いつまで経ってもデビューできないので暇つぶしがてら新人賞で落選した作品を投稿していきたいと思います。
ぜひ楽しんでいただければと思います。誤字脱字は目を瞑ってください。
それは遠い約束。二人が永遠に幸せになる為の儚くて淡い、そして何より残酷な約束。
『おい、何読んでるんだ?』
少年は声を掛けた、自身の同じくらいの歳の少女へ。しかし、少女には少年の言葉は届かず、その興味の一切はその手に持った本に集約されている。
『おいってば』
『うるさい。何度も言われなくても聞こえているわ』
何度目かの呼びかけに少女はようやく反応した。不機嫌そうに視線を少年へと向けると溜息を吐いて本を閉じる。
『何を読んでたんだ?』
『別に、ただの神話よ。アルカヌスの冒険』
その本のタイトルに少年が不思議そうに首を傾げる。彼らのような八歳くらいの少年少女は三百ページあまりある神話など興味がないだろう。だから少年の反応は当然とも言えた。
ただ、それでも少女は自身が特別なのではなく、少年が劣っている様に呆れた顔をする。もう一度溜息を吐くと渋々と言った感じで少女は口を開いた。
『ざっくり言えば、主人公の神様が凄く強い人間の女に恋をして結婚を迫るの。だけど女は例え神様であろうと自分より弱い者と結婚する気はないと断るのよ。そして振られた神様は人間へとなり、世界中のあらゆる武勇を得てもう一度女の前に現れ、勝利して女と結婚する。やがて偉い神様からアルカヌスという名を貰った主人公は神様に戻り、女もミューリアという女神なって二人は夫婦で永遠に幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。そんな話よ。この世界の天才達は全てアルカヌスの血を引くとされ、アルカヌスの獣と呼ばれているのよ』
『ほへ~』
『あなた、ホントに理解しているの?』
少年が余りにもアホのような面を晒すので少女は尋ねた。確かに少年はお世辞にも利口とは言い難い、言動からもそれは判断できるほどに。
『それ、いいな。そのお話は好きだ』
少女は意外で言葉を失ってしまった。少年がこう言ったモノに興味を持つとは思えなかったから。
『決めた!』
そして、何の脈絡もなく少年は唐突に叫んだ。
『俺はそのアルカヌスになる。いっぱい勉強して、いっぱい訓練して、お前みたいに強くなる。だから俺がお前を倒せるくらい強くなったら、俺と結婚してくれよ』
『は?』
少女が頭を抱える。こいつはまた馬鹿なことを言い始めた、と。
『俺はアルカヌス、お前はミューリアになるんだよ!』
『どういう理屈で動いてるの? あなたは』
『ダメなのか?』
なぜここまで馬鹿げた発言をしておいて、そんな純粋な目ができるのだろうか? 少女は不思議で仕方がない。そもそも少年が少女に勝てるものなどない。勉強だろうと、運動だろうと、魔法であろうと少年は足元にも及びはしない。なのにその自信は一体どこから出ているのだろうと疑問に思う。
『無理よ』
『なんでだよ?』
『あなたには才能というものがないからよ』
バッサリと切り捨てる。少女は方便を使うのは苦手だ。思ったことをずけずけと言い、平気で毒を吐くので友達という友達は少年以外には存在しなかった。
『私は魔導士になるわ。そうすればあなたは一生、私に追いつくことはできない』
『やってみないと分からないだろ? 俺の家は科学一族だ。科学が魔法をすっごい追い越すかもしれないだろ!』
『そんな日は来ないわ』
子供の意見に大人が本気で反論している、そんな絵にも見える。少女が余りにも言い過ぎるものだから少年も遂に涙目になって必死に泣くのを堪えていた。
『もう、泣かないの』
『泣いてねえよ!』
はぁ、と少女が再び溜息を吐いた。
『分かったわよ。ちょっと手を貸しなさい』
『へ?』
少女は少年の右手を拝借し、小指に赤い糸のようなものを描いた。
『これは刻印。これがあれば一応、あなは魔導士よ』
『ほんとか⁉』
見違えるように目を輝かせる少年。宝物のように自分の小指を終始見つめている。
『いい? それだけの刻印じゃ魔導士として認められないわ。ここからはあなたが頑張るのよ』
『分かってる!』
太陽にその手を翳す。その小指は運命の赤い糸が結ばれている様に少年には見えた。それが何より嬉しくて何度も見返す。
『ありがとな。大切にするよ』
『お礼なんていいわ。その代わりに私と約束しなさい』
少女は自分の右手の小指を差し出した。
『これからも私と一緒にいなさい』
『…………それってプロポーズか?』
『っ⁉』
何の気なしに言った言葉だった。だが確かに冷静になってよく聞いてみればそのようにも取れると少女は気が付いた。
『ち、違うわ。それはこれからも友人としての付き合いをしてあげるという意味よ。他意はないわ』
弁解するが、少年にはニヤニヤとしたまま少女を見ている。
『約束するよ。これからもお前の隣にいる』
『そう、良い心がけね』
少女は照れ臭そうに、少年は心底嬉しそうに、二人は互いの小指を絡めた。
『なんせ俺はお前に並ぶ天才なんだからな!』
これが少年の永久に苦悩し、少女が生涯後悔し続ける約束の始まりだった。
いかがでしょうか?
こんな感じの作品が気に入ってくれたなら続きも見てくれるとありがたいです。
一応一巻分くらいなんで暇なら見てやってください。
それではまた。