魔王と親友と紫電   作:刀好きの第六人

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今回オリジナル種族と舞台が出ます。ご注意を


強くなるために

「ハジメ…ハジメーー!!」

 

蓮二は奈落へと叫ぶ。しかし、落ちてしまった彼は答えない。文字通りの奈落の底へと行ってしまったと蓮二が理解するのも容易く、それでいて彼の怒りすらも出て来る。

 

「誰ダ…」

 

蓮二はわなわなと震えながら問い掛ける。しかし誰も答えない。現に生徒達も彼等の凶行に開いた口が塞がらず、ただ見るだけしか出来ないのだから。

 

凶行を行なった下手人、それは檜山達四人だった。

 

「ちっ!新宮の野郎は落ちなかったか」

 

檜山が舌打ちすると同時に光輝は問い詰める。

 

「どうして新宮を攻撃したんだ檜山!」

 

「んなの決まってんだろ。あの化物を殺すためだよ。お前だってあの時の新宮の姿を見ただろ?アイツは化物なんだよ!化物が俺達を攻撃する前に殺さないとだろ!」

 

「ふざけるな!それだけで仲間を攻撃していい訳が…っ!」

 

光輝が問い詰めようとする中で空気が変わる。先程までのミレイナの歌が生み出した清らかな空気からどす黒く、濃密な殺気が込められた空気へと。

 

そしてその空気は蓮二から生み出されており、彼の姿はまたも変貌していく。

 

以前と同様、白髪と赤い瞳に外套を加え、今度は爪は鋭くも長くなり、犬歯は吸血鬼の様な長さになると、『狼牙』を抜刀変化させ、濃密な妖気を振り撒きながら叫ぶ。

 

「コロス…コロスコロスコロスゥゥゥゥ!!檜山ァァァァァァァ!!」

 

それは怒りと憎しみ。蓮二は今、前よりも激しい負の感情に支配されながら駆け出す。

 

「させるか!」

 

騎士達は仲間殺しをしたとはいえ、神の使徒たる檜山達を守ろうと剣をとる。しかし蓮二は

騎士の肩を踏み台にして跳躍する。

 

檜山達の後ろを取りながら着地した蓮二は檜山達に斬りかかろうとする。しかしそれをデュエラの『アズール』によって食い止められる。

 

「邪魔ヲスルナァァァァァァァ!」

 

「力に飲まれたまま罪を犯させるわけにはいきません!沙羅さん!」

 

「任されたわ!」

 

デュエラの『アズール』が蓮二の『狼牙』を食い止めている内に沙羅は後ろへと回っており手刀を蓮二の首に当てる。

 

「ウウ…」

 

気を失った蓮二はそのままデュエラへと倒れこむ。姿は妖状態のままだが、何とか蓮二を無力化した沙羅は『狼牙』を納刀させるとすぐさま担ぐ。

 

「デュエラさんは前衛を!ミレイナちゃんは後衛を頼むわ!」

 

「「了解!」」

 

三人はすぐさま蓮二を連れて階段を登り始める。沙羅はが急いでいるのはこのまま立ち止まって蓮二が目覚めた時に何が起こるか分からなかったからだ。

 

「おい待て!ああくそ!全員撤退するぞ!」

 

メルドの号令で一斉に階段を駆け上り始める。しかし香織は違った。

 

「雫ちゃん…私、行くね」

 

「!?かお…」

 

香織!待ちなさい!と言おうとしたが、その前に香織は身投げするように飛び込んでいた。その事実を飲み込んだ瞬間、雫のナニカが壊れた。

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!香織ー!」

 

奈落へと飛び込んで行く幼馴染を止められなかった雫は発狂じみた声で叫ぶと、ふらりと体が揺れ、倒れこんでしまう。その叫びを聞いた光輝達は目の前で死にに行った少女に対する叫びでいっぱいになりながらも雫に近付く。

 

「雫!くそ!なんでこんなことに…!」

 

光輝は悪態を吐きながら倒れ込んだ雫を抱えて撤退していく。

 

 

デュエラが道を切り拓き、その後ろを沙羅とミレイナ、更にその後ろを生徒達と騎士の順番で出口へと走っていく。

 

どれくらい走ったか分からなくなりながらも無我夢中で駆け抜け、漸く【オルクス大迷宮】の入口までたどり着いた彼女達。

 

人影と活気から漸く戻ってこれたと実感する生徒達はその場にへたり込んだり涙を流す。

 

だが一部の教師と騎士と生徒達、沙羅とデュエラとミレイナは変貌したまま眠る蓮二の心配を。光輝と龍太郎と鈴と恵理は倒れた雫の心配と自ら奈落へと飛び込んだ香織に対してのどうしてで頭がいっぱいだった。

 

そんな彼等を横目に気にしつつ、受付に報告に行くメルド。

 

二十階層で発見した新たなトラップは危険すぎる。石橋が崩れてしまったので罠として未だ機能するかはわからないが報告は必要だ。

 

そして、ハジメと香織の死亡報告もしなければならない。

 

憂鬱な気持ちを顔に出さないように苦労しながら、それでも溜息を吐かずにはいられないメルドだった。

 

____________________

 

 

ホルアドに戻った沙羅たちは蓮二をベッドに寝かせ、世話をミレイナに任せた後二人は今回の事件についてどう処断するかメルドと話あっていた。

 

「それでデュエラさんにメルドさん。今回の南雲君殺害事件について、檜山君達四人にはどんな処罰が下されるんですか?」

 

「最低ででも極刑ですね。ハジメさんはハイリヒ王国にとって最重要人物でしたので」

 

「ああ。坊主のお陰で救われた人達や収入的にはそうなるだろう。しかし……」

 

「また教会が免罪してくる可能性が高いのね」

 

沙羅の言葉にメルドとデュエラはコクリと頷き、デュエラは話す。

 

「言い方が悪いですが国王陛下は教皇の言いなりですからね。リリアーナ姫を筆頭に貴族達も諫言をしているのですが、教皇の言葉しか信じませんので」

 

「……腐ってるわね」

 

沙羅は歯噛みしながらこのハイリヒ王国の腐敗を呪いながら思わず言葉が出る。

 

「この国出ようかしら。その方が蓮二にも良さそうだし」

 

それは紛れもない沙羅の本心。沙羅としてはこんな国ではない国に居たくない。確かな悪を罰しない国は国では無いからだ。

 

沙羅の国を出る発言にメルドは待ったをかける。

 

「待ってくれ!お前達が抜けたら困る!」

 

「困るのはこっちよ。犯罪者が取り締まらない国になんていられないわよ、こっちは」

 

「それなら、私達の元に来ないかしら?我等が同胞に愛されてる人間族のお姉さん達」

 

「「「!?」」」

 

三人は謎の声の方へと視線を向ける。そこには和服に似た様な服を着た一人の女性が立っていた。

 

「誰だ貴様は!」

 

「何者!」

 

「一体何処から!?」

 

沙羅達は謎の女性に警戒するが、まあまあと手で制すと、話し始める。

 

「私は妖人族の使者。名をセレーネと言うわ。私達は貴方達の元に居る仲間を誘いに来たの。私達の集落【ストラーン】に」

 

うふふと妖艶な笑みを見せるセレーネは三人を見定める様な目つきで見始める。

 

「そこの男は不合格だけど、貴方達二人と、そうねぇ、私に風の刃を放てる準備をしているそこの長耳の子なら仲間として共に来てもいいわ」

 

「っ!気づかれてたのね……」

 

物陰から魔法を解いたミレイナが出てくる。

 

「ミレイナ!?なんでここに!?」

 

「蓮二と同じ気配のする存在が現れたから来たのよ……まさか伝説の妖人族とはね」

 

「伝説?」

 

「ええ。亜人族の中でも魔力に似たものを操る種族がかつて居たと聞いてるの。それが」

 

「私達妖人族ってわけなのよ。理解できたかしら?」

 

ミレイナの説明で合点が言った沙羅は、セレーネに問いかける。

 

「それで?蓮二を連れて行ったらどうするのかしら?」

 

「勿論修行とかが中心になるけど、目的は子孫繁栄かしら」

 

「……はあ?」

 

子孫繁栄の言葉に思わず沙羅のこめかみに青筋が生まれる。

 

「妖人族は男不足なの。幸い長命だから良いけど、血を絶やさない為に彼には……これ以上は言わなくても分かるわよね?」

 

じゅるりと舌なめずりするセレーネ。彼女の挑発的な言葉に沙羅は堪忍袋の尾が切れた。

 

「させる訳ないでしょ!蓮二の初めては私が貰うの!」

 

「ならついてきなさいな。初めては貴方にあげるから」

 

「良いわよ!私はその【ストラーン】に行くわよ!デュエラさんとミレイナは!?」

 

「私は蓮二さんの行く処なら着いていきます」

 

「私も行く宛無いし、着いていくわ」

 

「というわけでセレーネさんでいいかしら?貴方の提案に乗るわ」

 

沙羅達の決断に、セレーネは大変満足したのか、満面の笑みを見せる。

 

「そう言うと信じてましたよ。それでは早速彼を」

 

「待ってくれ!」

 

セレーネが蓮二を連れて行くために彼のいる寝室にまで向かおうとした時、メルドに止められる。

 

折角良い感じに纏ったのにと不満気にしながらセレーネは口を開く。

 

「なんでしょうか?国に逆らえない哀れな犬」

 

「い、犬…いや違う!新宮達は神の使徒として必要なんだ!今仲間を失えばきっと他の仲間に影響がある。だから連れていかれるわけにはいかない」

 

「そんなの知らないわ。私は使者なの。最終的な判断はその新宮?に任せるけど、私達としては同族をこんな所に居させたくないの。見ていたのよ。あの時、仲間を助けようとする彼を攻撃した愚か者達を」

 

「!?」

 

「こう見えても隠密は得意中の得意なの。一部始終を見ていた私が言えるのはただ一つ。仲間の皮を被った化物の巣から同族を救出したい。それだけよ」

 

セレーネの的確な言葉の刃はメルドに深く突き刺さり、それ以上は何も言えなくなる。

 

「さ、行きましょう。愛しの彼がお目覚めよ」

 

セレーネは沙羅達を連れて、蓮二の寝室へと向かう。それをメルドはただ、見送るしかなかった。

 

セレーネが扉を開けて入ると、既に蓮二は目を覚ましていたのか立ち上がって窓から見える空を見ていた。

 

「お目覚めですね」

 

「どちら様…?」

 

振り返った蓮二はセレーネを見て誰だと問いかける。

 

「申し遅れました、私はセレーネ。【ストラーン】の使者として貴方を迎えに参りました」

 

「【ストラーン】?」

 

「はい。貴方と同じ力を持つ者達が住まう集落の名前です。そして私達は妖人族と呼ばれております。そして貴方は半人半妖…つまり私達の同胞なのです」

 

「……そっか」

 

蓮二は短く切り返すと、また遠くを見つめる様に窓を見る。今の彼の心のうちは助けられなかったハジメの事でいっぱいでそれどころではない。

 

自分が魔法に当たらなければハジメを助ける事が出来たと後悔していると、セレーネから声が掛かる。

 

「強くなりたくはありませんか?」

 

「…」

 

「貴方はこの国に居ても強くはなれません。でも【ストラーン】でなら、私たち妖人族から妖力の使い方を学び取れば貴方は間違いなく強くなります」

 

それは悪魔の誘惑にも聞こえた。彼女の提案に乗ればきっと自分は変わってしまうだろう。そんな予感がしていた。だからこそ蓮二は、彼女の手を取る。親友を守れない弱いままの自分が嫌なのだから。

 

「本当に強くなれるんだな?」

 

「あなたなら確実に」

 

「なら俺は【ストラーン】に行く。もう二度と親友を殺させないために」

 

「なら私も行くわ。この国にいるよりも強くなれそうだし」

 

「蓮二さんが行く所なら例え奈落だろうがお供します」

 

「仕方ないわね、私も行くわ。どうせ残ってもろくな事にならなさそうだし」

 

蓮二の決断と共に立ち上がる沙羅達に蓮二は深い感謝を心中で言いながらセレーネを見る。

 

「早速連れて行ってくれ」

 

「畏まりました。それでは私に触れて下さい」

 

セレーネの言う通りに彼女に触れる。四人が触れた事を確認したセレーネは目を閉じて唱え始めると、彼女を中心に紫の魔法陣に近い何かが現れ、一際輝き、輝きが消えたころには、蓮二の部屋に居た者の影も形も無くなるのだった。

 

 




というわけで主人公は主人公で修行の舞台へと赴きます。ここから暫くは原作には触れないかつクラスメイトサイドは有るけどそちらは少し脚色加えたりしますし、そして修行シーンをしっかり書くために投稿頻度は落ちます。原作に合流出来るのは大体三巻くらいでしょうか。そこら辺で強化版の魔王ハジメと合流しつつ、四巻迄は原作沿いにして行きたいと思います。


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