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時間帯は、深夜。
街は既に最低限の光源である街灯が照らすばかりであるが、冒険者ギルドは相も変わらず喧騒に包まれていた。
例の魔の行進爆破によって、広範囲に出来上がったクレーターを元の土壌に戻す依頼が出されて一週間。ずっと平原へ出張りっぱなしだった冒険者達は、今日の夕方にようやく修復作業を終え、その打ち上げとして深夜まで酒盛りを行っていた。二次、いや三次を通り越して四次会に突入している。あれだけ日中肉体労働や魔法をバカスカ行っていたのに、冒険者は何とも逞しい生き物だ。
“冒険者ギルドは眠らない”。誰の言葉であったか、そう例えた者が居たそうだが、成程言い得て妙である。
貴方は、冒険者達の馬鹿騒ぎの中、一人離れたテーブルでちょびちょびとジョッキを啜るように傾ける。ちょびちょびというとみみっちい飲み方をしていると思われるだろうが、生憎、貴方は自分のペースで酒を飲むのが好きな男だ。次の日が悲惨になるような退廃的な飲み方やそれを強要される事を嫌っている。飲みハラ、駄目絶対。という訳で根本的に飲み方の異なる冒険者達とは一画置いて一人黙々と飲んでいるのである。
決してボッチの遠吠えではない。決して。
ふと、貴方は、酒盛りをする冒険者達の中から自分をじっと見つめる視線に気が付く。
「・・・・・。(ジー」
貴方は視線の主に見つめ返すと、彼女はまるで土竜叩きの土竜のように素早く顔を引っ込めてしまう。
またかと、貴方はうんざりとした顔をした。ここ一週間この調子である。
視線の主は黒髪の少女。貴方と同じ日本からやって来たというレイナ・ホシザキである。
あのギルド内でのやり取りの後、彼女は貴方にしつこく弟子入りを懇願してきた。依頼を受け、現地へ向かう最中も、現地で修復作業を行っている最中も。休憩している最中も。食事をしている時も、行水しようとしている時も、トイレの時も、就寝しようとしている時も。ここ一週間、粘着するに粘着された。
これがもし、オンラインゲームであれば、ユーザーブロック→運営へ通報→アカウントBANの三コンボが決まる事だろう。
さしもの貴方も、5日目に限界が訪れ、あまりにも鬱陶しいためうっかり手加減を忘れて、押しのけるように手で払って百メートル程吹っ飛ばしてしまったのは仕方のない事だ。
吹っ飛ばされた彼女は瀕死の状態で、現場監督を任されていた冒険者にしこたま怒られたが。ただでさえ現地を吹っ飛ばした要因である貴方は、依頼報酬を大幅に減額された挙句、新人に手を挙げた事で更に報酬減額のペナルティを食らったのだからやるせない。ちゃんと彼女に回復魔法をかけてやったというのに解せぬ。
そもそも魔の行進を防いだのに、依頼報酬の大幅減額とはこれ如何に?まぁ、爆発兵器の複製品がちゃんとした威力が出るかの実験も兼ねてはいたが。
しかし、世間一般的には弟子入り嘆願をしているか弱い冒険初心者の少女に暴行を加えたベテラン冒険者という図だ。世間体から言ったら貴方が大幅に不利になる。事実はしつこく付きまとわれた挙句プライバシーというプライバシーを侵害された上での貴方の犯行であるが。
事実は兎も角誰が悪いかは世間が決める。全く!世の中腐ってるぜ!!
解せぬと貴方は、瘴気溜まりがもう一度出来るんじゃないかと思う程の呪詛を撒き散らしながら作業を行っていたのは言うまでもない。
そんなこんなな経緯があるため、貴方は、関わると碌な目に合わない為、彼女レイナ・ホシザキを敬遠しているのだ。
だが、そんな事お構いなしに、彼女は貴方の隙を突いては、近づいてこようとする。
マジかよと、貴方はその彼女のハングリーさに戦慄する。
あんな瀕死になるような大怪我負っといて自分に近づく彼女を一種の妖怪、もしくは屍鬼なのではと貴方は思った。尤も、
というか
あれに初めて会った時、本当に恐怖したと貴方談。物理も効かないし、魔法も威力半減化の上浄化魔法が一切通じず、チートもげに大概にせいよと貴方が憤慨したのは記憶に新しい。
命からがら、ほぼほぼ魔法のゴリ押しで倒した時には、貴方自身のレベルとスキルレベルがかなり上昇していた。やったね、軍師ちゃんレベルが上がるよ!!
できれば今でさえもう会いたくない類のモンスターのランキング上位に入っている。そんなアンデッドの王並みに彼女を恐れつつあった。
彼女は実は
元の世界のバラエティのような提唱でもしてみても良いかもしれない。
と貴方がふざけた事を考えていると、すっと彼女は冒険者達の合間をくぐり貴方の元へ近づこうとしている。させるかと無駄にいい動きで貴方はそれに応じて適切に同じ距離を保ちつつ席を離れる。
これ以上、彼女に関わると面倒な予感しかしない。ジョッキの酒はまだ残っているが、仕方ない。目に見えない場所まで移動しようと、貴方は冒険者ギルドからの脱出を決意した。
しかし、現在、正面入り口は冒険者達で塞がれている。
掻い潜りながら抜け出す事も可能ではあるが、それでは酔った冒険者達に無理やり絡まれる可能性がある。強硬手段を選べば、まず間違いなく、今度こそ無期限の冒険者活動の禁止を言い渡される。冒険者はあらゆる場所・迷宮の捜索権、それらで見つけた財宝の所有権が認められている。これを禁止されれば痛い所の話ではない。
故に、強硬手段は却下だ。
貴方は、普段ギルド職員達が出入りする裏口からの脱出を試みた。
受付カウンターの裏側から直接行けた筈と、素早く、しかし音を立てずに侵入する貴方。
ギルド最高位レベルの保持者であり、同時に高ステータスである貴方の速さについていけなかったのであろう。貴方を追っていたレイカは、どうやら貴方の姿を見失ったらしく、貴方がいたであろうテーブルの辺りをぐるぐると探し回っていた。
どうやら、上手く巻いたようだ。
これで何事もなく無事脱出できそうだとホッと胸を撫でおろす――
のも束の間――
「はれぇ?そこにいるのは軍師さんじゃないれすか~。」
貴方は、冷や汗を垂らしながらゆっくりと声の方に目を向ける。
そこにいたのは、べろんべろんに酔ったギルド職員だった。
ギルド職員の周りには、夥しい酒瓶が転がっており、上気させた顔ととろんとした目を貴方に向けていた。どうやら柄にもなく、潰れるレベルで飲んでいるらしい。
ん?と貴方はそこで気づく。
自分はさっきから広域察知のスキルを発動させていた筈。なのに何故彼女に気づかなんだ?
自分の広域察知のレベルであれば、半径50m以内に個人がどう言った動きをするか手に取るように分かる筈だ。しかし、彼女を察知出来なかったのは何故?
それどころか、貴方は潜伏と気配遮断まで発動していた。
自分の姿は、余人には見えない筈だ。
なのに彼女は何故自分を認識出来ているのだ・・・?
貴方の頬に冷たい汗が流れ落ちる。
泥酔している彼女に、名状しがたい何かを感じた貴方は後ずさりする。
「そぉんな所にいないで、一緒に飲みましょうよ~。」
ギルド職員は、ゆらりと目を光らせながら、まるで幽鬼のように近づいてくる。
あぁ、カウンターの裏に!!裏に!!酒瓶に囲まれた名状しがたき者が。
彼女は、神話生物だったのか。
表ボスがフェイクで裏にラスボスがいるなんて聞いてないぞ。これはレギュレーション違反だ、訴えてやると心中で叫ぶ。しかし、貴方には心中であっても嘆く時間はない。
「むぅ、ギルドの酒場にはいない。という事は恐らく裏口からか・・・。」
後ろは後ろで、レイナ・ホシザキという名のストーカー娘が、勘づいてカウンター裏に足を運ぼうとしている。さながら前門の虎後門の狼 とはこの事か。いや、前門の泥酔娘後門のストーカー娘か。
文字にすると何と言うかかなりヤバいな。カオス過ぎる。
捕まるとある意味人生終わり感が半端ない。
絶対にそんな変態達に捕まりたくない貴方は、身構え、スキルを発動させる。
速度上昇lv10、回避上昇Lv10、空蝉Lv10、影分身Lv10。
自身の速度と回避能力の向上。身代わり3体の重ね掛け。更に複数に分身した貴方。
面倒臭い敵、自分が勝てないであろう相手を避けるべく、戦闘離脱に特化したスキルと追撃を悉く回避するスキルを重ねに重ねた戦術で目の前のギルド職員からの脱出を試みる。
「はれれぇ?あはは、軍師さんが一杯見える~面白~い」
自分は全然面白くはないがな!!
心の中で中指を立てながらも、足に力を籠め、ただ一点に、裏口の扉目掛け貴方は駆ける。
「はぇ?」
と、ギルド職員が呆けた声を上げ終えるまでには、貴方達はギルド職員の左右脇、上を通り過ぎる。彼女を通り過ぎれば裏口はすぐ目の前。この際、ドアを開ける動作すら隙になりかねないからそのまま突き破って脱出しようとする貴方。なぁに、ドアの修繕費くらいお安い御用だ。この泥酔職員とストーカー娘を撒けるのであれば。
そして貴方がギルドのドアを蹴破った瞬間。
勝った!!第三部完!!
と貴方は勝利を確信した。
「なあに逃げてるんですかぁ~」
!!???
背後からの掛かる甘ったるく、アルコールの臭いがムンムンする声と衝撃からのふよんと背中に当たる柔らかい感触。そして同時に来る地面へ顔面ごと倒れ込む。
高ステータスの貴方にとっては落下時の衝撃自体は大した事はない。が今も尚自分の身体に腕を回しくっついているギルド職員を引きはがす事が出来ない。
貴方はさながらラガーマンの如きタックルによってギルド職員に捕まってしまった。
馬鹿な、影分身が消えただけでなく空蝉による身代わりが消えた、だと。
一体何が起きている。何がどうなっているというのだ。そして、
貴方は一介のギルド職員に捕まえられた衝撃と、背部に当てられている凶器の感触に混乱を極めていた。
「えへへ~。軍師さんの身体がちがちですね~。もっと痩せてると思ったんれすけど、意外と筋肉ついているというか~。うへへぇ~」
ギルド職員は貴方の身体にしがみつきながらすりすりと頬ずりしてきた。
お前はエロ親父か。と貴方は表情を歪ませる。
女だからって男にセクハラしていい訳ではないんだぞ。然るべき法的処罰が適応されるんだぞだからやめれ下さいと。心中で懇願する。
当然、彼女は止めるつもりは毛頭ないらしい。今度は自分の服にまで手を伸ばしてきた。
ヤバい。いよいよ倫理的にヤバい。さしもの無茶ばかりしている貴方でさえもこの絵面は完全にアウトそのものであると感じている。これを誰かに見られた際には世間体的に終わる――
「ふふふ~、見つけたぞ軍師殿。私から逃げようと思ったならそうが問屋が卸さないぞ。何度断られようと怪我をしようと何としても貴方の弟子を諦めるつもりはないからな。さぁ観念、し、て・・・―――」
しかし、悲しいかな。現実は非情である。
その光景にレイナ・ホシザキの動きが止まる。
貴方にしがみついて、貴方の胸板にしっかりしがみ付いたギルド職員。
最早弁明なぞ出来る訳もなく、もうどうでもいいやどうにでもなーれ☆という表情で、ギルド職員に上の服をはだけさせられた状態の貴方。
時が止まった。
一秒が永久に感じる程の静寂。十秒か、一分程か、あるいはそれより経過してただろうか?先に動き出したのは、レイナだった。
「ど、どどどど、どうやらお取込み中だったようだな。失礼した。さしもの私でも時と状況を考えるくらいの事はする。きょ今日の所は、ひ、引き上げるとしようそうしようご馳走様じゃなくてお邪魔しましたー!!」
顔を真っ赤にし、捲し立てるように捨て台詞を吐いて逃げ出すようにその場を去ったレイナ。
この場に残されたのは、貴方と、いつの間にか貴方の胸元で幸せそうに眠りこけるギルド職員のみ。嵐のように舞い込み、嵐のように去っていった彼女のおかげで、ギルドの酒場の冒険者の声がやけに遠くから聞こえるような錯覚を受ける。
貴方は服を引っ張ったまま眠りこけるギルド職員をどうにか引きはがそうと試みるが、彼女の手は万力でできているのか、全く離れない。己は抱っこちゃん人形か。と貴方は突っ込みたくなった。
しかし、こうも幸せそうな顔で眠っている彼女を起こすのも忍びない。
仕方ない、と貴方は羽のように軽い彼女を、ほど近い仮眠室のベッドへ運ぶ。
彼女を仮眠室のベッドに降ろすと、すんなりと貴方の服を剥がし、布団の中に潜り込んでしまった。
やれやれと、ため息を吐き、疲労困憊した貴方は、ギルドの中で騒ぐ冒険者に知られる事無く、一人自宅への帰路に就くのであった。
後日、貴方は受けで、ギルド職員は攻めであるという噂がギルド内で広まっていた。
当然、噂の発信源は
結果、泥酔状態だった時の記憶を覚えている彼女とは、まともに顔を合わせられず、二週間はただただ気まずい空気が流れるのであった。
主人公:貴方
スキルを恐ろしい程にまで習得し、更にレベルも周りの冒険者とは桁が違う程に上げて、更に軍師の特徴である平均的ステータスを高ステータスに上昇させた。にも関わらずギルド職員のお姉さんにラガータックルで沈められた。ギルド職員に深酒はダメ絶対!!
貴方の中での禁則事項が増えた。やったね軍師ちゃん。
・レイナ・ホシザキ
プライバシーに乗り込むぐらいに押しの強い少女。貴方曰く、
しかし情事(ではないが)の事を伏せつつ、貴方とギルド職員の嗜好を噂として流す辺り、物怖じしないいい性格をしている。
噂を流した後、浸透し切る前に貴方とギルド職員にボコボコにされた。
・ギルド職員
色々ストレスを溜め込んでいたのにも関わらず、貴方と予定が合わずに飲みにも遊びにも行けなかったため、羽目を外した挙句泥酔した結果、貴方を圧倒する何かへと変貌した。レベルやスキルの概念を吹っ飛ばしたその様に、貴方を戦慄させた。
泥酔時の記憶があるらしく、二日間は布団の中で奇声を上げながら悶え、二週間は貴方と目を合わせられなかった。噂を流したレイナへ頭上からのお盆落としという制裁を加えたのは無理のない話である。
・冒険者達
うぇーいとはしゃいでいた人達。一週間休日なしで肉体労働した上に4次会とか色々タフな人達。噂の内容を知った人達の安否を我々は知る由もない。
・不死王
文字通り、アンデッドを統べる王。霊体のため物理が効かず、魔法の威力も半減化され、浄化魔法が一切通じないだけでなく、即死級の魔法や眷属である高位アンデッドを無制限に召喚する屍鬼招来というスキルを持つ貴方のトラウマ。浄化が通じないアンデッドとかマジふざけんなと貴方談。
眷属を浄化しながら、魔法を避けながら魔法を放つ光景はさながら終末のようであったとの事。倒しはしたし、レベルも随分上がったが、もう会いたくないモンスターのランキング上位に君臨した。
尚、知らず知らずに復活を果たしている向こうからしても、絶対に会いたくない冒険者ランキングトップに君臨している事を貴方は知る由もない。
・スキルと貴方のステータス&軍師について
スキルの限界Lvは10まで。簡単に言うと1~2が初心者。3~4が中級。5~6が上級。7~8が達人。9~10が超人。スキルの本来の適正職業よりも軍師のスキルレベル上昇率はずっと低い。(ざっと適正職業の二倍の修練が必要)
ステータスも平均から動くことはまずない。
貴方のスキルレベルの高さ、そしてステータスは、想像を絶する凄まじい努力をしたのか、それとも言いづらい手段を使ったか。
それは貴方のみぞ知る。