膨大な設定を考えるけど限られた枚数だと書ききれずに結果、設定があやふやって言われるんですよね。
やっぱり独自設定はむずい。俺が下手なだけか。
では続きをどぞ。
「おや」
そして、ロゼット以外、誰もいなくなった筈の演習場に妙な気配が満ちた。
「はぁ……客か」
それに気づき、ロゼットは踵を返す。
数えただけで十人、講義そっちのけで現れた生徒は間違いなくロゼットへ挑戦に現れていた。瞳に映るのは嫉妬か憤怒か、それは分からないが刻印は魔法を起動する準備を整えている。。
その先頭に立つのはキクロ同盟代表、リオール・フルールド。以前とは明らかに雰囲気が違う。爽やかな笑顔の裏には貴族落ちとしての劣等感が滲み出ているようにロゼットは映る。または得物を集団で狙うハイエナにも。
「やあ、ロゼット君」
「どうも」
リオールらとの間合いは五メートル程度、ロゼットを囲うように配置された生徒達は親の仇を見るかのようにロゼットを睨む。ただ一人リオールだけは余裕ある態度を貫いていた。
「今日はどんなご用ですか?」
分かりながらロゼットは尋ねる。その挑発にも似た発言にリオールはふふふ、と微笑みで返した。先日とは違い、堂々としたその姿にロゼットは疑問を抱く。
「メイビス・レーゲンバルドはいないのかい?」
「あの女は気まぐれなので、今日は俺一人だけです」
キクロ同盟の生徒らがその発言を聞いてに口角を吊り上げた。リオールといい、やたらと自信に満ち満ちている。表情から分かる、昨日とは明らかに何かが違った。
「そうか、それは残念だ。天才二人を纏めて倒すチャンスを失ってしまったか」
その発言はリオールが昨日の同一人物かどうか疑うほど。
「何か良いことでもあったのですか?」
疑問からロゼットは問いかけた。
「とある人物から魔法の情報をリークしてもらったんだ。たった一日で格段に我々は上のステップに進むことができた。それを証明したくてね」
「とある人物?」
引っ掛かる。その発言は少なくともキクロ同盟ではない第三者からということを示している。このタイミング、偶然とは考えられなかった。
「それは言えないがね。とにかくこの力は良いものだ」
リオールの腕に刻印が浮かび上がった。紫の発光は確かに昨日の刻印とは比べものにならないほどに質が向上していた。確実に上位に位置する刻印で魔導士としては一流と言っても過言ではない。そして、それはリオールだけでなく取り巻きの生徒らも同じだ。刻印の範囲はまちまちではある、しかし全て一級品の刻印の質をしており、リオールの発言は本当なのだと理解できる。
最初にエーテルブースターの可能性を考えたロゼットだったがあれは刻印の質には作用しない。刻印の質とは魔法の質であり、基礎能力を上昇させるエーテルブースターを服用するならば刻印の範囲に影響を及ぼす筈だった。
だがこれほどの魔法を簡単にリークできるような人物は学院内でも限られてくる。様々な人物をロゼットは思い浮かべるが、その前にリオールが動いた。
「さあ、始めよう」
雷がリオールに掌に迸った。皆一様に雷の系統の魔法、雷鳴が演習場に轟き、ロゼットへ牙を剥いた。大自然、または神の怒りのような稲妻は瞬く間にこの大地に住まう生命を摘み取っていく。
「フハハハハハ‼ 素晴らしい‼ 素晴らしい魔法だ‼」
その威力、規模はリオールの想像を超えていた。こんなに凄まじい自分の手の中にある優越感はどんなことにも勝る快感だ。麻薬の様、上へ到達するたびに代え難い幸福感に包まれてしまう。それが簡単に手に入る現状にリオールは心の底から感謝していた。
「くだらねえ」
「っ⁉」
声がした。稲妻はそれこそ神の怒りに触れたように弾かれ、打ち消された。
「な……」
人類が抗えないはずの大自然の力を前にロゼットは無傷だった。傷どころか汚れ一つない。何事もなかったような表情は今の攻撃そのものがただの幻かと錯覚した。
この場にいる誰しもが驚愕する。目の前の光景は悪い冗談のようでリオールは口を開いたまま硬直するしかなかった。
「なんで立っている! この魔法を前になぜ無傷でいられる⁉」
ハッとなってリオールは叫んだ。
有り得ない、有り得ない、と狂ったように繰り返す。揃いも揃って平静は完全に失われ、ただ現実を否定し続けるだけ、脆いと言わざるを得ない。そんな彼らを憐れむようにロゼットは見ていた。
「誰かの真似しかできてない魔法が真の魔導士に通じるはずがないだろう?」
違う声が響く。その低く渋い声にはロゼットだけでなくリオールも聞き覚えがあった。
「ブレムーゾ先生」
ファッファッファ‼ と相変わらず妙な笑い声を上げる男は確かにブレムーゾだった。腰に両手を回して、いつからかは不明だが数メートル離れたところで、この戦いを眺めていた。無精ひげを摩ると、ブレムーゾはその鋭い視線をリオールへ向けた。
そんなブレムーゾをリオールは今すぐにでも嚙みつきそうな形相で睨んでいる。
「魔法の刻印とは使えば使うほどに肉体へ馴染む。熟練度は上がり魔法の精度、威力、発動速度、精密さにまで影響する。そんな初歩的なことも忘れたのか? リオールよ」
「ぐっ……」
忘れていた。
そんなはずはない。分かっていても縋ったのだ。強大な力に、どれだけ積み重ねても到達できない領域に手が届くという誘惑に負けた。
周囲を認めさせるには結果が求められるのだ。その結果だけを得ることにリオールは既に抵抗などなくなって、魔導士としての感覚すらも失っていることもブレムーゾの言葉は指摘していた。
離れていても聞こえるかのような歯ぎしり、リオールの顔には悔しさというよりも恥をかかされた怒りが滲んでいた。既にブレムーゾの言葉が届くことはない。
「クソ‼」
これ以上はやっても無駄だと悟ったのだろう。リオールは以降ロゼットを見ることをしない。敗北感と劣等感から睨むことすらも惨めだと、そう判断した。吐き捨てて、リオールは取り巻きと共に姿を消した。
ロゼットはその背中を見る。彼らのような不安定な存在よりも魔法の情報を提供した存在の方が気になっていた。このタイミング、偶然とは考えにくい。明らかに火種を巻いている人物が存在していると考えるべきだ。
「ブレムーゾ先生」
ロゼットは視線をブレムーゾへ移す。彼はリオールの姿を見ていた。憐れむような瞳とは違う、複雑な心境が汲み取れた。
「なんだね?」
数秒後、ブレムーゾはようやくロゼットと向き合った。ロゼットの言わんとすることはブレムーゾにも理解はできていた。
「あの魔法は、私達の派閥の一人であるマルス・ファクファーレの魔法だ」
名前まで特定していることに対し、ロゼットは目を鋭くしてブレムーゾを見た。
「ブレムーゾ派閥の人間がキクロ同盟に加担したということですか?」
「違う、彼自身はそんなことをする人間ではない。それは私が保証する。彼に話によれば何者かによって既に広められていた、とのことだ」
マルス。その名前にロゼットは聞き覚えはない。しかし、魔法の才はあることは確認済みだ。
「その男に俺も会わせてください」
講師である彼が言うのであれば信憑性は高い。しかし、この波紋の元凶かもしれない人物を見もせずにそうですか、と納得するロゼットではない。
「いいだろう。私もそのつもりでここへ来たんだ」
ブレムーゾに先導される。その巨漢と言って差し支えない後ろ姿を見ながらロゼットは歩いていく。
「なぜ俺を会わせようと?」
「マルス君は科学者でもあるんだ」
その返答にロゼットはなるほど、と納得した。
科学は魔法に比べて技術者の人口が減りつつある傾向にある。科学は決して魔法を凌駕することはできないからだ。それでも科学は衰退だけはしない。僅かだが魔法を凌駕することを信じて研究を進める者もいる。ロゼットはそのどちらでもなく、魔法に科学を取り入れることで上の段階へ至ろうとする試みをしている者だった。魔導士が互いに高め合うように科学者も互いの技術に関心を持って高め合うことができる。ブレムーゾは以前よりマルスとロゼットを会わせてやりたいと考えていた。
「彼の専門は魔法を利用した新エネルギーと原動機の開発だ。魔力を弾丸として利用する君に興味を示すのは当然のことではないかね?」
「そうですね」
ロゼットも専門外とはいえ他の分野の技術には興味がある。特に新エネルギーに関しては二十年以上前から着手されているが実現できない難問として多くの科学者の前に多立ちはだかる壁だった。若くしてそんな分野と向き合う科学者と会いたいと思うのは同族として当然だった。
校舎内に入って行くとブレムーゾは一つの空き教室へ足を向ける。その教室にマルスを待たせているとのことだった。
しかし、事が事なだけにこれは単なる科学者として接するべきか、それとも生徒会としての役目に徹するべきかロゼットは迷っていた。
否応なしに扉が開かれる。その先にはオドオドした温厚そうな印象を受けるブロンドの髪の毛を短く切り揃え、金色の瞳を持つ少年が立つ。顔は少し幼さが残っているが、容姿は整っている方だとロゼットは思った。
「マルス君、彼がロゼット・べリウス君だ」
ブレムーゾの前にロゼットは出る。頻りに目を合わせようとして、そして逸らすを繰り返す。彼は人見知りをするタイプだとその挙動でロゼットに理解できた。
「は、初めまして! マルス・ファクファーレと申します!」
「お、おう。ロゼット・べリウスだ」
他人にまで伝染しそうなほどにマルスは緊張している。ガクガクと震えており頭を下げたままマルスは顔を上げない。
「キクロ同盟にリークされた魔法について、話を聞きたい」
敵意などは消してロゼットは口を開く。それを聞いて、マルスは視線を落とした。
意を決したように視線を戻すと静かにマルスははい、と答える。
「結論から申し上げますと、僕の魔法の情報は何者かによって盗まれました」
「全て説明してくれ」
「は、はい。僕が科学者として研究していた魔導エンジンは魔導士が起動だけをするだけでそれまでの原動機の役割をする新たなエンジンです」
科学者は帝国が管理する八個の研究機関によって管理されている。ロゼットは魔法と科学の兵器運用を目的とした第一課に所属しており、べリウス家もそれに名を連ねる家計である。第三課は魔法を利用した新エネルギー開発を担当し、マルスも若くしてそこに所属する科学者であった。
「確か、第三課が研究していたハイブリッドエンジンだな」
「そうです。雷系統と魔力を併用した新型です。それには実験用に僕の魔法を刻印して試作品の設計図を造り出すことに成功しました」
「その設計図が盗まれた、と」
「っ……はい」
不甲斐なさを悔いるような表情。科学者も魔導士と似て、手段を選ぶことなく結果を求めようとする輩は幾らでもいる。だが、彼が火種を作って何のメリットがあるのかを考えた時、ロゼットは答えを見つけることができなかった。
人を見た目や表面上な態度だけで決めつけるつもりではないが、マルスがそんな大それたことをするようにも見えない。何より動機がない。
「盗んだ奴に心当たりは?」
「分かりません。この学院の生徒である確証もありません。三課の方々に調べて貰っているのですが現状は不明です」
リオールはとある人物から情報をリークして貰ったと言っていた。つまり彼らへ伝えたのはその犯人だということになる。
「何が目的なんだ?」
ロゼットは独り言のように呟く。
エーテルブースターに加えて魔法略奪の犯人捜し、いよいよ風紀委員の力は必須事項になってきた。
「すまなかったな。話は以上だ」
ロゼットは踵を返す。これ以上の会話をしても問題が解決するわけではない。何より一度リークされた情報が元に戻ることはできない。犯人にその先の考えがあるのだとしたら、ここで終わるとは思えなかった。もっと大きな何かが起こる予感をロゼットは感じていた。
「僕も捜査に協力させてください!」
そんな時、マルスが声に出した。
「僕がちゃんとしてなかったから招いた事態です。何か協力させてください」
「…………機会あれば何か頼むかもしれない」
言葉に困ったロゼットはとりあえず答える。そんな言葉でもマルスには響いたようで歓喜しているのが傍目からでも分かった。
「ブレムーゾ先生、俺はこれで失礼します」
「ああ、私もこの件に関して少し調べてみよう。何かあったら生徒会の世話になるかもしれない」
コクリ、とロゼットは頷き教室を後にした。
楽観するべきか。少なくともこれでブレムーゾ派閥は生徒会に協力する形となった。そもそも敵対していた訳ではないが共通の敵を得たことは大きい。事はより面倒になっていくが生徒会としては都合がいい。
しかし、ロゼットは複雑な心境になる。問題は山積みでこの先も訓練の時間がまともに取れる気配はなさそうだった。
ここ最近、溜息の数が異常に増えたことを分かりつつもロゼットは溜息を吐いた。
「あれ? 師匠‼」
声がロゼットの背後から響いた。振り返るとパタパタと歩いてくるレムの姿が映る。その手には図書館から借りたとも思われる本が抱えられていた。
「どうかされたんですか?」
「いや、何も。お前の方はどうだ?」
「そうでした! 聞いてください師匠!」
誤魔化すように話を逸らすとレムが速攻で食いついた。簡単な女だとロゼットが内心で思っているとレムは子供が自慢をするように話を始める。
「二重系統が相反する二つの魔法ならば別々の魔法を刻印して使用すればいいのではないですか?」
ピタリと時間が止まる。それと同時にプチンと何かが切れるるような嫌な音が聞こえた気がした。
「バァァァァァカかお前は‼」
ロゼットの堪忍袋の緒が切れた音だった。
「あいた⁉」
手刀がレムに炸裂し、そのまま頭は押さえて床に転げた。その言動にロゼットは頭を抱えるしかなかった。
「てめえルーンに関しては勉強したんだろうな?」
「へえ?」
「はぁ……その手に持ったルーンに関する本は飾りか‼」
レムのアホ毛を掴むと雑草を抜き取るように持ち上げた。ロゼットは怒り狂った鬼神の如き形相をしてレムを見る。
「いたたたた‼ 痛いです師匠!」
「これ抜いたら賢くなるんじゃないかと思ってな」
「そんな訳ないです~」
溜息の種はこの弟子だと理解した。というより再認識した。アホ毛から手を離してレムを解放する、がロゼットの怒りは収まってなかった。
先ほどからロゼットの言っているルーン理論とはルーンと呼ばれる魔法の刻印を行う際に使用する古代文字のことである。指先に溜めた魔力でルーンを描くことで、それらは魔法としてこの世界に作用する。ルーンは物質に描くことで、魔力の付与で即座に発動する。つまりそれが刻印と呼ばれるものだ。
ルーンは魔力を使って描く都合上、必ず自身の系統が色濃く出る。ロゼットが言いたいのは分離して魔法を使う以前に魔力そのものに二つの系統があり、それが機能不全を招いているレムは前提が間違っている。
「と、こういう訳だ」
掻い摘んで話すとレムは純粋になるほど、と口にする。それにまたロゼットは苛立った。
「今お前が如何にバカな発言をしたか分かったか? ポンコツ」
「は、はい」
ロゼットは腹いせか間隔を開けてレムに手刀を入れ続ける。
「お前にはまだまだレクチャーが必要のようだな」
「お願いします!」
落ち込んだと思ったらレムは再び無邪気な笑みを浮かべ、ロゼットを見た。感情が読み取れるアホ毛がぴょこぴょこと動いている。
「なんで嬉しそうなんだお前は‼」
短い付き合いではあるがこれが喜んでいるのはすぐに分かる。それが何よりロゼットを怒らせた。今度はげんこつがレムへ降り注ぐ。
「あいたっ⁉」
溜息を吐いた。この元凶はまだまだ解消される気配はない。しかし、不出来な弟子を持つというのに不思議とロゼットは悪い気はしてなかった。
「ほら、行くぞ」
ふん、と息を吐いてロゼットは歩き出す。
「はい!」
怒って疲れたのかロゼットの機嫌は既に直っていた。それが分かったのかにへら、とレムが微笑むと歩き出したロゼットについていく。その姿は師弟というより兄妹のような微笑ましい光景だった。
「どこへ行くんですか?」
「適当な空き教室だ。決まってるだろ」
学院内の教室は無数に存在するがその全てを使用している訳ではない。講義用の巨大なもの以外に自習用に開放されている教室も存在し、それらは生徒の自由にすることができるというわけだ。
ロゼットは薄々ではあるが、レムは基礎を全て叩き込まないとまともに前進できないような気がしていた。
「ふぁ~」
そんな時、ふとロゼットが口を大きく開けて欠伸をした。
「あれ? 師匠おねむですか?」
「誰の所為だ……」
「さあ?」
「もういい」
いかがでしたでしょうか?
楽しんでいただけたら幸いです。
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