マイナが生きてればそれでいい   作:シャケ@シャム猫亭

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マイナちゃんはいいぞ~。



Re.ACT 1 主人公を追って

 プリミエナ大陸。

 その南部の上空に、空を漂う大きな飛漂石(ひひょうせき)の大地がある。

 そこには豪勢な屋敷が建てられており、この地方の人ならば一度は目にしたことがあるだろう。

 屋敷の名は、蒼空邸。

 プリミエナ大陸でも指折りの資産家の別荘であり、その富と権力の象徴でもある。

 

 もっとも、その象徴は十日ほど前に泥を塗られたばかりであるが。

 

「なるほど。ではその紅山猫(レッドリンクス)とかいう空賊団(くうぞくだん)に、七煌宝樹(しちこうほうじゅ)は奪われたわけですね?」

「その通りで御座います。そのすぐ後に協会の方が参られまして、盗まれたと聞くやいなや飛び出して行きました」

 

 大変渋い老執事に様々な質問をし、真面目に調書を取る相棒の後ろ姿を、俺は欠伸を噛み殺しながら少し離れたところから見ていた。

 

 退屈だ、退屈である。

 

 カッタンカッタンと座った椅子を前後に揺りながら、窓の外を眺める。今日もいい天気だ。

 青い空に白い雲、遥か下には緑の大地が広がっている。時折、衛星の様に蒼空邸の周りを浮かんでいる飛漂石(ひひょうせき)が目の前をゆっくりと横切って行く。

 

 あれ、なんで浮かんでんだろうなぁ……。

 ナッド=リーゼンの飛漂石(ひひょうせき)加工工場でも行けば、原理教えてくれっかな?

 あー、でも確か国家機密だった気が……いやそれは加工方法か。原理くらいは教科書とかになってるかもしれねぇなぁ……。

 

「ご主人に怪我はありませんでしたか?」

「幸い、服に靴跡が付いたくらいでしたな。まあもっとも、コレクションを盗まれたショックで、寝込んでおられますが」

「心中、お察しいたします」

「ほっほっほ。なに、悪銭身に付かずというやつです。これを機にグレーな事業から手を引いて貰いましょう。でないと、また狙われますからな」

 

 ナッド=リーゼンに行くんだったら当然ヘル・F16は見たいよな。世界最強の戦闘機。

 まだまだプロペラ機が主流だって時分に、ジェットエンジンで可変翼とかいう何世代先取りしてんだよ。

 というか、ファイティング・ファルコンのコードなのに姿形はトムキャットとか、混乱するわ。

 カッコイイから全部許すけど。

 

「盗んだ後、賊はどちらに?」

「ちょうどそこの大窓から見える方角に飛んで行きました」

「南東ですね」

 

 そういやあそこは、ムール貝とエビをふんだんに使った魚介リゾットが名物だったよな。

 食いてぇな……美味そうだったもんなぁ……。

 

「……ちょっと! さっきからカッタンカッタンうるさいわよ!」

「ん? ああ、悪い。暇過ぎて」

「だったら他の使用人に聞き取りでもしてきなさい!」

「いやだから、そんな必要ないって言ってるじゃん。エレ=ブランカに向かったんだって」

「その根拠は?」

「前世の記憶」

「却下よ」

 

 バッサリと俺の言葉は切り捨てられた。

 ひでぇな。結構長い付き合いなんだから、信じてくれてもいいのに。

 

「騙されて飛びトカゲを食べさせられた時から、アンタの言うことは信用してないの」

「でも美味かったろ?」

「そういう問題じゃないわよ!」

「ほっほっほ、仲がよろしいようで」

 

 ヒートアップする彼女を見て、老執事は朗らかに笑う。

 ああ、いいなぁ。キレイな歳のとり方してる。

 願わくば、俺もこうなりたいものだ。

 

「こほん……お話の途中で、申し訳ございませんでした」

「構いませんよ。それよりお連れの方、中々良い線を言っておられますな」

「戯言です。放っておいて下さい」

「いえいえ、確かにここより南東に行った先にエレ=ブランカという小さな村があるのですよ」

「…………すみません、この地域の地図はありますか?」

 

 老執事はそばに控えていた使用人に指示を出し、額縁に入った地図を持ってこさせると、それをテーブルの上に置いた。

 なんとなく見覚えのある筆跡で描かれた地図に気を引かれ、俺もテーブルに寄って覗き込む。

 

「少々古い物ですが、縮尺は中々正確なものですからご安心ください」

「んー……おっ! これ、ターダカ=イーノの直筆?」

「おや、わかりますか? 中々に良い鑑賞眼をお持ちのようで」

「いやたまたま。イーノとは縁があってね」

「……ちょっと、説明しなさい」

 

 不機嫌そうに、俺を小突いて説明を求める彼女を見て、ついイタズラ心がわいた俺。

 仲間はずれにされて寂しいの? と煽ったら思いっきり足を踏まれた。

 超痛ェ。

 

「わかりやすく言うと、この古地図は中々に価値が有るやつってこと」

「そっちじゃないわよ。ターダカくらい知ってるわ、歴史の教科書に出てくるもの。聞きたいのは、アンタとターダカ=イーノとの縁の方よ」

「そっちかー。それは、ちょっと長くなるからなぁ……また今度ってことで」

「…………まあいいわ」

 

 ふいっと顔を逸らし、彼女は地図に向き直る。

 そして老執事の説明を聞きながら、それを漏らさずメモしていく。

 さて、まったく信じてもらえなかった話に、これで裏付けができた。そろそろ出発も近いだろう。

 先に小型飛行艇(ライトシップ)の準備をしておこう。

 

「よいしょっと」

 

 壁に立て掛けていた身の丈ほどもある包みを二本、肩に担ぐ。

 一本はしっかりとケースに入れられた、彼女の物。もう一本は適当に布を巻いただけの、俺の物。

 どっちも二人の商売道具だ。そこそこ丁寧に運ぶ。

 屋敷から出てすぐ、庭先に飛行艇発着場がある。

 宝玉を守り抱くようなエンブレムが艇首に描かれた俺たちの小型艇が、来た時と同じように停まっていた。

 

 ……いやよく見たら外装が綺麗になってる。

 ここの使用人が磨いてくれたのだろう。何ともおもてなしの心が出来ているものだ。

 

 担いでいた二本とも後部席に寝かせ、計器類をチェックする。

 方位磁針、ヨシ。

 照準器と操縦桿、ヨシ。これを忘れたら赤鼻のおっさんを笑えない。

 燃料……満タン? 入れてくれたのか、至れり尽くせりだなぁ。

 

 エンジンキーを挿し、ロックを解除。スターターのスイッチを入れ、エンジンに火を灯す。

 ドッドッドとリズムカルな音と共にエンジンが回り始めた。そのまま暖機するため、プロペラへは動力を伝えずにエンジンを回しておく。

 タコメータを見ると今は底辺を張っているが、飛ぶ瞬間は一気に跳ね上がる。

 これがなかなかエンジンには負担になるのだ。エンジンかけてからすぐに飛ぶのではなく、今のように暖機をしておかないと、小型艇はすぐエンジンがダメになる。

 一機の値段を知ってる身としては粗末には扱えない。とてもじゃないが、これで天翔艇(カームシップ)に突っ込もうとは思わない。

 まあでも、そのへんの思い切りの良さが必要な時もあるけど。

 

 十分にエンジンが暖まったころ、相棒が屋敷から出てきた。

 

「準備万端だぜ、相棒(チョココロネ)

「ご苦労…………今、変なルビ降らなかったかしら?」

「まさか」

 

 俺は好きだぜ、その縦髪ツインドリル。ドリルっていったら金ってイメージあるけど、彼女の江戸紫色の髪にもよく似合っている。

 毎朝時間かけてセットしてる自慢の髪型だって知っているし、手入れに手を抜かないからつやっつやだし。

 そういえば前に任務中に敵との戦闘でバッサリ切られた時は、しばらく落ち込んでたな。

 髪が元に戻るまでライバルと顔合わせないようにしてた。当たり前か、会ったら煽られるに決まってるもんな。

 

「それでは、ご協力ありがとうございました」

「いえいえ、大したおもてなしもできず申し訳ございません」

 

 見送りに出て来た老執事に頭を下げてから、彼女は小型艇の後部座席に乗り込んだ。

 俺も軽く頭を下げてから、脇に置いておいたフライトゴーグルをかける。オープンキャノピーのため、これがないとすぐ目が乾く。

 スイッチを切り替え、プロペラを回す。まだ車輪のブレーキをかけているため、前には進まない。

 

「あ、そうだ。執事さん」

「なんでしょうか?」

「紅山猫の天翔艇(カームシップ)は堕ちたよ」

「おや。それはそれは」

「でも来年には空に戻ってくる。それまでに心を入れ替えないとまた襲われるって、カール髭のご主人に伝えるといい」

「ご忠告、痛み入ります」

 

 深々を礼をする老執事に軽く手を振り、俺はブレーキから足を離し、アクセルを踏み込んだ。

 エンジンが唸りを上げ、ぐんっと身体が座席に押し付けられる。三十メートルほどの滑走路を一気に駆け抜け、崖から堕ちるように飛翔石の大地から飛び出した。

 一瞬の浮遊感。しかし、すぐに安定して小型艇は空を駆け出す。

 

 進路は南東、向かうはエレ=ブランカ。

 巡航速度で飛んでるから、多分一時間程度で着くだろう。

 

「ねえ……紅山猫が堕ちたとか、いつ情報を得たのよ?」

 

 後部座席で先ほどの調書を清書しながら、彼女が尋ねてきた。

 

「前世」

「またそれ? 面白くないわよ、そのジョーク」

「じゃあ漫画とアニメ」

「真面目に答えなさいよ!」

 

 いたって真面目なんだけどなぁ。

 

「まあ戯言だと思ってよ」

「正真正銘、戯言じゃない」

「因みにアニメ版だと、お前は死ぬ」

「戯言でも言って良いことと悪いことはあるわよっ!?」

 

 下手人は彼女のライバルである、シスカ=リブロデイク……とまでは言わない。

 そんなの知らん方がいいし、多分、口にしたら殴られる。

 口では散々言ってるけど、彼女にとっては大事な──

 

「ま、私が死ぬなんてありえないですけど。何せ任務成績トップでエリート出世コースを着々と進む、このマイナ様にかかれば、どんな任務だってちょちょいのチョイですわ!」

「よっ、流石次代の統括!」

「ふふんっ、そうよ。だから私が死ぬなんてありえないの」

 

 得意げに年相応にある胸を張るマイナ。

 首にかけた金属製の首飾りには、小型艇を同じく、宝石を守る翼の意匠が施されている。

 そして俺の首元にも。

 

 エディルレイド完全保護協会『Adiraid Conservation Aile(アークエイル)』。

 約200年前にヴィストリア公国の大公アスフェルドによって設立され、ヴィストリア公国の国家機関として、迫害や売買などの被害に合っているエディルレイドの保護活動をしている。

 まあもっとも、設立の理由は割と私利私欲なんだけれども。でも、私腹を肥やす私利私欲じゃなく、ロマンチックな私利私欲だから、俺は好きだ。

 

「いいよなぁ、惚れた女のために世界を変えるって」

「何よ突然、少女漫画の話?」

「いや、アークエイルの設立理由」

「────は?」

「あれ?…………あー、やっぱなし。今の忘れて」

「忘れられるわけないでしょうがッ! なによそれ、初耳よ! く・わ・し・く・話しなさい!!」

「グエェェェ、締まる! 首締まってるッ!」

 

 後部座席から伸びてきた腕にチョークスリーパーがかけられ、俺は必死にタップする。

 操縦桿から手を離したため、飛空艇がふらふらと揺れ始めた。

 結局、マジで飛空艇が傾いたことで、マイナはようやく離してくれた。

 

「あー、落ちるかと思った」

 

 二重の意味で。

 

「で?」

「いやぁ、ほら、あれだ。この間出た分冊百科の『アークエイルの全て』ってやつに載ってたんだよ」

 

 創刊号はむちゃくちゃ安いけど全刊揃えるとウン十万になるアレである。毎号に付く付録を組み立てていくとアークエイル本部のジオラマができるというアレである。そのくせパーツの出来が悪かったり組立書通りにすると組めなかったりする悪名高きアレである。

 無論、嘘であるが。

 

「それ私も定期購読してるけど、そんな記事なかったわよ」

「えっ、デ○ゴスティーニあんのっ!?」

 

 マジかよ、人類悪ってどの世界でも出現するもんなんだな。

 グランドサーヴァント呼ばなきゃ。

 

「で、他の誤魔化しは? 前世はもう飽きたわよ?」

「…………わりぃ、思いつかねえ」

「はぁ……もういいわ」

 

 そんなに信頼無いのかしら、と小さく呟きながらマイナは席に戻った。

 俺はマイナのこと、信頼も信用もしてるんだけどねぇ。

 とはいっても、口にしないのでは同じこと。

 マイナは少し怒ったような悲しいような、そんな顔で眼下の森に目をやる。

 そろそろ夏だというこの季節、木々には葉が生い茂り、深緑が眩しい。小川に足を突っ込んで森林浴といけば、さぞ気持ちが良いことだろう。

 

「──っ、止まって!」

「いや飛空艇は止まれねぇって」

「いいから旋回して! 何処か────アレ、街道があるわ! あそこに降りなさい!」

 

 何かを見つけたのだろう。

 マイナの指示のもと、森を抜ける街道へと飛空艇を下ろす。道幅が両翼の幅ギリギリだったため着陸はヒヤヒヤした。

 飛空艇が地上へ下りるや否や、マイナは後部座席から飛び降りると、森の奥へと駆け出して行ってしまった。俺もすぐに追いかけ──る前に、飛空艇に鍵をかけ、車輪止めを置いて。それから二人分の長物を持ってからマイナを追いかける。

 

「おーい、マイナ。せめて自分の長物くらい持ってけ────って、こりゃぁ……」

 

 たどり着いたのは小型艇の墜落現場だった。船体はバラバラになり、ひどい有様だ。燃料タンクが引火したのだろう、周囲の木々共々焼け焦げていた。

 よく見れば、船首にはアークエイルの紋章が付いている。

 つまりこれは──

 

「っ、シスカ! ローウェン、キーア!!」

「落ち着けって、アイツらは無事だよ」

「でも船が……!」

「大丈夫だって。冷静に冷静に、いつものお前らしく実況見分してみろって」

 

 その言葉に、マイナは深呼吸を一つ()くと、落ち着きを取り戻し実況見分を始める。

 どうして墜落したのかは知っているが、言うよりも自分で見つける方が納得するだろう。それに、マイナなら三人が無事な証拠に気づくはずだ。

 …………多分。

 いやだって、俺、探偵でも刑事でもないからそんな証拠があるかなんてわかんないし。

 偉そうに言ったけど、知ってるだけでわかってるわけじゃないから。

 

「アンタの言う通りね。確かにシスカ達は無事みたい」

「……因みに、何でそう思ったんだ?」

「墜落の原因はプロペラへの被弾。けど操縦席は無傷だわ。ということは、シスカ達なら脱出くらいしてのける。それに荷物と装備一式が無くなってるわ」

「なるほ──んん、そうだろ。なら、その先の行き先も見当つくよな」

「…………悔しいけど、ホントにアンタの読み通りね」

 

 ここから一番近い村は風車の村、エレ=ブランカだ。

 何の準備もなしに歩いて行けるのは、そこしかない。

 

「んじゃ納得したようだし、船に戻ろうぜ。あんまモタモタしてっと、日が暮れちまう」

「そうね、早くシスカ達に追いついて、七煌宝樹を保護しないと」

 

 墜落現場を手早く写真に収めると、マイナと二人、飛空艇へと戻る。

 エンジンを掛け、空に上がったときには、既に雲は赤く色付き始めていた。

 

 

 

 

 

 




書けば増える(暗示)
カけばフえる(暗示)
かけばふえる(暗示)



書こ?
私は読みたい。ここには1件しかない。
ひもじい、ヒモジイ、ひもじぃ…………
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