事故で天国に来たということを、何となく炭須雲沌は理解できた。
さっきトラックに轢かれたのも覚えてる。
そのうえ、彼が立っているのは雲の上だったからだ。
ただ、小説と違って神様は目の前に現れないようだが。
(そりゃそうか。俺みたいな奴にわざわざ顔見せる必要ないもんな)
渡る世間に鬼はないということを彼は知っていたが、
現実は非情だということもはっきりと知っていた。
清濁併せ吞むことができたのが炭須の長所だった。
そんな彼の前に一枚のチラシが風で飛ばされてきた。
スリリング!?マギレコの神浜市に転生キャンペーン!
魔法少女まどか☆マギカ外伝マギアレコード。
彼はそのゲームを知っていた。
まあ、聞いただけなのだが。
どうやら本編と違ってかなり救いのある物語だと。
確か、神浜市という街を舞台に・・・。
二木市を舞台にしたゲームですが、このキャンペーンでは・・・
「うん????神浜市が舞台じゃなかったっけ????」
そこに、天使が飛んできた。
「あっ、それはあなたと違う世界のマギアレコードなんです!すみませーん!」
炭須は納得した。並行世界で違う内容になっていても不思議ではない。
チラシの裏にも、炭須のような人のための注意書きがあった。
このマギレコは神浜市を舞台にしたマギレコではありません!
二木市を舞台にしたマギレコです!
ちなみに、物語の内容も変わっています!
このマギレコは二木市の魔法少女による島本和彦みたいな熱血青春物語です!
ちなみに、神浜市は別の世界の二木市みたいに殺伐としています!
間違えて転生しても、責任を負うことはできません!
彼は興味を持ってしまった。
並行世界のマギレコがどんなものか気になるのだ。
「なあ、天使さん。このキャンペーン、少し気になるんだけど・・・」
「原作知識なしで転生はおすすめできませんよ?」
「でも、少し気になるんだよなー。違う世界のマギレコっていうのも」
「まあ、あなたみたいな別世界から来た人も受け入れてはいますが。
とりあえず、手続きはあちらの方で。説明もそこで・・・」
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懐かしい夢だった。あの世にいたころの記憶だ。
この世界に転生して十五年が経った。
時計の針は十三時を指していた。肌寒かった。
今日は祝日なので、学校がない。
勉強した後、少し昼寝をしていたのだ。
部屋が暗いので、証明をさらに明るくした。
カーテンを開けるのは、自殺行為に等しかった。
別に危険な化け物がいるわけではない。
ただ、自分が転生者だと発覚する確率が高くなるのだ。
何か隙を見せるだけでも、危険度が高くなる。
「ストーブ、そろそろ用意しようかな・・・」
何気ない独り言を呟く。その方が安全だからだ。
監視されているわけがない、という確証はないのだ。
彼女たちが家の中まで見ているのはあり得る話なのだ。
だから、こうやって何でもないことを言うことで疑いをそらすのだ。
神浜市で魔法少女同士の内ゲバがあるのは原作通りだったそうだ。
炭須の前世におけるマギレコで二木市がそうなったように。
しかし、男子が行方不明になるのは聞かされていなかった。
それはつまり、原作通りではないということだ。
行方不明になった男子の中に、二人だけ知っているのがいた。
一方は別に知り合いではないが、いかにも転生者らしかった。
そいつだけ異常なほどに顔立ちが整っていたからだ。
もう一方は、同じ世界の出身者だったから友人だった。
彼は優しい人間だったが、それでも消えてしまった。
転生者が消える現象を、炭須は心の中で『蒸発』と呼んでいた。
男子、それも転生者かもしれない男子が次々と『蒸発』しているのだ。
ここ数か月、カーテンを開けた記憶はなかった。
それでも、天気はわかる。彼の転生特典は千里眼だったからだ。
しかし、あまり使わなかったせいで『蒸発』が起きる理由を知ることができなかった。
彼に今まで許されていたのは、ただ怯えて生きることだった。
でも、今日、彼は一つの叛逆を試みるつもりだった。
それは、日記を書くことであった。