ケモ耳刀使いと回復娼姫   作:奈多ナキル

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接敵と敗北

 ラミを家に連れ帰ってかれこれ一週間が経った。仲が良い冒険者にもラミの事は認知されていた。最初は驚かれたが、事情を説明したり俺やナオの人柄等もあり理解してもらえた。

 

 

「夜風が冷たいな……ただ、今俺の内で燻る何かに備えるためにも、強くならなきゃな……」と俺は言った。今俺は何処に居るのかと言うと、アキバから少し離れたフィールドに居た。時刻は深夜2時だ。ラミは一度寝ると熟睡して朝になるまで起きないので、ナオに任せて一人フィールドに居た。己の状態を緊張状態に引き上げると、近くにプレイヤーの気配を察し、

 

 

「誰だっ」と俺が言うと、

 

 

「ナギが一人で何しているのか気になって見に来ただけなのに……酷い」とナオが少しふくれながら言った。

 

 

「どうやって後付けてきたのさ」

 

 

「私の眼を使って、だよ」

 

 

「万能かよ」と皮肉混じりに言うと、

 

 

「後を付けれるほど、はっきり視えてるのナギだけだよ」と言い返された。

 

 

「ラミは?」と訊くと、

 

 

「信頼出来る人の所だよ」とナオが答えた。多分西風だろうな、と思いながらも、こちらを見てくるような敵意を感じ、即座に臨戦態勢をとった。

 

 

「何かが来る……けどこんなノイズ混じりの敵意だよ、ナギ」とナオが言った。事実これまで相対したことの無い敵意だった。まだ刀の間合いでは無く、弓を余裕をもって使えたのでマジックバッグから鬼灯姫を取り出して、即座に矢をつがえて即射した。放たれた矢は、敵の死角を飛んでおり牽制射撃も兼ねているが、狙いさえ外さなければ必中の一撃になる……筈だった。ポキッと矢の折れる音が聞こえて、俺に対して敵が肉薄してきた。弓を放って即座に刀に持ち替えていたので、防御出来たが、相手の一撃は重かった。

 

 

「くっ……」俺は軽くノックバックさせられながらも、俺は敵をしっかりと視認した。敵の名前は虚像の典災〈フェイクビー〉だった。

 

 

(典災だと? ……ゲーム時代には見なかったな……これが追加要素か? ……何故俺の姿を……虚像……解った、あの時の鏡か……見た目は……俺と似た感じだけど、偽物なのは事実だな)と思考しつつも斬り合いを継続させた。

 

 

「虚ろなる者よ……福音に従え」と典災は言った。

 

 

「はっ……何言ってんだか……燃えろ」と俺は焔渡で斬り払った。

 

 

「我が同胞よ、資格無き者共を蹂躙せよ」と俺との間合いが離れたからか、敵は召喚術を発動した。

 

 

 召喚されたモブ共を完全に処理しきれずにナオの方に漏れた。更に言えば若干のMPドレインもしてきたが、それらを気にせずに現状打開のために、ナギは思考をフル回転させながらも、虚像の典災に肉薄して斬り合いを再開させた。

 

 

 鋼同士が撃ち合う音が、加速された感覚の中で聴こえる。口角が少し上がるのを、駆り立てられる焦燥感と高揚感を感じる。視界の一部が紅炎に染まる。その視界の反対側は瘡炎に染まる……敵は俺とは色違いな鎧と刀を持った敵だ。本能に任せてただ殺し合いに身を投じる好戦的な俺と、理性に縛られて冷静に戦況を視る俺が同時に存在していた。

 

 

(例えナオの支援が続こうが、このままだと競り負ける……)と冷静な俺が思う、

 

 

(ならば、その前に足掻けば良い)と好戦的な俺が思う。

 

 

(足掻くにも、現状を打破するにも、まともな策が無い)と冷静な俺は結論付けて敵に対して《叢雲の太刀》を使う、

 

 

(だったら、距離をおいて弓を使えば良い)と好戦的な俺が足掻きながら攻撃を相殺する。

 

 

(だが、そうするとナオに攻撃が向く)と冷静な俺は好戦的な俺を諫めようとしながら奥の手の《刹那の見切り》を使う。

 

 

 結局の所は、勝算など皆無に等しく、負け確定の出来事なのだ。そう思考している間にもナオから支援がとんでくるが、芳しくない。MPをドレインしてくる目の前の敵やモブ相手にナオは苦戦していた。個人差が有るもののナオはリソースの8割を俺に割きながら、戦乙女槌(ヴァルギュリーメイス)を振るいつつ、自分に回復も行っているので、ドレインに耐性のある俺やナオでもほぼ千日手だった。

 

 

 そして遂にその時が来てしまった。俺もナオも、HPが1割を切って虫の息になっていた。MPも殆ど底を尽き、満足に回復や攻撃が出来なくなっていた。まず先に倒れたのは、俺だった。敵の一薙ぎをもろに喰らい残り少ないHPを刈り取られた。

 

 

「くっ……力足らずかっ、よ……」そう言いながら、俺はポリゴンの欠片となった。

 

 

「ナギっ……ぐはっ……」とナギが倒れたのを見たナオは咄嗟に叫んだが、意味も無く、モブ達の稚拙な攻撃によって、ナギと同じくポリゴンの欠片になってしまった。

 

 

 この日、二人はこの世界に来て初めて死を体験した。

 

 

 気が付くと、今となっては懐かしい景色が目前にあった。身なりを確認すると、ケモ耳も尻尾も無く、服装も洋装だった。

 

 

「これって俺の記憶か? ……大神殿で蘇生する時、記憶の一部が忘却されるとは聞いていたけど……」と俺は記憶の中を歩きながら言った。現実世界の俺ー津屋崎渚ーは、何処にでも居るようなオタクだった。福岡市近郊に住んでいて、高校時代は放課後に仲の良い友達と話したり、ゲームしたりとそれなりに充実していた。大学に入ってからは、そうすることも少なくなりエルダーテイルに割かれる時間が多くなっていた。

 

 

 一人暮らしをしていた家の近くにある飲食店の看板をふと見ると店名がぼやけていた。

 

 

「記憶を無くすってこういう些細なレベルなのか……」そう実感した俺は少し歩き回った。

 

 

 いつも歩いていた最寄り駅までの15分弱の道をゆっくり歩いていると、気が付くと浜辺に居た。

 

 

「ここは……っ」そして空を見上げると、頭上には地球が在った。ステータス画面を開けたので、場所を確認した。

 

 

「テストサーバー……月……崑崙……か? ……ここは……潮騒の渚……聞いたこと無いな……」と独り言を俺は洩らすのだった。

 

 

 

 

 

 気が付くと私は、東京のとある大学の構内に居た。何かの講義が終わり、他の学生達は室外へと出ていっていた。私は教科書などを鞄に突っ込むと、足早に大学を出た……途中でこれが記憶の中だと私は、気付くと同時に景色が切り替わった。そこは私の部屋だった。机にはデスクトップパソコンが置かれていたが、空いているスペースを埋めるかの如く参考書や書籍が乱雑に置かれたままだった。

 

 

「私って何かに忙殺されるとものぐさになっちゃうな……」と呆れながら私は笑った。大学に入ってからは、学生としては私は余り忙しくは無かったが、それ以外のことに忙しくなっていた。小さい頃から本ー中学以降は特に小説ーが好きだった。エルダーテイルから受験を口実に離れ、小説に費やせる時間が増えて中の下辺りのレーベルに入れたが増えて1度だけ本を出せた。ただ、その後不調になってしまい認知度は無いに等しかった。現実世界の私ー櫛稲田奈緒ーは、そんな状態が最近まで続いているなかで、エルダーテイルに12番目の拡張パック〈ノウアスフィアの開墾〉が導入される、と言う話を聞いて導入日当日にログインして大災害に巻き込まれたわけだが……私はエルダーテイルの事を思い浮かべると同時にナギの事が過った。そして、気が付くと空には、月ではなく地球が浮かぶ不思議な浜辺に居た。そして、見覚えのある人物を私は浜辺で見つけて、声をかけるのだった。

 

 

 一人浜辺で佇んでいる俺の耳に、

 

 

「そこに居るのはナギ?」と後ろから聞きなれた声が聞こえた。

 

 

「ナオか?」

 

 

「私も死んじゃったみたい……えへへ」

 

 

「俺が悪かったよな……ごめん」

 

 

「別に気にしてないよ……ここにあるこのキラキラした破片って多分だけど記憶だよね?」とナオは、暗くなりかけた雰囲気を切り替えるために話題を転換させた。

 

 

「多分……そうだろうな……」

 

 

「綺麗だね……ねぇ、私達がここに来た痕跡残そうよ」とナオは鋏を取り出して言った。

 

 

「痕跡って?」

 

 

「私達の髪の毛を少しだけ切ってさ……ほら」そうナオは、言いながらやって見せた。

 

 

「解った……鋏を俺にも貸して」

 

 

「はい」

 

 

「ありがと」ナオから受け取った鋏で髪の毛を切った。そして、それを波打ち際に置いた。波にのみ込まれていくのを二人で眺めた後に俺が、

 

 

「もうそろそろ起きなきゃな……心配だしな」と言うと、

 

 

「そうだね……ナギ、次はあの敵を倒そ……けどその前にラミに叱られるかもね」とナオは苦笑混じりに言った。

 

 

「そうかもな……」

 

 

「なら、また大神殿でねナギ」

 

 

「ああ……」ナオとそんなやりとりを終えて、俺は瞼を閉じるのだった。

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