彼は今、五十鈴れんを愛していた。   作:ryanzi

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希望はどこに

勉強というのは炭須にとって人生で最大の喜びだった。

少なくとも、勉強には私情を持ち出す必要がないからだ。

遊びだとこうはいかない。いくらか感情が出てしまうからだ。

もしかすると、その感情の所為で転生者だとわかってしまうかもしれない。

だから、結局は勉強することが自分を隠すことにつながる。

前世の経験のおかげで、勉強は苦痛ではなくなっていた。

むしろ、知識を得るということが最近では快感になっていた。

この世界に転生してから後悔ばかりだが、これだけは良かった。

 

「・・・くん、炭須くん。ど、どうしたんだい?か、顔が怖いんだな」

 

「おっと、すまん。少し夢中になりすぎていた」

 

目の前の椅子に座っている小太りな男子生徒の名前は羽孫隋。

二人はたまたま一緒に学校の図書室で自習していた。

ちなみに、通っている学校は神浜市立大附属学校である。

この男子生徒はいわゆるモブという部類の人間だ。

もう誰が転生者で、誰がモブなのかは見分けがつくようになっていた。

少なくとも、この世界の人間は三つの部類に分けられる。

 

魔法少女

転生者

モブ

 

これは日記にも既に書いたことであった。

モブ、はっきり言って悪口そのものだ。

少なくとも、炭須にとってモブというのは人間に思えてきた。

いや、人間なのだ。個性があり、我があり、なにより魂だってある。

前世ではモブが悲惨な目に遭ったり、クズモブとして描かれる作品があった。

炭須はそんな作品をもう二度と見たいとは思わなかった。

どんな世界も、無数の彼らによって築かれていったのだから。

 

「す、炭須くん、顔がやっぱり怖いんだな」

 

「生まれてこの方こんな感じなんだ」

 

顔が怖いと言えば、図書委員の夏目かこもそうだった。

彼女はちらちらと二人のことを確認していた。

おそらく、隋が怯えているのもそのせいだろう。

可哀想に、この図書館には彼と怖い顔の人間二人しかいないのだ。

 

「・・・星夢くん、はやく帰ってきてほしいんだな」

 

彼もまた星夢とは友人であった。

学年全体が、彼の行方不明を悲しんでいた。

・・・魔法少女が悲しんでいるかは知らないが。

自習を終えて、家に帰った後、彼は日記を書き始めた。

 

希望があるとするなら、それはモブたちのなかにある

 

もし希望があるのなら、それはモブたちのなかにあるに()()()()

日記に書くと、改めてそれを強く信じることができそうだった。

魔法少女や転生者と違って、彼らは何十億といるのだ。

円グラフにするだけでも、その差が歴然とするのを瞼の裏に思い描くことができる。

しかし、同時に残念な知らせも存在する。

この街は歴史的に東西の住民たちの関係が悪いのだ。

それは前世のマギレコでも聞いたことはあった。星夢からも教えてもらった。

しかし、並行世界のマギレコではそれがもっと悪化しているようだ。

東の人間が西に行けば喧嘩を売られ、西の人間が東に行ってもやはり喧嘩を売られる。

はっきり言って、隋のように協調的なモブはかなり少数派だ。

彼は書いた。

 

はっきりとした意識を持つようになるまで、かれらは決して協調しない。

そしてまた、協調してはじめて、彼らは意識を持つようになる。

 

それでも彼は確信していた。希望があるとするなら、それはモブたちのなかにあると。

少なくとも、この世界は圧倒的多数派である彼らのものであるべきだ。

炭須にはそう思えて仕方がなかった。

・・・もっと残念な話があるとすれば、彼らは転生者と魔法少女を知らないことだ。

もし彼らが自分たちのことをを知ってくれれば、状況はいくらか変わってくれるはずなのに。

まあ、信じてくれるとは思えないのだが。

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