ケモ耳刀使いと回復娼姫   作:奈多ナキル

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口伝と好敵手

 ゴブリン騒ぎに一段落がつき、アキバにも平穏が戻った……訳ではなかった。七つ滝の城塞の一件での責任として、マイハマ公爵家の姫である、レイネシアがアキバに住まうようになったのだ。まぁ、殆どの冒険者の中身がオタクな自分達にとって、銀髪のお姫様はTHE異世界の住民なのだ、是非も無い。基本的にアキバの冒険者達はアットホームな雰囲気だし、大地人貴族にとっては魔境とも言えるのに、それに耐えるレイネシアは相当の胆力の持ち主だ。実際に話したこともあるが、レイネシア本人は、ぐうたらしておきたい怠惰な人なのは事実だし、そりゃあクラスティの策に嵌まるわけだ。

 

 

 そんなことを思いつつ、包丁サイズにした黒牢華で桃を剥いていると、ソファーで寛いでいたナオが、

 

 

「ナギ? 何作ってるの?」と訊いてきた。

 

 

「内緒」と答えるのを勿体ぶると

 

 

「ピーチティーもお願いね」と追加注文された。

 

 

「ナオだって新妻のエプロン有るんだから、自分でやりなよ……」とナオに対して呆れる俺だった。

 

 

 今二人が居るのは、アキバの一角にある家だった。元々雑居ビルだったであろうビルの2つのフロアをナオと二人で買って、住めるように海洋機構のミチタカに頼んでリフォームしてもらったのだ。5階建ての5階部分が居住スペース、屋上部分がテラスだったりなんやらを置いたスペースだ。額こそ凄かったが、ストレージ内の肥やしになっていた譲渡可能の幻想級武器を処分したりするなどして、工面した。その甲斐あって居心地の良い家になった。

 

 

 ナオにピーチティーを作ってから、桃のジャムを作り、一段落ついた頃、客人がやって来た。

 

 

「ソウジロウとナズナさんがここに来るなんて珍しい……」と皮肉混じりに言うと、

 

 

「お邪魔します、ナギ、ナオ」とソウジロウにきれいに受け流されて、

 

 

「お邪魔するよー、ナギ、ナオ」とナズナも気にせずに言った。

 

 

「副長、局長、いらっしゃい」とナオが言った。

 

 

「ナオは、本当にウチのソウジロウになびかなかったからね」とナズナが苦笑混じりに言った。

 

 

「けど、ソウジロウ何の用なのさ」と俺がソウジロウに訊くと、

 

 

「シロエさんにナギが、家を買ったって聞いたから見に来たんですよ」とソウジロウは答えた。

 

 

「暇なの?」と言うと

 

 

「これでも、忙しいですよ……ギルマスだし」とソウジロウは反論してきた。

 

 

「ま、立ち話もアレなんで、中で話しましょ? お茶出しますし……ナギが」とナオが言った。それを聞いたナズナに、

 

 

「ナギも相変わらずだね」と笑われた。

 

 

「ナズナさんだって相変わらずに飲んだくれているんでしょうし……」と仕返しにそう言いながら、お茶を出した。

 

 

「そう言えば、ソウジロウも口伝会得したんだって?」と俺が言うと、

 

 

「僕らしい口伝ですけどね」と答えた。ソウジロウの口伝は天眼通と言う、防御系の口伝だ。因みにナズナの口伝は天足通と言う障壁を足場に出来る口伝だ。

 

 

「ぶっちゃけソウジロウの口伝が羨ましいよ……まぁ、この口伝のお陰で大太刀二刀流なんて芸当が出来るんだけどな……取るに足りないって訳じゃないし」

 

 

「私の口伝よりマシだと思うけどね……内容的には局長の口伝の下位互換だし」とナオに言われたが、中途半端な俺にとっては正直な所宝の持ち腐れなのだ。

 

 

 ただでさえ珍しい弓使いの武士だったのに、刀使いへ無理くり方向転換させたのだ。同レベル帯の他の武士に比べて、ステータスは若干劣っている。そして、その若干が途徹も無い差として存在している。俺の事を、この奇異な育成の方針と見た目で、周囲が認知しているとしか思えなかった。

 

 

「まぁ口伝は、その人らしい口伝になるからね、あるだけマシって思わないと」とナズナが珍しくフォローしてきたが、それは妹分(とも言える)のナオに対してだと、経験則からはじき出した。ナズナは勘が鋭く、それに助けられる事もあるが、それの倍以上に酷い目などに、俺は特に遭わされていたので、積極的に相手をしたくなかった。KRからは女運が無いな、と言われるレベルなのだ……ソウジロウとは違う意味で女性人気のあるらしいのだが、それは大概の場合外見が外見だからだろう……と結構な回数、自己嫌悪に陥りながらも、どうにか取り繕いつつ時間が過ぎていった。

 

 

 ソウジロウとナズナが帰って、俺は一人で屋上に居た。こう言う時に限って、KRは念話をしてこなかった。

 

 

「こんなんだから、元茶会のメンバーって事が茶会の仲間以外結構知られてないんだろうな……」と呆れながら言った。勿論返事は返ってこなかった。ナオも気を使ってくれているのだろう。

 

 

 ナギ本人は気付いていないが、茶会の殆どが、良く言えば個性的、悪く言えば癖が強すぎたせいで、属性の詰め合わせとも言えるナギが霞んでいただけ、と思いたいのだが、茶会解散後にナギが参加したレイドは、ほんの数回で片手で数えられる程だったので情報が出回らなかった事や、同じ茶会のメンバーで武士のソウジロウとごっちゃになっていたのも問題の一因だった。ただ、ナギが元茶会のメンバーだと知っているプレイヤーの殆どが、ナギに対する評価は高いものだった。武士でありながら、遠距離攻撃も可能で、仲間の支援が途切れなければメインタンクが出来るそこそこ優秀なタンク、それがナギの専らの評価だ……本人はそんなこといざ知らず、ナギは夜風にあたるのだった。

 

 

「ふぅ……ナギ結構きてたみたいだったな」と私は湯船に浸かって、足を弛緩させながら言った。お風呂場も当然あるのだが、私のリクエストで檜風呂にしてもらった。猫脚のバスタブもひかれたが、檜風呂を選んだ辺りは元西風と言えるかもしれない。

 

 

「……私が今ナギに何かお節介焼くと、面倒になるから……今はそっとしとかないとね……」と自分に再確認させる為に、口に出して言った。ナギは、本当に悩んだり、精神的にきていたりしている時以外は、お節介を焼くのを控えている。恋人同士になって、同棲しているのに、私とナギの距離感はなんとも言えなかった。丁度良い距離をスープの冷めない距離と言うが、私とナギはその距離が不定なのだ。火傷するレベルの距離の時もあれば、完全に冷めてしまうレベルの距離の時だってあるに、温度は一定なのだ……私はナギに絶対の信頼を寄せているし、ナギをある程度理解している。ナギも私を信頼してくれているし、私を理解している……なのに何だろうか自分の中で、渦巻く複雑な感情は、愛情以外に何処か虚無感を感じていた。私は自分の胸を抱いた。旧世界ー現実世界の事ーとは違う容姿に慣れて、この体の勝手が解るのようになってから、娼姫のスキルの効果が強くなったような気がするし、異性に対してだけでは無く同性に対してもある程度効果があるように感じている。ただ、効果がある同性は私みたいな人間から出る雰囲気に耐性の無い者だけだが、大地人に対しては性別ほぼ関係無しにこちら優位立てるので、買い物の時に値切って貰うこともしばしばだった。

 

 

「運が良いだけの私よりナギの方がマシなのにな……ゴポゴポッ」と私は顔を湯船に沈ませながら言った。結局何時ものように軽くのぼせてしまい、ナギに呆れられる私は、何時ものように、のぼせても回復魔法でどうにかするのだった。




とりあえず更新出来た…若干原作からずれてますが悪しからず
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