何も思い浮かばなかったです。
第12話どうぞ
「着いたよ!」
「ここか…」
家を出発して数十分。ダイビングショップに着いた。大きめで、入口の建物の他に左右に施設があり、それにベランダがあると、割と豪華だ。そして入口にはDorphin Houseと書かれた看板がある。外にはシュノーケルやボンベがいくつも置かれ、まさにダイビングショップという様相だ。
外では、そのシュノーケルやボンベを片付けてる人がいる。
「果南ちゃーん!」
千歌がその人を大声で呼ぶ。
「あ、千歌。曜と梨子も。後ろの人は?」
「最近引っ越してきた和人くん!」
「初めまして。新城和人です」
「私は松浦果南。よろしくね」
青い髪の長いポニーテールで、紫色の瞳が特徴的な人だ。物腰も柔らかく、落ち着いているように見えるので年上に感じる。
「果南ちゃんは千歌ちゃんと私の幼馴染で、浦の星の3年生だよ」
曜がそう言う。なるほど、道理で。
「じゃあ先輩ですか」
「まあそうなるけど、敬語は別にいらないよ。あと果南でいいから」
「わかり…わかった。よろしく、果南」
「よろしく♪」
敬語は疲れるから、こういう人は助かる。
「それで千歌、今日は潜りに来たの?」
「うん!和人くんに見せたいんだ〜」
「見せたい?何を?」
「内浦の海!」
海?引っ越してきた当日にもう見て、綺麗だなとは思ったけど…何かまだあるのか?
「なるほどね。まあ入ってよ」
果南に促され、店内へと入る。
「今日は、シュノーケリングだよね?」
「うん!」
シュノーケリング…シュノーケルと呼ばれるものを付け、比較的浅い水中を遊泳するものだ。そういえば外のボンベは?
「外のボンベは使わないのか?」
「ボンベはスキューバダイビングの時に使うんだけど、スキューバはライセンスがないと出来ないの」
「なるほど」
ライセンスが必要だと色んな手続きがあるから、大変だな。シュノーケルはその点では気軽にやりやすそうだ。
「3人は更衣室の場所分かるよね?」
「うん!」
「私は和人くんに更衣室の場所案内するから、先行ってて」
「わかった!和人くんまた後で!」
「おう」
3人は俺と逆側に歩いて行った。
「じゃあついてきて」
そう言って果南は先に歩いていく。俺はそれについていった。
「男子更衣室はここね」
男子更衣室はプールの更衣室に近く、いくつものロッカーが並べられていた。
「水着ないんだけどどうすればいい?」
「中にいくつか掛かってるから、サイズ合うやつ取って着て」
じゃあまた後でね、と言い果南は来た道を戻って行った。
「よし。着替えよ」
更衣室に入り、水着の掛かってるところを探す。
「あったあった」
掛かってる棚から、青地に赤の縦線が入った水着を取る。他にお客さんはいないので、その場で着替える。今着ている服を脱ぎ、水着を履く。ダイビングスーツは上下一体なので先に足から入れ、腕を通し、後ろに付いているジッパーを上げようとするが…
「あれ?上がらん…」
何回も上げているが何処か引っかかっているのか上がりきらない。
「鏡どっかないか?」
周りを見渡すと、全身が写りそうな大きい鏡があった。その前に移動する。一度通した腕を抜き、首回りやジッパー周りの部分を直していく。これで大丈夫だろうと思い、また腕を通した時に
「…そりゃ痕は残るか」
右肩の手術痕が俺の目に入った。結局あの怪我は自然治癒による経過観察ではなく、手術を必要とするものだった。あの時のことを思い出すと本当に不甲斐ない。
「…やっぱりバレーは完全にやめた方がいいのかな…」
今それを考えても仕方ないと思うが、思考は止まらない。それを振り払うように急いで着替え、集合場所に向かった。
「あ、やっと来た!遅いよ和人くん!」
「悪い悪い、手間取っちゃった」
集合場所に行ったらもう4人がいた。
「はい、和人くんこれ」
「ありがとう」
果南に手渡されたのはシュノーケルとフィン。必要な装備だ。
「ポイントに着いたらそれ付けてね。それじゃ船に乗って」
言われた通り船に乗る。船はそこまで大きくなく、小さめだ。
「誰が操縦するんだ?」
「操縦も果南ちゃんがするんだ。私も操縦してみたいな〜」
「操縦もなのか。凄いね」
高3で船の操縦が出来るのは素直に凄い。海に面してる他の所でもなかなかいないだろう。
「店の手伝いをするのに必要だったからね。他にも色々乗れるよ?」
それはなかなか魅力的だ。他と言うとマリンバイクとかか?
「マジで?じゃあ今度乗せてよ」
「いいよ。また後でね」
やった。東京住みだったからマリンアクティビティっていうの前からやってみたいなあっていうのはあったから。楽しみが増えた。
「じゃあ行くよー!」
「ヨーソロー!」
船が徐々に加速しだし、進み始めた。
「そういえば梨子」
「どうしたの和人くん?」
船が出発し、少し経ち周りの景色を見るのも一段落ついた頃、梨子にあることを聞くことにした。
「梨子はもう来たことあったのか?」
「うん。前に一回だけね」
やっぱり来てたのか。
「その時も今日みたいに千歌に連れてこられて?」
「実は違うの」
少し顔が曇る。
「違う…?」
「うん…前に逃げてきたって話したでしょ?」
前に学校で俺がマネージャーになるかどうか悩んでた時に梨子は私も逃げてきたと言った。でも理由までは知らない。
「転校する前のコンクールで弾けなくて、それでスランプになっちゃって」
梨子が告げる事実を静かに聞く。
「コンクールで弾いた曲が海をテーマにした曲でね。環境を変えて、海の音を聞けば何かわかるかもしれないって思って、ここに来たの」
梨子が抱えていた物を初めて深くまで知る。スランプは練習を積み重ね、第一線で活躍する者に起こりやすい。梨子も全国大会に出場する程の腕前の持ち主だ。全国大会のプレッシャーは計り知れない。いくら俺も出たことがあるとはいえ。
「それでどうだったの?」
「…ちゃんと聞けた。欲しかった音が」
それを聞き、少し安心する。
「それはよかった。けど梨子がスクールアイドルをやるとは意外だったな」
梨子は1つのことを全力でやるから、2つのことを両立できなそうだし、そして目立つのは苦手だったはず。
「私も最初はやるつもりなかったの」
「たぶん千歌に根負けしたんだろ?」
千歌の性格上、止まることを知らないから何回も勧誘されたんだろう。
「それもあるけど、1番は千歌ちゃんに背中を押されたから。だからスクールアイドルをやろうと思ったの」
「そうだったのか…」
「だからさ、和人くんも…」
「もう少しでポイント着くから2人とも準備してー!」
梨子が何か言おうとしていたが、果南に遮られる。
「ごめん梨子。何て言った?」
「…ううん、なんでもない」
本人がなんでもないんだったらいいけど、何か大事なことだったのだろうか。それが気になりつつも、準備を済ませていった。
「じゃあここから潜ろうか」
「私が1番!」
ポイントに着いて早々に千歌が勢いよく飛び込む。
「千歌ちゃんはやーい!」
次に曜も海に入る。
「2人ったら…」
呆れながら梨子が入る。
「よっと…」
3人の後に俺が入る。海はまだ少し冷たく、体に少しだけ刺さってくる。水面から遠くを見ると、続いていた海が突然切れ、見えなくなっている部分がある。所謂水平線だ。
「ふうー…」
息を整え、一気に潜る。潜った先の海は綺麗だった。遠くは暗く、自分側に近づいてくるほど透き通った青へと移っていく。そして外から入ってくる光が魚の鱗に反射し、まるで星のように瞬く。凄く幻想的な光景だ…
「はぁーっ…」
水中から1度顔を出す。
「どう?和人くん、内浦の海は?」
果南が船上から聞いてくる。
「凄い。めっちゃ綺麗だよ」
若干興奮してるのか、合う言葉が見つからず、簡単な言葉になってしまう。ただ果南はそれを聞き、笑顔を浮かべながらうんうんと頷いた。
「内浦の海は世界のどの海にも負けないくらい魅力があるからね」
「ああ、果南の言うとおりだよ。こりゃ凄い。そういえば3人は?」
「3人なら和人くんが潜ってる間に一度上がったんだけど、また潜っていったよ」
なるほどね。周りを見てもいなかったから、入れ違いだったのか。
「よいしょっと」
とりあえず一度船上に上がる。
「あれ?もう上がるの?」
「うん。ちょっと休憩」
フィンは付けたままで、シュノーケルは一度外す。
「体力無さすぎだよー?それとも2人きりになりたかったとかー?」
果南がにやにやしながら言ってくる。からかってきてるな…乗ってやろう。
「そうだね。果南はかわいいから2人きりになりたかったんさ」
「え!?…もう!からかっちゃダメでしょ!」
顔を真っ赤にしている。よし、反撃成功したな。
「ははは、まあ2人きりになりたかったのは本当だしさ。話してみたかったんだよ」
「…確かに今日が初対面だし、全然和人くんのことも知らないしね」
そこからは特に当たり障りのない普通の会話をした。いくつかは
「そういえば和人くんはAqoursのマネージャーしてるんだっけ?」
「そうだけど、もう知ってるのか?」
マネージャーをやってるのは一部の人しか知らないのに、初対面の果南がなんで知ってるんだ?
「千歌が前来た時に言ったの。新しいマネージャーが入ってくれたんだーって。凄く嬉しそうだったよ」
千歌かい…まあ別に隠す必要のあることじゃなかったからいいけどさ
「そりゃよかった」
「和人くんは何か部活やってなかったの?割と筋肉もしっかりとしてるのにマネージャーなんて」
なかなか鋭いな…話すか、話さないか。少し考えた末に
「…部活は特にやってないよ。ただ筋トレはしてたから筋肉はあるんだ」
話さないことにした。弱さを見せたくないというただの見栄かもしれないけど。
「ふーん…」
幸い果南には特にバレてはいないみたいだ。
「そういえばさ、果南は千歌にAqoursに誘われなかったのか?」
「誘われたことには誘われたんだけど、断ったよ」
そう言った瞬間果南の顔が曇る。今までの明るい表情からは想像出来ない程に。
「なんで?」
「今は学校を休学して、お店を手伝ってるの。復学したとしても、私は高3だから時間もないだろうからね」
それは果たして本当だろうか?俺の目には何か未練が残ってるように見えた。果南もダイヤさんと同じで何かを抱えているのだろうか。ただその正体は俺には分からなかった。
「和人くん何やってるの?」
梨子が水中から上がってきていた。
「あ、梨子。ちょっと果南と話してただけだよ」
「へえー…和人くんも潜ろ?」
「わかった。ちょっと待って」
船上に上がるときに取ったシュノーケルをまた付ける。
「じゃあまた行ってくる」
「あ…うん。行ってらっしゃい」
果南はさっきの暗い顔から一変、明るい表情に戻った。ただ潜ってる間もずっと俺は気になっていた。
「んーっ、楽しかったねー!」
オレンジ色の光が差し込みだした頃、ダイビングショップに戻ってきていた。
「どうだった和人くん、内浦の海は?」
千歌に聞かれる。
「凄かった。水は綺麗で透き通ってるし、魚もいろんなのがいて綺麗だったよ」
「ふっふーん、そうでしょ!」
「ああ。また来たいよ」
「いつでもいいよ!ね?果南ちゃん」
千歌が振り向き、果南に聞く。
「うん、もちろん。予約が入ってないときならいつでもいいよ」
それならまた近いうちに来ようかな。
「じゃあ帰ろっか」
「そうだね」
「じゃあね果南ちゃん!」
「うん。じゃあね」
3人が歩き出す。
「ねえ、和人くん」
「ん?どうした?」
3人についていき俺も帰ろうとしたときに果南に呼び止められる。
「みんなを支えてあげてね」
「…うん、もちろん」
それじゃと言い果南と別れ、3人のところへ向かう。果南に言われた言葉が、通常よりも数段重い意味を持っているような気がした。
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side果南
帰り際和人くんに、ある言葉を言った。もしAqoursが何か困難に直面したとしても、みんなが折れないように手助けをしてほしかったから。2年前の私のようにならないように。
「…支えてあげてね」
その呟きは、暗く沈み始めた空だけが聞いていた。
最初に比べるとかなり長くなってきました。
やっと果南と接触です。口調とか合ってるかな…
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