異世界で廃人になった一般人の話   作:Nピーマン

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四話

 

地下へと続く螺旋状の階段を下りていくとそこは、一面に広まる墓所であった。

所々、何者かによって灯されている火によって最低限の光源は保たれてはいるものの、長年、放置されているためか、遺体を安置する壁を掘って造られた石室は所々崩れており、また何者かによって荒らされている。そして所々をカタカタと音を立てる骸骨(ワイト)、死肉を求め唸り声を上げる屍鬼(グール)、無念の内に死に、再び生者に為り替わろうとする幽霊(ゴースト)。それらが生者を求め徘徊していた。

 

元々、ここは死んだ者の魂が道を違えることなく、死後の安寧を祈るために建造された、生と死と運命を司る神を祀る神殿でもあった。その名残に祭壇が中央に置かれているが、誰にも手入れされていなくて久しいのか、風化しかけている。地下墓地の階層各所に石碑があり、死者を慰めるメッセージが刻まれていたらしいが、大きく損傷しており、その多くが崩壊しているため、今や見る影もない。

 

 

死者の安寧を祈るための場所が、死を縛られた死者の楽園となるとは皮肉である。

 

 

自分としては、こうして迷宮になってくれたお陰でレベル上げが充実できたのだが。それもまぁ皮肉な事だ。貴方はそう思いつつ、襲い掛かって来るアンデッド達を片手間に潰しにかかっていた。

骸骨(ワイト)は、片足を払いバランスを崩しながら顔を掴んで頭部を地面に叩きつけ、屍鬼(グール)は腰に装備していた鉈包丁ですっぱりと首と胴体を泣き別れにし、幽霊(ゴースト)死屍浄化(ターンアンデッド)で一掃した。

 

あまりにも一瞬で容赦のない光景に、あれだけ怖がっていたレイナがうわぁと引きながらも、アンデッドに同情の目を向けていた。その様子に貴方は『?自分は間違った事しているかな』と首を傾げる。

 

「いや、間違っているかって言われたら間違っていないが・・・。アンデッドと言えども元は人だろう。骸骨(ワイト)とか幽霊(ゴースト)は兎も角、屍鬼(グール)は姿形が人間に近いから、その首がこう、泣き別れする光景はその、結構来る物があるぞ、師匠殿。」

 

げんなりとした表情で言う彼女に、貴方はピンと来た。

成程、つまりレイナが言いたい事は人に近いアンデッドを易々と殺すのは倫理的にどうかという意味合いらしい。

 

それについては心配はいらない。アンデッドというのは基本的に死者や魂が変質化した物で、その生前の意識は殆どない。つまり生前の本人そのものではないのだ。だからどんな殺し方をしても、倫理的に問われたり、非難を浴びる事はまずない。基本的に生者を害する魔物なのでどんどん殺して貰って構わない。あいつらほっといてもどんどん湧いてくるし、初心者のレベルアップには最適だと貴方は彼女に言う。

 

「えぇ?それもどうなんだ・・・?」

 

レイナはドン引きした様子で、貴方の言葉に対しそう漏らす。

まぁ無理もないか。と貴方は腰に鉈包丁をしまいながら思う。

 

この世界に来て一か月程度の彼女はきっと魔物との戦闘には慣れていない。やった事があるにしても外での巨大鼠(ジャイアントラット)の討伐依頼程度だろう。ましてや人に似た何かと戦うのは精神的に来るものがある。それは分かるのだ。ゲームとは違う。そう思い知った事は何回だってある。だが優秀な前衛職である彼女ならきっと慣れてくれる。むしろ慣れて貰わなければならない。慣れなければ死ぬ。それがこの世界だ。嫌が応でも、即座に善悪を判断し、殺すことが出来る者に、彼女にはそうなって貰う。

 

自業自得なのもあり、嫌々弟子にしたが、弟子は弟子だ。貴方としては独り立ちし、自分くらいには物事を対処できるくらいにはなって欲しいし、簡単には死んでしまっては夢見が悪いくらいには思っている。

 

遅かれ、早かれ、人に似た者、あるいは人そのものとの戦闘は慣れておいた方が良い。

そう、遅かれ、早かれ。だ。

尤も、この後すぐに、それを体験せざる得ない状況になるやもしれないが。

 

 

 

 

 

 

上層を難なく通過し、中層へ続く螺旋階段を下りる貴方達。

 

目的地の中層へ入り込むと、そこは異様に広い空間であった。

一瞬、外へ出たのかとレイナは思ったが、薄暗さは変わらず、立ち並ぶ燭台がただ小さく灯りをつけて、光源を保っているだけである。そしてその光景に目を剥いた。

 

 

先程の上層と同じく、墓所には違いないのだが、その立ち並ぶ遺体を置く石室の数が尋常ではなかったのだ。中層の壁伝い、そこに壁を掘られて石室が作られているは上層と変わらない。だが、その異様に広い中層の下から天井ギリギリまでの高さにまで作られており、それがどこまでもズラリと奥まで並んでおり、更に、天井を支える柱までが遺体を安置する石室が作られていた。

 

無論、徘徊するアンデッドは夥しい数である。

先程の上層で見たアンデッドだけでなく、骸骨(ワイト)の上位種である骸骨戦士(ワイト・ウォリアー)幽霊(ゴースト)の上位種であり、複数の怨念の集合体である怨霊塊(レギオン)、複数の隊列を組んだ屍人(ゾンビ)とそれを指揮する死人奏者(ネクロ・コンダクター)と冒険中級者でも苦戦必須なアンデッドが徘徊している。

 

中層では明らかに危険度詐欺だと言わんばかりに、徘徊するアンデッドのレベルが格段に上がるのだ。

油断した冒険者が、ここの一員になったという話も多く聞く程である。

 

 

「師匠殿・・・。あれは何だ?」

 

 

レイナが怯えるように、貴方へ遠目に見える何かを指さした何かもまた尋常ならざる物であった。

中層の奥の方に見えるその大きな塊は、蠢きながら、何かを取り込み大きさを少しずつ増していっている。この地下墓地に入り浸っている貴方はあの大きな塊の正体を知っており、初心者、中級者であれば即座に、何も対処できずに吸収されてしまうためレイナに絶対に近づかないように注意する。

 

蠢くその塊の正体。それは屍人(ゾンビ)屍鬼(グール)のみならず、巨大になれば高位のアンデッドをも飲み込んでしまう程強大な物となるアンデッドの怪物。名を死塊人(コープスパーティー)と言う。

 

だだっ広い中層の中でも、下手したら下層のアンデッドですら霞む程に、断トツでぶっちぎりにヤバいと断言出来ると貴方は言う。

 

 

「そ、そんなにヤバいのか。」

 

 

レイナの言葉に、貴方は、うむと大きく頷く。

仮に、あの死塊人(コープスパーティー)に接近したとする。途端にレイナのような初心者であれば発狂状態に陥ってしまう事だろう。何故なら、かのアンデッドは人々が描く地獄そのものだからだ。

死塊人(コープスパーティー)とは言葉の通り、巨大なアンデッドの集合体である。アンデッドのみならず生物であれば何でも取り込む習性がある。だが、ただ奴は取り込んで大きくなる訳ではない。

その生物が持っている能力を、根こそぎ吸収されるのだ。魔力も能力も、全てだ。そしてアンバランスな巨躯をした怪物は恐ろしい程頑強になる。

そして質が悪い事に、取り込まれた者は、須らくその巨大な肉体の一部となるが、彼らは生き続ける。そう文字通り生き続ける。悍ましいアンデッドになりながらも生命維持し、その生前と同じくして意識を保ち続けるのだ。

そして、彼らは死塊人(コープスパーティー)自身の怨嗟の意識、生前の受けた痛みを延々を共有し続け、この地下墓地を彷徨う。そして、出会った者達に呼びかけるのだ。

 

 

 

『楽にしてくれ。苦しい』

 

『助けて』

 

『殺してくれ。』

 

『憎い、全てが憎い。』

 

『どうして俺が』

 

『嫌、アンデッドなんて嫌。死なせて、死なせてよ』

 

 

 

まるで地獄の光景そのもののようなアンデッドの集合体に出会い、その悍ましい呼びかけを掛けられたら、正気を保つのは難しい。

実際、貴方が初めて奴に相対した時は、固有スキルを以てしても、見ててかなり気分が悪くなった。

 

 

そうじゃなくても、奴らは大怨嗟というスキルで、複数の状態異常(デバフ)を掛け、その強大な身体でのしかかるボディプレスや、構成しているアンデッドの一部を繋ぎ合わせて、触手のようにして相手を取り込もうとする。

 

相手取るにしても、複数の上級冒険者のパーティが、多数の死人を覚悟しなければならないと貴方は言う。

 

 

「そ、そんなにヤバいのなら、この中層を探索するのはまずいのではないのか?奴らに見つかったり、捕まったりでもしたら・・・。」

 

 

レイナは怯えまくっているが、心配はいらないと貴方は笑った。

何故なら、奴は接近し戦闘に陥ればこそ厄介だが、異様に接近スピードが遅い。それこそ、老人が杖をついて歩くほどの鈍足だ。おまけに身体が大きすぎて同じ方向にしか進めないし仮に方向転換出来ても時間が相当掛かる。そして奴は目が悪いので音に反応して移動してくる。尤も音を鳴らそうとも、そこに行く着くまでに時間が掛かるため、来る前に脱出すればいい話だ。

 

それを聞いて安心したのか、レイナは胸を撫で下す仕草をする。

 

 

「で、では、師匠殿。目的の物を早く探すとしよう。付いてきてなんだが、私は一刻も早く帰りたい。」

 

 

レイナの訴えに、貴方は苦笑しながら頷いた。

 

 

 

 

 

「それで、師匠殿。貴方が探しているその、あんく?とは一体何なのだろうか?そもそもそのあんくを集めて何をするつもりなのだ?」

 

 

片手間に骸骨戦士(ワイト・ウォリアー)死人奏者(ネクロ・コンダクター)の頭を砕きながら進む貴方に、後ろから付いて来るレイナが尋ねる。アンクが何か、と聞かれても詳細な説明は出来ないが、ただ一つ言えるのは、能力を上げる特殊能力を持った装飾品という事だけだ。

この世界でのアンクは自分の力量の境界を超えるという特殊な効果を持っている。つまり、自分の能力の限界地を伸ばす事が出来るアイテムと言える。

 

 

「そんな便利なアイテムがあったのか!!それで師匠殿は軍師なのにステータスが高いのだな。・・・しかし、そんなアイテムの噂を街で全く聞かなかった。何でだ?」

 

それはそうだろう。ある程度能力が上がってしまえば、そこから能力が上がるのは完全に運任せなのだから。そもそも、通常の戦闘系の職種であれば、そのある程度のステータスっていうのが、レベルアップで簡単に到達出来る。だから、アンクを積極的に集めるような者はあまりいないのだ。

貴方も、昔はアンク集めに出かけると言っては、他の冒険者達に良く笑われた物だ。

 

当時の事を貴方は、思い出したのか。檸檬を丸かじりしたような、眉間に皺を寄せ、口元を窄めるような表情をした。

 

 

「う、何か、その済まない。嫌な事を思い出させてしまって。しかし、そんなに上昇確率が低い物なのか?」

 

 

低い。もの凄く低い。どのくらい低いかっていうと、ある程度ステータス上がった時だと20個のアンクを使用して上昇するかしないかぐらい。それで上がるのは僅か1程度。雀の涙程度である。

 

 

「ひ、低すぎる・・・。よくステータスを高くする事ができたな。そもそも、そのステータスにするまで冒険者の活動をまともにできたのか?」

 

 

レイナの疑問は尤もだが、そこは、貴方が考えるに考え、スキルを上手く利用した結果であろう。

そもそも、自分は、冒険者ギルドで冒険者登録してからスキルと金を集める事に集中するため、2年間迷宮は愚か外で討伐なども行っていないと言う。

 

 

「は?ぼ、冒険者として活動していなかったのか?丸二年、何も?」

 

 

そうだと、貴方は頷く。

考えても見て欲しい。軍師の冒険初心者が魔物や人との戦闘で生き残れるだろうか?答えは無理である。自分は、精神的に強いだけのただの一般男性に過ぎない。スキルを多種多様覚えたとしても無駄死にするのが落ちだ。だったら自分で出来る事を、冒険者として活動する事が出来るまで積み重ねていくしかない。と貴方は考えたのだ。

 

 

そして、街の様々な場所で商売をし、金を集め、冒険者ギルドでスキルを習得し、またそれを使って商売し、こつこつとスキルレベルを上げ、入念に準備した。その商売の過程で、貴方はアンクと言う存在を知り、ひたすら道具の使用成功率を底上げするスキルを上昇させたのだ。

 

 

結果として、冒険者として活動し始める頃には、道具の効力を倍以上に発揮させる事が出来るようになっていた。アンクの能力上昇率も上げるに上げていたが筈だが、それでいてこの確率なのである。

通常だったら、もっと確率は低いと考えるのが妥当だろうと、レイナに言う。

レイナからは、「うわぁ」と貴方の底知れぬ努力と用意周到さに感嘆と呆れとドン引きの声が上がる。

 

 

「だが、それが本当だとしたら、貴方は一体いくつのアンクを集めたのだ?」

 

 

さぁ?と貴方は首を傾げる。

この世界におけるステータスは、腕力・知恵・信仰・体力・敏捷・器用・幸運の7つ。それを余す事無く伸ばすように、山程の量のアンクをただの鉄くずに変えてきた。20分の1の時もあればそれ以下の確率の時もあったので、『万』は下らないだろうか。と貴方は答えた。

 

 

「ま・・・・!?」

 

 

固まるレイナ。

さて、そんなこんな話しているうちに貴方達は、哀れな今回の犠牲者の元まで到達した。

中層の中央に聳え立つ祭壇の周りに集まっていたのは、僧侶の服を身に纏い、古ぼけた錫杖を手に持つ屍であった。

 

屍高僧(コープ・プリースト)。かつて、アンデッドが大量発生した際に、その身を挺して地上への進行を防いだとされる僧侶の成れの果て。僅かに知性を残すばかりのアンデッドは、貴方を自分の神に仇為す敵と認識したのか、錫杖を構え、あるいは仲間を呼び出し戦闘の体勢に入っている。

 

 

戦闘の構えに入っているのであれば、しょうがないか~と言わんばかりに腰から鉈包丁を抜いた。

 

 

「師匠殿が満面の笑み過ぎてコワイ。」

 

 

レイナは、カタカタと震えながらそう呟く。

そりゃ鴨が向こうから葱しょってくるのだから嬉しくもなる。

しかも、アンクは宗派によって効力が異なるため、ランダム性があり、どれを引くのかというガチャガチャ感があって楽しい。と貴方は話す。

その言葉に、レイナは憐れみの目をそのアンデッドの僧達に向けた。

 

貴方は、そんな憐みの目を向けるレイナを他所に、凶暴な笑みを浮かべ、一体どの宗派のアンクを持っているだろうかなぁと胸を躍らせながら、屍高僧(コープ・プリースト)の群れへ駆け出すのであった。

 

 

尚、その結果はワンサイドゲームだったと、後のレイナ・ホシザキは語る。

 

 




・貴方:異世界転移からの二年間について

当初の貴方は、絶対に冒険者として前線に立ったら死ぬと思い、鋼の精神のスキルを利用して商売をしながらスキル習得に専念した。アルバイトして、資格を取りまくる大学生みたいなイメージでOK。冒険者の揶揄や批判もあったが、そこは鋼の精神。耐えきった上に冒険者の心を抉るような揶揄を仕返しに言い放ったら存外相手方がへこんだのは今では笑い話。どんな揶揄か、読者の想像にお任せします。
因みに、商売に使ったスキルは以上の物。
 
 ・鑑定 
 ・回復(ヒール)
 ・解毒(アンチ・ドーテ)
 ・解痺(アンチ・ヘンプ)
 ・解石化(アンチ・ストーン)
 ・解呪(アンチ・スペル) 
 ・錬金
 ・鍛冶

貴方はこれら全てLv6以上で習得している。


・中層のアンデッドの怪物

死塊人(コープスパーティー)は所謂その中層における階層主(フロアマスター)的存在。中層は勿論の事、下手すれば下層のアンデッドでさえ霞むほど、一線を画する怪物。まともに戦えば名うての冒険者でも命がない相手である。
今の貴方でさえも、少し手こずる相手である事には間違いないであろう。


・アンクと宗教について

アンクは神々が庇護する生の象徴としてそれぞれの宗徒が持っている装飾品である。アンクには神々の加護が与えられており、神によってそのアンクの性質が異なる。


戦争と勝利を司る女神:腕力が上昇するアンク
叡智と繁栄を司る女神:知恵が上昇するアンク
安寧と癒しを司る女神:信仰が上昇するアンク
守護と活力を司る女神:体力が上昇するアンク
交易と繋がりを司る女神:敏捷が上昇するアンク
財産と幸福を司る女神:器用が上昇するアンク
生死と運命を司る神:幸運が上昇するアンク


以上、七柱の女神様とそのアンクとステータスについて。

因みに、ゲーム内とは違って、この世界の能力値に明確な限界がないため、アンクによる能力上昇は実は摂理を捻じ曲げかねない行為で、六柱の女神達(一柱を除く)は貴方を危険視している模様。



※女神様の名前を決めるかどうかまでは決めないんじゃあ^許してたもれ


・アンデッドの僧侶達

貴方に食い物にされた憐れなアンデッド達。アンク置いてけ。なぁ、アンク持ってんだろ!?アンクだ、アンクの音だろう。なぁ、アンク持ってんだろ、お前!?と凶暴な笑みを浮かべた貴方に恐怖を知らない筈のアンデッドである彼らが知らず知らず後退りしていたのを、貴方は知る由もない。
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