「例えば私が転んだとします。えんえんと泣いているのです。悲しそうに私は貴女を見つめます……貴女はどうしますか?」
『勧誘少女』。ちょっとしたこの町の名物であるそんな存在に、レアは声をかけられていた。
酷く色の薄い瞳がギラギラとこちらを見詰めている事に戦々恐々しながらも、レアはゆっくりと口を開く。
「……た、たしゅけます」
噛んだ。思いっきし噛んだ。本来、レアはこの町の宿屋の一人娘である。勿論こんな状況は想定していない。緊張の余り噛んだとしても仕方の無い事だろう。
「……むむ」
難しそうな表情を称える、端整なかんばせに死んだ瞳を向ける。そうして、数秒ほどその顔を見詰めていると、勧誘少女は言い聞かせるように語り出す。
「いいですか、レア」
「……え?」
余りにも当たり前のように己の名前を呼ばれたレアは、完全に思考停止に陥る。あり得ない状況に、あり得ない言葉。
目を大きく見開いたレアを前に、しかし勧誘少女は止まらない。
「ここでの正解は、『冷たい瞳で一瞥した後、放置する』です!」
「…………え?」
唐突に告げられた異様な言葉に、レアは再び停止する。最早一周回って冷静になってきたほどだ。
「ここで蹴りつけるとか、踏みつけるとかをしてもいいのです! 世の中にはもともと寧ろソレを是とする者もいますが……そういう私の趣味嗜好ではないですよ、いいですね! とにかくそれをしてください!
……ふむ、伝わっていないようですね.言いたいのは、助けてはいけないということです。だから、私がここで転んで泣いていても助けないでください。むしろ踏みつけてもいいです、それが私にとっての救いであり、喜びなのですから……」
「は、はい……」
そこで一瞬固まると、少女は顎に手を当てる。
「む、なんだか私がとんでもない趣味の人間に聞こえますね、これ」
「は、はい……」
完全に賛同だけをするロボット化したレアを見て、満足気に「それでいいのです、それもまた試練──」と頷いてると、「おや?」と途中で首をかしげる。
「というか話がズレてませんか……?」
「……貴女のせいじゃないかなぁ?」
どうやら噂の勧誘少女は、噂よりもとびきり頭のおかしい人物のようだった。
レアがその感想を固めると、再び少女はうなり始める。
「まとめるとですね! 私を踏んでください──間違えました。いえ、別に間違ってはいないのですが、踏んで欲しいというより、踏むのが正しいというかなんというか……」
……とびきり頭のおかしい、というのもオブラートに包んだ上での話かも知れない。
そうレアは心の中で、目の前の少女の評価に上方修正を加えたのだった。