気がつけば、僕は死んでいた。おっと、前世の話だよ。
病気がちだったけど、悪くない一生だった。
いや、やっぱり後悔はかなりある。
ありすぎて、具体的に思い浮かべることができないくらいに。
だから、転生という選択肢を選んだのは自然な事だった。
今から書くのは大まかな記録だと思ってくれたらいい。
こんな形で伝えることになって、本当にごめんよ。
「・・・しかし、別の特典を選んだ方が良いと思うぞ?」
「いえ、いいんですよ」
僕が選んだのはキュゥべえと上手くコミュニケーションできるというもの。
不良っぽい神様曰く、転生者は最初から彼らと話せるようになっているらしい。
「それで、その人たちはキュゥべえと平和的関係になっているんですか?」
「なってると思うか?」
「だからですよ。上手くコミュニケーション、というのを望むのは」
「できるのか?」
キュゥべえと仲良くやっていきたい人間はまずいないだろうね。
地球人と彼らは意識構造が完全に異なるんだから。
でも、僕という人間は意外とポジティブなんだ。
「神様、ソラリスという小説は知っていますか?」
「・・・確かに海よりかは話が通じるけどさ」
「僕は多くのSFを読んできたんです。
僕の頭の中には現実には役立ちそうもない大げさなアイデアが詰まってるんです。
でも、キュゥべえの文明くらいになれば実現可能なはずなんです。
ただ、彼らには・・・地球人独自の感情がないので思いつかないだけなんです」
これまでSF小説に書かれてきたアイデアは人間の感情によって生まれてきた。
こうなりたい、ああはなりたくない、楽したい・・・。
そんな感情で生まれてきたアイデアを元にして技術も発明されてきた。
「・・・珍しい人間だな、お前。アイツらと仲良くしたいだなんて」
「監督だってキュゥべえのどこが悪いって言っていましたよ。
それに、死ぬ前に読んだ三体ⅢというSF小説でも・・・」
「待って、あれ翻訳されてないはずなんだけど???」
「根性で読みました。使ってる漢字は同じなんですから」
こうして僕はマギアレコード、この世界に転生した。
ただ、空きがないとか何やらの理由で並行世界のマギアレコードだったけど。
Pixivやらプレイ動画で見た神浜とは完全に違っていた。
街は殺伐としているし、僕の世界のマギレコより東西の関係が悪いし・・・。
でも、悪い事ばかりでもなかった。友達が意外とできたんだから。
しかも、そのうちの一人は同じ世界出身だった。
名前を書くわけにはいかない。とりあえずS・Uとしておくよ。
彼はなんというか平穏さを望んでいるから、君に教えるわけにはいかないんだ。
でも、君に出会えたことが本当にうれしかったんだ、かこ。
君と会ったのは、僕が四歳のころで、君が二歳の時だったかな?
こんな殺伐とした世界にも、一輪の花が咲いているとは思わなかったよ。
・・・キュゥべえとのコミュニケーションについても書かないと。
僕はとりあえず目についたのを一匹だけ持ち帰った。
それは・・・君が魔法少女になってからのことだったね、確か。
「なるほど、君は転生者だったか」
そう言われたときは心臓が止まりそうだった。
まさか、転生者の存在を知っているだなんて。
「君と同類と思われる存在にボクたちは痛い目に遭わされているからね」
「・・・それはすみません」
とりあえず、僕は彼に敵意がないということを必死に伝えた。
そして、僕の目的も。
「実に興味深いね。ボクたちの活動に理解を示す地球人がいるだなんて。
君たちは感情に囚われているだけの種族だと思ってたよ。
しかし、君は科学にはあまり詳しくないんだろ?」
「ええ、ですが一緒に考えればどうにかなりますよ」
こうして僕とキュゥべえの共同生活が始まった。
でも、こうしている間にも君は辛い目に遭っていた。
君だけじゃない。多くの魔法少女が辛い目に遭っていたんだ。
神浜市では魔女が少なくなって、グリーフシードが枯渇し始めていた。
・・・キュゥべえ狩りも原因だと思うんだけど?
少なくとも、僕は十字架を背負う必要があるだろうね。
僕だけじゃない、S・Uも、その他の転生者も・・・。
僕も含め、誰も君を助けようとしなかった。命惜しさに。
「・・・お前、家にキュゥべえ持ち帰ってなかったか?」
「どうして知ってるんだい!?」
彼の名はHとしておこう。学校で一番イケメンの彼のことだ。
彼もまた転生者だからね。
「見てたからな。・・・まあ、俺はどうでもいいけどさ」
「はは・・・そういえば、Hくんの能力はなんだったっけ?」
「この容姿だけど?不細工の気持ちなんてイケメン様にはわからないよな?」
僕の容姿は前世から引き継いだものだ。それだけは言わせてくれ。
かこ、この姿は決して偽りのものではないんだ。
・・・話が脱線してしまったね。
「まず、最初の質問だ。宇宙の寿命はどれくらい残ってる?
もし、たっぷりと残ってるんだったら、犠牲は多くなくてもいいはずだ」
「わからない、というのが一番正直なところだね。
今この瞬間にも、ボクたちのエネルギー回収は進んでる。
それでも、あとどれくらい寿命が残っているかはわからない」
最初は少しわからなかったから、質問を変えた。
「じゃあ、君たちがエネルギー回収をやめたら?」
「千年」
「千年ね・・・嘘でしょ?」
嘘だと思いたかった。いくらなんでも千年は宇宙的スケールで考えると短すぎる。
「君たち地球人は省エネ省エネって言っているけど、他の文明から見れば、十分省エネさ」
「・・・だいたいわかるよ」
ここで一つたとえ話を。
洞窟の中で焚火をするのと、大都会の夜景、どっちが消費エネルギーが多いと思う?
答えは簡単。地球文明は洞窟の中の文明にしか過ぎない。宇宙的に見れば省エネだ。
でも、地球文明以外にも文明はたくさんある。
その半分くらいが大都会だったとしたら・・・それは恐ろしい事態だ。
こんな話をキュゥべえと繰り広げながら暮らしていた。
「・・・人道的にまずいけど、他の宇宙から熱量を奪うのは?」
「それをやったら戦争だよ。宇宙戦争じゃない、宇宙間戦争だ。
数億という文明が星系ごと破滅を迎えた」
「それは恐ろ・・・えっ、過去形?」
「ボクたちは他の宇宙も観測できるからね。
実際に、数十億年前に宇宙間戦争を観測したことがある」
「じゃあ、ブレーンワールド理論を適用できるじゃないですか」
ブレーンワールド理論というのは他にも宇宙がたくさんあるという理論だ。
それに従えば、他の宇宙の重力というエネルギーが僕たちの宇宙にも流れ込んでくるということ。
本来なら、キュゥべえの仕事も必要ないはずだったんだ。
「ボクたちはあくまでこの宇宙を守らなきゃいけないんだ。
そのために、絶対に干渉されないようにしてある。
もちろん、重力でさえもこの宇宙に干渉できない」
やりやがったよ。いや、宇宙社会学の観点で見れば正しいんだけどさ。
おっと、変な用語を出してごめんね。
宇宙社会学っていうのは僕が前世で読んだSFに出てきた学問だ。
公理は簡単で、キュゥべえも感嘆していた。
生存は、文明の第一欲求である。
文明はたえず成長し拡張するが、宇宙における物質の総量はつねに一定である。
「なるほど、君のいた地球はついに核心に辿り着きつつあるのか」
「そういえば、この世界だとSFが発展していないのはどうしてなんですか?」
「ボクたちが事前に芽を刈り取っておいたんだ。
できれば、地球人に変なアイデアを持ってもらいたくないから。
それに、ある程度は純粋無垢であった方が仕事も簡単だからね」
「・・・本来のあなたたちはその結果、哀れな末路を辿りました。
今からでも遅くはありません。効率は劣るかもしれませんが、いい方法があります」
僕はある方法とやらを彼に話した。
もちろん、さすがに彼も難色を示した。
その話をしていたのは・・・君が魔法少女を殺め始めた時期だったね。
・・・見殺しという罪は、いくらでも償うつもりだ。
「・・・この次元を超越した意思による宇宙の維持か」
「試してみる価値はあると思いますよ」
ちなみに、その方法をここに詳しく書くわけにはいかない。
すごく長くなってどうしようもないし、君には理解が難しいだろうからね。
そこで、神浜現代美術館のためにある絵を描いた。それをヒントにしてくれ。
そうこうしているうちに、環いろはが神浜市にやってきたんだっけ?
Hくんはすごく怯えていた。
「怖いよ、怖すぎるよ・・・知ってたけどさ」
「隣の席か、ご愁傷様。レッツトライ」
Hくん、可哀想に・・・無理にイケメンになろうとした報いだね。
おっと、嫉妬を書くのはやめておくよ。
この頃から、魔法少女たちのHくんに対する視線に殺意が含まれていたね。
君たちはどうやって僕たち転生者の存在を知ったんだろう?
それでもなお、君は僕を信じてくれていた。
でも、裏切るようなことをしてすまない。
結界が展開されたのに、家に連れ込んだキュゥべえは作動していた。
「どうして動いているんだい?」
「おそらく、君の影響を受けたからだろうね。
全世界のボクが君の思考に影響を受けているんだ。
・・・あと言っておくけど、君は人間じゃなくなりつつある」
そこで僕は自分の能力を改めて見直してみた。
・・・なるほど、理解することは許すこと、だね。
キュゥべえを許すことのできる人間はこの世にいないはずだ。
つまり、僕は人間じゃなくなりつつあるってことだった。
まさか、能力にこんな代償があるとは思わなかったんだ。
「・・・キュゥべえ、頼みがある」
「わかってる。君をオーバーマインドとやらにすればいいんだね。
ちょうどボクたちも困ってたところなんだ。感情が芽生えつつあったから。
ここ最近、やけにボクたちの故障が相次いでいるんだ」
「・・・それはすみませんでした」
「いいや、傷が浅いうちになんとかできたからいいよ」
とりあえず、数日の猶予が僕に与えられた。
「ありがとうございます、キュゥべえさん」
「・・・友達として、当然のことをしたまでさ」
これが驚くべき最後の会話となった。
友達!まさか、感情のないキュゥべえがそんなことを言うなんて!
その直後、彼は機能を停止した。神浜市の結界に耐えられなかったのだ。
しかし、結界があろうとなかろうと、彼らは外部から僕から干渉し続けた。
僕も少しだけ彼らに近くなったから、体が辛いんだけどね。
この手紙を渡すときに、僕はこの世から消えるだろう。
頼みがいくつかある。転生者は確かに罪深い存在だ。
でも、どうか友人のS・Uだけは殺さないでくれ。いい奴なんだ。
そして、僕の作った絵本は処分しといて。売るのもいいし、燃やしてもいいから。
あと、皆で仲良くしてくださいね。
さようなら、かこさん。いつまでもお元気で。
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炭須は毛布にくるまって泣いていた。
星夢は炭須のことを友達として保護を頼んでいた。
彼は最初から最後まで善人だった。キュゥべえに感情を芽生えさせるくらいに。
炭須は少しだけ落ち着きを取り戻すと、フエフキとななかの会話をもう一度頭の中で再生した。
彼女によると、里見メディカルセンターの近くの野原に彼女たちは呼び出されたらしい。
そして、かこに手紙を渡すと、光となって消えていったというのだ。
誰にも止めることはできなかった。
「どうか幸せに暮らしてください」
それが彼の遺した言葉だったそうだ。
良い話に聞こえるかもしれないが、ななかは違うと言った。
「・・・何もかも放り出して彼は逃げたんです」
「同意ですね」
・・・フエフキも即座に同意したのは驚きだった。
「僕は二回ぐらい死にかけたことがあるんです」
「・・・もう予想できるわね」
「ええ、かこさんを二回も泣かせてしまったんです」
それはそれで炭須を不安にさせた。
フエフキが彼のいた世界に帰った時、その世界のかこの反応が予想できる。
「・・・僕にはそういったことをああだこうだいう資格はありませんが、
罪を償うというのなら、星夢さんは彼女と一緒に苦難を共にするべきでした」
「あなたはそうしたことあるの?」
「ええ、自分が転生者だということも告白しました」
「・・・あなたみたいな転生者がこの街に一人でもいたら状況はマシだったのかもしれませんね」
「帰れなの」
炭須は毛布の中で決心した。明日、何がなんでもれんと話すと。
そして、そして・・・駄目だ、それだけはできない。
自分が転生者だと告白するのは、転生者にとって自殺行為だ。
今まで築き上げた何もかもを失うかもしれないのだ。
あれこれ考えているうちに、彼は自然と眠りに落ちた。