 

『こちら忍田だ。シアンくん、敵の狙いの特定に協力してほしい』

 

「もちろんです。ただ、今のピースでは見えてきません」

 

『分かっている。気づいたことがあればすぐに言ってくれ』

 

 そこで一旦通信が切れる。何かあればまた繋げるというやり方らしい。ずっとオープンになるよりは気楽なものだ。

 画面に情報が次々と更新されていく。トラップの起動による足止め。その間に任務中だった部隊が現場に駆けつけ、本格的にトリオン兵が叩かれ始める。

 

「シアンさんが言ってた新型。まだ出てこないね」

 

「ラービットな。あれの出し方である程度絞れるんだが」

 

「知り合い多いんだね~」

 

「まぁな」

 

 まだ仕事の時が訪れない者同士、現場の隊員の健闘を見守りながら言葉を交える。そうして話している矢先、現場の隊員から報告が入った。大型のトリオン兵の中から、新型のトリオン兵が現れたと。

 

「ユウ、繋いで」

 

 名前を呼ばれた時には手を動かしていた。シアンが言い切ると同時に通信が開く。

 

「シノダさん。現場の映像ってもらえますか?」

 

『可能だ。沢村くん!』

 

『はい!』

 

「白色……プレーンか」

 

「プレーンって?」

 

 その言葉の意味を代表して国近が聞く。

 

「ラービットがトリガー使いを捕獲するためのものって話はしたな。その基本機能の話も」

 

『胴を開き、そこから伸びる()()でキューブ状に変えるという話だな。頭上には電撃を流す機能もあると』

 

「そう。それが基本機能。単純な性能も他のトリオン兵より高い。で、ラービットの真髄は()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「相手をキューブ状にするのも黒トリガーの能力のコピーだよね?」

 

「そう。言ってしまえば、そのトリガーの機能しか積んでないのがプレーン体。そこに他のトリガーの機能も積んでるやつがあって、それは色付きだ。どれが来るかは出してくれないと分からないけど」

 

『つまりこの新型も、()()()()()()()()()()()ということか……!』

 

「ですね。慎重な打ち手だ。とりあえずアフトなのは確定。いずれ精鋭も出ますよ」

 

 誰の指揮なのか。その見当はこの段階でついたがそれをまだ口にしない。()()()()()()()()()と思っている自分がいるから。思い込みは判断を間違えさせる。読み合いにおいてこれは悪手だ。

 戦況を見守る。ラービットの出現により戦況が変わらざるを得ない。「そういうトリオン兵がいる」とだけ情報があると、「どの程度の脅威か」が分からない。正確な強さ。そのラインを把握したかった。そして戦闘員の数が減る。そこで打った本部の作戦は──

 

「妥当だな」

 

 ──戦闘員の数の減少を抑えること。

 戦える駒が減ればその分被害が広まる。ならばいっそ、街の被害をゼロにするのではなく、被害を最小限に抑える。理想ばかりでは零れ落ちるものが多い。堅実な手だった。

 

「あれ? 基地に向かってくるトリオン兵がいる」

 

「ん? 強襲狙い……イルガーか」

 

 シアンはボーダー基地の強度を知らない。防衛設備がどの程度なのかも知らない。

 

「シアンさん? ほぇ?」

 

「ちょっと我慢してくれ」

 

 だから国近の手を引いて立ち上がらせ、そっと抱き寄せて物から離れさせる。迎撃ができたとしても1体だけ。イルガーの強度、今の迫り方からして2体は無理だと考え、衝撃に備えたのだ。

 画面に映る矢印。基地に迫るそれが1つ消え、もう1つが接触したと同時に基地が大きく揺れる。

 

「きゃっ……!」

 

「へー。案外硬い守りだな」

 

 振動としては地震と似ている。だが当然驚きもするし、怖さもある。国近はシアンの服をぎゅっと掴み、振動が収まるのを待った。

 

「……もう大丈夫かな?」

 

「……いや、まだ来る」

 

「シアンさん、その……このままでいい?」

 

「かわいいやつ」

 

 離れているより一緒にいる方が安心する。それを見透かして、正直な感想を言うと国近が耳を赤くした。顔を見られないように俯くも、今の近さからして胸に頭を押し当ててるようなものだった。

 今度の3体も1体は防衛設備で落とされた。さらに1体を太刀川が切り裂き、最後の1体の自爆は基地の防御力で耐え抜いた。先日、怪物級のトリオン持ち少女がアイビスで壁をぶち抜いたことで、基地の防御力が高くなったらしい。知らぬ間のファインプレーをしたトリオンモンスターである。

 

「イルガーはもう来なさそうだな」

 

 そう言って国近の背から手を離し、元いた場所に座らせる。恥ずかしさから頬を赤くしている彼女だが、自分の役割を果たそうと意気込むことでそれを抑え込んでいく。

 

「へ~、タチカワのやつイルガー斬ったのか。さすがだな」

 

「イルガーって硬いの?」

 

「だいぶ硬い。でもそれを斬れるなら、ラービットも両断できるだろうな」

 

「忍田さんも同じ考えみたいだね。太刀川さんは新型の掃討が役割みたい」

 

 太刀川が出撃したことで、国近も自分の仕事が始まる。隊長のための情報支援だ。どこから向かうべきか、その進路を教える。もう1人の戦闘員こと出水はまだ移動中で、こちらの支援はもう少し先のようだ。

 

「そいやユイガは?」

 

「唯我くん出したら速攻で負けるから。スポンサーの子だし、こういうのは出せないんだ」

 

「だから遠征でいなかったのか」

 

「うん」

 

 ナチュラルな戦力外通告。なおランク戦には参加しているようだが、こちらでもお荷物状態だ。一応サポートとしての立ち回りは身につけたらしい。

 

(あの攻撃的なオッサンなら支配のためにもっと基地を狙う。ここで手を止めるやり方は……2人か)

 

『こちら忍田だ。敵の戦力の投入の仕方が散発的に思える』

 

「……まだ様子見というのがあるんでしょう。仮定段階で狙いを話すべきではないと思いますが?」

 

『現状何通りだ?』

 

「作戦考案者は2人にまで絞れてます」

 

『両方話してくれ』

 

「トリガー使い、つまりトリオン持ちが狙い。もう1つは、基地の戦力を減らした上で最大戦力を送り込む。やりそうな手はこの2つです」

 

 後者はすんなりと納得できたが、前者に対しては引っかかりを感じた。先日までに現れていたトリオン兵たちが、今回の敵のものだとしたら情報を得た上で作戦を立てるはず。

 

『こちらには緊急脱出(ベイルアウト)がある。それを徹底すれば捕縛の被害が減ることは、向こうももう分かっているはずだ』

 

「訓練生は?」

 

『……っ!!』

 

「ユウから聞いてますけど、訓練生にそれはないらしいですね?」

 

『まさか……それが狙いか!』

 

「前者の場合はそこが狙いになります」

 

 通信の向こうでざわつくのを感じる。訓練生であるC級隊員が狙われるとして、それを守るための戦力が足りないからだ。A級が新型を排除。B級は他のトリオン兵を排除。今はこの形が整っているからいい。しかしさらに戦力が投入されればそれが崩れる。

 その均衡が、今まさに崩れ始めた。

 

『新型3体出現! ……C級隊員の場所です!』

 

『くっ……!』

 

 現れた3体のラービット。そしてその場にいた1人の少女が放った一撃。

 それが、この戦いが佳境に入る引き金となった。

 

 

『新たに門発生。………っ! 人型近界民です!』

 

「……ハイレインだな」

 

「え?」

 

 画面に映し出される映像。現れた者たちを見て確信する。敵の指揮官が誰なのかを。

 通信を切る。国近の操作を見てそこは覚えた。今からの会話を聞かれるとまずいのだ。

 

「ユウ。さっき纏めた情報をシノダさんたちに送っといて。あと狙いは訓練生で確定」

 

「シアンさん……行くの?」

 

「ああ。聞き出さないといけないことがあるから。……ごめんなユウ」

 

「帰ってきてくれたら、許してあげる」

 

「ありがとう」

 

 国近の立場が危うくなる。最悪の場合無くなる。それを分かった上で頼み、国近もまた理解した上で承諾した。

 首から下げていたアクセサリーを取る。それをシアンに渡し、受け取った彼はそれを起動する。

 トリオン体への換装。それと共に現れるマントは()()()()()()()()()()()。その手には死神のイメージで名高い大鎌。

 

 座標を国近から教わり、シアンはその方向に向かって空間(距離)を斬った。裂かれた向こう側には教わった座標の場所が見える。作った裂け目を通ることでその現場への移動を完了した。

 突如裂かれた空間。そこから現れたシアンの姿に、玉狛の面々は驚き、ヒュースは鋭い視線を送った。

 

「これはこれは。玄界(ミデン)におられましたか。シアン殿」

 

「1年ぶりですねヴィザ翁。あなたには聞きたいことがある」

 

「でしょうな。しかし今のあなたの要望を聞くことはできません」

 

「分かっています。オレが勝ったら答えてもらう」

 

 大鎌を持っていない方の手で、マントの下から()()を取り出す。()()が見えた玉狛の面々は全員ぽかんと口を開け、()()を知らないヴィザとヒュースは警戒する。

 シアンはヴィザに突き出すように真っ直ぐと持ち、高々と宣戦布告した。

 

「これの"刹那の見切り"5番勝負でな!!」

 

 ()()はただのdsだった。

 

 

 




 老人相手に反射神経勝負。容赦ない!
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