異世界で廃人になった一般人の話   作:Nピーマン

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※ホシザキの名前を間違えたので初投稿です。


三話

 

 

ギルド職員の泥酔事件から二週間と数日経過した。

貴方と彼女の男女の仲が疑われるような噂が流され掛け、あわや爆散するしかあるまいかとC-ニュートロンGをすっと取り出し、冒険者達を黙らせて事無きを得たが、噂が大きく広まらずとも、ギルド職員は泥酔時にした行動に、貴方の顔を見る度悶え苦しみ、顔を赤らめながら逃げ回るような始末であった。

 

 

暫く顔を合わせてくれなかった彼女だったか、ここ最近、漸く落ち着きを取り戻し、依頼受領時や発掘物の回収の手続きなども普通に行ってくれていた。

尤も、素っ気ないというか、必要最低限の事務的な対応だけで、日常的な会話はそれこそほぼゼロに等しい。

 

もしかしなくても嫌われてしまったか。

 

 

と数少ない友人の一人に避けられるという一末の寂しさを感じながらも、シュンとしながらも貴方は気持ちを紛らわすため、今日も今日とて迷宮探索へと赴く――

 

 

予定であったが――

 

 

「軍師殿ー!!」

 

 

貴方は、ストーカー少女、もといレイナ・ホシザキに捕まってしまう。

その声に、貴方はげんなりとした表情で足を止めた。

振り返れば、十数メートル先に彼女は自分に手を振っていた。

 

あれだけの事をして良くもまぁ自分に顔を合わせられたものだなと、一種の尊敬の念を抱きそうになる貴方。

貴方は別段、急ぎで迷宮へ行かなくてはいけない理由もなく、彼女から逃げるのも疲れていたため、ため息を吐きながらも大人しく、彼女が自分の元へ来るのを待った。

 

彼女は貴方が大人しく待っていた事に、丸い目を向ける。

 

 

「む?今日は案外素直に待ってくれたのだな。てっきりまた逃げられると思ったが。」

 

 

逃げれば、レイナは自分を追って来るだろうに。

自分はレイナと無駄な問答をするつもりは無い。

要件は何だろうか。早く言って欲しいと貴方は不機嫌さを隠さず彼女へ言い放つ。

自分は別段急いではいないが、時間を無駄にしていい程暇ではないのだ。と。

 

 

「ぐ・・・。いつになく辛辣だな軍師殿。あの一件は別に私のせいではないだろうに。」

 

 

そう冷静に返す彼女に舌打ちをする貴方。

確かに、ギルド職員が泥酔した一件は彼女のせいではない。

ある意味、飲む加減を間違える程にストレスを溜めさせた事が大きな要因でもある。それは認める。友人としてそれを看破できなかった自分が悪い。あぁ認めるとも。

 

しかし、それはそれとして、ギルド職員と自分の間柄を勘違いさせるような噂を流したのはレイナだ。あれだけなら、単なる事故として処理出来た筈だ。だが噂によって、彼女と貴方の間に変な意識が生まれてしまった。レイナの噂話が拍車を掛けたのだ。

それに関しては、貴方は許してはなかった。

おかげであられもない噂がギルドだけでなく街中に広まる所だった。早めに対処したおかげで、それこそあの場にいた最小限の冒険者達だけで済んだのだ。

 

今この場で臆面なく現れている時点で、暴力が飛ばないだけ感謝して欲しいくらいだ。

大体何だ、自分が受けで彼女は攻めとは。

彼女は少々、祖国の同人文化に毒され過ぎてはないだろうか。

そもそも如何わしい何某をしているような仲ではないと貴方は眉を顰める。

 

 

「い、いや、それに関しては本当に悪かったと思っている。何でも冒険者達の中では、貴方達が恋仲であるのではないかまことしやかに噂されているのを聞いたことがあってな。私もてっきりそうなのだと勘違いしたのだ。だから済まなかった!」

 

彼女は申し訳無さそうに地に着く勢いで頭を下げた。

冷めた目で、彼女を見ていたが、すっと目を閉じ重い溜息を吐いた。

どうやら、彼女の言葉に嘘は無さそうだ。

念のため、敵意察知のスキルを発動させたが反応がない。発動者に対し害意のある者には赤に、敵意のない者は青に映る。彼女は青に映ったため、信用しても良いだろう。

 

確かにそんなあられもない事実を流している連中がいる事は知っている。何だかんだで貴方とギルド職員が仕事外で一緒にいる姿や、食事処で談笑しながら一緒に食事をしている姿も目撃されている。男女の仲と勘違いするのも仕方のない事でもある。

友情を引き裂くような噂話は兎も角としてだが。

 

ジロリと貴方は彼女に視線を向けると、ビクッと跳ねるように身を震わせる。

 

その様子に重い重い溜息を吐いた貴方は、チャラとはまでは行かないが、少女故の過ちとして、一旦噂話の件は心内にしまう事とした。

 

 

「寛大な心に感謝する。」

 

 

胸を撫でおろしながら、感謝を述べるレイナ。

 

まぁ、それは置いておくとして、彼女は貴方に一体何の用なのだろうか?

弟子なら取らないがと貴方は初めに断っておく。

 

 

「むぅ、やはり駄目か。いや、私は貴方や友人のギルド職員殿に迷惑をかけてしまったばかりだし。暫く引いておく事にするよ。」

 

 

諦めてはいないのか。まぁ、一時的に引いてくれるのは助かるが。

 

しかし、一体どうして自分に弟子入りする事に拘り続けているのか。

彼女の職種は確か、魔法剣士(マジックソードマン)。前線において魔法で翻弄し卓越した剣術で相手を切り伏せる前衛職の中でも能力の高い職種だ。

引き取り手やパーティ募集には困らない筈。

ましてや自分の他にも、有望で、優秀な冒険者はこの街には多く在籍している。強くなりたいなら、軍師の自分ではなく、有望かつ優秀な冒険者の付き人なり、パーティなりを組めば良いだろうに。と貴方は彼女に言う。

 

 

「いや、それも考えたのだが・・・。貴方は、器用貧乏の職種である軍師の身でありながら、僅か数年で世界でも有数のレベルと数多のスキルを習得した異形の冒険者と聞いた。異世界転移者としては貴方は成功者だし、同郷のよしみで、その、色々と教えて貰いたくてな。弟子にでも、あわよくばパーティを組んで貰いたいと思っていたんだ。こんな成りだが、乙女なのでな。知らない土地で知らない冒険者に教導して貰うにも、・・・色々と不安があるんだ。最初こそは、ファンタジーの世界だから凄い力をつけて、無双したいとも思ったが、ギルドの書庫を見る限りどうやらそんな簡単な世界ではないらしいしな。」

 

 

成程、と貴方は思った。

貴方にも覚えがある。

街であっても治安が約束されず、自分にとって未知なこの世界で、一人では不安も大きい。実際、この世界は剣と魔法と暴力・金で支配されている、ファンタジーには違いないが、ダークファンタジーな世界だ。ましてや彼女も一介の少女。現代日本では、平和に何の障害もなく、学生をやっていた筈なのだ。心細さもまた一際違うであろう。天真爛漫で押しの強いように見えて、実はいつも気を張り詰めていたのかもしれない。貴方といる事で他の冒険者が付け入る隙を与えないようにしていたのやもしれない。一人、宿で言い知れぬ不安を抱き、眠れぬ夜を過ごしているのやもしれない。

 

 

彼女は彼女で、貴方に気を向けて欲しかったのかもしれない。

 

 

そう考えると、貴方は彼女を気の毒に思い、面倒を少しだけ見てあげても良いのではと思うようになっていた。

 

そして、そんな事をポツリと貴方は漏らしてしまう――

 

 

「何!?」

 

 

あ、やっべと貴方は思ったが時既に遅し。

 

 

その言葉を、四六時中貴方を追い求めていた彼女が聞き逃す訳もなく、

 

 

「本当か!!本当だな!!私を面倒見てくれるって!!そう言ったよな!!!」

 

 

急に胸元に飛び込み、目を輝かせて襟元を掴む彼女に貴方はギョッとする。

しまったと、貴方は手で顔を覆う。

つい同情的になり、彼女の面倒を見てもいいと思い、口が滑ってしまったと後悔するが、覆水盆に返らず。一度零れた水が再び器に戻らないように、吐いた言葉は戻らない。貴方の言葉は、彼女の耳を通り、脳内で自分の良いように解釈をされ、刻み込まれてしまっている。

 

 

「言質取ったぞ!!そうか、これで約4週間の私の努力が漸く実った訳だ。やったぞ、やってやったぞ!!!それでは軍師殿、いや師匠殿。不束者ですがこれからよろしくお願いします!!」

 

 

このまま逃げても構わないが、そうしたらまた彼女にあられもない噂を流されかねない。

『嘘つかれて、弄ばれた挙句、捨てられた』と。

何としても貴方に縋りつくために、言葉足らずに決して正解とは言えないが間違っているとも言えない言葉を彼女はきっと言うだろう。そうすれば、冒険者ギルドで資格停止のグレーゾーンにいる貴方がどうなるかは言うまでもない。

 

貴方は泣く泣く観念する事にした。

 

 

貴方は手で顔を覆いながら、天を見上げる。天は憎々しい程に、晴れ晴れとしていた。

 

 

 

 

 

半ば強引に弟子と化したレイナにせがまれ、貴方は、仕方なく迷宮への同行を許可した。本当は一人のつもりだったのだが、衆人環視の中猿みたいにきーきーせがまれたら、騒ぎ起こしたくないから誰だってそうする俺だってそうすると貴方は心内で吐く。

 

 

さて、街の門から、南東へ数キロ離れた場所にある地下共同墓地が貴方の目的地である。

 

先程晴れていた空が、嘘かのように灰色に染められ、墓石、墓標には数多の烏が鳴き声を上げながら止まっていた。心なしか腐臭が漂い始め、空気が重々しく澱んでいた。

 

さっきまでルンルンだったレイナも、道中、景色が異様に変わっていくにつれ表情を歪めるようになり、最終的に、貴方の目的地が墓場であった事を知って表情を青白く染める。

 

 

「し、師匠殿。もしかしなくても、ここへ入るのか?」

 

 

怯えるレイナのその言葉に、貴方は呆れる。

何を馬鹿な事を言っているのであろうか。ここまで来て、地下墓地に入らないで帰るなんて事があるかと。

今回の目的は、何たってアンデッド狩りなのだから。

 

旧地下共同墓地。

 

百年前まで街の住民、冒険者の死体安置所として機能していたものの、内部における瘴気の発生による魔物の出現、同時にアンデッドが際限なく湧くようになったため放置された場所である。瘴気による建造物の迷宮化が進んでおり、中は墓地とは思えないぐらいに広くなっているため、先祖代々続く墓場へお参りに行く街の住民や探索に来た冒険者が遭難し、最悪の場合、アンデッドの仲間入りをする事もある。

 

 

と今から入るであろう迷宮を簡単にレイナへ貴方は説明する。

 

 

更に彼女が顔を白く染めた。面白い程に真っ白だ。

 

 

「アンデッド蔓延る場所に何で態々探索しなきゃならないんですかねほんと意味わかんない師匠ってば頭おかしいんじゃないかっていうかもしかして半ば無理やり弟子入りした腹いせに中で置いていくって訳じゃないだろうなそうじゃないだろうなそれだけは勘弁してくださいお願いします。」

 

 

捲し立てるように貴方を問い詰めるレイナ。

涙目であまりに必死に訴えてくるため、貴方はクスリと笑いを漏らしてしまう。

 

どうやら彼女は厚かましさだけが不死王級なのであって、彼女自身は不死王ではないらしい、と以前に心内で提唱したふざけた説を一蹴した。

 

無論、彼女を置いていくなど貴方にはその気は更々ない。

と言うかいくら序盤から高ステータスな魔法剣士のレイナであっても、低レベルな彼女が内部で遭難でもしたらまず間違いなく命はない。アンデッドの仲間入りは待ったなしである。いくら腹を立てても、仮にも少女。そんな外道にまで落ちた覚えはない。

貴方はグロやリョナなどの特殊性癖を持ち合わせていないのだ。

 

 

「な、なら何で墓場に来たんだ。正直言っておくがアンデッドの類とかは苦手も苦手だ。ていうか死んでいるのに彷徨って生者を貪り喰らうって本当意味分かんない。フィクションじゃなくて現実に存在するってだけでも本当に怖い。無理。帰りたい。」

 

 

段々声が小さくなり、小型犬のように縮こまってしまった。

そんなに怖ければ、貴方としても無理やり連れて行くのもと思ってしまう。

転移魔法(ワープ)で街に戻るか?と貴方は彼女に尋ねる。

 

 

「・・・・いや。弟子入りしたばかりだし、そこは、こう行くしかないだろう。自ら望んで弟子になったのに師匠一人入らせて、自分は帰るってかっこ悪すぎで死ねる。ああ行くさ、行くよ。怖いけどさ。怖いけどさぁ!!

と言うか、師匠殿はどうなんだ。貴方はアンデッドが怖くないのか?いや、自ら望んで入り込むんだから苦手な訳はないか・・・。愚問だったわ。」

 

 

げんなりとした彼女に対し貴方は、そんなことはないと首を横に振る。

貴方も彼女と同じくアンデッドを苦手としている。彼女とは違う理由でだが、以前戦った強敵がアンデッドで多数の痛手を食らい、死にかけた経歴がある。

 

その時、いくら高レベルでも、死ぬときは死ぬ。という事を改めて認識した。

それが一番当てはまるのが高位アンデッドであり、浄化魔法を使っても雑魚のアンデッドと違い抵抗力があるため普通に耐えて来るし、奴らは即死級のスキル・魔法を使ってくるため、レベルが上回ろうと関係なく殺しにかかってくる。

レベルが大きく上回ろうと危険な事には違いないのだ。

苦手だから、逃げていた。結果、偶然そんな敵に出会って殺されました、無念。っていうのがこの異世界の世の常である。だからこそ、危険の渦中に身を置き、自分自身を鍛える必要があるのだ。と貴方は言う。

 

「逞しすぎる・・・。と言うか本当にアンデッドが苦手なのか?」

 

あまりの堂々とした態度にレイナは疑問の表情を浮かべる。

無論、苦手だと。尤も苦手なのは、その最上位に位置するアンデッドであるが。

 

 

 

さて、この旧地下共同墓地。実はここに何度も入り浸るほどの貴方にとって絶好の穴場であると彼女に言う。

 

 

「絶好の穴場?」

 

 

若干引き気味に、その言葉に首を傾げる彼女を他所に、貴方は共同墓地への入口へ足を進める。一人その場に置いて行かれると思ったのか、貴方の後ろをひょこひょこと生まれたての小鹿のように付いて来る。

 

そう、ここは穴場だ。魔物はある程度倒したら出現しなくなってしまうが、墓地という性質もあるのだろうか。ここは死んだ生物による瘴気が満ち溢れているため、アンデッドがどんどん湧く。アンデッドが死んでもまた次から次へと蘇る。故にレベリングに最適な場所でもある。

そして、ステータスが安定して上昇させる事が出来たのも、この共同墓地のとあるアンデッドの持っているある物のおかげであると貴方は言う。

 

今回、それらを入手するため中層を目指す。

上級冒険者がまぁまぁ苦戦する程度のアンデッドや魔物が出現する区域であり、彼女のレベルでは一体倒すのも困難であるだろう魔物が群れを作って襲い掛かって来る。そんな区域に多く集まるのだ。元々心身深かった者達の成れの果てが、同族であるアンデッド、生者の両方を駆逐せんと。

 

 

「アンデッドの持ち物(ドロップ)?師匠。一体、貴方はそこで何を集めるつもりなのだ・・・?」

 

 

 

少しだけ血色を取り戻した白い顔を向ける彼女に向って貴方は言った。

 

 

 

 

アンク集めするぞ。と

 

 

 

 

 




●旧地下共同墓地

難易度★★☆☆☆☆☆☆


アンデッドや下級悪魔が蔓延る迷宮化した地下墓地。浅い層には、僧侶職の浄化魔法を習熟するために赴くパーティもちらほらいるが、古い墓地のため地盤が緩んで中層にまで落ちてしまい遭難する冒険者も少なくない。見つかった時にはグール達の餌か、もしくはアンデッドとして迷宮内を彷徨う存在に成り果てるか。
因みに、黒星2つは浅い層での難易度であり、下に降りるにつれて難易度が爆上げとなる。最下層で黒星6つの高難易度となる。
迷宮の難易度詐欺はダンジョンローグライクに良くある罠とは貴方談。表記詐欺注意。


・瘴気

魔物の出現の要因となる瘴気は、通常の建物、施設を迷宮化させる事がある。そして、年月を経て内部構造を変質させ、文字通り迷宮となる。迷宮主はその内部で熾烈な殺し合いの中で頂点に立った者で、迷宮内の魔物を統率する王として君臨している。

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