玄界放蕩記~ゲームこそ人生~   作:粗茶Returnees

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新生活①

 

 大規模侵攻の被害を最小限に抑えようと、被害が出たことについて市民は不安や恐怖を元とした激情をぶつけたくなるもの。それが分かっているボーダーも、大規模侵攻の起きた日から約1週間後に記者会見を開くことを発表した。そのため現在ボーダー職員たちは大忙しだ。被害の把握、必要な支援の把握、根回し等々。やることは山程ある。

 

 それはそれとして、ランバネインを敗北に追い込んだ者たちは、現場の指揮をした東の誘いで焼肉に訪れていた。対人型近界民戦で最も人数を費やしたのが、黒トリガーではなくノーマルトリガーのランバネイン戦だ。ボーダーの戦闘員を最も落としたのもランバネインであり、彼の撃退は戦況を盛り返す要因だったと言える。

 

「まさか東さん達とタイミングが重なるとは。これ半分ぐらい席を貸し切ってる状態だな」

 

「そうなってますね。お店の人に話して1つに纏まるのが良さそうっすね」

 

「よしそっちは堤に任せた。俺は東さんに話してくるぜ」

 

 そんな東たちとタイミングが重なったのが諏訪隊。並びに芋づる式でついて来た太刀川隊だ。彼らが来たことに東たちも驚き、何も知らなかった出水が一番驚いている。

 

「出水くん抜け駆けだね~」

 

「いやっ、柚宇さんそんなつもりはなかったですよ!?」

 

「ほんとかな~? どう思います? 太刀川さん」

 

「面子を見りゃあまぁ納得だな。オペレーターの国近に声かけなかったとこは、抜け駆けだろうけど」

 

「ぐっ! 痛いところを……! ってか、シアンさんまで来たんすね。良かったんですか?」

 

「大丈夫だ。本部長には俺から『焼肉連れて行くわ』って話してるからな」

 

「諏訪さん相変わらずの肝っ玉っすね~」

 

 諏訪隊に太刀川隊に東隊と荒船隊。そこに米屋と緑川が混ざっている。茶野隊と鈴鳴第一は遠慮したらしい。

 席は適当にバラけて座っているが、シアンがいる席は少し異様と言えた。3人掛けできる大席で、奥から小佐野、国近、シアン。対面側は奥から諏訪、太刀川、東。廊下側で東とシアンが向き合っている状態だ。

 話をしないといけないし、この場にいる者がそれを見聞きしやすいようにという考え。シアンもそれを汲み取って合わせていた。

 

「固く話すつもりはない。諏訪が連れてきたのだし、許可が出てるなら上もそういう考えなのだろうしな」

 

「じゃあまずは乾杯といきますか。食べたそうにしてるのが横の席にいますし」

 

「ふっ、そうだな」

 

 ランバネイン戦に後から参加したA級3人組。彼らの「飯を食わせろ」という視線がいい味を出している。飲み物が届くとそれぞれがグラスを持ち、東の言葉で乾杯が行われた。

 それぞれの席で好きに注文し、届いたら好きに焼いて食べる。ここにいるのは食欲旺盛な男衆ばかりだ。

 

「シアンさんどれ食べる~?」

 

 席順には少しドキッとした国近も、東の雰囲気が柔らかいと分かるとほっと息をついた。今はメニューを片手に、シアンへ声をかけている。

 

「まだ分からん字もあるけど……えーっと、このカルビってのは何?」

 

「お肉だよ」

 

「じゃあロースは?」

 

「お肉だよ」

 

「……このタンってのは?」

 

「お肉だね」

 

「……ユウ?」

 

「気づいてなかったのかシアン。国近はわりと頭悪いぞ」

 

「た、太刀川さんには言われたくないよ!」

 

 バカ代表に指摘されて顔を真っ赤にした国近が、メニューを盾にその顔を隠す。これどうすんだよって視線が諏訪から太刀川とシアンに向けられ、2人とも互いにどうにかしろと視線で火花を散らし合う。

 

「はっはっはっ、今国近が言っていったのは牛肉かな? ロースは肩。タンは舌だ。カルビは特定の部位じゃないから、肉という言い方は正解になるな」

 

「「へ~」」

 

「ユウ最初のやつ合ってたのか。すごいな」

 

「……でしょう?」

 

「最初は何種類か少しずつ頼めばいいだろ。んで、気に入ったのがあれば次にそれ頼め」

 

「なるほどな。スワの考えでいこう」

 

「そう思って入力中だよーい。白米いる人は?」

 

 注文用のタブレットを小佐野が操作し、カート内にはすでに何種類もの肉と野菜が入っている。希望人数分の白米も追加して注文完了。あとは届くのを待ち、届いたら焼いて食べる。その繰り返しだ。

 

「タチカワ。ユイガは呼ばなくてよかったのか?」

 

「国近が声はかけたぞ。作戦に参加してないから来るわけにはいかないって断ったんだと」

 

「へ~。意外とそこ気にしてんのな」

 

「唯我くんあれで真面目だからね~。上下関係もきっちりしてるし、育ちも良くて努力もできる子なんだよ。シアンさんも仲良くしてあげてね~」

 

「そのつもりだけど、避けられてる気がするんだよな。全然会ってないし」

 

「そりゃあれだ。嫉妬だ」

 

「嫉妬か」

 

 隊長たちが遠征から帰ってきたと思えば近界民連れてきてるし、なんか打ち解けるの早いし、しかも作戦室に入り浸るときた。唯我にとって、居場所に入ってきた異物である。それが隊長たちと親しげだとなると、居場所を無くした気にもなるというもの。

 そこはたしかに申し訳ないなとシアンも反省。一度会ってゆっくり話をしたいものだ。そう思っていると、国近が袖を引っ張り、携帯のカレンダーでとある日を表示する。

 

「唯我くんの予定だと、この日に時間あるから話できると思うよ」

 

「なんでわかるんだよ……」

 

「シアンさんそういう人だし、分かりやすいからね~」

 

 そうなのかと太刀川に目を向けると、全く分からんとドヤ顔で返される。隣の席でも、「柚宇さんだから読み取れるんだ」という会話が行われていた。

 

 頼んでいたものが届き、食材を網に乗せて焼いていく。野菜は欲しい人数の分だけ小分けに。肉の味付けはタレ派か塩派かで愉快な論争が始まる。そこに、肉によって使い分けるという東の一声で一刀両断。そう思われたが、どの肉なら分けるかでまた話が続いていき、やれやれと東は肩をすくめた。

 

「はい、シアンさんの分のお肉」

 

「ありがとう。ユウも自分の分取れよ」

 

「ちゃんと取ってるよ~。わたしは少食だからいっぱいは食べられないけど」

 

「……2人ってデキてんすか?」

 

 小佐野の切り込みによって空気が一瞬で変わる。

 思っていたけど触れなかった人たちは「お前それここで聞くのか!?」と驚き、東のように「突くものじゃない」と思ってる人たちは、話を聞き流しながら食事を続ける。

 

「デキてるって、なにが?」

 

 そして当の本人は質問の意味が分からずに首を傾げた。シアンは自分のことではないと思っているようで、他人事のように東同様食事を続けている。

 

「いやー国近先輩たちの様子見てるとなんか──」

 

「ん? デキてるってあれか? 国近に子供デキたのか?」

 

「「ぶふぉっ!!」」

 

「ゲホッゲホッ。やべ、変なとこ入った……」

 

「いずみん先輩大丈夫?」

 

「はははは! 太刀川さんやっぱ最高だな出水!」

 

 隊長は「デキてる」の意味を理解していなかったらしい。

 

「え!? ユウ子供出来たの!?」

 

「できてない! できてないから! わたし誰ともしてないもん!」

 

 どうやら理解していない者がもう1人いたようだ。

 

「してないって何を?」

 

「ふぇ!? え……え!?」

 

「子供は池から発生するって聞いたけど、こっちはなんかすんの?」

 

「馬鹿だなーシアン。それ誤魔化すための嘘だぞ」

 

「まじか」

 

「子供はキャベツ育てたらできるんだぜ」

 

「まじかよこっちすげぇな!」

 

「どっからツッコめばいいんだよこれ!!」

 

 しっかり誤魔化されている太刀川と、その勘違いに騙されるシアン。ツッコミを放置して膨れ上がった負債に諏訪が吠えた。

 

「違うのか。ユウ、どうやったらできんの?」

 

「ぅぇっ!? ぇ、いや……それは……その…………」

 

「話振ってごめんなさい! 勘弁してあげてください!」

 

 耳まで赤くなって目を泳がせる国近を見て、小佐野は慌てて話の中断を申し出た。コイバナ感覚でイジれそうな部分が、まさかのバカ連鎖爆撃で先輩を陥れるだけのものになるなんて思いもしなかった。とりあえず、国近に経験が無いということだけが判明し、これはこれで酷い結末なのだが傷は浅かった。

 

 混沌に発展しかけた場もこれで一旦落ち着き、頃合いでもあるかと判断した東が周りを確認してから口を開いた。シアンのことについて。

 

「君は近界民であってるね?」

 

「そうっすよ。知ってるんでしょ? そんな空気してますよアズマさん」

 

「……上が決めたことに異を唱えるつもりはない。ただ、君の事情を知っている人が多いほうが、動きやすいんじゃないかと思ってね」

 

「いい人だなー。ま、軽く自己紹介するか」

 

 そういう理由なら打ち明けてもいいだろう。話を切り出したということは、少なくともこの場にいる人間は信用していいということ。シアンは太刀川たちが知っている範囲の情報を他の者にも共有し、()()()()()()()()()()()

 国で決められている処遇と、自分の黒トリガーについてを。

 

「黒トリガーのこと話していいの?」

 

「キド司令たちには話してる。ここにいる人たちなら別に問題ないでしょ」

 

「それはおれも聞きたいっすね。遠征の時まじで何も分からなかったし」

 

「あー、やべぇ奴ってこの人のことか」

 

「ぶーぶー。オレ聞いてないよその話」

 

「遠征の話はそうするものでもないだろ」

 

「そーだけどさー荒船さん。仲間外れ感あるじゃん」

 

「どっちにしろ今聞けるんだ。いいだろそれで」

 

 そんな全員に興味津々ってなられてもなと苦笑するが、黒トリガーの希少性を考えれば当然かと頷く。シアンが国近に視線を送ると、彼女は首から下げていたアクセサリーを取ってシアンに渡す。それを見えるように吊り下げながら話を始めた。

 

「名前は本国の方で勝手に決められてたけど、赫の兎(ビーラビット)。こいつの能力は1つのことを尖らせたものだ」

 

「1つ?」

 

 戦ったことがある太刀川と出水、そして目の当たりにした諏訪隊と国近が疑問を抱いた。どう考えても多様性に長けた黒トリガーのはずだと。

 

「このトリガーができるのは斬ることのみ」

 

「全然信じられないんですけど……」

 

 笹森の素直な反応にシアンは頷く。自分も使用者じゃなければそう思うから。

 

「これは()()()()()()斬るんだよ。座標が分かれば、自分の居場所とそこまでの距離を斬る(無くす)ことで、瞬間移動を可能にするし。使い方次第で広範囲でもピンポイントでも斬れる」

 

「けどシアンさん、鎌振らずにおれの弾とか当真さんの狙撃消してましたよね?」

 

「ああそれな。()()()()()()()()()

 

「はい?」

 

「鎌を振って攻撃するのは、もちろんそれ自体に威力があるからだけど、それよりも()()()()()()()()()()()()()()からだ」

 

「つまり、攻撃の位置を正確にするためか」

 

「そういうこと」

 

 だから振らなくてもエネドラを強制的に訓練室に送り込めたし、切り刻むことができた。タイミングもイメージで決められる。ヴィザに放った赤の一撃も、鎌を振るというフェイントでヴィザを動かし、浮いたところに高威力を放っていたという仕組みである。

 

「あのスライム野郎の気体化攻撃を防いだあれはなんだ?」

 

「自分の体の周りを全部斬ってただけ。だからあいつのトリオンを打ち消せてた」

 

「だけってあのな……」

 

「中・長距離が封じられたのはそういうことか。やれやれ、これだから黒トリガーってのは」

 

「ふむ、話を聞くにボーダーでいう銃手と射手を1つに混ぜたようなものか。攻撃は斬撃だけど、こちらのイメージとしてはこれが分かりやすいな」

 

 シアンの話を聞いて東が理解を深める。何かに似てるなと思っていた者たちも、その表現を聞いて納得した。鎌を振るってその延長線上を斬っている時は、銃手と同じ。鎌とは関係なしに斬っている時は、射手と同じ。違いは斬撃が見えないという理不尽な部分だ。

 そして視線が出水に集まる。天才射手である彼がもしこの黒トリガーを使えたら、鎌を振るうことなくひたすら斬撃を飛ばしてくるのかと。

 

「なんかみんなの視線が酷え」

 

「個人的に一番助かったのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かな」

 

「なん……!」

 

「同じ黒トリガーならともかく、基本的に斬れないものはないんで。空間だって斬れるから、あとは近い国までの道を開いて移動。移動したら即閉じで終わりなんですよ。それのおかげで追撃から逃げられたし」

 

 とんでもない情報に聞いていた者たちが息を呑む。遠征艇いらずの力。やりようによっては、最近の大規模侵攻よりさらに兵を送り込める力だ。アフトクラトルがそれの回収を国単位で決めているのも納得である。そして、遠征に行っていた太刀川はもう1つのことも腑に落ちる。

 出会った場所、その国はアフトクラトルではなかった。遠征艇を持たずに移動していたのも、それがあったからなのかと。

 単独での国家間移動は前例がある。空閑有吾はそれを行っていた。だがシアンのように、その国での手続き不要での旅はしていない。遠征先の兵士がシアンの存在に困惑していたのも、それが理由だろう。

 

「制限はあるぞ。切り開く大きさ、距離に比例して消費するトリオン量は増えるし、距離を無くしての移動もそれを開いてる時間でガンガン消費する。だから即移動して即閉じるってのが現実的だ」

 

「近界での移動も相応の消費をしたってことか」

 

「そりゃもちろん。いくら国同士が近くなっても、必ず一定距離はある。オレのトリオン量ならオレ1人がそこを移動するのが限界。移動先ですぐに戦闘になるとわりと危険」

 

「……そういうのあったの?」

 

「そりゃあな。この通り五体満足でいるけど」

 

 黒トリガーを使用している時、ハイレイン達のようにマントが装着される。それがアフトのものだと知っている国に移動すれば、奇襲と思われてしまうわけだ。

 そういう話はする必要ないだろうとシアンは打ち切り、黒トリガーの説明も終了する。一番話したいのはそれじゃないから。

 

「そうそう。制限付きではあるけど、許可降りたぜタチカワ」

 

「ん? ……まさか」

 

「おう。ボーダーのトリガーが今度支給される」

 

 待ちに待ったその報告に、太刀川は獰猛な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キド司令! オレに小遣いをくれ!」

 

「帰りたまえ」

 

 焼肉後、そんなやり取りがあったとかなかったとか。

 

 

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