玄界放蕩記~ゲームこそ人生~   作:粗茶Returnees

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大規模侵攻②

 

 近界民の住む国は、空閑有吾に惑星国家という呼称をされている。恒星の周りを移動する惑星のように、国が軌道を描いて移動するからだ。例外もあるがそれはさておき、彼らは他国や玄界(ミデン)に向かう時、遠征艇を用いる。それはボーダーも同じであり、どこもが共通している移動手段と言えよう。

 今回大規模侵攻を引き起こしたアフトクラトル。その領主の1人ハイレインは、自分たちの遠征艇の中から戦況を見ながら戦力投入を行っていた。そのサポートをしているのが、黒トリガー使いの1人であるミラだ。

 

「この反応……。隊長!」

 

「ここにいたのか。シアン」

 

「玄界の的確な対応も彼によるものでしょう。どうしますか?」

 

「……目的に変更はない。ヴィザをそちらに割くことになるのなら、代わりにラービットを投入しろ」

 

「了解しました」

 

「今浮いているのはエネドラだな。向かわせろ。時間をかける必要もない」

 

 目的はあくまでも雛鳥の回収。金の雛鳥が見つかったのであれば、そちらが最大目標だ。さらにシアンが持つ黒トリガー。それも回収できるのであれば、戦果としてこの上ない形だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ヴィザ」

 

『少々お待ちいただけますかな』

 

「それほどだというのか?」

 

『これはなかなか意識を割く余裕がありませんな』

 

「……シアン。……この1年でそれほどの腕を上げたというのか……!」

 

 ヴィザはアフトクラトル切手の最大戦力だ。年を老いてなおその実力は衰えず、不動の強さを持っている。それほどの人物が高く評価していることに、ハイレインもまたシアンの評価を上げざるをえなかった。

 最優先事項は間違いなく金の雛鳥だ。しかしシアンの黒トリガーを放置することもできない。エネドラだけでなく、さらに戦力を投入するべきか。

 

『ハイレイン殿。こちらは私に任せていただきたい』

 

「……そうか。エネドラに指示は出している。そちらのことは任せるぞ」

 

『承知しました』

 

 さらなる戦力の投入。その()()を侵さずに済んだことを、ハイレインはヴィザに感謝せねばなるまい。

 なにせヴィザは今"刹那の見切り"でシアンと勝負しているだけなのだから。

 ヴィザ翁のファインプレーである。

 

 

 

□□

 

 

 

 現在、シアンとヴィザは空き家にてゲームに興じていた。外だと画面が見づらいという理由で移動したのだ。ヒュースは予想外の展開に変な汗をかき、それを見ていた玉狛の面々は反応に困った。ヒュースが哀れだったから。

 

「ヴィザ翁今ハイレインと話してましたね?」

 

「ほっほっ。さすがに気づかれますか」

 

「それで勝ち越しても嬉しかないけど、まぁいいや。俺の質問に答えてもらいますよ」

 

「無論です。こちらはお返ししますね。なかなか面白いものでした」

 

 勝敗はシアンの3勝2敗。非常に危なかった。ヴィザが感覚を掴む前に2勝できたが、その後連続で2敗。ハイレインの横やりがなければそのまま3敗目を取られていたことだろう。

 ヴィザからゲーム機を受け取り、それをマントの内側にしまう。初めから話す気だったのだろう。ただ、ヒュースがそれを聞かないようにするために、こうして移動したというわけだ。

 

「オレが聞きたいことは、あなたも分かっていますよね。()()()()()()()()()()()()。教えてもらいますよ」

 

「……まずはシアン殿の見解を聞きましょう」

 

 間違っていることがあればそこを正す。そういう形で話を進めるらしい。

 

「知ってることなんて少ないですよ。姉さんが誰かに嵌められた。それだけです。オレは誰が裏切ったのか知りたい」

 

「何から話したものか。……シアン殿の姉、リア嬢は天才でした。トリガー技術においても、戦いにおいても。万能と称されるほどの方でした。何よりもその心はお優しい。敵国であれ人の死を悲しむ心をお持ちだった」

 

「ラービットの開発だってそこが起因ですからね。()()()()()()()()()()。そんなトリオン兵を求めた」

 

「ええそうです。黒兎(ビーラビット)と称されたリア嬢からあやかって、その名がついておりますな」

 

「皮肉かと思ってた」

 

「違いますよ。……あなたがトリガー(ホーン)を持たないのも、彼女がそれを拒んだからです。トリガー角は未だ研究段階。短命になる可能性すらある代物。それを弟につけるのには堪えられなかった。リア嬢自身それ自体に反対されてましたし」

 

 それを明言されるのは初めてだった。そういう理由だろうとは思っていたが、シアンの姉はその事を言わなかった。ただつける必要はないとだけ。そう言っていたのは、トリガー角を持つ者の運命を知ったら悲しむだろうと気遣ったからである。

 リアのその性格は、軍事国家であるアフトクラトルではあまり評価されない。しかしその腕は確かで、実績を確実に残していく。

 強く優しい人間。そんな彼女は立場の弱い人にも目を向ける。その人たちの生活の支えになるものも開発していった。

 

 するとどうなるか。簡単だ。リアの人望が高まる。

 そして、それを面白く思わないのは領主たちだ。リアの人望は領主たちの領地など関係なかった。国全体の民を想っていたから。

 

「それ故にリア嬢は狙われたのでしょう」

 

「嫉妬でか……! そんなことで!」

 

「ええ。私自身すべてを知る立場にはございません。真相も知りません。しかしシアン殿よりは情報を持っています。それを踏まえた上で、憶測で話を進ませてもらいましょう」

 

 確定だとは思うなと、ヴィザは念押しして話を続ける。

 

「トリガー角の研究。その技術の流用がリア嬢を追い詰めた原因と考えています」

 

「流用?」

 

「はい。()()()()()()()()()()()と考えたのかもしれません。存在されていれば邪魔であっても、その発想力や着眼点は本国に欠かせないものですから」

 

「だからそれだけを手に入れようと……?」

 

「その動きをリア嬢が察知しないわけがなかった。彼女に何かあったと知られれば、その人望から暴動も起きたでしょう。だから暗躍し、民に知られることなく作戦を実行しようとした」

 

「……屋敷が燃やされたのは、姉さんが自分から……?」

 

「そうでしょう」

 

 そうすれば民は「リアの身に不幸が起きた」とだけ認識し、彼女の死に悲しむだけで終わる。ヴィザのような上の立場の人間なら、「裏で何か起きている」と気づく。その後のための布石を打ったわけだ。

 

「誰がやったのか。それは不明と言わざるをえません。そして本国ではその黒トリガー、リア嬢を回収することが決められております」

 

 場の空気が変わる。ヴィザが臨戦態勢に入り、シアンもすかさずトリガーを構えた。

 

赫の兎(ビーラビット)の力は国宝級と指定されました。そしてあなたは裏切りの烙印を押されております」

 

「それを真っ先に言い出した奴が黒幕じゃないんですか?」

 

「その者はもう消されております故。隠れ蓑に使われたのでしょう。真相は闇に消えました。そして私は一隊員。命令に従うのみです」

 

「……ありがとうございます。ヴィザ翁」

 

「構いません。生前にリア嬢から受けた恩。このような形でしか返せないことが心苦しいですが、ご容赦くだされ」

 

「十分ですよ」

 

 その場にいない者に言い訳などできない。リアの死。黒トリガーの発生。屋敷の炎上。そしてシアンの失踪。見えているものだけを繋げれば、シアンを裏切り者とすることなど容易だった。

 本国でどういう扱いを受けているのか。それを知れたのも素直にありがたい。

 義を果たしたヴィザはもう手心を加えない。一介の戦士として、命令に従って任務を遂行するのみ。

 

 ヴィザの持つ杖に光の輪が浮かぶ。同時にシアンが大鎌を振った。

 2人のいる家が切断された。無駄な破壊もなく綺麗な切断面が出来上がり、一拍おいて崩れ始める。倒壊する家から飛び出し、瓦礫を避ける。距離を取ったところで互いに意味などなく、視界に捉えた時にはトリガーの力をぶつけ合っている。

 ヴィザの使う黒トリガー「星の杖(オルガノン)」のタネをシアンは知っている。そしてヴィザという人間を知っていることもあり、どのタイミングで仕掛けるかという駆け引きが成立していた。

 

「申し訳ない。待たせましたなヒュース殿」

 

「問題ありません。ラービットが削られたことが少し痛手かもしれませんが」

 

 周囲の家を倒壊させることで道を開き、ヴィザは最短でヒュースと合流する。瓦礫を避けて飛び出した時に戦況を見て判断したようだ。ヴィザという脅威を理解しているからシアンも、ヒュースと対峙している戦闘員と合流した。

 

「そのマーク、玉狛だよな?」

 

「木崎だ。お前のことは迅たちから聞いている」

 

「なら話は早い。状況は?」

 

 木崎から敵意が向けられていないことで、シアンもヴィザたちに集中できる。共闘するという意思表示も含め、状況がどう動いたかを木崎から聞いた。

 C級隊員たちの離脱。その誘導を烏丸と三雲が行い、小南は進行を止めないトリオン兵の排除に向かったようだ。シアンが合流するまで、木崎は追加で現れた2体のラービットとヒュースの足止めをしていたらしい。1人でそれをこなす立ち回りと視野の広さ、判断力。それらから木崎の強さがよく分かる。

 

「ラービットが邪魔だな。先にそこを消そう。それが終わったらオレはヴィザ翁……老人の方を相手する」

 

「了解したが、あの2人相手にどう新型を破壊する」

 

「こうやって」

 

 木崎を巻き込まないように数歩前に出る。2体のラービットへと目を向け、無造作に2回大鎌を振るった。

 行ったことはただそれだけだ。結果として、2体のラービットは切断されている。

 

「「!?」」

 

「ほっほっ、それが赫の兎(ビーラビット)の力ですか」

 

(風刃のような遠隔斬撃か? いや、それじゃ最初に現れた時の説明がつかない)

 

 この黒トリガーの能力を把握しているのはシアンだけだ。シアンがアフトクラトルから姿を消す直前に、この黒トリガーは生み出されている。逆に言えば、リアはシアンが生きられるように黒トリガーになったわけだ。

 それ故に、アフトクラトル側もこの能力を完全には知らない。分析しながら戦闘しないといけない。

 

 その困難さ、強敵を前にヴィザは笑った。

 

「ヒュース殿。雛鳥をお願いします。この2人は私が斬りましょう」

 

「ですが──」

 

「この遠征の第一目標。それを放置するわけにもいきますまい」

 

「……分かりました。ご武運を」

 

「ええ。ヒュース殿も」

 

「行かせるとでも?」

 

 蝶の楯(ランビリス)を展開したヒュースに向けて大鎌を構えるも、横から迫る斬撃の対応に追われる。木崎はシアンによる前情報もあり、経験による直感でタイミングを合わせて姿勢を下げて回避。その間にヒュースはカタパルトを用意し終え、ロボットアニメみたく発射された。

 

「私が行かせると言ったのですから、行かせさせてもらいますよ」

 

「さすがに余裕は作れないか。にしてもあの飛び方いいな。オレもやりたい」

 

「ほっほっ。では開発されるといい。あなたもまた技術力をお持ちなのだから」

 

「姉さんほどじゃないけど。キザキは今のやつを追え。足止めが役割なんだろ?」

 

「すまない。ここは任せる」

 

「それをさせるとでも?」

 

 黒トリガー同士の戦いだ。ボーダーの規格から外れたワンオフのトリガーを持っていようと、自分が浮いた駒になるのは目に見えている。迷いなんてなかった。

 それを止めようと星の杖(オルガノン)を構えるヴィザよりも一手先にシアンが仕掛ける。距離など関係ない。大鎌を縦に振るうだけで、ヴィザがいた場所まで真っ直ぐ地面が斬れた。初見ならそれで終わってもおかしくないのに、ヴィザは構えから攻撃を予測して回避していた。

 

 風刃の遠隔斬撃とは違う。木崎は今のを見て確信した。風刃の場合、遠隔斬撃であるために、()()()()()()()()()()()()()()()()()。黒トリガーである以上その速度は決して遅くない。むしろそれは軌道を読み切らないと防げないほどの超高速と言える。

 

(この黒トリガーには()()()()()。振ったと同時に地面も裂けた)

 

 それを分析するのは今ではない。木崎はシアンが時間を作っている間にヴィザの射程から離脱していく。

 

「行かせるって言ったからには、カッコつけさせてもらいますよ」

 

「いやはや。あなたの成長をまた見れるとは」

 

「存分に見てもらいましょうか。この地にたどり着くまでにもいろいろとありましたからね」

 

 近界(ネイバーフット)最大級の軍事国家アフトクラトル。その国が抱える国宝級の黒トリガー同士の激突。それは周囲に分かりやすく惨劇を作り上げていった。

 警戒区域であるため人はもう住んでおらず、C級隊員たちもいないため人的被害は出ない。ただ、2人の戦いの範囲にある建物が縦横無尽に切り裂かれて倒壊していくだけだ。

 災害──これを称するならその言葉が相応しいだろう。

 

 星の杖(オルガノン)の力は、使用者を中心に円を広げ、その軌道上を刃が走るというもの。風刃同様、目で追おうとして簡単に追えるものではない。角度も自在で回転の向きに決まりもない。あったとしても、常人なら関係なく斬られて終わる。

 それに対してシアンは大鎌を自分の周囲にぐるりと振った。これにより接近していた刃がすべて弾かれる。こちらの黒トリガーは新しいもの。それを分析するためにも、ヴィザは簡単な攻撃しかしていない。

 それはシアンも分かっているが、防がなければ斬られるだけなので振るうしかない。

 

赫の兎(ビーラビット)。その力はやはり強大なようですな。この星の杖(オルガノン)と真っ向から張り合うトリガーなど、そうはありません」

 

「自分でもこれは強いと思ってるよ」

 

「空間を斬る。その辺りでしょうか」

 

「当たらずとも遠からず」

 

「これはこれは。まだまだ秘密がありそうだ」

 

 薄っすらと笑う。真っ向から戦える相手がそういないから。本来、前線から身を引いていておかしくない年齢。普通ならそうなるところを、ヴィザはその強さから今尚第一線で戦っている。衰え知らずのその強さは、本国の戦士たちから尊敬される所以である。

 今度はシアンが先に大鎌を振るう。ヴィザを狙うのではなく、自分の周囲に様々な角度で。それは誘いだ。確かめてみろという。

 

「大した自信だ」

 

「あなたを退けられれば、この戦いも楽になるでしょうからね。足止めでもよさそうだけど」

 

「私としても、それに付き合うわけにはいきません」

 

 右でも左でもない。今度は上から刃を落とす。シアンは()()()()()それを防いだ。これにはヴィザも眉をひそめ、攻撃を仕掛けるシアンの動作に合わせて刃を動かす。2人の間。星の杖(オルガノン)の軌道上で衝突音が鳴った。

 

(今のは……)

 

「ふむ、空間だけでなく時間にまで作用するとは。恐ろしい黒トリガーだ」

 

「初見でこうも捌かれるとは。さすがはヴィザ翁ですね」

 

「シアン殿が足止めのための戦いをしなければ、異なる結果になったでしょう」

 

「……過去形?」

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 分析はまだ終わっていないはずだ。たとえ今の戦闘をハイレインが見ているとしても、正しく能力を特定できるはずがない。シンプル故に答えが見えにくい力なのだから。

 

「斬った場所。その記録はしていますからね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……っ!! まさか……!!」

 

「私たちはともかく、今のエネドラ殿なら利用するでしょうな」

 

 シアンを試すように笑う。これをどう捌くのか見せてみろと。

 

「足止めしているのが、自分だけとは思わないことです」

 

 

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