あちらのキラキラな王子様達に夢中な彼女は、私の婚約者です   作:HIGU.V

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沢山の閲覧、感想、評価誠にありがとうございます。
好きなように描いた作品ですので、若干不定期ですが今しばらくお付き合い下さいませ。

私は毎日貴方からの感想をお待ちしております。


フロアの右側にある赤い照明の横で踊りましょう?

「ありがとう! 困ってたところなのぉ!」

 

「いえ、お気になさらず」

 

トリスとダンスの約束をしたあとの俺は、それはもう浮かれた。

別に初めて参加するわけでもない。彼女の誕生日は子爵家にふさわしい規模のパーティーもやるし、そういった場所には何度も行っている。

 

だけれども、学園に入ってから自分が婚約者だと、そう周りに宣言できるような機会はなかったのだから。1年の俺と、2年の彼女にはやはり大きな差がある。だから彼女に会いに行くのは決まってこの前のような荷物持ちであったり、家の用事だったりと。

俺が会いたいから、教室に顔を出すことは初日に禁止されてしまったし。かと言って彼女が教室に来たことはない。一番多い呼び出しの方法は寮あての伝言で、次は手紙だ。

 

だから浮かれた気分をそのまま。数少ない自分の自由にできる小遣いを手に、ダンス用の服は持っているが、靴やカフスなどの小物でも見に行くということまでしていたのである。

 

学園付近の商店を覗くと、この時期はまさにそういった学園生向けの店の様相をしている。そんな中でも俺の小遣い────家業の手伝いや、猟の案内をした際のチップ等────と見比べて見るとまぁ、うん。冷静になれる程だった。

無理すれば買えなくもないが、正直我が家は学園に通わせていただいているだけで感謝しなければいけないといった経済事情。親への無心などできるはずもなく。

 

仕方なしと踵を返して帰路を行くと、そんな浮かれ気味な学園生をちらほら見かける。昼食とティータイムの合間のようなこの時間は、人通りは多い。

 

そんな中で、何やら大量の荷物を抱えてフラフラと歩く、同じ制服を着た小柄少女を見かけたので、俺は見かねて荷物を持つことを提案したのだ。リボンの色からして同学年のようである。まぁ俺からみて小柄って思えるほどだし年上ということは考えにくいか。

 

「わぁーすごい! そんなに小さいのに力持ちだねぇ! すごいすごぃ!」

 

「そうですね」

 

いくら双方の目的地が一緒だからといっても、正直いきなり異性に話しかけて荷物を持とうかなどと聞くというのは、随分と厚かましい行為だ。

 

家によってはただ使用人を待っているだけだったり、そもそもその使用人だったりとするのだから。余計なお世話になるのが普通だ。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………えーと、いい天気だねぇ!」

 

「ええ、そうですね」

 

「…………」

 

「……あー……」

 

だから、適当に話しながらちょっとでしゃばりだったかと反省しつつ。最初は遠慮気味だったが今はあまり気にした様子のない彼女の荷物を、特に労することもなく女子寮の入り口まで運ぶ。

 

「それでは、また学園で」

 

「え!? それだけぇ!?」

 

色々反省がてら、今日は大人しく部屋か図書館で課題でも進めるかと思いその場を後にする。いやしようとしたのだが、彼女のその声で思わず立ち止まる。何か落としたり壊したりしてしまったのであろうか? 靴が入る位の大きさの箱が5つほどで持ちやすいものだったから、そんなはずはないのだが。

 

「えっと、ほらぁこう、なにかないのぉ?」

 

「? 何かとは?」

 

「え? そのお礼にぃ~~とかぁ」

 

「お礼?」

 

目の前の彼女の話が全くわからなかった。いや別にお礼を言われたくて親切をしたわけではないが、まさか荷物をもたせてありがとうございます。というべきだったのだろうか?

実際にそういうことを言えそうな家柄の女生徒はいるが、彼女にはそういった空気はなかったと思う。人を使うのには馴れてないわけではなさそうだが。

 

「だから、荷持ちのお礼にデートしよ? とかそういうのだよぉ」

 

「……あぁ、そういうことですね」

 

そう言われて、やっと理解する。ようするに彼女はお礼が言葉では足りないと罪悪感を覚えているのであろう。香油かなにかでよく手入れされているである髪や、桃色ですこしばかり光る爪からして、しっかりとした家の生まれなのかも知れない。

きっかけは兎も角、親切をするならば相手を不快にしてはいけない。しかし、名前も知らないような人とデートしたところで疲れるだけだ。

 

「特に見返りは必要ありませんよ、それでは」

 

「いやいや、こんなチャンス本当にないよ!」

 

再度断ろうとしたら、なにやらそれでも納得がいかないのか呼び止めてくる。暑い中元気だなと自分でも的外れと自覚できることを考えながら。

 

「……それでしたら今度、幾何学の過去問持ってたらいただけます?」

 

「?? なにそれ? 君、ガリ勉君?」

 

「いえ、友人がそれと交換で昼食を奢ってくれる約束なので」

 

「えぇ? ご飯の誘いじゃなくてぇ?」

 

「知らない人と行っても疲れるだけですよ。お互い」

 

「……ア、アリスのこと知らないの?」

 

ああ、この娘がアリスというのか。確かにこの顔は何度か見たこと有るし、言われるだけ整った顔立ちをしている。顔と名前が一致してなかった。

しかし、学校の有名人ということは多くの人と知り合えるような顔の広い娘なんだろう。それならば過去問も期待できそうだ、よし手に入ったら一番高い物を頼もう。

 

「それでは改めて、失礼しますね」

 

「ま、待って! 名前と学科を教えてよぉ!」

 

「ああ、確かにそうしないといけませんね。自分は普通科のドビンス家の者です。改めてお名前をお伺いしても?」

 

「……アリスはアリス。アリス・アレラーノ」

 

「承知しました、ミスアレラーノ」

 

そして俺はやっとの事で女子寮を後にする。妙に疲れたような気がするので課題の前にひとっ走り行こうかと考えながら。

 

 

 

 

「ドビンス君かぁ……ふーん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えたダンスパーティー当日。

 

会場は学園のホールであり、こういった行事ではよく使われる。特に迷うこともないその場所へ行くために、こういうのは形からだと思った俺が、中庭で彼女と待ち合わせして合流した時。

それはもう幸せのピークだった。今日の彼女は前に見た真紅のロングフレアドレスとは異なるものだ。

 

「そりゃ、あれは私の誕生日で、私が主役だったからよ。この学園でそんなの着れるわけないじゃない……それにあれもうキツイし……胸とか腰回りが

 

淡い水色のそれは、大人しい印象を受けて。活発な彼女のイメージにはそぐわないような気もしたが。近くに立たれると、そんな考えは吹き飛んだ。言葉で言い表せないほどに美しいのだ。

夜風に髪が揺れて香ってくる空気から、指先の動き一つまで。普段の制服も魅力的だが、今日は特に全てが俺を魅了してやまない。

 

「トリス先輩、お綺麗ですよ。本当に」

 

「ありがと、本当にを付けると嘘っぽくなるわね」

 

「嘘ではなく、本心からの言葉ですよ。貴女に誓いましょうか?」

 

「……そうじゃないでしょ」

 

少しだけ気になるのは、彼女が踵のある靴を履いてきていることだ。これで目線は完全に同じ高さになってしまった。すると、急に自分の格好が気になる。兄のお下がりを仕立て直した着慣れた感が出て、晴れ着感が薄れてしまったダークグレーのスーツ。装飾品も少々強弁すればアンティーク的趣がある、直截に言えば古っぽいそれだ。

靴だけは入学に合わせて新調したので、そこだけ妙に小綺麗なのが不格好に見えるだろう。

 

こういう時に自分は彼女との差を更に強く感じる。

いや、正直言うなれば、彼女の両親にパーティーに一緒に行く事になったの一言相談すれば、俺の身の丈にギリギリ余るような、それでも胸を晴れる格好の衣装をプレゼントくらいはしてもらえる。その方法も考えたが、なんとか小さいプライドがかったのだが。

 

今思うと、どのみち恥はかいてしまうのだと、少しだけ心が痛みながら言葉を飲み込んだ。

 

「それでは、お手を」

 

「必要ないわ、行きましょう」

 

「……ええ、そうですね」

 

気持ちを笑顔に隠しながら、彼女の手を取ろうとすれば、いつものように一人で行ってしまう。まぁこれは想定内だ。それでも僅かな好機を狙って彼女に尋ねる。

 

「よくそんな靴で歩けますね」

 

「慣れよ、慣れ」

 

細めの踵のついた靴を履いている彼女は、正直見ていて不安になる。これは俺の身長を追い抜かされる不安がないわけではないが、殆どは転ばないかどうかである。

 

「その気になれば、ヒール履いてもアスファルトを……じゃなくて石畳の上だって走れるのよ」

 

「接着剤の上を? それはすごいですね」

 

「階段だって駆け上がれるわよ」

 

そんな事を話しながら、あっという間にたどり着いた会場。既に開始時間は過ぎており、参加者は思い思いの形で過ごしている様子だ。

綺羅びやかに飾られたホールの装飾、色とりどりの食や酒。着飾り楽しげに笑う人達自信まで、この会場をひと目で『素敵なもの』につくりあげている。

 

だがそんな中でも何よりも目立つのは、中央のダンスフロアであろう。

 

「トリス先輩、一曲踊りましょうか?」

 

「いきなり?」

 

「ええ、だっていつもすぐ面倒になるでしょう? 先に済ませてのんびりしたいっておっしゃってますし」

 

「それもそうね……ってアンタの案内で来てるの忘れないでよね」

 

「はい、光栄です」

 

そして彼女の手を取って、音楽の切り替わりに合わせてフロアの隅の方に陣取る。

 

 

ああ、少なくともこのダンスまでは、学園生活で最高の日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!? はぁああ? 白のタキシードに赤い薔薇とかやば、アルベルト様狙いすぎでしょ。やばない、オールドファッションすぎるのに、それを顔面偏差値の暴力で殴りつけてきてるとか、反則も反則なんですけど」

 

今俺の隣で壁の華をしながら、顔を真っ赤に染めているのは婚約者のトリスです。

 

正直に言うなれば、この可能性は想定していなかった。いや、普段の俺だったならばもっと冷静に考えてこの状況もしっかり準備しただろう。具体的には時間を調整したりとかで。

 

まぁ、ダンスパーティーというのは各々着飾ってくるわけで、そのためこの場の方々の外見的な勝ち負けがあるとすれば、容姿の元々の良さに家の財力によって用意できる衣装であるわけだ。

つまり、認めたくはないが俺には勝ち目がないというわけで。さっきまであまり表情を変えないで、少し強張った顔で、俺とダンスをしていた彼女はご覧の有様だ。

 

「ダンス完璧じゃない! あの娘もリードに甘えず踊ってるけど、たまにミスってるのに、それを咎めることも無く優しくフォローしてるし。やばい。エスコートって言葉を辞書で引くと載ってるのはあの光景よ」

 

俺の拙いエスコートでは、彼女は踊り難かったであろう。これでも今までの人生で必死に練習をしてきたので、動きや足の運びはなんとかなっているはずだ。だが貧乏地方代官の我が家には、トリスの誕生日以外まともにダンスなんてものが有る話に参加した経験などないのだ。

 

2度ほど自分の動きで精一杯になり、軽く脚を当ててしまったりした。そのたびに恐る恐る彼女の顔を覗き込み謝ったが、強張った顔をさらにそらして目を合わせてくれないくらいだったのだ。

 

「は? バクスター様やべぇ。もう夜でも暑いのにジャケットまで含めてスリーピースかっちり着てるし。ガタイ的にタキシードに衣装チェンジしたほうが良いような体格のキャラなのに。普段は豪快で兄貴分してるのに、外見でフォーマル感だしてできる男アピしてくるとか何刀流? それやばやばのやばなんだけど」

 

俺に身長がもう少しあれば、教養があれば。何よりも外見がもっと彼女好みだったら、こんな風に思うこともなかったのかも知れない。

 

「ん゛ん゛っ!! ローブ!! マント付きローブですって!! やりやがりましたねエイドリアン様。ものぐさ陰気眼鏡だから、魔法使いの正装だったら周りに文句言われないっていう判断をしたと思われるようで居て、あの娘に見て欲しい格好良い自分アピールとかいじらしい……やば……」

 

自分にピッタリ合うなにか。話し方とかから格好まで。そういうものがあればもっと彼女も違った風に見てくれるのだろうか。

 

 

その後も彼女の熱弁は続いていき、時たま御学友の先輩方が訪ねてきて。俺は楽しそうに話す彼女に飲み物を差し出したり、つまめるものを用意しながら話を聞いていた。

まぁパートナーと来ても、1曲踊ったら解散して各自好きなようにと言うペアもいる。それよりはずっと良いのだろう。そんなことをしているからなのか、特に俺もトリスもダンスに誘われることはなかった。

 

そして、宴も終わりに向かい、学校行事ということで見回っている教師に帰るように指示される。家柄を盾にしないように教師も貴族なので、こういう場にふさわしい格好をしており、それもまたトリスがついばむように酔いしれる。

 

「トリス先輩、少し話しませんか?」

 

「ん……まぁちょっとなら」

 

それを宥めながら、彼女を女子寮に送る道すがら、予め調べておいたあまり人が来ないが静かすぎない、生け垣の側のベンチへと彼女を誘った。

季節はもう夏が始まったと言える頃で、夜風は長く当たらない限り気にしなくて良い時期だ。

 

「今日は、ありがとうございます。パーティーにお付き合いいただいて」

 

「別にいいわよ。私も楽しかったし……てか、ごめん。案内とか言って私殆ど何もしてないわね」

 

まぁ、それはいつもの事なので俺は気にしない。気にしないが折角なので乗らせてもらう。トリスの隣に腰掛けてまた少しだけ俺のほうが高くなった目線で彼女の顔を覗き込む。

 

「ならば、一つだけ。一つだけ質問に答えてくれますか?」

 

「……いいわよ」

 

少しだけの沈黙と、その後に肯定の返事。彼女のそれは緊張ではない、多分困っている様子だ。ずっとトリスを見ていたからだと思うけど、そう感じた。

 

「今日のパーティーで、沢山の方を観察されてましたね、ご友人の先輩方と」

 

「ええ、そうね。こればっかりは息するようなものだし」

 

「じゃあ、どの空気が一番美味しかったですか?」

 

今日、俺はふわふわに浮かれてきてた。当然だ、トリスと一緒に居られるのだから。だけども少しばかり決めてたことも2つ有る。1つは、いい感じに踊れたらもっと踏み込んでみよう。そんな曖昧で楽観的な決意。

もう1つは、悲観的で現実的な妥協。あまり相手してもらえなかったり、途中で別行動と言い出したらいつものように、でももう少し能動的に情報をあつめようと。

 

「え?」

 

「今日、一番格好良かった人と、どこがかを教えて下さい」

 

彼女の好みを、もう少し洗い直す。そんな予防線みたいなことを考えてきていた。なにせ、いままで彼女が語り散らすことはあっても、俺から事細かに聞くことはなかったから。

 

 

「あー……えっと? その、デリック?」

 

「いつも饒舌に語っていらっしゃいますし、今後の参考にさせていただければと思います」

 

賭けではあったが、それでも聞いておきたかった。彼女の好みは一応知ってるつもりだ。前に言ってたから、王子様みたいな人が居てすごかったって。でもそれだけじゃないのはわかってきていたから。

 

 

「もしかして……」

 

「どうしました?」

 

そっか、そうだったのね……いえ、なんでもないわ」

 

「それで、誰ですか? やはり、一番語りが長かったアルベルト殿下ですか?」

 

 

俺は真っ直ぐ彼女を見てそう尋ねる。夜風が吹き彼女の短い髪が揺れる。熱くなったからと言って、少し前に更に短く、曰くショートボブという髪型にした彼女は、俺の質問にしばらく黙っていた後、口を開く。

 

 

「一番は、その、アルベルト様じゃないわ」

 

「それでは……」

 

 

俺は誤魔化されないように、一人ずつ順番に彼女が殿下以降に語っていた人物の名前を思い出しながら尋ねていく。

 

「いいえ、彼でもないわよ」

 

「そう、ですか……」

 

しかし、終ぞ彼女の首は縦に動くことはなく。今一度俺は記憶を手繰る。確かに4度程飲み物などを取りに離れた。その間に心が動かされていたのか? 記憶力に自身があると断言できるほど頭は良くないが、それでも彼女のことならば別だとは精霊に誓える。

それならば、誰だ?

 

「はいっ! 時間切れよ! デリック」

 

「そうですか……仕方ないですね。もう遅いですし帰りましょう」

 

はぐらかされてしまった気がするが、致し方ない。今日は情報に関しては収穫0だ。だが、そういう日もある。それでも彼女と踊れただけ、今日来た意味はあった。

 

「残念賞でどこが格好良かったか。それは教えてあげるわ」

 

「それは、ありがたいですね」

 

しかし、上機嫌な彼女は珍しいことにヒントをくれるようだ。俺は改めて心のメモ帳を開いて傾聴の姿勢を取る。

 

「ちょっとずれてるけど、一生懸命な所が私はす…せ…そうね! 格好良かったわ! あと真っ直ぐなところね!」

 

「真っ直ぐなところ……誰でしょうか」

 

やはり、バクスター先輩などが候補か。

こんなドロドロとひねて考えている俺は真っ直ぐとは言えない。

 

「考えておきなさい。ただまぁアンタは『成長しないでほしい』わね、そのまま」

 

一瞬、夏なのに少しだけ背筋に寒気を覚えたが、夜だからだろうと思い直し。

俺はその日、トリスを女子寮まで送って。寝台に体を預けながら、彼女からの課題を深く熟考するのであった。

 

 

答えは出そうになかったけれど。

 

 

 

 

 

 

 




君は感じられるか……? 波動を……
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