ウルトラマンドーズ(打切り)   作:りゅーど

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透明怪獣 ネロンガ
登場


セイデンキニンゲン

 昔昔、大昔。

 ある所に瓏牙(ろんが)と呼ばれる怪物がおったそうな。

 そいつは人間を食べるのが大好きじゃった。

 人々は瓏牙に怯えながら暮らしておったそうな。

 ある日、自らを怪異狩りと名乗るお侍さんがやって来た。お侍さんは瓏牙を斬るために来たとおっしゃったそうな。

 もちろん、瓏牙はお侍さんに襲いかかった。じゃが、お侍さんはたった一太刀で瓏牙を斬り殺したのじゃ。

 そして、お侍さんは夜光りの石という青く光る石でその地に災いが来ないようにお祓いをしたそうな。さらにお侍さんは、瓏牙を弱めるためにとある舞を創作し、今も尚その舞は受け継がれているそうな……。

 

「……って、五年前に御歳114歳で大往生なさったひい爺ちゃんが言ってた」

「「「「「「「いや最後のせいで暗なったし爺声のクオリティ高ぇな!?」」」」」」」

 漆原がクッソハイクオリティな爺声でした昔話。それを鵜呑みにするのならば瓏牙と呼ばれる怪物が戦国時代に居たらしい。

 どうやらその侍の名前はもう消えてしまったそうだ。しかし、その血は未だに残っているとのこと。

「と、言う訳で。その村付近で怪現象起きてますし行きませんか? 行きましょうよ」

 食い気味の漆原。

「そんな話があるなんて凄いね! 舞もつまり踊って弱らせたんでしょ? 凄いねー! 私行きたい!」

 美琴は興奮しながら声を上げて言った。

「もし何かあったら危険だから良いと思います……」

 無口の朱莉が珍しく声を出して言った。

「あれ? ところで霊華は……?」

 真子が周りを見ながらそう言った。

「神社だろどーせ」

「あー、本職……」

「そういえば、みんな霊華の巫女姿で仕事しているの見たことある?」

 氷川霊華。このチームの隊員でもあるが、とある神社の巫女も務めており、噂ではその神社に伝わる神楽を踊れるという噂があるが……全員、霊華の本職姿を見たことがない。本人曰く、『極秘なので見せない』……らしい。

「無いな」

 宇野はそう言い切った。

「なんで見せてくれないんだろうねー?」

「色々と事情があるのかな?」

 美琴と真子が一緒に首を傾げながら顔を合わせて言った。

「さあどうだか」

 神田は機械をいじりながらそう言って、ひとつ息をついてこう呟く。

「……あんま深入りはしたかねぇ」

「私も……そう思います。彼女には彼女なりの理由があると思います。私たちが神田さんの言う通り、深入りしない方が良いです」

 朱莉は真面目な口調でそう言った。全員、今の言葉に同感した。

「まぁ、いないのはしょうがないよね。早速その噂の村に行ってみようか!」

「ああ、そうだな」

 そう言って重い腰をあげようとした、その時だった。

「宇野ォ!! うちの隊員が失踪した!!」

「……はぁ!?」

 カミザワ・サトルからの失踪報告で、宇野の興味は失踪事件へと移ってしまった。

「切り替え早いですね隊長……」

「だけど……その失踪事件の方がヤバいような……」

「……あり得ますね」

「まずは事情を聞くか」

 

「……何から話せばいいだろうか」

 珍しくカミザワは憔悴しきっていた。

「まるで刑事ドラマの事情聴取してるみたい……」

「でも話してくれないと事件解決しないよ……」

 美琴と真子が壁の後ろから確認していた。その横にいる朱莉は少し引いていた。

「……今朝は普通に居たのさ」

 カミザワは、ぽつりぽつりと話しだした。

 

 今日もカミザワ隊は賑やかだ。

 シノノメ・シンヤ隊員はミット打ちに励んでいるし、モノノベ・ソウタ隊員は銃を整備している。マキヤマ・クウト副隊長は始末書を監査し、フルカワ・カナエ隊員は始末書を書き直す羽目になっている。

 そんな中、モノノベはこう言った。

「あれ? ニシキダ隊員何処だ?」

 カミザワは部屋を見渡した。

 ニシキダ隊員が見つからない。

 ニシキダ・コウキ。

 剣術でいけばUSST開催の大会で(軽量級の部とはいえ)ぶっちぎりの優勝を果たす実力者である。

「ニシキダ隊員! ニシキダ隊員応答セヨ!!」

 ………………。

 帰ってきたのは沈黙。

 カミザワの連絡をもぶっちしている。

 カミザワは心配になって、宇野隊の部屋に来た……。

 

「─────という訳さ」

「もしかして何かに巻き込まれたのかな?」

 美琴は真子の顔を見ながらそう言った。

「そうかもね……」

「あの……とりあえずお二人は壁の後ろで聞く耳を立つようなことをしない方が良いですよ。気になるのは分かりますが……」

「……聞いてんのはわかってんだよ」

 カミザワは睨みつけた。

「わぁ……」

「ごめんなさい……」

「ほら……言わんこっちゃありません。あ……話、どうでしたか?」

「……まあ、カミザワ隊の皆さんは捜索に勤しんでもらうよ」

「分かりました……」

「任務が始まるね!」

「一応、霊華にも伝えておきますか隊長?」

「……ああ。霊華には伝えておくとしよう」

「なら私、伝えておきます!」

 真子は即座に霊華に連絡を始めた。

「そういえば村のことは探索しなくて良いの?」

「それもする予定だよ。男性陣は例の怪物を追ってくれ。女性陣は村を探索して欲しい」

「りょーかい!」

「了解です……」

「……あれ?」

 先程から霊華に連絡をしている真子の様子がおかしかった。

「おいどうした真子」

 漆原はそう聞いた。冷静な目であった。

「さっきから……霊華から連絡が取れないんです」

「音信不通なの?」

「音信不通……」

「……まあいい。後で連絡は届く筈だ。総員出撃用意! メカゴモラも発進用意だ!」

「りょーかい! メカゴモラの用意お願い!」

 美琴はヘルメットを持ち出して駆け足でメカゴモラに向かった。

「……さて、俺は俺で隊員達を向かわせるよ」

 カミザワはそう言って部屋から出た。

「……ああ、幸運を祈る」

 宇野はそう呟き、自身もヘルメットを装着した。

 

「……ここが例の村か」

「なんか……重い空気を感じる……」

「…………そうですね」

「とりあえずメカゴモラは念のために起動のままにしておくね」

「嗚呼了解、俺達は瓏牙を探す」

 

 まずは女性陣をクローズアップしよう。

 女性陣は、その淀んだ雰囲気の村に足を踏み入れた。

「誰かいるかな?」

「……村人達の話とか、聞きたいですが……」

「……おやおや、お客人かえ」

 老人の声がした。

「……あなたは?」

「ま、間に合ったぁ〜……!」

 背後でメカゴモラを起動したまま降りてきた美琴がようやく追いついたようだ。

「わしはここの村長じゃよ」

 口調こそ年老いてはいるが、どうもただの老人には見えない。

「村長さん……私たちはここの調査で来ました。SDTの副隊長、なのですが……」

「……ほぉう、SDTとはまた変な名前じゃのう……。わしはUSSTなら知っているのじゃがのう……」

 老人は、鋭い目をしていた。

 それはまるで、見たもの全てを刺し殺すかのようであった。

「副隊長……だからアレほど寝た方が良いって」

「…………寝ましたよ?」

「いや昨日調査報告書とか色々とやって寝てないですよね……?」

 突然のガールズトークが始まったが、朱莉は軽く咳払いして本題に戻った。

「そ、その……本題に戻りますが……この村の伝説を隊員から聞きまして……念のために調査に来ました」

 少し顔が赤い朱莉は問いかけた。

「……伝説か。その子はもしや、如水かえ?」

「知ってるの?」

 馴れ馴れしく声をかけた美琴。どんな人にもタメ口は変わらないようだ。

「わしの孫じゃよ」

 ───────硬直。

 

 数分後。

「…………あの迫真のお爺さんの声をしてた漆原隊員が、語ってくれたと言っていたお爺様ご本人……」

「…………Wow……」

「…………貴方が……でしたか」

「いかにも。わしは漆原竜介という」

「彼から突然、この村の伝説を聞きまして……それで来たんですよ」

「あのー、舞も存在するんだっけ?」

「うむ、そうじゃ。今は消えておるがな……」

「え? 消えているの?」

「どうも途中で古文書が焼かれたらしくてのう……」

「焼かれた……? 誰かに、ですか?」

 空気が変わる。重さは変わらないがピリピリするような空気にもなりだした。

「先の大戦でな……」

 俗に言う第二次世界大戦である。

「そうだったんですか……」

「それでも伝説って今でも知られているんだね〜」

 美琴は不思議そうにそう言う。今時の子には興味なさそうにも見える話だが美琴は聞き続けた。

「うむうむ。如水から話は聞いたじゃろう?」

「聞いたよ。だから来たんだけどね」

「……ですが、何か……不穏な空気を感じますね。何かあったのですか?」

「どうもその侍様の子孫がいるらしくてのう……」

「子孫ですか……」

 そんな中、美琴は気づいた。

「ん? あの舞台みたいなの何?」

 美琴が指を指した方向には狂言などが披露されそうな舞台が設置されていた。だが、もうここ何年も使われていないのか、埃まみれだった。

「……かつて巫女が舞を練習し、奉納した場所じゃよ」

 そう言うと、竜介は何かを思い出したように言った。

「そういえば、主らは伝説を調べに来たんじゃったか?」

「ああ、はい……そうですよ。何か心当たりでも……?」

「今思い出した。わしのおじいが言っていたことじゃ。たしか……錦田という苗字の侍が倒したのじゃが、その血は未だ受け継がれておるそうな」

 竜介は、懐かしむように言った。

 

 時をもどし、瓏牙捜索の男性陣。

 かれらは山の中を走り続けていた。

 こんな所にいるか? そんな思いが皆を包む。

「帰りたい……」

 酒井はげっそりしていた。運動不足である。そんな酒井をよそにひょいひょいと進むは神田隊員だ。登山が趣味な彼は、この程度楽ちんなのである。

「酒井ー早くしろー」

「はっやいんすよ……ひぃ……きちぃ……でーれえれぇ……」

 酒井はウイダーinゼリーでエネルギーをチャージし、捜し出す。その時である。

 おい、みんなこれを見ろ。宇野はそう言って、何かを指さした。

「……祠だよ。なにかの」

 酒井の知的好奇心は一瞬にして最大を迎えた。祠の扉を開けると、そこには刀があった。

「……見たところ、戦国時代の刀ですね。しばらく手入れはされていないのかなぁ」

 酒井は嫌な予感がしたため、刀を取るのをやめた。その時である。

 誰かがその刀を奪い去った。

 特徴的な紫と黄緑のオッドアイが見えた。

「ニシキダ隊員!! 何をしてんすか!!」

 酒井はニシキダらしき男を捕まえた。ニシキダはこう語った。

 

「蘇らせて殺す」

 

 ──────────地面が、揺れた。

 

「……しかし、何かしらの情報は得ることが出来たかもしれませんのに……」

「あまり良い情報がなかったね〜」

 伝説の件で村に来ている女性陣はアレから色々と聞き込みなどをしていたが、なかなか良い情報が掴めず少し休んでいた。

 その時である。

 ビデオシーバーが鳴り響いた! 

 余談だが、ウルトラマンゼロのカラータイマー音が着信音なのである。アバドン曰くくたばれゼロカス!! 

「ん? ……隊長からですね」

 起動して通話に出た。

『宇野だ! 位置情報を送る、今すぐ来てくれたまえ!』

 宇野はそう言った。

 銃撃音がした。

「うわぁ!!? て、敵……!?」

「隊長、何があったのですか……?」

「美琴は急いでメカゴモラのところに向かった方がいいと思う……!」

 真子に言われて美琴は慌ててメカゴモラのところに駆け足で向かった。

 ──────ギシャァアアアアアオ!! 

 電子的な叫びがこだました。

「メカゴモラに乗り込んだよ! だけどどこから銃撃が……!?」

 メカゴモラを操作しながら辺りを見渡す。

『位置情報送っただろ!! 蹴り殺すぞ!!』

 漆原の怒号が通信で響く。憔悴からか、どうも息が荒い。

『この汚物め!! 死に晒せ!!』

 銃撃音(ばーん)

「あ、こ、ここかぁ!!」

 慌ててメカゴモラを操作して目的の位置に移動した。

「私、人の避難をさせます副隊長!」

「あ、は、はい……!」

『近隣住民の皆様は、速やかに避難してください』

 すでにサイレンは鳴り響いていた、そして。

「こっちに進んでください……!」

 真子は避難誘導をしながら状況を確認していた。

 美琴もようやく目的の位置について周りを見ていた。

「……ここかぁ!」

 そこでは火災が起きていた。

「あ……ッ!?」

 美琴は玉のような汗を流しながら火の海を見ていた。

「でも……敵が近いのは分かるよ!」

 そこに居たのは─────

「ゴァアアアアッ」

 ───────ネロンガだった。

「な、なに……!?」

 美琴は驚きのあまりにメカゴモラを操作して尾で殴りにかかった。

「アレは一体……ッ」

 一目見ただけで怪獣の名と特徴が分かる霊華がいないせいでなんとも言えないが、全員、全てを分かっていないわけではない。

「透明怪獣 ネロンガ! 確か初代マンさんやらゼットくんやらに倒されたというのに……なんでこんな強化を!?」

 酒井は心の中で叫ぶ。

 そんな時、彼らの魂に声が響いてきた。

 聞こえる。

 怨嗟の声が。

 生を呪う声が。

 命を、奪う。その為に、彼らは呪う。

「ッ……?!」

 恐怖のあまりに朱莉は耳を塞いでその場にしゃがんだ。

「副隊長……!? ……待って、これって……」

 真子は声を震わせて今の状況がなんなのか思い出した。

 ───────瓏牙を封じる為には、人智を超えた力が必要である。

 その『人智を超えた力』は、この世界に於いては『人智を超えた力』では最早なく、それらは『人間の手に収まる』力へと変身しているのである。

 ─────そう、戦犯はウルトラマンアバドンなのだ。

「うわぁぁぁぁ!!?」

 メカゴモラは背後から勢いよく倒れてしまった。何人の人間を人柱にしたのだろうか、腹が減っているのか。ネロンガはバッテリーから電気を食い始める。

「美琴!!」

「美琴さん……ッ!」

 神田は物陰から銃を放つ。

 酒井謹製の特殊兵装である。

「ぐっ……負けるもんかぁ!」

 なんとかメカゴモラを起き上がらせて戦いを続けた。

 だがそれでも状況は変わらず苦戦状態だった。

 特殊兵装すら弾き返したネロンガはさらに蹂躙する。

 酒井は居てもたってもいられなくなって、ウルトラマンドーズに変身した!! 

「あ……ウ、ウルトラマン!」

 損傷レベルが少しずつ上がってしまっているが、ギリギリまでメカゴモラを操作して戦い続ける美琴はドーズの隣に立ち、助太刀をすることにした。

「…………大丈夫かな……?」

 真子は不安げな声を出して言った。だが不安なのは確かだ。

 ドーズはネロンガの腹を蹴った。

 その隙を見て美琴がメカゴモラの尾で背中を強打させた。

 ……しかし、ネロンガはピンピンしている。

「……効いてないの!?」

「ジィッ」

 次の瞬間、ネロンガは消えた。

「……!!」

「サーモグラフィーを起動しろバカ!!」

「けどダメ!! 熱源反応がドーズからしか出ない!!」

 ネロンガは透明化する事で熱源反応を消すことが可能だ。故にドーズとメカゴモラは見えない方向からの攻撃でダメージを受け続けていくのであった。

「物理がダメなら……超振動波……!! でも……バッテリーがもうない……ッ」

 その時、どこからか、しゃらん、しゃらんと鈴の音が聞こえた。人間より聴力が良いウルトラマンだけではなく、全員の耳に届く。

「鈴の……音?」

「あ……あの舞台ッ!」

 真子は指を指した。

 古びて埃まみれ()()()舞台で、誰かが神楽を踊っている。

 顔が挿頭で上手く隠されていてよく見えないが、神楽鈴を持ちながら踊っていた。

「……なんだあの姿は」

 漆原はそう言いつつも、的確にネロンガの眼球に鉛玉を浴びせる。

 後ろではドーズとメカゴモラがネロンガと戦闘を繰り広げているわけで、それはもう素晴らしく酷い騒音が響いている訳だ。

「ぐっ……しぶといなぁ!」

 メカゴモラのバッテリーがもうじき10%になりそうになっていたが限界まで操作を続けた。

 次の瞬間、ネロンガが神楽を踊っている巫女服を着て挿頭で顔を隠した人物に気づいたのか、突然耳を塞ぎたくなるほどの雄叫び声を上げた。

 ネロンガは怒り狂っている。

 かつてネロンガを封じた舞に似ている。波長すらも。

「うるさっ……!」

「デェイアッ!!」

 ドーズは喉奥まで腕をぶち込むと、体内に小型爆弾を仕掛ける。

 念力で爆破し、ネロンガは痙攣した。

 その時、ドーズはあるものを上空に投げた。気付かれぬように。

 神楽舞の踊りは止まない。神楽鈴の音も消えない。

 ネロンガはドーズとメカゴモラを無視して巫女姿の人物に攻撃をした。

「危ないッ!!!」

 ドーズが庇いに行こうにも、どうも間に合わない。

 その時だった。

「……()ッ」

 そんな息とともに、ネロンガが袈裟斬りにされた。

 袈裟斬りの爆風で舞台が揺れたが、神楽は踊り続けた。その瞬間、カシャンッと何かが落ちた。落ちたのは挿頭だった。そして神楽舞を踊っていた人物が分かり、全員その場で驚愕した。

「……なっ」

「お前は!」

「えっなにそれは(困惑)」

「……えっ!?」

「うそぉ!?」

「……!!」

「ジュッ!? ウーン……」

 多種多様な反応を返す一同。

「極光神楽舞……我が一族に受け継がれし伝説の舞……そして私はその神楽舞を受け継ぐ者です」

 巫女服を着て、神楽鈴を手にしながら《極光神楽舞》を踊る人物は……霊華だった。霊華はこの村の伝説に出てくる神楽舞を踊った一族の末裔なのだ。

 踊りながら霊華はドーズと目を合わせる。伝えているのだ……ネロンガを()()()させた、と。

 そして、そこに怯えさせた原因がもう一人いる。

 彼は妖を斬る者。

 妖の首を狩り、妖の命を奪う。人々を助け、時に悪に落ちた人間を殺す。

 彼の先祖は錦田(にしきだ)小十郎(こじゅうろう)景竜(かげたつ)─────

 その子孫、錦田(にしきだ)光輝(こうき)である。

 上空から三機の戦闘機が尾を引き飛び回る。

 カミザワ隊の操るクロムチェスターだ。目まぐるしく飛び交うクロムチェスターに目を取られ、ネロンガはドーズの存在を忘れていた。

 ドーズはあるトラップを起動した。

 それは勢いよく上空で爆発する。ドーズはまたあるものを投げる。

 大きく山なりの軌道を描き、ネロンガの動きをとめた。

「よぉし! この大天才ドーズ開発、トリモチボールと瞬着くす玉だっ! フッ、瞬着で引っ付いたトリモチは強固な皮膚どころか装甲すら剥がす! 更にこいつには猛毒も混ぜておいた! 猛毒入りのトリモチは痛かろう!!」

 ドーズは腰に手を当てて大笑いした。

 ネロンガはいよいよ発狂した。

「お、効いてる効いてる!」

 先程爆発させたものは、対象の恐怖心を高め精神をすりへらす働きがある。

「名付けて『SAN値直葬爆弾』! こいつもこの稀代の鬼才の素敵な大天才様には不可能はぬぁい!! 畜生風情の行動なんぞ、まるっとするっとお見通しだ!」

 なお七徹の模様。

「私は……残りのバッテリーを使って超振動波を放つ!!」

 美琴は残りのバッテリーを利用して超振動波を溜める。

 しゃらん、しゃらんと鈴の音がさらに鳴り響く。霊華が神楽舞をさらに素早く踊り始めたのだ。だが動きは変わらず滑らかで、キレを外すことがなかった。まるで満点の夜空を彩るオーロラのように。

 そして、ニシキダ隊員はその手に握りしめた日本刀を振るう。ネロンガの体に傷がつき始め、ドーズはある事を思いついたようで何かを取りだした。それは注射器であった。

 ドーズは傷口に注射器をぶち込んでやると、中の液体を流し込む。

 テトロドトキシンの114514倍の致死性のある猛毒である。

「あのウルトラマンエグくない!?」

 美琴は多少引きながらもメカゴモラから超振動波を放った。

 しゃらん、鈴の音が鳴り響き、ざくりとネロンガは斬られる。そこに超振動波を浴び、さらにドーズはバルビウム光線を照射する。

 ネロンガは悶え苦しみ、爆発四散した。

 ドーズのカラータイマーは酷く点滅していた。

 膝をつき、しかしそれでも立ち上がり空に消えた。

 鈴の音が止まり、霊華は瞳を閉じて一礼をした。

「ふぅ……」

 静かに息を吐いて床に落とした挿頭を手にする。

 前を見ると、村の人達が拍手喝采を浴びせていた。正座をして拝む人もいた。

 霊華は思わず困惑顔をしていた。いつもは眠そうな顔をしている霊華が他の顔をしているのを見るのは全員初めてだ。

「……まさか君とは思わなかったよ」

 いつの間にやら酒井が戻ってきていた。

 その時、青年の声がした。

「ネロンガ討伐作戦成功だな」

 カミザワ・サトルの声であった。

「霊華〜!」

 バッテリーが無くなったメカゴモラから降りてきた美琴が勢いよく舞台に上がって抱きついた。

「ッ……!? ど、どうしましたか……?」

「凄かった! 霊華って私たちの見えないところで凄いことをしていたんだね! 今度基地で見せてよ!!」

 興奮しながら言う美琴の顔を霊華はいつもの真顔で見つめていた。ふと、霊華は酒井の顔を見つめた。

「……隊長たちから聞きましたよ。一芝居打ってたんですよね?」

 酒井はそう言った。

 タネさえ明かせばほかでもない、元からかからない場所にかけて虚偽の捜索作戦を立てる。そしてその間にカミザワ隊で舞台を掃除しニシキダ隊員を捜索、ネロンガを封印ではなく抹殺に導く……とまあ、かなり大雑把、というか行き当たりばったりな計画なのだった。

 信頼なくては出来ないことであった。

「……はい、その通りです」

 霊華は顔を変えずにそう言ったが……

「…………あれ?」

 美琴が霊華を見て何かに気づいた。何故か音もなく、いつの間にか酒井の目の前にいたのだ。

「……なんですか」

 霊華はただ酒井の顔を見ていた。だが……霊華の口角が上がったのが見えた。

 あの霊華が初めて隊員の目の前で———笑顔を見せたのだ。周りの隊員達は息を呑むほど驚いていた。そして……

「あなたの活躍……今後も楽しみしています♪」

 満面の笑みで言った。まるで、酒井が《何者》なのか分かっているかのように……

「……貴様」

 酒井は注射器に手をかけようとした、その時。

「ま、ネロンガは討伐できた。帰ろうぜ」

 宇野の呑気な声がした。

 場の空気が緩む。

「さ、帰投だ」

 一同はゾロゾロと帰路に着く。

 

 

 

 

 

 

「楽しませてくれよ」

 

 

 

 

 

 帰路のある時だった。

 ……カミザワ・サトル。

 彼の本性は?

 宇野はそう思いながら、先頭を進む。

 もし彼が本当に()()()()()()()───────

 果たして我々は、()()()()()()()()()()? 

 

 ──────────最後尾に位置しているカミザワが、不敵に笑ったことに、ただ一人として誰も気付くことは無かった。




戦国時代、錦田小十郎景竜により封印されたとされる武田軍の切り札(ジョーカー)こと伝説魔獣 ルーリュガが復活!対策を講じる中、細川隊員が失踪!?救出に向かう僕と漆原先輩の前に現れたのは……二人の謎の少女! その一方で、人造ウルトラマン計画が進んでいた……!
次回、ウルトラマンドーズ!
『アンチジョーカー』
「切り札を倒すには切り札しかないのです……」

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