魔王と親友と紫電   作:刀好きの第六人

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トラップ

【オルクス大迷宮】のある宿場町【ホルアド】へと到着したのは夕方だった。蓮二達は王国直営の宿屋に入って行き、それぞれの部屋に向かった。

 

部屋割りは蓮二とハジメ。沙羅とミレイナとデュエラという形となった。

 

蓮二とハジメは部屋に着くと、それぞれベッドに寝転がると、迷宮に出現する魔物の図鑑を読んでいた。ハジメは低層の、蓮二はいざと言うとき用に深層の図鑑をだ。

 

深層には今の蓮二でも倒せるかわからない様な魔物が載っており、特に数で押してくるトラウムソルジャーに警戒していた。

 

「深層になると一筋縄ではいかなさそうだな。そっちは……おいおい眠そうだな」

 

蓮二がハジメを見ると、眠そうにしていた。寝るにはまだ早いと思った蓮二は、ハジメの為にお茶を淹れてやるかと思い、宿屋の受付まで行く。

 

「すいません。お茶を頂けますか?二人分」

 

「畏まりました」

 

受付の人からお茶を頂いた蓮二は部屋に戻ろうとすると、部屋の中では話し声が聞こえた。

 

(白崎か…)

 

ハジメと香織が何かを話していることに気づいた蓮二は、二人の時間を作ってやるかと思いながら宿屋のバルコニーまで来ると、ベンチの様なものに座りながら一人お茶を飲みながら夜景を見ていた。

 

(そういえば一人の時間は久しぶりだな…この二週間は色々有ったしな)

 

蓮二は一人、このトータスに来てからの事を思い出す。いきなり戦争に参加しろと言われ、自分達の安全を確保する為に蓮二は王国の人達との人間関係を良くしたり、ハジメが色んな物で人々を救ったり。

 

それ以外にも物事は有ったが、蓮二は一つだけ気になっていた。

 

それは自身の事だ。半人半妖などという種族に妖化や人化等、自分の身に何が起きているのかは未だに分からなかった。

 

人とは違う。そう思うと蓮二は思わず表情に影が生まれていると、彼の後頭部に叩かれた様な衝撃が走る。

 

「あいた!なんだよ…沙羅先生」

 

「なんだとは何よ。あっ、お茶貰うわね」

 

蓮二が振り向くとそこには沙羅が居た。沙羅は隣に座ってハジメの分のお茶を一口飲む、静かに話し始めた。

 

「蓮二、貴方は何処にも行かないわよね?」

 

「急にどうしたんですか?」

 

蓮二は理知的で冷静沈着な彼女らしからぬ弱々しい声で問いかけてくる沙羅に疑問を浮かべていると、沙羅は説明し出す。

 

「嫌な夢を見たのよ。蓮二がまた暴走する夢、それも今度は元に戻らないまま……だからかしらね、今の貴方を見たくなったの。優しい貴方の顔を。それじゃあお休み、また明日ね」

 

「うん」

 

沙羅がバルコニーから自室へと向かうのを見送った蓮二はそろそろ戻っても大丈夫だなと思いながら、自室に戻るのだった。

 

____________________

 

 

翌日の朝、【オルクス大迷宮】正面広場の入口居る。蓮二達は光輝たち勇者一行と少し距離を取りながら歩いていた。

 

距離を取っているのは光輝がミレイナを見て何かしら言ってこないようにする為であり、ミレイナを見つければきっと奴隷として解放しようと宣いてくるだろう。

 

それは兎も角【オルクス大迷宮】の入口は博物館の様な入場ゲートが有り、メルドが今受付嬢に話を通している。

 

 

入口付近には食べ歩きが出来るほどの屋台も並んでおり、仕事終わりに食べて行くことも出来るのは良いなと蓮二が思っていると、受付が蓮二達の順番になったので、ステータスプレートを受付に見せて迷宮内に入って行く。

 

 

迷宮内は外とは違う雰囲気を見せる。

 

迷宮内は緑光石と呼ばれる光源になる石によって通路内は明るく照らされているものの、ここから先は命を賭けた戦いになる事を蓮二とハジメと沙羅は感じとる。

 

そんな中で蓮二達はドーム状の広間に出る。天井は7メートルは有りそうな広い空間の壁の隙間からはネズミの様な魔物が蓮二達を獲物として認識してわらわらと出てくるとメルドは光輝達に支持する。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

 その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。

 

 灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみだが、人と同じ二足歩行で上半身がムキムキのマッチョネズミだった。

 

そんな可愛らしさのかけらも無いラットマンは、可愛いもの好きの雫にはとても気持ち悪く見え、引いていた。

 

クロスレンジに入ったラットマンを迎え撃つ為に光輝、龍太郎、雫が武器を構え、後衛の香織に谷口鈴と中村恵里と呼ばれる女子生徒二人が魔法を唱えると言った堅実的な陣営を取る。

 

いざ戦闘になれば決着も早かった。

 

光輝の高水準のステータスに光属性付与及び自身の強化と敵の弱体化を行うアーティファクトの聖剣と呼ばれる片手半剣を振るい、ラットマンを切り裂いていく。

 

龍太郎は振るえば衝撃波を生む籠手と脛当てを用いてラットマンの体の内側を破壊して行く。

 

雫はハジメ謹製の日本刀を用いた抜刀術で敵を両断して行く。日本では剣を習っていたお陰かその太刀筋や洗練さに騎士達も驚く。

 

そんな光輝達の戦いぶりに生徒達が見蕩れていると、詠唱が響き渡った。

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」

 

 三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。

 

 気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番はなしである。どうやら、光輝達勇者パーティの戦力では浅い階層の敵は脅威とならないみたいだ。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

 生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルドは肩を竦めた。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

 メルドの言葉に香織達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

 

 

それからは交代交代で魔物と戦闘を行なっていく生徒達の最後に蓮二達の戦いが有った。

 

蓮二達が戦う魔物の名前はドギーテル。ファンタジーでいうコボルトの様な犬顔の魔物で、ドギーテル達は粗末では有るが武装しているため、かなり注意が必要だとデュエラから説明を受けた蓮二とハジメと沙羅とミレイナはハジメとミレイナを遊撃にして戦うことを決めると、行動を開始する。

 

駆け抜け始める蓮二と沙羅、二人の接近に気付いたドギーテルの群れはは前衛後衛に分かれて動き出す。前衛達は後衛を守る為に盾を構え、後衛は弓の弦を引っ張り始めるが、その前に後衛のドギーテル達は、ハジメの錬成によって地面から突如生えてきた土の槍によって心臓を貫かれ、絶命する。

 

「ドギー!」

 

悲鳴を聞いた前衛のドギーテル達はいつの間にか槍に貫かれて死んでいる後衛の姿に驚いていると、蓮二と沙羅が肉薄していた。

 

ドギーテル達は密集しながら盾を構えるが、蓮二の『狼牙』による薙ぎ払いは受け止める事すら出来ず、盾ごと切り裂かれる。

 

沙羅は一体のドギーテルを『ヴァイオレント』で突き刺し、抜くと同時に後方へと跳躍しつつ『エクレール』の雷弾を一体ずつ確実に頭に撃ち込んでいく。

 

蓮二と沙羅が前衛で大暴れしている間、ハジメは冷静に『ヴァリス』で二人の後ろを取ったドギーテル達を撃ち抜いていきながら、錬成で足元の土で拘束するなどのサポートをする。

 

ミレイナは風魔法【風刃閃】を放ち、蓮二達に臆して逃げ出そうとするドギーテルを堅実に倒していく。ミレイナは体にも纏っている風に靡く灰色の髪と美貌から、生徒達は戦姫の様にミレイナを見ていた。

 

蓮二達の連携によってドギーテル達の群れはものの数分で片付いた。

 

「お疲れ様」

 

四人は駆け寄るとハイタッチを交わした後に、メルド達と共に【オルクス大迷宮】を降りて行く。

 

二十階層に来た蓮二達一行は鍾乳洞の様な道を進んでいた。この鍾乳洞らしきものを進みきれば今日の訓練は終わりだと教えられた生徒達は命のやりとりをする迷宮でものほほんとしていた。

 

そんな中で先頭を行く光輝達やメルドが立ち止まる。メルドの雰囲気から魔物がいる事が分かる蓮二達五人も、戦闘準備に入る。

 

「擬態しているぞ! 周囲の観察を怠るなよ!」

 

 メルド団長の忠告が飛ぶ。

 

 その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、褐色へと変わり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンに似た擬態能力を持つゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! とてつもない豪腕だからな!」

 

 メルド団長の声が響く。光輝達が相手をするようだ。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返す。光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞のような地形と足場が悪さから思うように囲むことができない。

 

 龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸うと

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

 部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 

 体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。ロックマウントの持つ固有魔法威圧の咆哮だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。

 

まんまと食らってしまった光輝達前衛組が一瞬硬直してしまった。

 

 ロックマウントはその隙に突撃するかと思えば横に移動し、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって投げつけた。見事な砲丸投げのフォームで!咆哮によって動けない前衛組の頭上を越えて、岩が香織達へと迫る。

 

 香織達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。避けるスペースが心もとないからだ。

 

 しかし、発動しようとした瞬間、香織達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。

 

 なんと、投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫る。更には女に欲情する雄らしいのか、目が血走り、鼻息も荒かった。そのせいか香織は気持ち悪さで顔を青ざめてしまう中、ロックマウントの進行方向に巨大な壁が生まれる。

 

「グガァ!?」

 

投げられていたロックマウントは巨大な壁に頭から激突すると、グシャァという音と共に頭が潰れ、地面へと激突する。

 

「大丈夫ー!?」

 

最後尾に居るハジメが地面に手を当てながら香織に問いかけると、彼女はとても嬉しそうにうん!と伝える。

 

そんな香織がハジメに笑顔を見せるのは気に食わないが、それよりも自分の香織を怯えさせた敵は殺すと言わんばかりに光輝は怒りに任せて聖剣の力を解放する。

 

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ__『天翔閃』!」

 

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

 メルド団長の声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

 

 その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 

 パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。一息吐きイケメンスマイルで香織達へ振り返った光輝は香織達に声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を食らった。

 

「へぶぅ!?」

 

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

 メルド団長のお叱りに声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する光輝。龍太郎と鈴と恵里が寄ってきて苦笑いしながら慰める。

 

 ハジメに改めて礼を言おうとした香織がふと崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

 その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

 

 そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるで水晶のようである鉱石に、沙羅、ミレイナ、デュエラを除いた香織達女子達はその美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

 グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るらしい

 

「素敵……」

 

 香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとしている。

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはハジメだ。ハジメは錬成の派生技能の【理解】でグランツ鉱石を触った途端トラップが発動する事を気づいていたのだ。

 

「待って!トラップが有るよ!」

 

「テメェの言う事なんて聞くかよキモオタ!」

 

蔑む様に吐き捨てると檜山はグランツ鉱石の有る場所までついてしまう。

 

「ちっ、ハジメ!錬成で妨害は!?」

 

「だめだ!間に合わない!」

 

「くっ!間に合え!」

 

蓮二は、ハジメの発言から慌てて止めようと檜山を追いかける。しかし、檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。

 

 魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。召喚されたあの日の再現をするかの様に。

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

 メルドの言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

 

 部屋の中に光が満ち、蓮二達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

 蓮二達は空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

 

蓮二は空気の変化に警戒する様に立ち上がり周囲を見渡す。クラスメイトのほとんどは尻餅をついていたが、メルドや騎士団員達、ハジメと沙羅とデュエラとミレイナに光輝達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

 

どうやら、トラップの魔法陣は転移させるものだったらしい。現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外だ。

 

 蓮二達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはあるだろう。天井もかなり高く二十メートルはあり橋の下覗くと、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。落ちれば奈落の底に一直線だなと感じとる。

 

 橋の横幅は十メートルくらいはありそうだが、手すりすらなく足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。蓮二達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

 それを確認したメルドが、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

 雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

 

 しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わない。なぜなら階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

 

 その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

「まさか……ベヒモス……なのか……」

 

 




というわけで月下のシーンとオルクスの前半終わりました。明日以降にベヒモスの所書けたらなと思います。それではまた次回、お会いしましょう
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