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「おい、嬢ちゃん悪い事は言わねぇ。今の言葉は撤回しな!!」
「そうだ、嬢ちゃんは冒険者になってまだ日が浅い筈だ。偶然あの男が格好良く見えちまったんだろうな。だが、あいつの他にもいい腕を持った冒険者はいる。だから考え直せ!な?」
「あいつに憧れると世の中生きづらくなるぞ。止めておけ。」
「弟子・・・やっぱあいつと同じで狂っているのかな。」
「多分。雰囲気的にもどっか螺子が吹っ飛んでそうだもんなぁ。」
黒髪の少女による爆弾投下とも言える発言。
それに騒然となるギルド内。
貴方に対する冒険者の心温まる罵声の嵐に、ついぞ、貴方はにっこりとした表情で抜剣しようとしていた。
キレそう。マヂブッコロッショ。
標準語からギャル語になるぐらいに、キレた貴方から殺気が漏れ始める。正にMK5(まじで殺す5秒前)である。
ギルド職員と煽っていない他の冒険者がそれを見て慌てて貴方を取り押さえようとする。
「止めて、止めて下さい。ギルドが、ギルドそのものが壊れてしまいますぅ!?」
「おぉい!誰か対神獣用の捕獲ワイヤー持ってこい!!至急、早く!!」
「お前ら、煽るんじゃねぇよ!!」
HA☆NA☆SE!!自分は罵声を加える彼らに鉄槌を下さねばならぬ!!
雁字搦めにしようとする彼らを押しのけようとする貴方。
畜生、自分には味方がいないのか。こうなれば、最近見つけた爆発兵器でここごと吹っ飛ばしてやる!!野郎オブッコロッシャ―!!
取り押さえようとするギルド職員と冒険者達一同は青ざめる。
貴方の持っている兵器は、C-ニュートロンGという。最近とある迷宮の深層で見つかった小型の爆弾で、その威力は小さな村であれば吹っ飛ばせる程の威力を持った古代魔導文明の負の産物と言われている魔導兵器である。
「おぉい!!なんて物騒な物持ってんだこいつ!?」
「本当止めて下さい、職場がなくなっちゃう!!」
「職場どころか俺達の命があぶねぇよ!?」
自暴自棄になり、全て吹っ飛んでしまえばいいと八つ当たりをかます貴方に、阿鼻叫喚となっているギルド内。そんな惨状でも弟子入り嘆願の少女は貴方をまっすぐ見て、言い放つ。
「私の名は、レイナ。ここではレイナ・ホシザキとでも言えば良いだろうか。貴方もある日突拍子に現れた黒髪の冒険者だと聞いた。この世界では頼れるのは貴方しかいない。同郷の方だと思っての願いだ。私に生き抜く力を教えて欲しい!」
「いや、そんな事言ってる場合!?冒険者ギルド無くなっちゃうかもしれないのよ!!」
「生き抜く所か、俺達の命が無くなるわ!!」
ギルド職員と冒険者に涙ながらに突っ込まれるレイナという少女。
成程、敢えてこの惨状を放置し、我を押し通すスタイル。嫌いじゃない。むしろ共感する節もある。気が合いそうでもあるなと貴方は言う。
「ほ、本当か!!」
うむ、と貴方は力強く首を縦に振る。おまけに同郷というのであれば、貴方と同じ日本人であるという事。話も合いそうだ。それは好印象になりうる。評価点は高い。
「で、では、私を弟子に!!」
――だが断る。
「うえええ!?何で!?」
自分が好きなことは、我を通せば何でも思い通りなると思っている輩の願い事をノーと言ってやる事だ。騙されたな、少女よ。現実は非情である。誠心誠意を持って頼めば何でも思い通りになると思ったら大間違いだ。だが、自分を通してこの糞みたいな異世界で現実を知ることが出来た。それは良い事だ。素晴らしい!!大人の階段上ったな少女よ。
「今の流れで断るとかありえるか普通!?同郷のよしみとかないのか貴方には!!」
普通も何も、ここは異世界だ。元の世界で常識だったことがここで罷り通るとは限らない。同郷でもこの世界では敵同士という可能性もあるのだ。普通であった事が普通でない。つまり非常識が常識となるのだ。そしてこうして自分が弟子入りを断ったのもある意味必然的だった訳だ。OK?
「・・・ん?んん?な、成程???そういう、ものか?」
少女は貴方の声掛けに納得しかけている。
案外、この娘ちょろいな。と貴方は思った。
さて、冗談はさておき、と貴方は爆発兵器C-ニュートロンGを懐へしまう。
「今までのは冗談、だったのか?」
「いや、目が本気だったぞ。あれは間違いなく俺達ごとやる目だった。」
ギルド職員と自分の拘束を行おうとしていた冒険者達からは疑いの目が掛かる。勿論冗談だ、自分がこんな事を実行しても仕方のない事だ。そもそもメリットがない。しかし、デメリットもないため、次ふざけた冗談が聞こえて堪忍袋の緒が切れようものなら、うっかりと起動した状態で零れ落ちてしまうやもしれないと貴方は話す。
「は、ハハハ。冗談、ですよね?」
ハハハ、ひとしきり笑った後、スンと表情を素に戻す。
「本当、本当に冗談ですよね!?」
ギルド職員と冒険者達の問いかけに貴方は無視する。
それより、さっさと衝撃に備えて態勢を低くした方が良いと貴方は彼らに促す。
「へ?それはどういう?」
意図が分からずに聞き返すギルド職員。首を傾げる冒険者達。
その数秒後、衝撃音が鳴り響く。建物全体が大きく揺れ、ギルドの窓硝子が音を立てて揺れる。
「ひぇ、何事だ。」
「天災!?ついに狂った軍師をとっちめるために天からの裁きが起きたのか。」
「あぁ、この街に狂った軍師がいるばっかりに」
こいつら、あれだけ脅したのにまだ言うかと、貴方は睨め付けるが、冒険者達はどこ吹く風かと目を逸らし、口笛を吹き始める。お前ら絶対打ち合わせしてるだろ、ド〇フじゃねーんだぞ。
それは兎も角、いや兎も角にしたくないが。貴方が仕掛けていた罠に何者かが引っかかったようだ。先程端末から爆破されたと反応があった。街の外側、石造りの壁の十数キロ離れた場所だ。しかしあれだけ離れていてここまで強力だとは。流石C-ニュートロンG。古代魔道文明の負の産物の名は伊達じゃない。
と貴方のその喜ぶ顔を見て、ギルド職員は、ん?と疑問を浮かべ、ハッと何かに気づいた表情を浮かべた。
「・・・ちょっと待ってください。て事はもっと沢山持っているって事ですよね!?古代の負の産物である爆発兵器を沢山持っているって事ですよね!?殺戮兵器レベルの物の所持は上位冒険者のみ限定一つしか認められていない筈です。それにそれ以上の所持はギルドに報告の上提出が義務付けられています!!これは重大なルール違反ですよ!!」
ギルド職員は捲し立てるように貴方を問い詰めた。
ふむ、確かに。それはルールとしてある事は認識している。しかし、それは迷宮で発掘された物だろう。と貴方は反論した。
「発掘された物だけ・・って何を言って?」
貴方はテーブルへ戻ると、それを無造作に並べる。それは先程の爆発兵器C-ニュートロンG。しかし複数並べたそれは発掘されたそれとは違う、光沢のある新品然とした物であった。まるで作ってから月日が経っていないような――
「ま、まさか、これって」
新品のような危険物とその数の多さに固まるギルド職員と冒険者一同。
そんな彼らに貴方はにっこり笑って言った。
錬金で複製した。
発掘した物じゃないし、作った物ならいくつ所持していても問題じゃないよねとてへぺろを加える。
あんぐりと、口を開けながら立ち尽くす、ギルド職員。
数秒して、ギルド職員は、スッと冒険者達に合図すると手を上げ、
「総員、確保ーーーーーー!!!」
「「「「うおおおおおおおおお!!」」」」」
今度こそ貴方はギルドの全戦力で捕縛された。
解せぬ。何がいけないと言うのか。発掘した物は使ってないぞ。と冒険者達に揉みくちゃにされながらも貴方はぼやく。
「危険物多量所持で問答無用で逮捕ですよ馬鹿ですか貴方は!!」
「だから頭の螺子が外れているっつーんだよ馬鹿たれ!!」
「この馬鹿!!」
「狂人!!」
「鬼畜黒髪!!」
「凶軍師!!」
「さっさと弟子にしろ!!」
様々な罵声を浴びせられながら、拘束されていく貴方。というか待って欲しい。最後は兎も角、その前の奴。自分の二つ名を広めた張本人なのではないだろうか?もしそうならば、お前の顔覚えたからな。後でゆっくり話をさせてもらうからな。と呪詛を撒き散らかすように呟く貴方。
大型神獣用の捕獲ワイヤーに雁字搦めになった貴方は、ギルド職員の目の前に放り出される。さしずめ絵面は、尋問という名の拷問だ。
「で?貴方は何でこんな事してるんですか。国家転覆でも企てていたんですか?馬鹿なんですか?死ぬんですか?」
だって規定には細かく乗ってなかったしと。貴方は白を切る。文句あるならギルド側でもっと詳細に記載しておけと貴方は文句を言う。
「貴方ねぇ・・・・!!しかも、にー、しー、ろー、やー・・・今確認出来るだけでも10個。貴方何処へ戦争を吹っ掛けるつもりですか。」
まさか、貴方は戦争を吹っ掛けるつもりはない。
博愛主義者の貴方は、誰も彼も傷つけるつもりも予定もない善良な冒険者である。
戦争なんて野蛮な事、自分から仕掛ける事なぞありえない。
「「「「ダウト」」」」
複数の冒険者から突っ込まれる。
ハハハ、信頼が厚くて涙が出るぜと乾いた笑いを上げる。
まぁ、実際、相手から吹っ掛けて来た戦争であれば、一切の容赦なく蹂躙するまで痛めつける人間には違いない。正当防衛。ン、ン〜、いい言葉だ。この言葉さえあれば合法的に暴れられる。
ギルド職員や冒険者達から、うわぁ、と引かれた目で見られているのはきっと貴方の気のせいであろう。
さて、話を戻そう。
つまり、これは自分から仕掛けたのではなく、飽くまで相手方が仕掛けてきた時用なのだ。
そして、この後すぐに入用になりそうだったから、万が一に備えて複製品を大量生産したと貴方は供述する。
「それって、さっきの爆発と関係ある事ですか?」
関係ある。ギルド職員のその問いに、大アリだとばかりに貴方は首を縦に振る。ほら、噂をすればだ。
「冒険者ギルドの皆さんに報告を!!」
ウェスタンドアを勢いよく開けたのは街の外を巡回する兵士の一人だ。
先程の爆発音についてだろうか。
肩で息を切らしながら、入ってきた兵士の様子にギルド内の空気が少しピリつく。
「門外南西十数キロ離れた平原地帯に大量の魔物が出現。恐らく『魔の行進』とーー」
ギルド内が騒めく。
『魔の行進』とは突如現れる瘴気で出来た空間で、そこから魔物が限りなく湧き続けるという天然の災害である。この魔物の進撃によって近隣にあった集落や街が一日足らずで壊滅した事もある。噂では、天然で出来る物と人工的に作られた物があるらしい。
人工的に作られた物は、高位の魔物によって作られた可能性が高く、天然でランダムに湧く魔の行進よりも数段危険度が増すという。
実際この街も、それによって大量出現した魔物によって大きな被害を受けた事がある。
今度は、一体どの種類の物なのか。そして如何程の規模なのか。
ギルド内に緊張が走るが――
「―思われたのですが、先程の大爆発で魔の行進が完全に消滅しました。申し訳ありませんがギルドの皆さんにも現地の修復作業のご助力を願いたいのですが・・・。」
兵士の報告にギルド職員と冒険者達がずっこけた。
どうやら貴方の複製C-ニュートロンGの仕掛け爆弾によって跡形もなく消滅したらしい。
念のため仕掛け爆弾を仕込んでおいて正解だったという訳だ。
「魔の行進をあらかじめ察知しての複製、って事でいいんですよね。」
ギルド職員の問いにそんな所だと、貴方は笑いながら答える。
報告義務はどうしたと言われそうだが、今日迷宮へ向かう途中偶然瘴気溜まりを見つけて一度家に戻って錬成して、仕掛け爆弾仕込んだ。瘴気溜まりが霧散するか、魔の行進を形成するかは流石の貴方でも分からない。何せランダムなのだから。だから放置しておいたとギルド職員に話す。
「それはそれとしても、瘴気溜まりがある事くらいは報告して欲しかったのですが・・・。はー・・・もういいです。問い詰めてもなんだかんだ適当にいなされる未来しか見えませんし。今回は複製品没収で見逃しますので今度はやらないで下さいね。」
えー、と貴方は嫌そうな表情をした。折角、丹精込めて作ったのに。
「い・い・で・す・ね!!今度やったら無期限冒険者資格はく奪ですからね!」
それは勘弁だ。とばかりに貴方はヒラヒラと手を振った。
ふんと鼻息を鳴らすと、ギルド職員はカウンターの奥へ消えていった。きっと先程の修復作業の依頼を作成しに行ったのだろう。先程の規模の爆発だ。平原は滅茶苦茶な形へと変貌を遂げているだろう。神獣用の捕獲ワイヤーを自力で抜け出した貴方は、せめてもの罪滅ぼしに修復依頼を受けるべく、冒険者が着々と集まりつつある掲示板の前へ足を進めるのであった。
「あれが、凶軍師の力。ふふふ、私は諦めないぞ。絶対に弟子入りしてあの人の強さを物にしてみせる。」
ジトリと背後から見られる感覚があったが、きっと気のせいだ。
・ギルド職員
所謂、受付嬢的なお姉さん。実は彼女が入職した時期と、貴方が冒険者登録した時期が一緒で、何だかんだで同期という間柄。当初からその狂気染みた貴方の行動力に振り回されストレスマッハなご様子。でもたまに酒場で飲みに行ったり休日の日に遊びに行ったりする友人的存在でもある。普段は大人しいが、切れるとさしもの貴方でも名状しがたき恐怖に捕らわれる事であろう。コワイ。
・レイナ・ホシザキ
貴方と同じく日本人であり、この異世界に突如として降り立った少女。黒髪ロングでスラッとシャープなスタイルの持ち主。何か生徒会長をやってそうとは貴方談。漫画やアニメみたいなファンタジー世界特有の強さを憧れており、欲している。魔の行進の一件で、貴方のその片鱗を目の当りにしたため、一度は言いくるめられ納得しかけたが、ますます貴方への羨望と畏敬の眼差しを向けるようになってしまった。貴方曰く、何かいつでも見られている感じがする。コワイ。貴方の明日は如何に!
・大型神獣用捕獲ワイヤー
天災、災厄と恐れられる獣『神獣』。その中でも取り分け大型の物を捕らえるために開発されたワイヤー。頑丈でクジラサイズの動物がジタバタもがいてもビクともしない。筈だが貴方は易々と脱出した。
・C-ニュートロンG
古代魔道文明の負の産物として、迷宮の奥深くに眠っていた。危険物で、貴方の手元に一番渡ってはいけない物の一つだった。魔道文明の研究者は作るのに数十年を要したが、貴方はものの数時間で十数個を複製した。なんか魔道文明の研究者はやるせない。
・魔の行進
低級から最上位までの魔物が大量発生し、まるで軍の行進のように隊列を組んで進む。進んだ跡地には何も残らないため、発生した際は最上位警戒態勢を張られる。発生した瞬間、貴方によって沸き潰しされた。
・錬金
錬金術師のスキル。金を稼ぐために習得したが、今や貴方のお気に入りのスキル。度々錬金で悪戯してはギルド職員のお姉さんに叱られている。