俺とナオは、鏡の破片があった部屋から子供の泣き声がする方へと移動した。
「泣き声が少しずつ大きくなってるから……方向はあってるな」
「うん、そうだと思うよ……私も他の部屋から流れてくる物とは違う種類に視えるし」
「この部屋か……」と俺は扉の前に立って言った。
「さっさと入らないと、私が先に入るよ?」と決心がつかないでいる俺をナオが急かしてきた。
「分かったよ……開けるぞ?」とドアノブに手をかけながら言った。
「もしトラップだったら、即離脱だよね……でも、そう言うのがあるようには視えないから安心して」
「了解」と手短に答えて、扉を開けた。
部屋の中には、7歳くらいの少女が、一人泣いていた。それを視認すると同時にカーソルを確認して大地人だろう、と思考を纏めながら、ナオにアイコンタクトをした。
〔敵じゃないよな? 〕と俺の伝えようとしたことは、ナオは一切齟齬無く伝わった。
〔私の方で視ても問題無かったよ〕とアイコンタクトで返事が帰ってきて、俺もそれを一切齟齬無く理解した。そしてナオが先に、その少女に話し掛けた。
「ねぇ、お嬢さん……何処かに親御さんはいるの?」と優しく少女の頭を撫でながら訊いた。
「……いない……気付いたらラミ1人だった」と少女は答えた。少女の名前はラミと判って、名前を訊く手間は省けたが、腑に落ちない点しかなかった。
「貴方のお名前はラミちゃんで合ってる?」と俺が確認のために訊くと、少女は縦にコクりと頷いた。
「ラミちゃん、貴方のお家は?」とナオが訊くと
「判らない……ラミずっとここに居た、パパでもママでも無い誰か知らない人に、ここのドアを私が出た後、最初に開けた人が君の両親だって言われた」とラミは答えた。
「ラミちゃんは待っている間どうしてたの?」と俺が訊くと、
「ラミがここにいる限り、お腹が空いたり、病気になったりしないって誰か知らない人は言ってた」と答えた。ふと思いついたようにステータスを見た。武士は再使用規制時間が長い特技が多いが、ほぼ全ての特技が使用可能だった。幸いにも再使用規制時間中だった特技が1つだけあったが、時間経過していなかった。そのことから1つの可能性に辿り着いた。
「もしかすると、この部屋は時間の流れが止まっているか、緩やかなのかもしれない」と珍しく独り言を漏らしてしまった。
「多分ナギの予想通りなんじゃない?」とナオが言った。
「二人は、ラミのパパとママなの?」とラミが本題を訊いてきた。
「ナオ、任せた」と俺はナオに投げる形になっていたが、信頼の裏返しなので問題無い。
「分かった……ラミちゃん……いえラミおいで」とナオが両腕をラミに向けて広げながら言った。ラミは拒むこと無くナオに抱き着いた。
「とりあえずアキバに帰ろう……長居はしたくないからな」と自己紹介等を終えてから俺が言うと無言でナオは頷いた。
俺達は外に出てから、適当な場所で俺がグリフォンを喚び出してアキバに戻った。ラミをナオに任せて、俺はロデリック商会ー通称ロデ研ーに向かった。通されたロデ研の一室でロデリックを待っていた。
「ご無沙汰してます、ロデリックさん」
「こちらこそ、ナギさん」
「すいません……忙しいのに野暮用に付き合ってもらって」
「いえいえ行き詰まってたので、気分転換にはもってこいですから」と俺はロデリックと世間話をすませつつ、本題を切り出した。
「今日こんなものを拾ったんですよね……見る限り怪しいですよね?」と入れ物の中から取り出して見せながら言った。
「これは?」とロデリックは慎重に扱いながら訊いてきた。
「多分、鏡の破片なんですけど……落ちていた場所には、フレームだけなのに映る鏡があっただけで、破片はこれ1つだけでした」
「それは、眉唾物ですね……」
「ぶっちゃけると何処か不気味だったからもってきたんですし……面倒事になったらなったで、報告書は出しますけどね」と俺は苦し紛れに笑ってみせた。
「まぁ……こちらも結果が出るまでは不確かな報告は出来ませんしね」とロデリックは苦笑しながら言った。
「それに参謀には、それ以外にしなきゃならないこともありますしね……黄贄の黄金……俺も見てみたかったですよ」
「懐事情は厳しいものですからね……こちらも頑張らせてもらいますから」と破片をロデリックは持ちながら言った。
「ありがとうございます、ロデリックさん……では失礼しますね」
「とんでもない……こちらこそありがとうございます……今度はお酒でも飲みながらお話を……」
「ええ……是非」
ロデ研を後にした俺だったが、あの遺跡にいた時からずっと何かが引っかかったままだった。それがなんなのか解らないまま、冬になっていくアキバの街を歩いていくのだった。
ナギがロデ研でロデリックと話していた頃ナオは、連れ帰ってきたラミを視て言った。
「ラミ……ママとお風呂入ろうね」
「お風呂?」とラミは反応したので、
「体をキレイにする所だよ」と分かるように教えた。ラミは言うほど汚れていないのだが、用心にこしたことは無いし、ラミの着替えは自宅に着く前に買っているのだが、着替えるついでにお風呂に入れてしまおう、と思ったのもあったが……
「大丈夫だから安心してラミ」と私は不安がるラミをそう言ってお風呂にいれた。一緒にはいっていてわかったが、想定外にもラミはお風呂をあまり怖がらなかった。年相応の反応こそしたもの、そこまでてこずる事は無かった。
そうこうしている内にナギがロデ研から帰ってきた。
「ただいま」
「お帰りナギ……どうだった?」
「芳しくはないかな……」
「そう……」と私が言い終わる頃、リビングから走ってくる足音がした。
「パパお帰りなさい」
「ただいまラミ」このやりとりから分かるとは思うが、私達はラミの事を娘と思っている……まだ解っていない事が多いもののアキバの結界内である事や、私やナギが90レベルなのもあるので、大したことはないとこの頃の私達は、たかをくくっていたのだった。