あちらのキラキラな王子様達に夢中な彼女は、私の婚約者です   作:HIGU.V

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なんかでました。


AAちゃんがんばる

アリスにとってそのその少年との出会いは、まさに奇貨だった。

彼自体はどこにでもいそうな風貌ではある。少し背の小さい、しかし鍛えられた体躯を持っている以外は、別段優れた容姿や人目につく特徴などはない。

浅黒く焼けた肌は、典型的な田舎育ちを思わせるのは、減点と見る事もできるか。

何れにせよそんなどこにでもいる少年であった。

 

 

魔法の才能に愛され、美を司る精霊にも愛されて生まれた彼女は、しかしながら、ごく普通とは言えない家庭の生まれだった。

 

養育院の前におくるみに包まれて籠の中に置いて置かれたのが、彼女が聞いている自身の最も古い経験だ。

籠のなかには咲き始めたばかりのヘレボルスが一輪だけ入っており、それだけが申し訳程度の罪悪感という、産みの母親より残されたものだった。

 

捨て子、それ自体は宿場町が近いその村ではよくあること。故に彼女は本当の名前すら知らない、いや、親から名前すらもらえなかった彼女は、養育院で「アリス」となって、しかして前向きに生きてきた。

 

圧倒的な魔法の才能と、誰もが振り返るような美貌により周囲の耳目を集め、宿場町の交通量の多さがそれを遠くへと運び、領主の耳にまで届くという幸運まで。

好機をつかみ取り、あれよあれよと今では有数の魔法の大家である有力な貴族の婚約者の位置まで上り詰めた。

 

それ自体が戯曲出来るほどの立身出世のサクセスストーリーである。

だが、それも彼女が別段望んだものではなかった。

 

アリスの心の中には、常に重く石のようにある『捨てられた』という負い目。

それは彼女が評価されればされるほどに、どれほどの価値があっても、彼女の持っていた才能や美貌という内容物を知られようとしなければ、簡単に捨てられるのだという恐怖心。

ただ彼女は自身の好きなことをして、好きなように生きたいだけなのに、その経験が不安を呼び込み続けるのだ。

 

人生の目的を果たす、そのためには魔法や、勉学も頑張れた。

「アレラーノ」になってからは、その積み上げたものを見て周囲から持て囃された。

肯定され評価される。当たり前だが彼女の自尊心は大きく満たされていった。

 

だが、こんなにも素晴らしい自分のことを見ようともしない、あの陰気眼鏡男(こんやくしゃ)が嫌いだった。

こちらが今まで積み上げてくるために、どれほどの努力をしたことなど知りもしないで、親から貰うだけの家名やら富が欲しいだけだと決めつけ値踏みするような。陰険で甘ったれで嫌味な、そんな男が蛇蝎よりも嫌いだった。

 

そもそもとして、アリスは美貌によってくる男も本質的に嫌いだった。小さい頃はそうでもなかったが。

その嫌悪感は、婚約者から受けた態度に対する同族嫌悪に近いということに、彼女自身気づいてはいなかったが。

魔法と違い彼女が背負っているものを見ないで、維持や向上のために確かに努力はしているが、その本質を見ることなく、ただ身につけた物を評価してくる有象無象が嫌いだった。

 

最も、それを上手く使う手腕を身に着けている以上、今まで問題になったことなどなかったが。微笑んで首を傾げれば、周囲の男は傅く。傅かない立場の男は彼女に価値を見出していないのだ。

 

それでもその気になって彼女が指一本動かせれば、家を覆うような炎を起こせるのだから、彼女を望めど、手折ろうとするものは一人もいなかったが。

 

 

 

つまるところ、彼女はありのままの自分を、彼女が希望する範囲で見て理解しながら、彼女の望む有様で評価してくれる

『都合の良い存在』が欲しかったのだ。

 

 

 

別に、デリックだけが彼女に興味を示さ(びぼうにひかれ)なかったわけではない。

学生になってからも、適度な距離感を保とうとする者もいれば、むしろ距離を取っておこうとする者もいた。

 

しかし彼は、デリックはその辺の同学年の他人程度の付き合い方しかしてこない。

 

大勢の男子学生のように、距離を詰めようと近寄ったり離れたりもしない。

魔法科のクラスメイトのように魔法の才能に嫉妬や謙りもない

家格の高い者のように、尊大に蔑んだ目で見ても来ない。

家格の低い者のように、謙って媚を売ろうともしてこない。

同性の他人のように、美醜によって敵視をしてもこない。

 

ただただフラットに関係を維持する程度しかしてこない。邪険に扱って距離を取ろうともしてこない。

そもそも、彼女をまともに見てもいないが、無視もしてこない。

話しかければ反応するし、時間が合えば歓談もする。

 

それは彼女が今まで集めてきた、しかして価値を見出せなかった。彼女の中の物をくすぐった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リッキー! ねぇねぇ、今日暇? 空いてるよね?」

 

「いや、空いてないけど、部屋に帰って試験勉強しないと」

 

「えーなにそれ、そんなガリ勉じゃ詰まんないよ」

 

太陽が沈むのが早くなったと、ひしひし感じられる少し薄暗い放課後、わざわざ人が残っている普通科の教室に、単身乗り込んできなアレラーノは周りを気にせずそう俺に詰め寄る。もはや見慣れた光景だ。

 

 

「そもそもさぁ、リッキーって勉強苦手なのに、無駄にガリ勉とか。嫌われちゃうよぉ?」

 

「アレラーノは別に好きでもないだろうし、構わないが」

 

「えぇーそんなことないよ? リッキーのことは好きだよ?」

 

桃色の髪、小さな唇。小動物のようでいて、天才的な魔法使いという武器を持っている彼女。

俺のクラスメイトも彼女に夢中なのは多い。守ってあげたくなる雰囲気と、手玉に取られたくなる態度が、男心をくすぐるらしい。

囚われるなら手球どころか生殺与奪くらいのほうがいいし、今一つわからない。と言うと、お前は訓練されすぎてるといわれた。解せぬ。

 

二人きりの放課後の教室、今ここに揃っている理由は、別に呼び出されたわけでもなく。俺の補修が終わった後に、教師と入れ替わりで彼女が来ただけだ。そう、補修だ。

最近は時間ができたのに、勉強に身が入らなかったので、猛省しているのだ。

でも普通の男子ならばたとえ相手が美少女じゃなくとも、異性のクラスメイトと二人きりいうだけで心が躍る状況だとは思う。そのくらいを理解できる程度には俺にも常識はある。

 

「まぁ、いいや。じゃあ行こう? 南町の市場で冬用コートのフェアやってるの。コートは重たいから荷物持って」

 

話しながらも続けていた片付けが終わり、立ち上がろうとすれば彼女はそう言って俺のカバンを引っ張る。一瞬手を離していた隙を狙われて、そのまま教室のドアまで走られれば、ついて行かざるを得ない。

たぶん、彼女もこうして強引に俺を引っ張れば断らないことを、悪態をついてもついていってしまうことを、それなり以上になった付き合いで知っているのだろう。

 

「俺に荷物を持たせろと、そう言わせたいのはわかったから、カバン返せ」

 

「よし、それじゃあ急ぐよ!」

 

相変わらず周囲に気を使わせたままなのか、とも思いながら久方ぶりの誰かの荷物持ちの為に彼女の後を追いかけることにする。時間はあるが、今日の放課後は有限なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー買ったね」

 

「ああ、持った、いや持たされた」

 

結局、何着も何着も試しながら、俺の1年分くらいの小遣いをポンと払って買い込んでいく彼女にある種の気持ちよさすら覚えながら。優等生の彼女特権で出していた、外出届けのお陰で時間に余裕があるので、買い物を終えて学校近くの店で食事を取ってから帰る事になった。

それ故にもう日もとっぷりくれる時間まで付き合う羽目というわけだが。

 

似合う? 似合わない? などと聞かれてもわからんとしか言えないのだが、ふと目に留まったときにその毛皮の加工が甘いとか、彼女が迷っているときに、こちらのほうが下処理がしっかりしているから長持ちするなどと。

実用性のことをぽろっと口にしてしまうと、じゃあこっちは? なんて急に嬉しそうに聞いてくるので長引いてしまった。

 

 

「だからお礼に、この店奢ってあげてるんだけどなー」

 

「……奢りでなかったら、そもそも飯など食べないが」

 

値段表をみて目玉が飛び出そうになった。朝のランニングなどで近くを通ったことはあり、知り合いが利用しているのも遠目に見たことはあるが、自分にはもう縁のない場所だと思って、価格帯をみていなかったのだ。

 

「ねぇ、リッキーはさ」

 

「なんだ」

 

メニューからアレラーノに視線を戻すと、少しだけ口をすぼめながらこちらを不満気に睨んでくる。

こんなふうにすぐに機嫌が変わるから、みていて飽きないが疲れるから嫌なのだ。

 

「なんで、アリスの事何も言わないの?」

 

そう洩らすと彼女はフォークを置いて、口元に手を当てる。表情はさらに代わり真剣と言ってもいい物になってる。どうやら真面目な話なようで、それでいて、俺にもどういう意味で聞いているかはなんとなくわかる。

わかるのだが……

 

「どうしてほしいんだお前は、アレラーノ」

 

「ふぅーん、そこでそう聞いちゃう? 案外リッキーて意気地なしだね」

 

 

煽られているのはわかる、こちらを怒らせようとしているのもわかる。そしてその奥に見えるのも、なんとなく、だけれども。だからこそ、俺はため息を吐く仕草をしてから、面倒だって言うことを隠さないようにして、自分の考えを口にすることにする。

 

 

 

「アレラーノは、金払いの良い貴族に似ている」

 

「何? リッキーの故郷の何かの謎掛け?」

 

地頭がいい彼女はすぐに考え込む仕草を見せるが、別に比喩とかではない。

前から思っていたことだ、言葉にするのは初めてで難しいが、いうべきだろうという自分の直感を信じて口にしてみる。

 

「俺の家に、いや裏の山や周りの森に来る貴族は、狩猟を目的としている。そういう家だ」

 

「うん、前に言ってたね」

 

「アレラーノは肉を食べるとき、店で処理されたのを買う。でもその肉はたいていが、牧場から来てる」

 

「当たり前でしょ?」

 

「街に住んでいる俺たちは、狩りをして肉を食べる必要はない」

 

話題がとっちらかっているのはわかる。俺の話し方が下手なのも自覚している、でもこんな一つずつテーブルに材料を叩きつけるような話し方でも、アレラーノは真面目に考えながら俺をみて聞いている。だから、もっと踏み込む。

 

「そう、俺の家の数少ない資金獲得の方法の狩猟というのは、体験を売りにしたレジャーというやつだ。本質的には、釣りとかボート遊びとかと変わらない」

 

肉を食べたいから狩りをするという貴族は、いないんだ。

 

「だから、大きい獲物を取ってそれの一部を成果を持ち帰るのが楽しいのであって、それを食べたいからやるのは少ない」

 

たまに来ていた2つ隣の伯爵様は、猪を仕留めたことを自慢していたし。枢機卿とか呼ばれていたおじさんは、オオカミを仕留めて喜んでいた。二人とも、毛皮だけを持って帰りそのままだ。

それ以外もシカの角を持って帰るのが普通だ。

 

「角や牙は、民営品として売ってる。肉は地元の料理屋におろしたりしてる。皮は剥製にしたい人以外はいらないから儲かる」

 

「リッキー、だんだんわからなくなってきた。狩りを楽しめばいいってこと?」

 

アレラーノがそう言うので、俺の言いたい事のためのものは全部出たんだろう。狩りを楽しむというのは、似ているけれど少し違うから、話を進める。

 

「アレラーノも目的は同じだと思う」

 

「アリスも?」

 

「その獲物が食べたいとか、どこかが欲しいじゃなくて、自分の腕ですごい獲物を狩りたいだけだ」

 

そう、狩りはたとえのつもりだ。アレラーノはただ

 

「俺は、アレラーノから見たら、寄ってこないし餌に食いつかない、手強い獲物なんじゃないのか?」

 

そう、自分でもいうのがおかしい気もするが。俺は少し有名だったみたいだ。

変わり者の先輩婚約者にゾッコンな1年として。

 

「そこからが偶然で、どこからが狙ってかは知らないけど。アレラーノはたぶん俺というよりも、婚約者がいるやつに婚約者以上に見られたい、とかそういうのじゃないのか?」

 

「……」

 

だから、俺はそう思った。黙っているアレラーノは────

 

 

 

 

「なーんだ。じゃあリッキーは、やっぱわかってたんだ」

 

こともなげにそう言って何時ものように笑った。

 

「まぁ、なんとなくは」

 

別に、それが悪いとは思わない。多分それは普通のことで、後ろ指をさされるようなことじゃないと思う。

 

アレラーノの好意ベクトルが自分に向いているというのは、正直わからなかった。

なんか付きまとわられているのは、自分が田舎者で、珍しいからだと。

珍獣への対応みたいなものと捉えていた。

 

それでも関係は長く続いて、俺の同性の友人たちよりの面倒な絡みも続き、やっとのこと好意っていうものなのだとは思ったが。そもそも俺は同年代の友人は幼少期以降は殆ど居なかったから、わからなかったんだ。

そう認識してから、考えて出した結論だ。

 

「……昔からそうなの。アリスはかわいくて、無敵だから、いつもこう」

 

「……何を言ってるんだ?」

 

アレラーノはどうでもよくなったとでも言うように、荒っぽい所作になりながらテーブルに組んだ両の手を置く。

今までのお姫様のような所作が、その辺の村娘のそれになるのは、まるで2役を演じる役者のようだ。

 

「院長先生も、魔法の師匠も、おねーちゃんも。みんなそうだった。本当に簡単にアリスの事を好きになってくれたのに、アリスが好きだったら許して欲しいのに、ちょっと確かめる(ほかにいく)と、すぐに怒って、アリスのこと嫌いになるの」

 

先生も師匠も誰だか知らないが、まあ彼女のことだ。

好かれるために笑顔で近づくいて、愛想よくすることはしてきたのだろう。

そうして、一歩踏み込むふりをしたり、引いたりして、反応を見て、失望してきたのだろう。

 

「アリスを好きな人を、アリスは好きになりたいだけなのに」

 

きっと、それが彼女の本心なんだと思う。強く力と何処か諦めを含んだ言葉だったから。

普段だったら、そうかと流すだけだが、今日は食事を奢ってもらっている。

 

だから、俺はもう少し踏み込むことにした。

 

 

 

「そうか、それでどうするんだ?」

 

「え? まず、リッキーはどうなの?」

 

しかしながら、何か話がかみ合ってない気がする、

俺はアレラーノにどうして欲しいのかを聞いているのだ。

 

「だからそれで、アレラーノは俺にどうして欲しいんだよ」

 

「だって、アリス。リッキーのこと、本当は別にそんなに好きじゃないよ?」

 

「ああ、そんなもんだろ」

 

 

それはわかる。好きだったらもっと苦しくなる。他の人のところに行くかもだなんて考えただけで気持ち悪くなる。アレラーノはそういうのはなかった。俺のことを変だと言ってたが。

そう、俺でどうにかしたいようには感じたが。俺にどうして欲しいかは、分からなかったんだ。

 

 

「リッキー何言ってるか、アリスわかんないよ」

 

「だから、別に好きかどうかを探るのに、好きになってもらうように演じるのは、普通の事じゃないのか?」

 

 

誰だって、好きな人にはいいように見てもらいたい、それは当然だ。

好きな人が自分を好きか確かめたい。当たり前だ。

それは悪いことなら、誰も着飾ったりしないし、デートにも誘わない。

 

「狩りで殺すことだけしたくて、別に毛皮しか興味なくても、残った分はこっちが買い取ればいい」

 

「リッキー?」

 

「興味があるから、近寄って。自分の方に傾けようとしてもいいし。傾いて倒れてくるのは面倒で嫌いだからポイ。それで別にそれでいいんじゃないか?」

 

「……? なにそれ?」

 

「うまくいえないけど、多分アレラーノはそれが好きなんじゃないのか? 自分の方に倒れそうで、倒れないのが」

 

 

積み木で城を作るとすれば、俺は格好良くて堅牢な城を作りたいけど、アレラーノは崩れそうで目が離せないのを作りたいとか、そのくらいの差なんだと。

 

これは、普通にそう思った、アレラーノはアレラーノを好きな人が好きなんじゃなくて、アレラーノが気になる位の人を好きにさせることが、好きなんだと思う。

 

「アレラーノ程に可愛いくて強いなら、自分を好きにさせるのはできてただろうし。そうだよ、やっぱ狩りと同じなんだ。獲物との駆け引きが好きで、獲物は別に好きじゃないだけだ」

 

まぁ、彼女に好かれたい場合、そういう面倒なこともきっとあるだろう。

確かそう、あの人は『試し行動』とか言ってた気がする。

それみたいのをされて、正解し続けないとだめというわけだ。

 

でも、そんな絶妙なバランスが、楽しいという人もきっといるだろう。あの人もそう言っていた。自分で言うのも変だが、好みなんて人それぞれだし、他人に言われる筋合いはない

 

「アレラーノにアプローチかけられて、嫌な奴はきっといないだろうし。それを続けて、そんなお前でもいいっていう、懐が広い奴が見つかれば、それでいいだろ?」

 

「リッキーさぁ……本当、変わってるねぇ」

 

「そうか? ……そうかもな?」

 

否定したさはあるが、今までのことを、あの日のことを思うと否定はできないと思う。

 

「アレラーノは顔『は』いいし、いい性格もしてるから。そんなに苦労しないと思う、男は学園にしかいないわけじゃないだろうし」

 

アレラーノはあの日パーティーで、名目上は婚約者に振られている、本人曰く振ってやって背中叩いてやったで、清清してるそうだ。まぁ家の繋がりとかを考えると、アレラーノが下に出ないとなんだろう。

その後のことを見るに、まぁ両方の家同士で、合意になったという事だろう。

ならばなにも問題はないはずだ。

 

 

「だから、そのうち見つかるだろうよ。お前のことを受け止めて、怒らないで、甘やかしてくれて、叱ってくれるような奴がさ」

 

「……そっか、ありがと」

 

 

ヘタで遠回りで、何度も脱線したけれど、やっと伝わったようだ。アレラーノは少しだけはにかんだみたいに笑う。

似合わないと思う、彼女はもっといたずら気に自信満々に笑ってる方がらしいけれど、たまには良いのかもしれない。

 

「じゃあさ、もし見つからなかったらさ」

 

そこまで言うと、いつもの自信満々な何かを企んでいるような、俺の知っているアレラーノの笑顔になる。

 

「アリスは見つかるまで、リッキーで遊んでいいってことだよね?」

 

 

その顔を見れれば、俺も安心できる。

あの日から、彼女と距離をおいた日から、ずっと俺のことを気にかけてくれたアレラーノが、いつもみたいに笑うのなら、多少の面倒くささなんて、気にするものじゃない。

 

「ああ、好きにしていい。俺は別に試されようと気にしないし、早々お前に溺れないし、お前のこと嫌いじゃないからな。それに一緒にいると楽しいし」

 

それがきっと友達ってもんだろうから。

 

「だから、これからも一緒にいてくれよ。面倒なときでもなるべく付き合うから。そうしてアレラーノも楽しいなら、俺はすごい嬉しいから」

 

これまでの迷惑をかけていた分はなって思いながら俺がそういうと、アレラーノは顔を隠すように組んだ手を、肘を立てるようにして顔を隠す。

 

「(あぁあああ、こういうとこ! こういうところが、あのデブ女先輩が! デブ先輩は、こういうとこに! あういう感じにされたんだ!アリスも油断したら飲み込まれるんだぁ)ぁぁぁ!」

 

「どうした?」

 

どこかで見た感じな震え方をするアレラーノ。なんか既視感と安心感を覚えながらそう尋ねる。

 

 

「……ううん、なんでもない、それじゃあ好きにするね。アリスが心の底から満足するまで、一緒にいるからね!」

 

いつもの自信満々な、いや、自信過剰とも言える笑いを浮かべながら桃色の長い髪と、それを束ねるヘレボロスの髪飾りが揺れる。

この笑顔を見ると、多少落ち込んでたりしても元気をもらえるし、面倒だって感じてもなんだかんだで最後は笑えるから、俺は嫌いじゃなかった。

 

調子が戻った彼女を見て、俺は苦笑しながら口を開く。

 

「はは、お手柔らかに……アリス」

 

感謝を込めて、昔名前で呼んで欲しいと頼まれたのを思い出して、名前で呼ぶことにした。お互いに悩みを共有し和えたなら、もう親友と言ってもきっと良いはずだし。

 

「そういうの! そういうの反則! リッキー! あの女仕込みでしょ! アリス知ってるんだからね!」

 

「あ、すまんつい、アレラーノ」

 

と思ったが、違うらしい。確かに女子の名前は簡単に呼んじゃだめと教わってきたから、結構踏み込んだつもりで、距離を間違えてしまったようだ。

 

「違うの!そうじゃないの! アリスはアリスなの!! あーもうっ! リッキーは本当鈍感! アリス怒るよ!」

 

「ああ、好きなだけ怒れ、俺は聞いてるからさ」

 

コロコロ変わる表情を見ながらそう言えば、アレラーノは何かを堪えるようにこぶしを握り締めて、肩を落とした後。俺の肩をぽすりと殴ってきた。

 

「ううん、今日はいいや、でもアリスは天才だから、放っておいたり、距離を置いたりなんかしないから」

 

「ん、そうか。ありがとうな」

 

急に寒気が。少しだけだが、森でクズリに合ってしまったような寒さを感じた。そうだ、もうすぐ冬本番だ。冷えないようにしないと。

そう思って今日彼女が買っていたコートを1枚渡して、二人で店を出る。

 

 

学校までそんなに長くない道を一緒に帰る。何回も繰り返したことで、珍しくもないこと。

だけれども。

 

「アリス」

 

「なに、リッキー」

 

「これからもよろしくな」

 

「うん!」

 

そう言えたことが、すごく俺は嬉しかった。

きっと、彼女も笑ってくれているのを、顔を見なくてもわかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────相手を試すような行動をして、それでも良いって言ってくれる彼が好き

────でもまだまだ満足はしてないから、もっと確かめたくて今日彼と結婚しました。

 

どこかの女の部屋にある、引き出物に入っていたメッセージカードより抜粋

 

 





中身は15歳だからねちっこくはならないよ。
横恋慕負けヒロイン救済は流行って良いよ。

1年かけてできたアリスちゃん勝利ルートでした。久々に筆を執ろうと新作を書いてたら
大まかなアイデアが固まってかきたくなったので完成しました。


新作の方はまた変な男女の話です。お手すきでしたら是非読んで下さい。

キレイ系お姫様が俺の部屋に来たが縮尺がおかしい
https://syosetu.org/novel/287970/

ではまた

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