次回作はファンタジー書くのやめました。ファンタジーって言っても独自の設定を盛り込んだ奴が好きだったんですがちょっと新人賞用の原稿では限界があるので。
すいません愚痴がでました。
続きをどぞ。
「さて、戻るか」
来た時と同様、大勢の使用人に見送られ、べリウスの屋敷を後にするとロゼットは首のタイを緩めた。彼の正面には貴族仕様の白馬の引く馬車が止まっていた。黒塗りの城の一角ような荷台は高級感を醸し出していた。扉を開けて、使用人がロゼットを待ち構えていた。
こんな日でも日常というのは滞りなく進行していく。学校の講義はともかく生徒会やレムの訓練、などを放置しておくことはできず、直ぐに戻らなくはてはならない。
ロゼットの行く手を阻むように日差しは強く、そして屋敷は北部の外れにあり馬車を使っても学院まで一時間ほど掛かる。移動の時間は退屈で控え目に言っても地獄だ。
「多忙だな。俺も」
生徒会に加入してからロクな目にあってないことを思い出す。そして、もう一度その中心へ向かおうとすることも。
それでも子供のように駄々をこねるという訳にはいかない。ロゼットは一度息を吐くと使用人が用意した馬車に乗りこむ。
「あら、奇遇ね」
扉の先に見知った顔がある。
「……なんで、ここにいる?」
ロゼットは反射的にそう呟いた。
馬車の中にはメイビスが優雅に紅茶を飲みながら寛いでいる。べリウス家の馬車の筈だが我が物顔でロゼットを迎えた。
「会長に頼まれてね」
その言葉にロゼットは納得するとメイビスの正面の椅子に腰かけた。
「それで?」
切り出したのはロゼットだった。目の前に映るメイビスはどこまでも落ち着いていた。スカートにも関わらず大胆に組まれた脚に視線が吸い寄せられる。がロゼット視線を逸らして窓の外を見た。
「ほら、昨日あなた生徒会をサボったじゃない」
「サボってはない。そもそも生徒会戦を人に押し付けたお前に言われたくない」
「今日は私が一人でやったわ。誰一人来なかったけど」
「そうかい」
これ以上の会話は疲労するだけと判断し会話を切り上げる。ロゼットは用意されたティーカップに口を付けた。ミルクと砂糖をたっぷり入れた紅茶が口の中で広がるとロゼットは本来の冷静さを取り戻した。
「少し面倒なことになったのよ」
切り出したのはメイビスだ。少しというのは本当のようで溜息交じりに目を逸らしたのをロゼットは見逃さない。
「何があった?」
ロゼットが尋ねるとメイビスの視線が鋭くなった。
「ブレムーゾ派閥とキクロ同盟が本格的に衝突し始めたのよ。今朝だけでも五件、魔法発動に至るまでのトラブルが起こっているわ」
「風紀員は?」
「傍観に徹しているわ」
ロゼットはメイビスを見る。彼女の瞳は固い決意のようなものが垣間見えた。この件に関する会長の方針は決まっているのだろう。そして、彼女が何を成すのかも最初から決まっていた。
「どうする気だ?」
「メルヴァ・アルバトロスと一騎打ちをするわ」
即答。既にその約束すらも取り付けたのだろう。その決意は言葉と共に空気を震わす。
「条件は何を出された? まさか以前と同じ訳ないよな?」
「あなた自身、そしてあなたの魔法よ」
ロゼットの口角が吊り上がった。
「そりゃお安い条件だな」
「本当ね」
そして、それはメイビスも同様だった。微笑んだ二人は優雅に紅茶を啜る。
「確かに今回の件。これだけで終わるとは思えない。風紀委員の協力は必須と言っていいだろうな」
「今度はこっちの番よ。聞かせなさい」
二杯目の紅茶をポットから注ぎ、ロゼットはティアルナから聞いたことを隠さずに話した。
「エクストラポートにエーテルブースター、なるほど大体繋がったわね」
「ああ、確実に学院内にエクストラポートの構成員がいるだろうな。それを探し出すためにも風紀委員の力はいる」
「それはまかせなさい。でも風紀委員だけではその犯罪組織まで手が回らないわ」
「それに関しては俺がやる」
「なら、そちらは任せるわ」
メイビスは紅茶を飲み干し、一息吐くと外の景色を見た。何かを思い返しているようなその表情からは儚げで、そして美しかった。その手で掴まなければどこかへ消えてしまいそうなほどに。
「にしても、よくも短期間でここまで面倒に巻き込まれるものね」
「本当にな」
カップをソーサーに置いて、互いを見る。
「あの子、随分気にかけているみたいね」
本当に彼女が話したかった事、それは今から始まったのかもしれない。ただの世間話をするように自然に口から出た言葉は何より重く感じさせた。生物的な本能に従うなら空気が変わった。
あの子、とはレムのことだろう。ロゼットがこれまでに自ら他者に干渉したのは初めてだったかもしれない。古くからロゼットを知るメイビスもその過多とも言える干渉に違和感を覚えていたのだろう。
だからこそロゼットは返答に困った。
「あいつは俺に似ているからかもしれない」
なぜならロゼット自身にそれはよく分かってないからだ。ただ、彼女を見ていると過去の自分を延々と見せられている。そんな気分になるのだ。
「そうかしら? 才能で言えば雲泥の差だと思うけど」
「そうだな」
そのことに関してはロゼットも同意見だ。
「どちらかといえば彼女は私に似ているように思うわ」
「お前に?」
「二重系統は一種の呪いよ。破格の才を得るために尋常ならざる努力と研鑽を要求される諸刃の剣。一度道を踏み外したら二度と帰ってこられない。そういうものよ」
メイビスがそう言うならばそうなのだろう。ロゼットは納得する。その視線は自身の右手の小指へ向けられていた。
「才能を持ちながら、それを腐らせることにあなたは苛立っているだけじゃないの?」
「そんな奴は腐るほど見てきた。なのにあいつだけは違うんだ」
「そう、なら大切にすることね。この騒ぎの中で消えても知らないわよ」
「言われんでもちゃんと面倒くらい見る」
フッとメイビスに視線を向けると彼女はロゼットを見ていた。
「ロゼット……自分の目的を忘れた訳ではないわよね?」
少し、少しだけロゼットは驚いた。久しぶりにメイビスの口から自分の名が出た。それは子供の頃ならば当たり前のように聞いたが、今現在においては珍しいことだった。
「忘れるわけないだろ。約束したんだ」
「…………そうね」
安堵するようにメイビスが微笑んだ。
「それに、そろそろ俺がお前は追い越す日が来るかもな」
「寝言は寝て言うものよ」
「言ってろ。その日は近い」
「その時には私もまた強くなってるわ」
二人は笑い合い、いつものように会話を交わす。ここの所、二人で話す機会は減っていたが、それでも互いは変わることはない。
「なら負けるなよ。相手がメルヴァ・アルバトロスだろうと」
「当然よ」
メイビスがそう断言する。
すると馬車は動きを止めた。外を見ると学院寮が目に入る、ロゼットは立ち上がった。
「じゃあ、また」
メイビスはロゼットの予想以上に落ち着いている。そう見えるだけか、それとも本当にメルヴァと戦うというのに何も動じてないのか、どちらにせよ肝の座った女だと改めて感じる。
「おう」
馬車を降りるとべリウスの従者は軽く会釈をした。感謝の気持ちを込めて会釈を返すとロゼットは寮へ向かう。
寮へ戻ると手短に制服に着替え、黒剣を腰に携えた。そして、少し遅れていつもの道を歩いていく。時刻は昼に差し掛かり、頭上に高く太陽が昇っている。街の雰囲気も朝とは大きく異なっていた。
「軍人が多いのか」
民衆の中にやたらと銃を下げた人間が多いように見える。
「先日あった騒動の所為だと思いますよ」
道を見渡しながら歩いていると声を掛けられる。
「……お前は」
振り向いた先には金髪金眼の少年、学院の制服の上から白衣を着ているが昨日見た顔を簡単に忘れることなどできなかった。
「どうもべリウス君」
マルス・ファクファーレ。科学者である彼もロゼットと同じような用件で今日は呼び出されていたのだろう。確か、彼の所属するのは第三課だったか。
マルスは一礼するとロゼットの隣に来た。
「お前も呼ばれてたのか?」
「はい。先日の件についてです。べリウス君もそうみたいですね」
ロゼットの予想通り、第三課もこの騒動に巻き込まれていたようだ。その後処理に駆り出されたのは彼も同じだということだ。
「僕の研究資料を盗んだのも恐らくはエクストラポートという犯罪組織だと判明しました」
「やはりか」
「べリウス君、早急に手を打たないと」
マルスはロゼットを見る。彼も彼なりに何か行動を起こさなければいけない、責任というものを感じているのだろう。その瞳には力強い意志を感じる。
「それに関しては問題ない」
しかし、焦りは禁物だ。相手はドーピングありきとはいえセストですら退ける力を持っている。下手に動けばやられるのはこちらだ。
今、必要なのは心強い協力者。その為にメイビスには必ずメルヴァとの一戦を勝利して貰わなければ話にならない。
「大丈夫だ。何とかなる」
「そうですか」
根拠はある。そんなロゼットの言葉にマルスは笑みを溢した。
少し歩けばすぐに学院の正門まで辿り着いた。講義の時間の所為か、事件の所為か、学院内はやたらと静かだ。それでいて言葉にし難い緊張感が漂っていた。
「学院ってこんなに静かでしたっけ?」
それを感じ取ったのはロゼットだけではない。マルスもまた、この異様な空気に居心地の悪さを覚えていた。
「いや、ブレムーゾ派閥とキクロ同盟の騒動の所為。だけとも考えられないな」
「いつもなら小競り合い程度でここまでの騒動にはならないのに」
「エクストラポートが絡んで、騒動をわざと大きくしている。としか思えないな」
「だとしたら、やはり奴らの目的が分かりません」
「ああ、分からないはその一点だけだ」
この際、動機などどうでもいいのかもしれない。キクロ同盟を利用しているのなら炙り出す方法は幾らでもある。
「考えても仕方ない。行こう」
正門の前で二人、並んで考えるが答えは見つからない。きっとそれは近いうちに分かる時が来ると信じながらロゼットは不穏な雰囲気の学院に足を踏み入れる。
四方から急に魔法による攻撃が来る。そんな警戒を抱かせるほどの異質な緊張感はそこらに蔓延っている。
「師匠‼ ようやく見つけました!」
しかし、そんな空気を完全にぶち壊して突進してくる少女。
「うるさい」
「ぎゃ!」
レムだ。猪の如く突進して現れたレムは即座にロゼットの振り下ろされた手刀によって静止した。
レムは学院中を走り回っていたとでも言いたげに息を荒げ、汗だくになっていた。額や頬には汗が滴っている。
「もう! 探しましたよ!」
「それでずっと俺を探していたのか?」
「はい」
「アホが」
ロゼットは小さく呟く。それと同時に頭を抱えた。そんなことをする暇があるのなら少しでも鍛錬に励めと言いたい。がレムにそんなことを言っても無駄か。
一度大きく溜息を吐くとスイッチを入れ替える。
「分かったから、先に第二演習場にでも行っててくれ。今日からは実践に映るから」
「了解しました!」
うおぉぉぉぉ、と気合を入れてレムは再び走り出した。喧しいことこの上ない、がそんな姿をマルスは微笑しながら見ていた。
「あれが噂のお弟子さんですか?」
「噂って」
「知りませんか? 結構広まっているんですよ。あのロゼット・べリウスに弟子ができたって」
「また面倒な」
自分の知らないところで噂される分にはいいが、それが自分の耳に入った途端に気恥ずかしくなる。神秘殺し、とかもそうだが結構恥ずかしいのだ。本人としては。
「それにべリウス君もお弟子さんの前だとあんな顔をするんですね」
「……俺、どんな顔してた?」
ロゼット自身は気づいていない。レムと話す時だけ彼が父親のような優しい顔をすることを。孤高の人、という印象が強い彼がそんな顔をするとは思ってもなかったのだ。
「師の顔をしてました」
だがマルスはそれをあえて言わなかった。それを言ってしまったら彼は意識してその顔をやめてしまうだろうと。そんなことが脳裏に過ったのだ。
「なんだよ。それ」
今もまだレムの背を見届ける彼の顔は師そのものだ。
「でもいいですね。師弟関係って、帝国の劇団でも多いじゃないですか」
「お前、演劇とか見るのか?」
帝国ではあまり過去の伝記などを伝えることは少ない。しかし、時より海を渡ってきた劇団が帝国で演劇をすることがある。こことは違う世界の架空の話や過去の偉人の話などはそれなりの人気を誇るようで帝国の民で演劇を嗜むものは多いと聞いたことがある。
「ええ、大好きなんですよ」
「科学者はああいう架空の物語とかは嫌いだと思ってた」
「趣味と本職は別ですよ。演技とか機会あったら僕もやってみたいんですよ」
「そんな機会あるのかね」
「いつかあるかもしれませんよ」
ふーん、とロゼットは流す。あまり放置するとレムがまた暴れ回るかもしれない。
「じゃあ、俺は行くよ」
「では僕もこれで」
しかし、レムのおかげで少しは学院に踏み入り易くなった気がする。そんな感覚でロゼットは歩き出した。
第二演習場に辿り着くとレムはロゼットの到着を今か今かと待っていた。アホ毛を小刻みに揺らしている。
「あ、師匠」
ロゼットが視界に入るとそのアホ毛がピンと天を向いた。眼を輝かせ、師の下まで駆け寄ってくる姿は相も変わらず犬の様だ。
「始めるぞ」
レムが気合を入れて返事をする。
「刻印はどれくらいだ?」
ロゼットの問いにレムは両手を見せる。
「私の知識ではこれが限界です」
その手には黄色の刻印が手首の辺りまで施されていた。質はC程度、規模は一日で組み立てたにしては上々の出来だった。そもそも彼女の体質が異質なのだから不用意に刻印の規模を増やすことは自殺行為だ。そんな狙いがあるかは知らないがレムの刻印は良いバランスで保たれていると言っていい。
「まずは魔法の起動だ。それができないと話にならん」
「分かりました」
レムは手を一度握りしめる。そして瞳を閉じた。
集中力が高められると再び刻印は輝き始める。だがその輝きは何の変化を起こすことなく失われた。
「あれ?」
「まあ、こんなもんだわな」
そう簡単に起動するのなら苦労はない。ロゼットもそれは覚悟していた。
「レム、刻印は変えた。後はお前が自分の魔力を自在に操作するだけだ」
「魔力を操作」
「いいか? まずは右手で火、左手で雷をイメージするんだ」
「分かりました」
再び、レムが目を閉じる。魔導士は己の内側を色の付いた液体の流れとして魔力の量や系統を感じ取ることができる。現在、レムは赤と黄の混ざり合った液体の流れを分けようとしている。それはまさに両手で持ったペンで違う文章を書くような諸行だ。
簡単にできるなら苦労はしない。
「う……」
レムの表情が険しくなる。魔力の操作は集中力だけではなく魔力が際限なく洩れ続けるので体力も同時に削られる。それが持つのはせいぜい一、二分だろう。
「はぁはぁ」
「レム、続けろ」
「……はい」
それでも続けるしか道はない。
レムの手を気が付けばロゼットは握っていた。柔らかく、細い指の感触が伝わってくる。
「できるまでこうしていてやるよ」
それは純粋な厚意か、それとも早く終わらせろというプレッシャーだったか、どちらにせよレムに力を与えたのは確かだった。
「ありがとうございます!」
三度、レムは集中する。手の刻印は先程よりも強く輝く。
レムは高鳴る心臓の鼓動と手から伝わる温かい手を感じながら自分の内側を見る。ぐちゃぐちゃに絡まった二色の糸。さっきまでは一人で解いていた。今は違う気がする。
「っ⁉」
その心境の変化はただ勘違いではない。意志は魔法に最も影響を及ぼす力だ。
僅か、ほんの僅かな火がレムの左手に灯り、そして右手には痺れるほどの弱い雷を感じる。
驚愕だ。きっとこれが天性と呼ばれるものだとロゼットは気づく。特別なことは何もしていないのに彼女はたった三回でその感覚をものにした。今は弱い、無力に等しい雷と炎にの価値はあった。
メイビスが自分に似ていると言った意味がロゼットは少しだけ理解できた。
「ほら、もっと集中しろ」
「はい!」
しかし、やはり自分とも似ているとロゼットは思う。メイビスはこんなにも必死そうな顔をしやしない。何かと戦っているかのようにレムの表情は強張っている。
そんな時、外がやけに騒ぎ出した。走り行く生徒たちがとある方向へ歩いていくのが演習場の中から見える。
「はぁ」
レムも集中が解けて目を開いた。
「何かあったんですかね」
「……始まったのか」
いかがでしたでしょうか?
楽しんでいただけたら幸いです。
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