「さあ、神を信じましょう!さすれば私は救われん!――間違えました!貴方も救われん!!」
「え……いや、俺べつに神とか興味無い……ですし」
一人の少年が顔をひきつらせながら会話をしていた。いつもなら家族の元に食料を持ち帰っている筈の時間。
しかし不運な事にたまたま通りすがったのはこの街でもいろいろな意味で有名な一人の少女だった。
いつもは人通りの多いギルド街道前に陣取っているので噂だけだったが(というかわざわざ避けていたが)、それだけに一体いつからランダムエンカウントするようになったのか少年には甚だ疑問だった。
「遠慮することはありません今ならなんとこの成り行きで頂いたパンをあげますさあ神を信じましょう!!」
「その……えっ、と……俺は――えっ?!」
そして少女は、煩わしやら可愛らしいやらうざったらしいやらで有名なかの『勧誘少女』は、少年へ押し付ける様にしてパンを渡す。
「受けとりましたね貴方もこれで入教しましたさあさっさっと儀式をやりましょう!ええそうしましょう!!」
「いや、流石にこれはないだろ!」
そもそも成り行きで貰ったパンを更に成り行きで貰っても全くありがたみがない。というか受け取ってしまったが怪しすぎて今すぐに返品したい気分満々だった。
「っていうかそんなことより俺には――」
そして、パンを無理矢理返しながら突き放す様に言葉を投げつけようとした、その瞬間。
「帰りをお待ちする家族の方々がいらっしゃるんですよね、知ってます」
「――家族、が……」
銀の瞳が、覗いていた。
「血の繋がった妹さんに、かつて助けてから情の移った『弟』さん。共に食料を集める役割を担っていらっしゃる兄弟分のご友人。
――そして、時折訪ねてきて生活用品を下さる心優しいカードさん」
そして少女は不思議そうに首を傾げる。手に持つ看板は酷く不釣り合いな程に異彩を放っていた。
「でもでも、少し不思議な方が一人いますよね。私、とっても貴方に
「お、れは……」
それは分かっている。他人を信じる事は己を売り渡す事だと。だが生きるためにはある程度疑問を圧し殺す事も必要だと理解していた。
「俺は……」
「ええええ、怖いですよねでも仕方ないですよね。だってそうしなければ――生きられないんですから。……でも!!」
そして少女は一歩近付き少年へと声をかける。それに少年は動かない。否、動けない。
「――でも!神を信じればそれは祝福へと変わります!!生きる恐怖は神への信仰へ!!生きる手段は神への献上へ!!
――生きる目的は、神への感謝へ。……ね?素晴らしいでしょう?」
呑まれる。銀の瞳に、満ちる狂気に。溢れる意思に。
そして、遂にその深淵を覗こうとした、その瞬間。
「衣食住?そんなの必要無いでしょう?だって私は食べなくても生きていけ……――おや?」
「えっ……?」
だが、その寸前に少女の手が少年の耳へとゆっくりと伸ばされる。そして、そこに少女の目は釘付けになった。
「その……えっと……」
完全に困惑の最中の少年を無視し少女はぶつぶつと呟き始めた。それはさながら盲信に囚われた信者――いや、まさにそうなのだが。
「――かつてピアスをつけていた果たしてこれは教義違反……いえいえ過去の過ちなど忘れ去るのが私流――いや私じゃなくて神へお聞きしなければ分からないですし――」
そのまま停止してしまった少女を前に、少年はやっと意識を取り戻す。
そして数秒後。持ち前の判断力で今の状況を理解すると、人気の無い通りを反転。全力で足に力を込める。
「――ごめんなさい俺宗教に興味無いんでぇぇぇぇえ!!!」
「――となるとやはりこれは戒律違反。やむを得ないですね、ここで早速――……え?」
まさに疾風の如く。路地裏へと消えた信者を前に目を瞬いた少女は、チャームポイントたる看板片手に、再びポツリと呟いた。
「…………え?」